かってトヨタと覇権を争ったVW。
そのVWが今、ボロボロになっている。
かって世界と二分したポルトガルとスペインの様だ。
一体、何がまずかったのだろう?
この記事の目次
産業の大転換
これまでも何度もあった事だが、
「産業の大転換」
が起きると、それまで
“Platzhirsch”(デカイ顔をしていた業界最大手)
が、消滅するのはよくある事。
例。
かって写真フィルム業界は
- コダック(米)
- アグファ(独)
- 富士フィルム(日)
が独占していた。
しかしコダック社が発明した
「デジタルカメラ」
が原因で、よりによって発明元のコダックが倒産。
アグファもこれに続いた。
唯一、富士フィルムだけ生き延びた。
私が学生時代に音楽を記録するのに使用していたカセットテープ。
最大手は日本のTDK。
ところがここでも
「産業の大転換」
が起きて、カッセトテープの需要が消滅した。
しかしTDKは生き延びた。
生き延びたどころか今、
「イケイケドンドン」
なのである。
このように産業の大転換が起きると、よりによって市場を独占していた大企業が大ピンチに陥る事が多い。
生き延びれるのは
「機を見るに敏な社長」
を抱えている会社だけ。
電気自動車の台頭
その自動車業界でこれまで
「デカイ顔」
をしてきのは、ドイツの車メーカー。
車体の作り込みの完成度と内燃エンジン性能はぴか一。
ドイツ車を買うと日本車とは
「次元の違う走り」
を体験できた。
だからこそ、日本人の誇りのトヨタがかっての名車スープラを復活させる際、BMWからシャーシーとエンジンを調達した。
ところがである。
ここで電気自動車が台頭してきた。
電気自動車の構造は、内燃エンジン車に比べて簡素。
これまでは大企業の下請け企業が、新たな電気自動車メーカーになることができる。
ところがドイツの車メーカーは、そんな電気自動車を笑い飛ばした。
ちょうど日本企業が世界で最初に大量生産したデジタルカメラをみて、コダックが笑い飛ばしたように。
テスラの登場
そんな電気自動車への風向きが変わってきたのは、テスラが電気自動車の
「大量生産」
に成功してから。
これで電気自動車の単価が下がり、利益率が飛躍的に上昇した。
そのテスラの評価額がVW、BMWれにメルセデスの三社の合計評価額よりも高くなると、ドイツのボスたちも
「このまではコダックになる。」
と理解した。
とりわけ排ガススキャンダルで
「転換圧力」
にさらされていたVWは、電気自動車に本格参入することにした。
いみじくも当時のVW社長のデイース氏は、
「電気自動車の成否はソフトが決める。」
と発言。
氏の予言は的中した。
VW トヨタのライバルがボロボロになったワケ
すでに皆さんが想像されているように、
- 中国市場での販売不振
- 電気自動車の販売不振
が、VWがボロボロになった最大の理由です。
でもそれだけじゃない。
というのも中国の電気自動車メーカーBYDは、激烈な国内での値引き競争にさらされても黒字。
BYDに追い越されたテスラも黒字。
もっとも黒字に貢献したのは、
「二酸化炭素証券」
の販売益だが。
ところが欧米の車メーカーは(ルノーを除き)、軒並み電気自動車事業で大赤字。
その中でも一番ひどいのがVW。
VWが他の自動車メーカーより
「ドツボ」
な理由は
- 高い自動車価格
- 高い人件費
- VW法
- 魅力に欠けるモデル
- 機能しないソフト
です。
以下に解説します。
VW 高い自動車価格
そもそも
“Volkswagen”(大衆車)
という名前なんだから、大衆が買える車であるべき。
そんなVWにとっての
”Butter- und Brotgeschäft”(日々のパンを稼ぐ商売)
である車種がゴルフ。
その新車価格は最安値でも2万5000ユーロ。
日本円で420万円(税込み)。
これが電気自動車になると、一番小さいID.3でも3万4390ユーロ。
日本円で580万円(税込み)。
大衆が600万円近い車を買えるわけがない。
とりわけ値段にシビアなドイツ人が
「電気自動車を厭う」
のは、わざわざ専門家に聞くまでもない。
2024年8月、ドイツ国内の電気自動車販売台数は前年比で68%減となった。
高い人件費
とりわけドイツ国内のVW工場では、人件費が高い。
これがポルシェやメルセデスなら、価格に上乗せできる。
しかし
「大衆車」
なのに、価格が5万ユーロでは売れない。
そこで半分の2万5000ユーロで販売せざるを得ない。
結果、グループ全体のマージン率は4%まで下落。
その中でも一番ひどいのがフォロクスヴァーゲンのロゴが入った車。
