同姓婚法成立!
この記事の目次
ペンキが剥がれたSPD首相応候補
今年の9月にドイツで総選挙がある。
メルケル首相の4期政権を阻止すべく、対立政党のSPDはEU議会大統領だったシュルツ氏を党首に迎え、メルケル首相の対抗馬として立てた。
最初の1ヶ月は
「シュルツ効果」
が出てSPDの支持率はうなぎ登り、
「次回はシュルツ首相か。」
と思わせた。ところが、「あっ」という間にペンキが剥がれた。
同氏はEU議会大統領として在任中、友人(助手)がベルリンで働いているのにブリュッセルに事務所があると申請することこで、出張費として1万6千ユーロの交通費を手に入れた。
さらには大統領として高額なお給料(11万ユーロ。手取りです。)をもらっているのに、ドイツで選挙運動中も大統領の
「公務」
として旅費を申請、“Tagesgeld”と称する”Spesen”(旅費)を1日あたり304ユーロもかしめていた。それも356日間も。
日本で同様のスキャンダルが起こると、「辞めろ。」となる。
政治家や学校の先生に清廉潔白な人物を求めるのが原因だが、そんな神様のような人間は存在していない。
現実的な欧州では、「その程度」のスキャンダルでは、人気を落とす程度で済んでしまう。
実際、シュルツ氏はEU議会から「お叱り」を受けて、この件は終了した。ただしシュルツ旋風は消え去った。
歴史は繰り返す?
そしてSPDの支持率は、シュルツ氏が党首に納まる前の低い支持率に戻ってしまった。
4年前の総選挙の際、SPD の首相候補は大企業の社長の高価なお給料を非難する一方で、一回の公演で数万ユーロもかしめていた。
これが報道されると支持率が落下、メルケル首相に歯が立たず、惨敗を喫した。
「歴史は繰り返す。」
というが、今回もこのスキャンダル原因で、メルケル首相の楽勝になりそうな展開になっている。
SPD の乏しい選挙公約
「これはマズイ」
と悟ったSPD、世論を党首候補の公費横領から選挙戦に移すべく、
「選挙に勝った暁には。」
と、選挙公約を発表した。とりわけドイツでテーマになっているのが高齢層の貧困化。
労働者が生涯働いて年金を払っても、もらえる年金の額は生活保護と大差ない。これでは労働の価値がない。
そこで労働者の党であるSPDは、
「生涯働いた人には、働いていない人よりも高い年金をもらうべきだ。」
と主張、35年以上年金を払った人には、生活保護+10%の年金を約束した。
これを金額で言えば、50ユーロ程度。雀の涙でしかない。これが労働者の党の選挙の公約だ。
ドイツでは数年前にやっと最低賃金が導入されたが、この最低賃金で35年働いても、生活保護以下のレベルの年金しか出ない。
SPD は最低賃金を上昇させるべきなのだが、これを公約に挙げると企業献金が減ってしまう。
そこで問題の根底をそのままにしておき、小手先の手段で支持率を上げようとした。が、うまくいかなかった。
国民の多くは昔の国民年金を渇望しているのだが、SPD にはSPD政権が導入した
「年金の民営化」
を廃止する度胸がない。
これを公約していれば支持率はうなぎ登りだったろうに、SPDの選挙公約の発表後、支持率はさらに低迷した。
ところが思わぬ方向から SPD を助ける(かもしれない)神風が吹いた。
メルケル首相 痛恨のエラー
選挙まで4ヶ月を切ったのにメルケル首相、すなわちCDUは選挙の公約を発表しなかった。
それでも支持率があがっていく事態に、首相は笑いが止まらない。逆にジリ貧になっていくシュルツ氏は我慢の緒を切らし、
と叫んだ。ちょうど公演中のメルケル首相は、この叫び(非難)について聞かれると、
「選挙戦中で、精神が参ってしまったようだ。」
と余裕の、同情とも思えるコメントを出すし、視聴者からの笑いを誘った。
これは言葉(ユーモア)に恵まれていないメルケル首相が見せた、貴重な場面だった。
この一言が観衆に受けたことが首相をリラックスさせたのだろうか。参加者からの次の質問、
