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Hartz IV 改めBürgergeld 何が変わる?

投稿日:2022年8月2日 更新日:

2005年に導入されたのが、

“Hartz IV”

の通称で知られる

“Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)だ。

国民から最も憎まれている制度のひとつで、

「貧困」

の代名詞にもなっている。

導入から17年経って、”Bürgergeld”という名前に改められることが決まった。

でも変わるのは名前だけ?

深い沼にはまったドイツ経済

何度も取り上げたテーマなので、知っている方も多いと思います。

でも、

「ゆとり世代」

の為にもう一度、解説しておきます。

時は90年代後半。

街角には失業者があふれ、国庫は大赤字。

改革を実行しようにも

「振る袖がない。」

という状況。

ましてや改革の

「か」

と言った途端に、労働組合など

「甘い汁」

を吸っていた団体が大反対。

次の選挙で負けたくない政治家は、改革を先送り。

結果、ドイツ経済はますます深い沼にはまっていった。(*1)

ドイツ経済 失速の原因

ドイツ経済 失速の原因

ドイツ経済失速の原因は、東ドイツの併合です。

時のコール首相は

「紙屑」

だった東ドイツマルクと、

「ハードカレンシー」

の西ドイツマルクを1:1で交換。

これまで、

「欲しがりません、勝つまでは。」

のスローガンで

「豊かさ」

とは関係のない生活をしていた東ドイツ国民は、見たこともない家電、果物、など買い物に熱狂。

街にはお金が流れ込み、好景気に沸いた。

が、

「買い物の波」

が収まると、不況がやってきた。

東ドイツの会社が、西ドイツ企業との競争に勝てるわけもなく、軒並み倒産。

失業率がうなぎのぼり。

世界(不)景気も原因の一つではあったが、最大の原因はドイツの豊かな社会保障制度。

まさに、

「ゆりかご籠から墓場まで。」

の手厚い社会保障制度を利用して、

「学校を中退してから、これまで働いたことがない。」

という長期失業者が当たり前。

この社会保障制度をなんとか回すため、税金が上昇。

普通の会社員でも、お給料のほぼ半分を社会保障費と税金に持っていかれた。

早い話が、

「頑張って働いても、お給料が上昇しない。」

ので、勤労意欲を奪った。

しかも会社は景気が悪化しても労働者を解雇できないので、余剰人員を抱えて、業績が悪化。

ますます人を雇用しなくなった。

シュレーダー政権の改革

2002年の総選挙で対立候補のシュトイバー氏/CSUを僅差で下し、二期目に突入したシュレーダー政権。

側近やアナリストに言われなくても、

「このままでは、4年後は負ける。」

のは明白。

そこで

“All or nothing”

と、これまで先送りにしていた社会改革を実行することにした。

改革と言えば聞こえばいいが、中身は社会保障制度の伐採だった。

企業が雇用している社員に応じて国に治める社会保障費用を大幅に減額したことがきっかけで、企業の採算性が復活。

これがきっかけで経済が次第に復活を始めた。

が、顕著な効果が表れるまで、4年もかかった。

ドイツの豊かな社会保障制度を葬ったシュレーダー政権は、国民から愛想を尽かされて総選挙で敗北。

こうしてた誕生したのがメルケル政権だった。

Hartz IV とは?

手厚かったドイツの失業保険制度は真っ先に、シュレーダー政権の改革の対象になります。

これまでは、一度も働かなくても死ぬまで支払われた失業保険ですが、改革後は12ヶ月まで(*2)。

13ヶ月目からは

“Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)

通称、

“Hartz IV”

の出番になります!

が、支払われるには条件が!

それには

「万が一」

のためにかけている生命保険を解約、所有している財産も売却して、持てる財産をすべて使い尽くしたら、

“Hartz IV”

支払いの対象になります。

2022年7月時点で、その額は449ユーロ。

 

この中から高騰したガス・電気代金を払ったら、どれだけ食費が残るだろう?

「死ぬには多過ぎ、生きていくには少なすぎる。」

と言われる所以だ。

もっともこの大幅な社会福祉制度の切り捨てで、国家の支出は減少。

メルケル政権になると景気も回復、国家財政は赤字財政から脱出して、借金なしの財政再建に成功した。

国民の怒り

国家財政が再建された一方で、貧しい人間はますます貧しくなった。

人生で失業することは誰にも起こり得る。

私だってドイツで、

「内定」

を取り消されて、失業したことがある。

なのにこれまで節約した

「老後の資金」

を全部使いきらないと、生活保護も受けられないという厳しい措置。

当時、300万人を超えていた失業者の怒りは、

“Hartz IV”

を導入した社会民主党に向けられた。

結果、社会民主党は4度の選挙でボロ負け。

支持地盤である労働者は、大挙してSPDに背を向けた。

かっては二大政党であった社会民主党の支持率は、20%を割り込んだ。

東ドイツでは10%を割った事さえもある。

そこで社会民主党内左派から

「”Hartz IV”を改正しよう。」

という動きがあった。

ところが党内の右派から、

「シュレーダー政策の改革はない。」

というシュレーダー派の反対で、

「”Hartz IV”改正案」

は、選挙の公約に登らなかった。

社会民主党の支持率が20年近く、低迷してるのも無理はない。

Hartz IV 改めBürgergeld 何が変わる?