マージン率は雀の涙の2.3%。
なのに労働組合はさらに7%の賃上げを要求している。
ちなみにトヨタのマージン率は8%。
たった4%しか儲からないなら、何万人も雇って車を製造するより米国の国債を買った方が利回りがいい。
VW法
VWはそもそもポルシェ博士が設計した
「国民車」
を製造するために、ヒトラーが作った国営の車メーカー。
戦後もしばらくは国営でやってきたが、60年代に民営化されることになった。
その際に
“Das Gesetz über die Überführung der Anteilsrechte an der Volkswagenwerk Gesellschaft mit beschränkter Haftung in private Hand (VWGmbHÜG) ”
あまりにも長いので通称、
”VW-Gesetz”(VW法と呼ばれる)
が施行された。
ここで会社の運営方法はどうやるか、滅茶苦茶細かい点まで決められている。
この為、VWは私営企業ではあるが、官庁のような性格を持っている。
法律でがんじがらめ
そのVW法には
「愚の骨頂」
が盛りだくさん。
例えば、
「会議の際のコーヒーは、VW従業員の働く社員食堂に注文する。」
と決められている。
するとVWというでかい会社の社員食堂は、一種の独占企業。
「どうせ外に注文できなから。」
と、とんでもない値段をふっかける。
驚くなかれVWの重役が飲むコーヒーは、あのバカ高いスターバックの1.5倍もする。
そこで社長が
「ばかばかしい!」
と法律を変えようとすると、
「株主の4/5の賛成が必要。」
とVW法典に記されている。
しかしニーダーザクセン州(知事)がVWの21%の株式を所持しており、
「次の選挙でも選ばれたい。」
と州知事は法律改正に反対する。
この為、VW法は改訂された試しがない。
60年前の悪習がそのまま
「伝統」
として引き継がれている。
魅力に欠けるモデル
それでもまだVW車が売れている間は良かった。
新しいモデルではデザインが一新された。
「蓼食う虫も好き好き」
というから、これを
「かっこいい!」
という人もいるだろうが、600万円も払って買いたい車ではない。
これよりひどいデザインは、メルセデスのEQSくらい、、
こちらも全く売れていない。
さらに金欠になったドイツ政府が何の前触れもなく、
「電気時自動車購入奨励金」
を中止すると、
電気自動車は大量に売れ残った。
これがアメリカなら余剰人員をクビにして、生産体制を見直す。
ところがVW法のせいで、これができない。
結果、VWは売れない車を作り続けるしかなく、業績が悪化の一途だ。
機能しないソフト
そもそも
「電気自動車に全力投入」
を決めたのはデイース社長。
氏は、
「三つの事を同時にやれ!」
というせっかちタイプ。
そんな社長が、
「電気自動車のソフトを作れ!それもすぐに!」
と言い出したから、開発部はたまったものではない。
結局、中国製のプログラムを購入。
これをVW車に転用するためにソフト開発部門、
“CARIAD”
を立ち上げた。
このソフトが初期のMicrosoftと同じでエラーだらけ。
VWは高給取りのソフトエンジニアを6000人も雇い、機能しないソフトを機能させようと頑張った。
長年努力した後で、
「やっぱり機能しない。」
と悟り、倒産寸前だった(米)電気自動車メーカーに資金投入。
そのソフトを使わせてもらうことにした。
それもこれもデイース氏が、
「電気自動車の成否はソフトが決める。」
とちゃんとソフトの重要性を理解していたのに、その実践で急ぎ過ぎたが故だ。
どうなるVW?
VWが10月末に発表した業績発表によると、経常利益は前年比で64%減。
ちゃんと機能しないので売れない電気自動車を、高い人件費を浪費して作っているのだから、当たり前。
これを受けて会社側は
- 3つの工場の閉鎖
- 全従業員の給料10%カット
- 2025年から2年間お給料据え置き
- ボーナス支払い中止(部長以上)
を労使側に通告した。
コーヒーさえもスタバに注文できないVWが、工場閉鎖をするには4/5の賛成票が必要だ。
これが得られるかどうか、ニーダーザクセン州の判断にすべてがかかっている。
もし州政府が
「次回の選挙で負けたくないから。」
と反対すると、お先真っ暗。
仮に州政府が賛成しても、
”long shot”(乗るか反るか)
の大改革になる。
高価でブサイクな車は誰も買わないからだ。
今、VWの株価は
「過去3年の最安値を更新中」
であるが、買わない方がいい。
幾ら配当金が高くても!