
今回はドイツで新たに導入される”Bürgergeld” を取り上げます。
これは17年前に導入された生活保護制度
“Harts Ⅳ”(ハーツ 4)
の改革版です。
そのハーツ 4 はあまりにも国民から憎まれた為、
“Bürgergeld”
という名前で新スタートします。
何が変わるのか、解説します。
この記事の目次
Agenda 2010
まずはこれまでの
「おさらい」
から。
ボロボロだったドイツ経済を立て直すため、
「第二次シュレーダー政権」
は社会保障システムの改革
“Agenda 2010”
を導入した。
「社会保障システムの改革」
といえば聞こえがいいが、正確には
「社会保障の大幅カット」
です。
Hartz IV
その一環で2005年に導入されたのが
“Hartz IV”(ハーツ 4)
の通称で知られる生活保護制度です。
簡単に言うと、支給額のカット。
「働かざる者、食うべからず」
というわけだ。
ただし!
ただし!
失業保険が支給されるのは、1年間だけ。
その後は
“Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)
になります。
これが
“Hartz IV”(ハーツ 4)
の正式名称です。
が、市民は
「ハーツ 4」
と呼びます。
さらに!
これまでの生活保護も名前を変え、
“Hartz IV”(ハーツ 4)
に組み込まれることになった。
支給額
加えてそのハーツ 4には
「支給条件」
が加わりました。
すなわち!
が、ハーツ 4 の支給条件になります。
2022年7月時点で、その額は449ユーロ。
この中から高騰したガス・電気代金を払ったら、どれだけ食費が残るだろう?
「死ぬには多過ぎ、生きていくには少なすぎる。」
と言われる所以だ。
もっともこの大幅な社会福祉制度の切り捨てで、国家の支出は減少。
メルケル政権になると景気も回復、国家財政は赤字財政から脱出して、借金なしの財政再建に成功した。
国民の怒り
社会保障制度改革の
”Agenda 2010″
は、国民年金や国民健康保険にも及んだ。
お陰で歳出が減少して、国家財政が再建された。
その一方で、貧しい人間はますます貧しくなった。
人生で失業することは誰にも起こり得る。
なのにこれまで節約した
「老後の資金」
を全部使いきらないと、生活保護も受けられないという厳しい措置。
当時、300万人を超えていた失業者の怒りは、
“Hartz IV”
を導入した社会民主党に向けられた。
結果、社会民主党は選挙でボロ負け。
かっては二大政党であった社会民主党の支持率は、20%を割り込んだ。
東ドイツでは10%を割った。
当然、SPD 内部から
「”Hartz IV”を改正しよう。」
という声は、何度もあがった。
ところが党内の右派からの反対で、改正には至らなかった。
転機

ところがである。
よりによって
「プーチンの戦争」
が転機をもたらした。
ハーツ 4を導入したシュレーダー(前)首相は、ロシア軍の戦争犯罪を見てもプーチン擁護を辞めなかった。
この姿勢がSPD党内右派の反感を買った。
皆まで言えば、ちょうど
「ハーツ 4 の制裁措置」
に関して最高裁の判決が出たことが、改革を不可避にさせた。
ハーツ 4 最高裁判決
ドイツ人には
「筋金入り」
の永久失業者が居ます。
学校を出てから一度も、働いたことがない連中です。
そんな
「働く気がない市民」
に対して労働局は、ハーツ 4の支給額を60%、さらには100%減額した。
これを不服として、25歳の永久失業者が訴えたわけです。
最高裁は、
と判断したんです。
【生活保護】Bürgergeld 導入で何が変わる?
この判決を受け、労働大臣のハイル氏(SPD)が遂に、
「”Hartz IV”改正案」
を発表した。
まずは、国民から憎まれている制度の名前を変える。
“Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)
は今後、
“Bürgergeld(国民給金)
と名前を変えるという。
でも変わるのは名前だけ?
