ドイツ近代、現代史 犯罪史

メトロマン 3600百万マルク横領してリオに逃亡

投稿日:

ドイツの業務用スーパーの最大手、”Metro”。

70年代から80年代にかけて急成長、

「ドイツ一の小売業者」

の地位に登り詰めた。

そのメトロから、たった一人で3600万マルクを横領した強者が居た。

上司との意見の相違

そもそも事の始まりは、上司との意見の相違。

仕事に慣れてくると、

「なんでこんな人が上司なの?」

という経験をします。

往々にして才能よりも、

「よいしょ!」

が優れた人間が出世するもの。

するとこの上司、

「自分が優れているが故。」

と勘違いして部下に意地悪をする。

そんな境遇を味わったのが、メトロの経理で働く

“Günter Schotte-Natscheff”氏。

ナシェフ氏は、

「会社のシステムは安全じゃない!」

と、上司に改善を上申。

が、上司の答えはいつも決まって、

「お前は何もわかっとらん。」

と全く取り付く島もない。

あまつさえ、何かあるとナシェフ氏を邪魔者扱い。

会社の為を思って改善案を出したのに、話のわからない上司のお陰で職場は

「ストレスの溜まる場所」

と化してしまった。

3600万マルクを横領

ナシェフ氏はちょうど知り合ったバーテンダーと、同棲を始めたばかり。

そのパートナーの口座に会社の金を送金して、

「それみたことか!!」

と、氏が正しい事を証明することにした。

メトロでは毎年、12月に会計の監査がある。

これがクリスマス前に終わると、翌年の監査まで誰もチェックしない。

そこで氏は監査が終わるまで待って、送金をすることに。

もっとも会社の金を送金するには、二つのコードが必要だ。

が、氏は経理で働いていたので、両方のコードを知っていた。

加えて送金には裁決者、すなわち上司のサインが必要だ。

これは捏造した。

こうしてナシェフ氏は合計31回、偽の支払いを行った。

その金額は3600万マルク(邦貨で24億+)。

社内の誰も、気が付かなかった。

現金の引き下ろし

送金した金を銀行口座から引き下ろすのは、パートナーの”Vowinkel”氏の仕事。

氏はスーツケースを銀行に持参すると、

「また小銭が必要になりました。」

と、心臓がバクバクしながら現金引き出し用紙を提出。

氏の口座に大金がある事を見た銀行員は、ドイツ人が滅多に見せない愛想の良さで、これを快諾。

何も聞かずに、氏が持参したスーツケースに現金を詰め込んだ。

あまつさえ、氏が一人で来ている事を見ると、銀行のガードマンを呼び裏口までエスコートさせるV.I.P.扱い。

持ち帰った現金は、ソファーのクッションの下に隠した。

現金を持ち出すのは高級品店が連ねる

「ケー」

にお買い物に行くときだけ。

それ以外は、これまでと同じバーテンダーの生活を送った。

メトロマン 3600百万マルク横領してリオに逃亡

が、ゆっくりと年末が近づいてきた。

ナシェフ氏は、

「年末の会計監査でバレる。」

と覚悟していたので、盗んだ3600万マルクの金を持って”Vowinkel”氏と一緒にパリに逃げた。

ここでクリスマスを盛大に祝った。

ナシェフ氏にとって意外だったことに、監査では横領はバレなかった。

不思議な事に、、。

横領がバレたのはメトロがドイツの百貨店、カオフホーフを買収するために資金準備を始めた際。

会社の資金に

「ぽっかり」

大きな穴が空いており、最初はサインを偽造された上司が疑われた。

が、送金先を見れば下手人は、一目瞭然。

新聞で

「世紀の大強盗 3600万マルク盗まれる!」

と大きく報道されると、パリで逃亡生活を送っていたカップルはリオへの逃亡を計画。

3600万マルクの札束を16個のスーツケースに詰めると空港に行き、リオまでのコンコルドのチケットを購入した。

が、大きな問題があった。

「預けられる荷物は、お一人様2個までです。」

と言われたのだ!

どうする?

