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ギガファクトリー VW 電気自動車競走 覇権の鍵

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ギガファクトリー VW 電気自動車競走 覇権の鍵

ドイツの車メーカーはすべて(とっくに)、電気自動車攻勢にシフトした。

一番遅かったのはダイムラーだったが、新社長の就任で電気自動車への路線変更が加速した。

電気自動車で痛い失敗の経験があるBMWも乗り気ではなかったが、時代の流れを無視することはできなかった。

電気自動車攻勢で先頭を突っ走るのは、フルクスヴァーゲン(以下VWと略)。

ダイムラーやBMWは勿論、トヨタでも追いつくのが不可能なほど、先を言っている。

その差を将来に渡って確保するため、VWはギガファクトリー / Gifafabrik 構想を発表した。

ギガファクトリー VW 電気自動車競走 覇権の鍵

VWの電気自動車攻勢は、ダイムラーやBMWのそれとは大きく異なっている。

何が違うのか、ご損じだろうか。

それはVWは電気自動車に一番大事なバッテリーを、中国に頼らずに自社生産している点だ。

VWは将来の電気自動車の製造台数に対応するため、

「欧州に6つのギガファクトリーを(追加で)建設する。」

と発表した。

ひとつの工場が40ギガワット相当のバッテリーを生産するので、合計なんと240ギガワットになる。

すでに今、稼働している工場を加えると300ギガワットになる。

電気自動車のパイオニアのテスラのギガファクトリーの生産能力は、35ギガワット。

VWの新工場だけでテスラの8倍近いバッテリー製造能力を持つことになる。(*1)

VW 電気自動車販売台数No.1

ギガファクトリー攻勢の裏には、

「世界最大の電気自動車メーカー」

になるというVWの野望がある。

公式目標では、VWは2025年までにテスラを追い越することになっている。

しかしドイツ国内の2021年3月の販売台数では、VWはテスラをすでに凌駕している。

抜粋元 : de.statista.com

VW傘下の車も加えるなら、18万台を超える電気自動車を販売。

テスラはわずか6000台にすぎない。

この調子で行けば、VWが世界で最大の自動車メーカーになるのは、意外と早く来るかもしれない。

EU 電気自動車バッテリー補助金

ギガファクトリー攻勢の理由は、電気自動車の心臓部であるバッテリーが、車の製造コストの40%を占めるという点にある。

ここで利益を生まないと、残りの60%を自動車部品メーカーから調達して組み立てるけでは、利益率が下がってしまう。(*2)

しかるに電気自動車攻勢に出遅れたダイムラーやBMWは、中国や韓国からの供給に頼る方針だ。

利益云々は横に置いても、環境に優しい筈のバッテリーを延々中国や韓国から運んでくると、車が完成する前から大量の二酸化炭素が放出されることになる。

おまけに調達経路 & 時間がかかりすぎる。

そこでEUは、

「電気自動車のバッテリーを生産する、エアバスのような欧州企業の集まり」

を推し進める目的で、電気自動車バッテリーの生産 & 研究開発する企業に、32億ユーロの補助金を出すことにした。

ドイツからはオペル、BMW、世界最大ケミカル企業BASF、充電池を製造するVARTA、スタートアップなどが参加した。

将来的には欧州に巨大な電気自動車のバッテリー工場を建てて、自社生産を行わない自動車メーカーにバッテリーを提供するのが目的だ。

完全に出遅れた日本の車業界

電気自動車の波を完全に寝過ごした日本の車業界。

その原因が何処にあるか、おわかりだろうか?

日本の車業界が電気自動車へのシフトを寝過ごした最大の理由は、環境意識の違いにある。

欧州では環境意識が高く、二酸化炭素の排出を抑えるからさまざまな試み、例えば天然ガス自動車などを10年以上も前から税金で支援してきた。

しかし5年ほど前から、天然ガスや水素ではなく、電気自動車がこの先しばらくは主流になるとわかってきた。(*3)

そこで欧州の車メーカーは、水素エンジンではなく、電気自動車にシフトした。

一方、日本では総じて環境意識が低い。

ドイツでは販売できないデイーゼル車を日本に持ち込んで、

「クリーンデイーゼル」

と宣伝すれば、

「燃費がいい!」

と面白いように売れる。消費者は一人も環境問題を口にしない。環境省、通産省は車の排ガスをチェックしようともしない。

だから日本の車メーカーは電気自動車への転換を怠り、

「ハイブリット」

「クリーンデイーゼル」

で、十分に商売ができると考えた。

日本政府の裏切り

ところが

「火力発電は電力供給の大事な柱。」

と言っていた日本政府が態度をコロリと替え、

「2013年比で二酸化炭素を2030年までに46%削減する。」

と言い出した。(*4)

これを達成するには、

「クリーンデイーゼル」

や、

「ハイブリット」

では足らず、電気自動車への転換が必要になる。

しかし日本政府はドイツ政府 & EUと異なり、環境政策を放棄、電気自動車への転換を傍観してきた。

これでは日本の車メーカーがすべて、電気自動車攻勢を寝過ごしたのも(ある程度)無理がない。

世界に冠たるVW

今、米国ではVWは、

「新しいテスラ」

「第二のテスラ」

と呼ばれ、販売台数が急激に増えている。

今後、バイデン大統領の推し進める環境政策で、電気自動車への需要は間違いなく高まる。

日本勢が400Km以上走れる電気自動車をほとんど提供できない今、

「安価な電気自動車」

を提供できるVWは夢のようなポールポジションにある。

まさに世界に冠たるVWで、今後もこの地位は固まることはあっても、揺るぐことはないだろう。

注釈 – ギガファクトリー VW 電気自動車競走 覇権の鍵

*1

VWは電気自動車に完全に乗り遅れた競合他社、例えばフォードなどを顧客に抱えており、他社への供給も視野に入れての創造能力の大幅アップである。

*2

ドイツ車の利益率は平均して8%ほど。4万ユーロの車を販売しても、儲けは3200ユーロしかない。高級車になれば10%を超えることもあるが、大衆車を製造しているVWには二桁の利益率が困難。

だからバッテリーを自社生産する必要があった。これは価格の安い日本車にも当てはまる筈だ。

*3

日本人が好きなのは水素エンジンだが、これには決定的な欠陥がある。それはエネルギー効率の悪さ。二酸化炭素削減の為、風力発電を利用して、水から「グリーンな水素」を得たとしよう。

その水素は保管・搬送にものすごい手間がかかる。これを水素専用の施設で車に供給して、エンジン内で燃焼して駆動エネルギーを得ると、駆動に使用されるエネルギーの比率はたったの15%

参照 : de.motor1.com

残りの85%は、保管・搬送、エンジンでの燃焼に、多くのエネルギーが浪費される。

一方、電気自動車の場合、風力発電で得たエネルギーの77%を駆動に利用できる。だから水素エンジンは自家用車には適していない。

*4

「原子力発電所は、日本の成長戦略」という呼び声に答え、原子力発電を海外に展開した東芝は大赤字、会社が倒産寸前になるまで屋台骨が傾いた。

もう何度も言っているが政府のスローガンは、「大東亜共栄圏構想」と同じで、呼び声に応じると、馬鹿を見る。

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執筆者:

nishi

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