「いつになったら同姓間の結婚が可能になるんですか。」
には、
「このテーマに関する議論を議会の多数決制ではなく、良心が決める方向に導きたい。」
と、いつも通りの意味のわかり難い回答をした。
これを翻訳すれば、
「同姓間の結婚は何があっても反対というものではない。」
という意味になる。この一言がドイツ社会を揺るがす一大事になった。
まずメルケル首相とCDUは、「キリスト教」という名前を関している通り、聖書に載っていない同姓間の結婚には反対している。
闇に葬られた同姓婚法案
数年前の話だが、緑の党と左翼政党が
「同姓間の結婚を認めるべし。」
という法案を議会に提出したことがある。
この法案はまずは上院で討議されて、野党が過半数を占める上院で可決された。
そこで緑の党と左翼政党はこの法案を正式な法律にすべく、下院に送った。
ところがメルケル首相、とりわけカトリック教の政党CSUが大反対した。メルケル首相は、
「夫婦とは男性と女性の間の関係である。」
という態度を崩さなかったかったので、この法案は決議されず、その他多数の法案同様に「決議待ち。」の仮死状態にあった。
これが5~6年前の話だ。
「あとは決議するだけ。」
の法案が下院に上がっていた事をすっかり忘れていたメルケル首相が、
「同姓間の結婚は何があっても反対というものではない。」
と発言したのだから、支持率低迷で苦しむシュルツ氏には、「神風」で、「いざ、鎌倉。」と攻撃に転じた。
「メルケル首相が良心の決心というなら、国会で良心の決議をしようじゃないか。」と見事な奇襲をかけた。
同性婚 キリスト教徒の大反対
メルケル首相は、
「国会決議なんて必要ない。」
と最後の抵抗をしたが、緑の党、左翼政党、そしてSPDが共同で、同姓間の結婚を国会で公開議決する議題を提出した。
というのもたまたま今、通常国会の開催中だ。これが6月30日で終了する。
次の国会は総選挙後に新首相を選ぶ国会となるので、メルケル首相が勝利した場合(その可能性が高い)、この議題が議決されることはない。
これが最初で最後の機会なのだ。
メルケル首相とキリスト教民主党はこの決議に大反対したが、
「すでに種は蒔かれた後」
だった。
SPD の幹事長はこの千載一遇のチャンスを、
「11mのペナルテイーキックをもらったようなもの。そして敵のキーパーはゴールの前に立ってさえいない。これはゴールを決めなきゃね。」
と描写した。こうして歴史的な議決が通常国会の最終日、6月30日に行われることになった。
同姓婚法成立!
国会議長は投票前に、
「この議決は党の政策束縛から解放された良心の議決です。良心に訴えて投票を。」
と短い演説をして、投票が始まった。メルケル首相率いるCDUにはホモ議員も多く、賛成票を投じた。
閣僚でも国防大臣、外見からすればどうみても同性婚に反対しそうな幹事長まで、同姓間の結婚に賛成票を投じた。
投票結果は賛成票393、反対票226で、この同性婚法案は圧倒的な過半数で可決され、法になった。
これによりドイツでは同姓婚が可能になり、子供を養子受けすることも可能になる。
同姓婚法成立! メルケル首相の弁明
ちなみに同姓婚を痛恨のミスで可能にしたメルケル首相は、反対の投票をした。
「毒を食らわば皿まで」
で、賛成したほうが賢いだったろうに、まんまと首相のスキを付いてきたSPDが許せなかった。
さらには党内のガチガチのカトリック教徒派からの非難を交わす目的もあった。
この法案の成立後、教会は
「この法律は夫婦の概念を壊すもの。」
と非難した。
さらにカトリック教徒連合はこの法案を
「憲法違反」
として、憲法裁判所に訴えるといきまいている。もっとも憲法違反で訴えるにはその理由が要る。
法律により差別、不利な待遇を受けていることが必要で、
「気に入らない。」
という理由で訴える事はできない。
同姓婚により反対派が差別、不利な待遇を受けていることを証明するのはほぼ不可能なので、この法はこのまま施行されると見られている。