Bürgergeld 骨子
そもそも
“Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)
の目的は
「長期失業者」
を職に就かせること。
「なのに、過度の制裁で逆効果になっている。」
との調査結果が指摘していた。
そこで
“Bürgergeld(国民給金)
は寛大な措置が取られる。
その骨子は以下の通り
- 最初の2年間は同じアパートに住める
- 6万ユーロまでの財産は保持できる
- 職業訓練期間は3年間に
- 6ヶ月の猶予期間
- 専門職を選ぶ権利
- 給付金額アップ!
と言われても、ドイツで失業保険をもらったことがない方には、わけがわからない。
そこで個々に解説しておこう。
最初の2年間は同じアパートに住める
仕事に就いていた時は高い家賃も払える。
が、広いアパートに住んでいると、
「税金で生活している者は節約すべし。」
と、アパートの広さを制限される。
こうした半強制的な小さなアパートへの引っ越しは、最初の2年間に限り大目に見られる。
6万ユーロまでの財産は保持できる
上述の通り、”Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)の受給条件は
「財産を使い尽くして生きていく術がない。」
事。
政府が依頼した調査機関は、この受給資格は
「あまりに厳しい。」
と指摘した。
そこで今後は、これまで貯めた6万ユーロまでは保持したまま、Bürgergeld を受けれるとする。
職業訓練期間は3年間に
こちらで書いている通り。
ドイツで就職するには、その職種での専門教育が欠かせない。
が、今のご時世、若い時に習ったひとつの職種だけで、定年まで勤め続けるのは難しい。
そこで失業者は税金で、新しい職業訓練を受けることができる。
ただし!
「2年以内に終了する事。」
が条件だった。
これはちと短い。
もし職業訓練を始めて、
「合わない。」
と感じても修正できない。
そこで少し融通性をもたせることにした。
3年間は職業訓練を理由に、”Bürgergeld(国民給金)をもらうことができる。
6カ月の猶予期間
失業中は3か月置きに労働局に出頭、
「職探しの成果」
をプレゼンテーションする必要がある。
これを怠ると失業保険を減らされるか、ストップされることもある。
こうした
「制裁」
は、失業者を怒らせるだけ。
全くの逆効果になる上、過度の制裁は違法だ。
そこで”Bürgergeld”では最初の6ヶ月は
「失業者の抵抗」
にも寛大に接する。
6ヶ月経っても、一向に労働局の指示に
「従うそぶりを見せない」
場合は、制裁が課される。
専門職を選ぶ権利
“Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)
をもらっていると、基本、仕事を断る権利がない。
ちゃんと職業訓練を受けてスーパーのレジで働けるのに、お掃除の仕事をさせられることもある。
当然ながら、労働意欲は高くない。
そこで”Bürgergeld”導入後、専門教育を受けている者はその専門職を優先させる事ができる。
言い換えれば、専門職が見つかるまで、
「結構です。」
と、職のオファーを断ることができる。
給付金額アップ!
“Arbeitslosengeld II”(第二弾失業保険)の名前が”Bürgergeld”に変わるのに、給付金が同じではイマイチ。
そこで社会民主党は
「最低限の文化的な生活を受けれる金額」
を、新たに設定する意向だ。
具体的は40~50ユーロ、給付金が上昇する。
雀の涙だが、当事者にとって40~50ユーロは大きな違い。
Bürgergeld いつ導入されるの?
新しく導入される”Bürgergeld”、失業者の待遇改善に繋がりそう。
ぱっと見、あまり批判する箇所も見当たらない。
「いつ導入されるの?」
と期待したいが、問題はココ。
お金持ちを最優先する政党であるFDPは、失業者の待遇改善にご機嫌斜め。
しばらく政府与党内で
「言い合い」
が続きそうだ。
Bürgergeld 編集後記
2022年11月、与党と野党が協議の上、
果たして政府が期待しているように、
「待遇を改善すると長期労働者数は減少する?」
のだろうか?
ちなみに私が知るドイツ人の
「長期失業者」
は戦争でも起きない限り、働く気がまったくない。
そんなドイツ人の待遇を改善しても、
「労働意欲」
を掻き立てることになるとは想像し難いが、、

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