空港で

「どうする?」

と悩んでいると、見知らぬ人物からいきなり肩を叩かれた。

「捕まった!」

とカップルは思ったが、そこに居たのはエアフランスのスタッフ。

「フライトに空席がありましたので、16個のスーツケース全部、詰めます。」

と渡りに船。

”Vowinkel”氏曰く、

「コンコルドの機内で、シャンパンを注文して祝ったよ。」

と、当時の様子を笑っていた。

“Vowinkel”氏捕まる!

リオで豪華絢爛な生活を送っていた二人。

が、”Vowinkel”氏がホームシックに陥ってしまった。

氏は人と接するのが大好きなバーテンダー。

その友人たちと会えない空虚感は、幾ら金があっても埋められなかった。

そこでよりによってリオからデユッセルドルフに帰国。

「数日、パーっと騒いだら戻ってくる。」

と言い残して、飛行機に乗った。

今なら空港で捕まるが、”Vowinkel”氏はなんと自宅まで捕まらないで帰宅すると、

「何もなかったように」

数日過ごしていた。

その”Vowinkel”氏を訪ねてきたのが、メトロの役員。

氏はメトロから

「金を取り戻す」

使命を帯びた特使だった。

氏は、

「警察に任せると、金を見ることは二度とない。」

と正しく判断、たった一人でパリからリオまで金の行方を追跡調査をしていたのだ!

”Vowinkel”氏がデユッセルドルフ行きの飛行機に乗ったのを嗅ぎ付けると、その後を追い、デユッセルドルフに戻ってきた。

「大人しく自首しなさい。」

と説かれて、”Vowinkel”氏は抵抗することなく警察に逮捕された。

パラグアイに逃亡!

遠く離れたリオでパートナーが捕まった事を知ったナシェフ氏は、パニックに陥った。

荷物(お金)をまとめると、後先考えずにパラグアイに逃げた。

ちょうど入れ替わるように、メトロの内偵がリオに戻ってきた。

ナシェフ氏の豪邸を見つけると、かっての従業員からナシェフ氏がパラグアイに飛んだことを知り、後を追った。

ところがナシェフ氏を追っているのは、メトロの内偵だけではなかった。

南アフリカの犯罪組織が血眼になって、ナシェフ氏を追っていた。

3600万マルクの現金は、見逃すにはあまりにも大きな獲物だった。

ナシェフ氏にとって幸いだったのは、氏を最初に見つけたのが犯罪組織ではなく、メトロの内偵だった事。

ナシェフ氏は、

「南米中の犯罪組織が探している。」

と聞かされると真っ青になり、メトロの内偵と一緒にデユッセルドルフに飛ぶことに同意した。

改めて言うまでもなく、ナシェフ氏はデユッセルドルフ到着後逮捕されて、盗まれた金の大半も確保された。

判決と第二の人生


ドイツ中が注目した公判で主犯格のナシェフ氏は5年、”Vowinkel”氏は4年の懲役刑が言い渡された。

獄中でナシェフ氏は一部始終を記した著者、

“Millionär wider Willen”(嫌々億万長者に)

を出版した。

 

本を読まなくても、メトロのずさんな内部管理が暴露されているがわかる。

メトロの弁護士は裁判所に本の発売の差し押さえ請求を行い、これに成功。

が、その後、出版されたので探せば古本が見つかるかも?

3年後、まずは”Vowinkel”氏が仮釈放となった。

翌年にはナシェフ氏が仮釈放されると、両氏はテレビ番組に引っ張りだこ!

その後、ドイツの公共放送が当事者を出演させて、犯罪と逃亡生活の一部始終を演じるドキュメンタリーを作成。

これが大ヒット番組に!

あまりの人気でナシェフ氏は、

「メトロマン」

という歌をリリースすると、これもマイナーヒット曲に。

まさに

「時の人」

となったカップルだが、ナシェフ氏はその後、脳腫瘍が見つかり死去。

まるで神様が人間に与えた役目を終えたので、呼び戻されたかのようだった。

”Vowinkel”氏は昔の仕事、バーテンダーに戻った。

持ち前の茶目っ気とユーモアで、定年退職するまで大人気の居酒屋となった。

-ドイツ近代、現代史, 犯罪史

執筆者:

nishi

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