ドイツ政府が今、財政危機に陥っている。
2024年度の予算に
“60 Milliarden”(10兆円相当)
の穴がぽっかり開いており、財務大臣は支出ストップを命令。
日本では報道されていなかったので、ご存じない方が大半だろう。
ここで詳しく紹介します。
この記事の目次
事の発端
事の発端は2021年まで遡る。
当時はコロナ禍のど真ん中。
コロナ禍で経営が傾いた中小企業を救済するため、政府はコロナ救済基金を設置した。
この基金は日本と違って基本、店舗を抱えているのに、休業を強いられて収入がない中小企業が対象だった。
結果、基金が適用されるケースが予想よりも少なく600億ユーロが余っていた。
コロナ禍が過ぎ去った今、連合政権は、
「これを使わない手はない!」
と、2024年から始まる
“Klimafond”(環境対策基金)
の予算をコロナ救済基金から出すことにした。
ちなみに、日本政府も全く同じことをやっている。
でも、誰も文句を言わない。
が、ドイツには
「特殊な事情」
があった。
特殊な事情 借金ブレーキ法
日本人の大好きな言い方を採用すれば、日本は
「世界が驚く」
借金大国。
国の借金はBIP(国民総生産高)の200%を
「とっくの昔」
に突破。
なのに未だに国家予算の3割は借金(国債)だ。
あのタイでさえ借金の割合が14%なのに。
ドイツでも20世紀は同じく、借金に頼った国家財政だった。
言い換えると今の世代が
「ゆとりある生活」
をするために借金。
その
「ツケ」
を払うのは将来の世代。
そう、貴方の借金を貴方の子供達が払うわけだ。
21世紀になってから
「負の遺産を将来に残すべきではない。」
との議論が活発になった。
そして遂に2009年、
「借金ブレーキ法」
が導入された。
これが2009年の出来事だ。
これにより
- 自然災害
- 予期できない緊急事態
- 景気後退
が発生しない限り、
「政府は借金をしてはならない。」
とされた。
新政府のトリック
シンガポールのような
「模範国家」
であれば、借金ブレーキ法を順守することもできたかもしれない。
が、これまで借金で
「ジャブジャブ」
だった国家が、
「来年からもう借金はしません。」
で長い間うまく行くわけがない。
そこで新政府は
「”Nettokreditaufnahme”(新しい分割返済借金)は借金ブレーキ法に抵触しない。」
とやった。
これがあったからこそドイツ軍の
“Sondervermögen”(特別予算)
の1000億ユーロ(16兆円)も可能になった。
厳密に言えばこの特別予算も憲法違反だったかもしれない。
が、そもそもドイツ軍の予算アップを要求したのは野党だったので、訴えることはしなかった。
2024年度はブレーキ法順守?
ドイツ政府は当初の、
「ウクライナに軍事援助としてヘルメットを提供します。」
を大いに反省、
「アメリカに次ぐウクライナへの軍事支援国家」
に成長した。
2024年は
「ウクライナへの軍事援助額」
を2023年の40億ユーロから80億ユーロに増額するという。
加えてエネルギー価格ブレーキ法も2024年3月末まで延期。
さらに!
来年から子供基本保障も始まる。
そして新政府は新しい(金のかかる)環境保護対策を2024年から実施する。
なのに財務大臣は、
「2024年度は借金ブレーキ法を順守する。」
と高々と宣言した。
ドイツは不景気で税金収入が減っているのに、どうやって借金ブレーキ法を順守できるのだろう?
最高裁判決
その答えがメルケル政権時に導入されたコロナ救済基金だった。
新政府はこの金を
「前政府が使ってない予算をいただき!」
と、2024年から始まる環境保護基金の予算に組み込んだ。
政府によると
「コロナ禍で導入された基金は、なんとなく環境保護ともつながっている。」
と大真面目に主張した。
この600億ユーロの金があったからこそ、政府は高価な環境保護対策を実施しながら、借金ブレーキ法を順守することが可能になった。
ところがである。
「そうは問屋が卸さない!」
と野党が
「2024年の国家予算案は憲法違反である。」
と最高裁に訴えた。
そもそもコロナ救済基金は借金ブレーキ法に書かている通り、
「予期できない緊急事態」
で借金ブレーキを無効にして組んだ予算だ。
「余ったら借金返済に使うのが筋」
というわけだ。
そして最高裁判所は政府の
「コロナ禍で導入された基金は、なんとなく環境保護ともつながっている。」
は説明不十分の為、違法である。
と判断した。
戦後のドイツ史で国家予算を違憲と判断されたのは、後にも先にも現行政権だけ。
さらに!
当時、コロナ救済基金を導入した際の財務大臣は、今の首相のショルツ氏だ。
まさに赤っ恥!
ドイツ政府財政危機 2024年予算が10兆円足らない!!
最高裁での違憲判断で、2024年の国家予算に600億ユーロ(邦貨で10兆円)欠けることになった。
しかし!
そもそも借金ブレーキ法は、景気後退時の例外を認めている。
そしてドイツは今、景気後退のど真ん中。
「借金ブレーキ法の例外条項を使えばいい!」
と思うだろう。
だが財務大臣のリントナー氏は、
「面子を潰された。」
と感じており、借金ブレーキ法の例外適用を拒否。
「社会保障費を削って、借金ブレーキ法を順守する。」
と息巻いている。
何処かの国のように一度約束した補助金を
「出しません。」
と言えるような国なら、それも可。
しかし法治国家のドイツで
「2024年度の生活補助は、半分で我慢してね。」
というわけにはいかない。
10兆円も節約できるわけがない。
結果、2024年まで
「あと1ヶ月ちょっと」
だというのに予算案がまとまらず、ドイツ政府は財政危機のど真ん中。
どう考えても、借金ブレーキ法案の例外条項を使うしか抜け道はない。
なのにFDPの税務大臣はこれを拒否。
間抜けすぎません?
と書いた翌日、リントナー財務大臣は
「負け」
を認めて借金ブレーキ法案の例外条項を使うと声明。
だからいわんこっちゃない!
[…] 「2024年の国家予算は違憲」 […]