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金の切れ目が縁の切れ目?信号政権破綻の危機

投稿日:2023年12月5日 更新日:

「金の切れ目が縁の切れ目」

とはよく言ったもの。

今、ドイツの信号政権が2024年度予算を巡って、大きく揺れている。

日本で、

「ドイツで信号政権解消 総選挙に!」

と報道された際、何が原因だっかに皆さんにわかるように

「今のうちに」

紹介しておこう。

事の始まり

事の始まりは2週間前にここで紹介した

最高裁での

「現行の国家予算は違法」

との判決だ。

この判決により政府には、600億ユーロ(邦貨で10兆円)が欠けることになった。

だが政府はそんな事とは

「つゆ知らず」

お金を使ってしまった後。

財務大臣は、

「節約すればいい。」

と現実を見る事を拒否したが

「現実逃避」

は長く続かず

「補正予算案」

を閣議決定。

これにより財務大臣が

「この政府は借金をしないよ!」

威張っていたのに、借金ブレーキ法を2023年も順守できずに終わった。

私は当然、

「2024年も借金ブレーキ法順守は無理。」

と思っていたのに、財務大臣は

「2024年は借金ブレーキ法を順守する。」

と言い出した。

これが政府内での大喧嘩の原因となっている。

FDPの赤い布

ドイツでは

「話し相手を怒らせるテーマ」

あるいは

「絶対に受け入れれない条件等」

“rotes Tuch”(赤い布)

と言う。

言わずと知れた

「闘牛」

から派生した慣用句だ。

連立与党FDPにとっての赤い布は

  • 増税
  • 社会保障制度の拡充

である。

そもそもFDPは、

「お金持ちをさらに裕福にする。」

がその党の存続理由である。

彼らはこう考える。

税金を一番多く払っているのはお金持ち。

すなわち!

お金持ちがいるからこそ、社会が機能する。

しかし政府は、あまりにも裕福層からお金を絞り過ぎ。

だから何かあると減税を要求する。

その一方で貧乏人(一般人)が貧乏なのは、個人が努力をしなかったが故。

「そんな穀潰しのために税金を使うのは無駄!」

と考えている。

間違った考え方だが、

「真実の破片」

も含まれている。

ドイツは今、インフレのお陰で

「かってない税収入」

がある。

なのに借金ブレーキを守れないのは、社会保障に大金を使っているから。

「これを辞めれば、2024年は借金ブレーキ法を順守できる!」

というわけだ。

実際、ドイツは税収入の45%を社会保障に使っている。

これを

「ちょっと」

削減すれば、

「十分な金がある。」

のは間違いない。

そもそも今のドイツの社会保障制度は、金がかかりすぎる。

だから

「これを真っ先に削減すべき。」

これがFDPの考え方。

だからFDPの党首であり、財務大臣が、

「(貧乏人の救済のために)2023年度も借金ブレーキ法を適用できない。」

と宣言すると、FDP党員はブーイングの嵐。

そして

「信号政権を解消するべきだ!」

と主張、その是非を問う党内投票まで実施することになった。

なのに党首がもし、

「2024年も借金ブレーキは、、。」

と言い出したら、FDPの党員はついてこない。

だから財務大臣には、

「2024年は借金ブレーキ法を順守する。」

としか発言できないジレンマがあった。

SPDの赤い布

連合政権の中心的な役割を担っているのが、SPD(社会民主党)。

そもそも労働者の生活・労働環境改善を目指して出来た党。

SPDにとっての赤い布は、社会保障制度の削減だ。

そのSPDが公約を実現して導入した社会保障制度が

“Bürgergeld”

それに

“Kindergrundsicherung”

だ。

これを、しかも国会で決議した後になって削減するなど、

「あり得ない」

と、社会民主党はFDPの要求する社会保障制度の削減は

「全く受け入れられない。」

と主張している。

緑の党の赤い布

忘れてはならないのが、副首相を出している緑の党。

緑の党の名前からして、

「環境保護」

が至上課題。

その緑の党の目玉政策が

”Klimafond”(気候保護基金)

だ。

これでドイツの産業を脱炭素に向けて、さまざまな補助金で支援する。

確かに金はかかるが、

「環境にやさしいドイツの工業製品は世界中で売れる!」

と見込んでの事。

なのに財務大臣は、

「金がないから気候保護基金は無理。」

と言い出した。

これを緑の党が飲めるわけがない。

どうする信号政権?

このように信号政権の3党のすべてが、

「ここだけは譲れない。」

という有様で妥協の余地がない。

しかしあと1ヶ月も経たずして2024年が始まる。

その国家予算は少なく見積もっても170億ユーロ(3兆円近く)が欠けている。

どうする信号政権?

一番簡単なのは来年から上昇する筈だった

“Bürgergeld”(ドイツ版生活保護金)

の据え置き。

これを

「辞めます。」

と言えば、かなり節約できる。

ただし!

2023年は10%を超えるインフレが襲った。

生活保護を受けている人は、

「死ぬには多過ぎ、生きるには少なすぎ」

と悲鳴を上げている。

「FDPのエゴ」

の為に真っ先に貧しい人から節約すれば、SPD内部で大ブーイングが起こるだろう。

しかし他に選択肢がない。

連立解消?

「他に選択肢がない。」

と書いたが、

「もうひとつの可能性」

として挙がっているのが、連立政権の解消だ。

「FDPを連立解消に追い込み、SPDとCDUでまた大連合政権を組む」

という可能性が真面目に議論されている。

もっともCDUは

「Bürgergeldを据え置けばいい!」

と主張しているので、わざわざ連立政権を解消するだけのメリットもない。

クリスマスの前に

「ショーダウン」

があると思うので、結論が出たらここで紹介します。

信号政権 財政危機打開策で合意

財政危機で信号政権の破綻も心配されていたが、なんとか同意に達した。

FDPが主張していた

「生活保護支給額カット案」

はボツ。

ドイツでは法律で生活保護支給額を決めているので、勝手にカットすると法律違反。

また訴えられたら負ける。

すると面子丸つぶれ。

そこで生活保護支給額のカットをせず、他の箇所で削るとにした。

それが

  • 農家への優遇装置とりやめ
  • 電気代補助金のとりやめ
  • 電気自動車購入補助金のとりやめ

など。

加えて二酸化炭素税を2024年からなんと50%もアップ!

やっとおさまりかけたインフレなのに、これで1月から急激な物価高は必至。

すでに生活がしんどい市民は高いガソリン代、暖房費、そして輸送費の高騰にいよる物価高に悩まされることになる。

ただでも景気後退のど真ん中のドイツ。

景気対策が必要になり、借金ブレーキ法の例外条項適用になる可能性も十分にある。

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執筆者:

nishi

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