Hartz IV 改めBürgergeld 何が変わる?

転機をもたらしたのは、プーチンの戦争だ。

ロシア軍の戦争犯罪を見ても、プーチンを擁護する(前々)シュレーダー首相の態度は最後の

「シュレーダー擁護派」(*3)

も失う結果となった。

加えて労働局の指示に従わない失業者に対する

「過度の制裁」

を最高裁が違憲と判断したことも理由のひとつだ。

結果として労働大臣のハイル氏が、

「”Hartz IV”改正案」

を発表した。

まずは、国民から憎まれている制度の名前を変える(*4)。

“Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)

は今後、

“Bürgergeld(国民給金)

と名前を変えるという。

でも変わるのは名前だけ?

Bürgergeld 骨子

そもそも

“Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)

の目的は

「長期失業者」

を職に就かせること。

「なのに、過度の制裁で逆効果になっている。」

と、政府が依頼した調査結果が指摘していた。

そこで

“Bürgergeld(国民給金)

は少し寛大な措置が取られる。

その骨子は以下の通り

  • 最初の2年間は同じアパートに住める
  • 6万ユーロまでの財産は保持できる
  • 職業訓練期間は3年間に
  • 6ヶ月の猶予期間
  • 専門職を選ぶ権利
  • 給付金額アップ!

と言われても、ドイツで失業保険をもらったことがない方には、わけがわからない。

そこで個々に解説しておこう。

最初の2年間は同じアパートに住める

仕事に就いていた時は高い家賃も払える。

が、広いアパートに住んでいると、

「税金で生活している者は節約すべし。」

と、アパートの広さを制限される。

こうした半強制的な小さなアパートへの引っ越しは、最初の2年間に限り大目に見られる。

6万ユーロまでの財産は保持できる

上述の通り、”Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)の受給条件は

「財産を使い尽くして生きていく術がない。」

事。

あまりに厳しいので、これまで貯めた6万ユーロまでは保持したまま、国民給金を受けれるとする。

職業訓練期間は3年間に

こちらで書いている通り。

ドイツで就職するには、その職種での専門教育が欠かせない。

が、今のご時世、若い時に習ったひとつの職種だけで、定年まで勤め続けるのは難しい。

そこで失業者は税金で、新しい職業訓練を受けることができる。

ただし!

「2年以内に終了する事。」

が条件だった。

これはちと短い。

もし職業訓練を始めて、

「合わない。」

と感じても修正できない。

そこで少し融通性をもたせることにした。

3年間は職業訓練を理由に、”Bürgergeld(国民給金)をもらうことができる。

6カ月の猶予期間

失業中は3か月置きに労働局に出頭、

「職探しの成果」

をプレゼンテーションする必要がある。

これを怠ると失業保険を減らされるか、ストップされることもある。

こうした

「制裁」

は、失業者を怒らせるだけ。

全くの逆効果になる上、過度の制裁は違法だ。

そこで最初の6ヶ月は

「失業者の抵抗」

にも寛大に接する。

6ヶ月経っても、一向に労働局の指示に

「従うそぶりを見せない」

場合は、制裁が課される。

専門職を選ぶ権利

“Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)

をもらっていると、基本、仕事を断る権利がない。

ちゃんと職業訓練を受けてスーパーのレジで働けるのに、お掃除の仕事をさせられることもある。

当然ながら、労働意欲は高くない。

この為、専門教育を受けている者はその専門職を優先させる事ができる。

言い換えれば、専門職が見つかるまで、

「結構です。」

と、職のオファーを断ることができる。

給付金額アップ!

“Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)の名前が”Bürgergeld”に変わるのに、給付金が同じではイマイチ。

そこで社会民主党は

「最低限の文化的な生活を受けれる金額」

を新たに設定する意向だ。

具体的は40~50ユーロ、給付金が上昇する。

雀の涙だが、当事者にとって40~50ユーロは大きな違い。

いつ導入されるの?

ここまで聞くと、失業者の待遇改善に繋がりそうで、あまり批判する箇所も見当たらない。

「いつ導入されるの?」

と期待したいが、問題はココ。

お金持ちを最優先する政党であるFDPは、失業者の待遇改善にご機嫌斜め。

 

このまま”Bürgergeld”の骨子が通ることはなさそうだ。

今後、

  1. “Bürgergeld”はパンドラの闇にしまい込まれる
  2. FDPを満足させるために給付金額の増額をカット

の可能性がある。

だから毎回言っているように、選挙に行って自分の意見を投票で示す必要がある。

あなたが

「選挙に行っても何も変わらない。」

と選挙に行かないと、FDPのような政党が政権に付き、社会的な弱者の立場は一向に改善されない。

注釈

*1     今の日本と同じです。

*2    雇用期間が長いと、わずかに数か月、受給期間が延びます。

*3    ショルツ首相の事。

*4   統一教会と同じく、悪事が広まると名前を変える。

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執筆者:

nishi

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