これまでかたくなにウクライナへの武器提供を拒んできたドイツ。
国際的な圧力の高まりに負け、
「ウクライナに武器を提供する。」
と、これまでの態度を180度転換した。
そこで今回は、
- 何故、ドイツ政府がかたくなに武器提供を拒んできたか
- 何故、方針を変更したのか
- どんな武器を提供するのか
について紹介したい。
この記事の目次
係争国への武器提供自粛
ドイツ政府がかたくなに武器提供を拒んできたのは、歴史的な背景がある。
第二次大戦まで、ドイツは積極的に係争国に武器を提供してきた。
顕著な例がスペイン内戦だ。
フランコが劣勢になるとスペイン義勇空軍部隊、
„Legion Condor“
を派遣した(*1)。
ヒトラーが派遣した義勇軍のお陰でフランコは劣勢を挽回、内戦に勝利した。
ちょうどロシアがシリアに空軍を派遣して、反乱軍や市民を殺し実効支配しているのと同じ。
ドイツはこうした方法で、その影響力を広げていった。
その反省から戦後、係争国には武器は輸出しないと宣言した。
大人気!ドイツ製の武器
ところがである。
戦争中のドイツ軍の活躍のお陰で、
「ドイツの武器が欲しい。」
という国が列をなしている。
ドイツ政府は外貨を獲得するために、
「友好国」
に限って武器の輸出を認めているが、世界第四の武器輸出国になった。
輸出高は90億ユーロ。
一方、日本は2014年、安倍首相が法律を改正、日本製の武器の輸出を可能にした。
あれから8年経ったが、売り上げはゼロ。
日本製の戦車、航空機、潜水艦、護衛艦、小銃まで、
「誰も欲しくない。」
のだ。
建前と本音
結果として、ドイツの兵器産業は大事な雇用を創出している。
ドイツ政府が真面目に
「友好国だけ」
「係争国には輸出しない。」
をやっていると、兵器産業は赤字。
赤字になると、従業員が解雇される。
解雇された従業員は野党、もっとひどい場合は極右政党に流れる。
すると次回の選挙で負けて、政治家は兵器産業からのおいしい賄賂を失う(*2)。
だからここでも本音と建て前がある。
ドイツ政府は武器の輸出に関して、
「あまり注目されない」
ケースでは建前ではなく、本音で動いている。
例えば本来は輸出が禁止されている筈のメキシコで、ドイツ製の小銃が使用されている。
あるいは国内で反対派と武力闘争をしているトルコに、戦車を輸出している。
一番ひどいのはサウジアラビア。
サウジはドイツの軍需産業の超~お得意様。
だから
「少々の事」
には目をつむっている。
日本で報道されることは少ないが、イエメンで行われている代理戦争。
ロケットが撃ち込まれて多くの死者が出ているが、
そのロケットはドイツ一の軍需産業のラインメタル社製だ。
ところがドイツ政府は、
「係争国には輸出しない。」
という代わりに、
「関係ない。」
と、突っぱねている。
というのもロケットを製造しているのはラインメタル社の子会社で、イタリアのサルデイニア島にある。
だから、
「イタリアの問題だ。」
というわけである(*3)。
しかしウクライナへの武器輸出は誰もが注目しているので、トルコやイエメンのようにはいかない。
ましてや今、政権にあるのは、
- 武器の輸出を辞めよ!
- 軍事費を減らせ!
と要求してきた緑の党。
党内からの反発を考えると、そう簡単には態度を変えられない
「党内事情」
があった。
Feuer Frei ! ドイツ ウクライナに武器提供を決断す
こうした事情にも関わらず、ドイツ政府は2月26日(金曜日)になって、
「ウクライナに武器を提供する。」
と、これまでの態度を
「コロリ」
と変えた。
一体、何があったのだろう?
