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Nexperia 半導体輸出中止で自動車業界大ピンチ!

投稿日:2025年11月3日 更新日:

Nexperia 半導体輸出中止で自動車業界大ピンチ!

世界の半導体の10%を生産するオランダの Nexperia。

先月、いきなり

「輸出ストップ」

を告知。

とりわけ多くの半導体が必要な自動車業界は

「生産ストップ」

の危険にさらされている。

Nexperia とは

そもそも”Nexperia”はオランダの大手家電メーカー

“Philips”(フィリップス)

の子会社である

“NXP Semiconductors”

の成熟半導体を製造する部署だった。

質問
成熟半導体?

 

簡単に言えば、昔からある半導体。

技術的には完成しているので

「成熟半導体」

と呼ぶ。

誰でも製造できる半導体なので安価。

皆さんが使う家電製品にも入っているが、とりわけ自動車部品に多用されている。

言い換えれば、

「大量生産でなんぼ」

の世界で、あまり儲かる商売ではない。

そこで親会社は2007年、ネクスペリアを中国の

“Wingtech Technology”

に売却した。

中国企業は安く製造する能力に長けており、市場占有率を拡大。

今や世界で使用される成熟半導体の10%は、ネクスペリア製だ。

そして今日まで何も問題はなかった。

Nexperia 国有化

ところがである。

9月末、極右政権が実験を握るオランダ政府は、アメリカに唆されて愚行に出た。

なんと Nexperia を国有化してしまったのだ。

参照 : 国有化

 

オランダ政府は、

「会社が清算されて、生産施設が中国に移される危険がある。」

とこの行動を正当化。

国有化後、Nexperia は

「半導体の元」

になるウエーファーの(元)親会社への輸出も止めた。

この輸出禁止措置をオランダ経済相の管轄下のネクスペリアは、

「これまで輸出したウエーファーの代金が支払われていない為。」

と説明した。

関税戦争

火に油を注いだのが、10月初旬にトランプが告知した

「中国からの輸入品に対する100%の追加関税」

だ。

これに中国側が対抗措置を発動、半導体の輸出を禁止した。

すると米国政府はネクスペリアの親会社

“Wingtech Technology”

を制裁リストに加えた。

結果、西側の企業は

「仮に中国政府が禁輸措置を解いても、半導体を注文すると米国から制裁を課される。」

というダブルパンチに見舞われた。

質問
オランダの会社なのに影響があるの?

 

”Nexperia”の工場はオランダ国内は勿論、ハンブルクにもある。

しかしここで製造されるのは、

「製品の一歩手前」

まで。

半分完成した半導体は中国の本社工場で

「製品」

に仕上げられて、客に届けられる。

この為、中国政府が課した

「半導体の輸出禁止令」

には、”Nexperia”製品の80%が該当する。

結果、今、世界中で

「成熟半導体が足らない!」

という事態が生じている。

VW 在庫が枯渇

中国政府による

「成熟半導体 輸出禁止令」

は、パソコンは勿論、冷蔵庫やテレビの製造にまで悪影響を及ぼしている。

しかし一番ダメージが大きいのは、自動車業界だ。

質問
何で?

 

車、正確には車の電子部品に埋め込まれる半導体の数が半端ないから。

高級車になると3000もの半導体が必要だ。

国民車でも1000個。

ざっと言えば、その半数が”Nexperia”の成熟半導体。

とりわけ車を多く生産するVW(フォルクスワーゲン社)が、真っ先に大ピンチに陥った。

デジャビュー

という話を聞き、

「少し前にも、同じ話を聞いた覚えがある。」

と思われた方、正解です。

コロナ禍で半導体の製造ラインが止まり、自動車業界は大ピンチに陥った。

その教訓で、

「Just in Time の部品調達に頼らず、部品(半導体)の在庫を増やすべし。」

が、車業界で常識になった筈だった。

実際、メルセデスとBMWは

「将来はともかく、今の時点では生産ストップの可能性はない。」

と声明を出した。

ちゃんと過去の危機から学んでいます。

ところがどうもVWは

「同じようなことは、二度と起こるまい。」

と、高を括っていたようで、真っ先にピンチに陥った。

製造ラインの停止を避けるため、VW は世界中の成熟半導体メーカーに電話攻勢。

結果、通常は0.03セント/個の半導体の価格が、1.5ユーロ/個まで高騰。

なんと50倍だ。

現時点では

「11月の1週目までは半導体が確保されているが、それから先はわからない。」

という。

選択肢

と聞いて、

「誰でも製造できる成熟半導体なら、他社製品に乗り換えればいい。」

と思われた方。

ところがそうは簡単にはいかんのです。

まず生産量。

“Nexperia”は、膨大な数の成熟半導体を製造していた。

その穴を他社が埋めるには、

「市場に出回っている半導体を買えば事足りる。」

というわけにはいかない。

他社で増産体制に入る必要がある。

しかし!

新しい生産ラインを導入するには、時間がかかる。

おまけにいつまでこの

「特需」

が続くかわからない。

だったら新しい製造ライン導入のリスクを冒さず、今の成熟半導体の

「需要増」

を利用して、がっぽり儲けた方がリスクもなく簡単です。

仮に VW と成熟半導体の供給契約を結んでも、増産が始まるのは半年も先。

皆まで言えば、その前に、

  1. 他社の半導体が必要とされる性能を有しているか
  2. 半導体を他社に入れ替えてもちゃんと作動するか

数か月かけてテストが必要です。

このように、成熟半導体は

「誰でも作れる製品」

ではあるものの、

「今日、明日で他社に乗り換える。」

ことはできないんです。

Nexperia 最初の犠牲者

VW はこの新たな半導体危機で

“Beschaffungsvorstand”(部品調達取締役員)

をクビにした。

 

というのも各方面から、

「VW はこの前の半導体危機から何も学ばなかったの?」

と言われ

「赤っ恥」

を書いたのが原因だ。

もっとも VW によると

「役員の交代は前から計画されていたものであり、今回の事案とは関係ない。」

そうです。

11月から

「計画通り新しい部品調達取締役員が就任する。」

との事。

VW の心情を汲んでやってください。

短縮時間労働

成熟半導体不足が最初に直撃したのは、またしても自動車部品メーカー。

世界最大の自動車部品メーカーボッシュは、

”Kurzarbeit”(労働時間短縮)

を開始した。

加えてコンチネンタルから独立した

”Aumovio”

も労働時間短縮を告知。

さらには倒産の危機と戦っている

“ZF”

も労働時間短縮を告知。

この危機にドイツの外務大臣は予定していた中国訪問を中止して、中国を非難。

 

ドイツの基幹産業が停止する危機に瀕しているのに、

「火に油」

を注いだ。

これは当分、半導体不足が続きそうだ。

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執筆者:

nishi

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