隣国ポーランドからの非難
ドイツとポーランドの関係は、日本と韓国の関係に似ている。
つい最近も、
「戦争賠償を払え。」
と言い出してきた。
現右翼政権は、
「ドイツ叩き」
をすることで人気を博し、政権を維持している。
そのポーランドが今回、またしてもドイツを、
「自分だけ知りません、存じ上げませんで、共同の責務から脱がれようとする利己主義に走っている。」
と熾烈に避難した。
「よりによってあのポーランド」
から共同責務にお説教されたのが、ドイツ政府にはかなり応えたようだ。
まさにその時に来たのが、オランダからの知らせだった。
オランダ政府からの武器輸出許可申請
ドイツがまだ、
「武器はヘルメット以外、提供しませんよ。」
と高みの見物をしてる間に、フランスやイギリスは勿論、小国であるチェコ、スロバカイがウクライナへの武器の提供を決定した。
フランスもこれに続き、本来は中立国であるはずのスウエーデンまで武器の輸出に傾きかけた(*4)。
周辺諸国が次々と武器提供を決断しているのに、
「ヘルメットしか送りません。」
では、どんなに無様な様を国際舞台で演じているか、次第にドイツ政府首脳部にもわかってきた。
ここでオランダ政府がドイツ製の対戦車 & 対塹壕兵器、
“Panterfaust 3”
のウクライナへの提供許可を申請してきた。
すでにドイツ政府は、
「5000個のヘルメット提供」
で、集中砲火にさらされている。
その中でオランダ政府の武器提供申請を蹴ると、
「ドイツはプーチン側についた。」
とレッテルを張られ、
“Made in Germany”
の名声に傷がつく。
損得勘定の結果、ドイツ政府はオランダの申請を許可。
同時にエストニアが保有している迫撃砲のウクライナ提供申請も、(やっと)許可した。
ドイツの武器提供の内容
ここまできて、
「ドイツ政府としては、係争国に武器を提供しません。」
と過去の遺物に執着するのは、
「百害あって一利なし。」
と判断した。
どのみちドイツ製の武器が提供されるのだから。
そこでドイツ政府は自らウクライナへの武器提供に踏み切った。
ドイツのウクライナへの武器提供の第一弾の内容は、
- 対戦車兵器1000丁
- 携帯型対空兵器”Stinger”500丁
- 人員輸送装甲車14台
- 燃料1万トン
という立派な内容だ。
これにはあのウクライナ大使もドイツに感謝した。
EU 歴史上初の武器提供を決定!
このドイツの
「180度の方向転換」
はEUの政策にも影響を及ぼした。
EUは5億ユーロの予算を計上して、武器をウクライナに提供すると発表した(*5)。
EUはこれまでドイツ同様に、
「係争国に武器の提供はしない。」
と謳っていたが、ドイツの政策転換を受けて、EUも180度政策を転換した。
もっともこれから武器を注文して、ウクライナ国境のポーランドまで送るには、相当の時間がかかる。
大事なのはフランス、ドイツ、イギリス、米国がすでに持っており、
「後は渡すだけ」
の武器が、速やかにウクライナ軍に手渡される事。
その意味ではウクライナ政府が、
「みせかけの和平交渉」
に応じたのは正しい。
これで西側諸国から提供されて武器が、ウクライナに届ける時間が稼げる。
ウクライナに武器提供 第二弾!
3月3日、ドイツ政府は対空ロケット
“Strela”
を2700丁、ウクライナに追加供給すると発表した。
この対空ロケットは旧東ドイツ軍の武器。
言い換えれば生産国はソビエト。
そう、ソビエトが開発した武器をロシアに対して使用するのだから、これ以上に皮肉なことはない。
この発表にロシアが、
「条約違反だ。」
と抗議したが、ドイツ政府はこの抗議にコメントさえしなかった。
ドイツ軍はさらに、ウクライナ軍に提供できる武器を模索中だ。
今後、第三弾、第四弾の追加が期待できる。
ウクライナに武器提供 第三弾!
ドイツ政府はウクライナに提供する”Strela”対空ロケットの数を、500丁に激減した。
メデイアの報道によると、
「製造から30年経って、破棄される予定の武器だった。」
為、使用に絶えないとか、、。
ひどいですね~。
自分で廃棄する代わりに、ウクライナに武器として渡すなんて、、、。
今後の武器の提供に関しては、
「もう提供できる武器が残ってない。」
というお粗末振り。
長年、軍備を削っていたので、
「武器だ必要だ。」
と言われても、
「ない袖は振れない。」
と言い訳。
国防大臣は、
「直接、軍需産業に武器を買い付けて、これをウクライナに送ることもできる。しかしそうなると、担当は産業省だ。」
と責任逃れ。
もうこれでドイツからの武器提供は終わったように思えた。
が、野党から
「侵略者と戦ってるウクライナを見殺しにするのか!」
と非難されると、
と発表した。
まだ武器が
「余っている」
なら、言い訳で逃げないで、なんで最初から提供しないのか?
ドイツ政府の及び腰のウクライナ支援には
「?」
が残る。
注釈 – ドイツ ウクライナに武器提供を決断す
*1 皆さんがご存じのピカソの絵画”Gernika”は、„Legion Condor“の空爆で荒廃したゲルニカの街の悲しみを表現するために作成された。
*2 武器商人からの賄賂がきっかけでCDUの首脳部は総辞任。結果、(前)メルケル首相が誕生した。
*3 イタリア政府は産業基盤の弱いサルデイニア島での武器製造を大歓迎。
*4 スウエーデンは武器提供を決定した。
*5 4.5億ユーロの武器調達費+50億ユーロの燃料費