ドイツ第二の民営銀行コメルツ銀行が、敵対買収のターゲットになっている。
攻める側はイタリアのメガバンク”Uni Credit”(ウニ クレディート)。
総指揮を執るのは頭取の”Orcel”(オセル)氏。
そのオセル氏の手腕が見事。
買収が成功すれば
「敵対買収の殿堂入り」
になるかもしれない。
詳しく紹介します。
この記事の目次
敵対買収
まずは手始めにドイツ経済史に残る敵対買収の
- 失敗例
- 成功例
を紹介します。
失敗例
敵対買収の失敗の
”Paradebeispiel”(見本)
と言えば、ポルシェによるVW敵対買収しかない。
通常、敵対買収は
「大きな企業が小さな企業を買収する。」
と決まっています。
が、ポルシェによるVWは逆の例。
日本で言えば、ダイハツがトヨタの買収を測るほど、車の製造台数で開きがあった。
ドイツ中が固唾をのんで注目したこの敵対買収は、失敗した。
ポルシェによる敵対買収を見た個人投資家が、
「俺も相乗り!」
と、この戦いに足軽として参入。
結果、VWの株価は1000ユーロを突破。
50%+1株を奪取する前にポルシェのお金が尽きてしまった。
その結果、ポルシェは月々の支払いにも困り、VWに逆買収されてしまった。
VW敵対買収を企てた社長はクビ。
失敗した原因
勿論、
「ポルシェが買収に用意した金が足らなかった。」
のが失敗の原因だ。
しかし、まさか株価が1000ユーロを突破するなど、予想不可能。
ましてや買収の時期は、
「リーマンショック」
のど真ん中。
多くの株が紙屑になっている時期に、VW株が1000ユーロを超えるなど想像できるわけがない。
しかしポルシェは敵対買収を
「あからさま」
にやり過ぎた。
こっそりVWの株を
「ある程度」
取得してから、敵対買収を公にしていれば50%+1株の奪取は可能だった。
そう、軍事作戦に欠かせない
「企図の秘匿」
がなかった。
加えて買収作戦を短期決戦にしたのも不味かった。
株価は上昇の一途を辿り、先に資金が底をついた。
もっと時間をかけて株式買い取りを実施すれば、あのような株価高騰は避けられた。
成功例
敵対買収の成功例と言えば、その
”Paradebeispiel”(見本)
は、ボーダフォン(英)によるマネスマン(独)敵対買収しかない。
マネスマンはドイツ最後のコングロマリット(巨大複合企業グループ)だった 。
ボーダフォンが標的にしたのは通信事業。
そのボーダフォンの敵対買収が明らかになると、マネスマンのエッサー社長は
「マネスマンは売り物ではない。」
とテレビの前で回答。
この言葉は
「迷言」
として歴史に残った。
数か月後、社長のエッサー氏(写真中右)は満面の笑みを浮かべて、ボーダフォンの社長と握手していた。
そう買収を認めたのだ。
社長のエッサー氏にはボーダフォンから
「子々孫々まで」
働かなくても快適な生活が送れる巨額の賄賂、もとい、退職金が支払われたからだ。
この為、この握手は、
“goldner Handschalg”(黄金の握手)
とも呼ばれた。
買収成功の理由
マネスマン敵対買収成功の最大の要因は、金。
ありあまるほどの金。
ちなみにマネスマン買収に必要な金は、ドイツ銀行が出資した。
賄賂の支払いを巡って後、裁判になった。
訴えられたドイツ銀行の頭取、それにエッサー氏には無罪判決が下った。
芳醇な金で、相手の将を巨額の退職金で翻意させた手腕は見事だった。
Uni Credit コメルツ銀行 敵対買収大作戦!!
では話を、Uni Creditによるコメルツ銀行敵対買収に持ってこよう。
上述の
「敵対買収の失敗例」
を見事に避けているのが素晴らしい。
実はUni Creditのオセル頭取は数年前から、
「政府保有のコメルツ銀行株を買い取りたい。」
と打診してきた。
しかしドイツ政府はこれを拒否。
しかるにオセル頭取は
「石の上にも三年」
で、チャンスを待ち続けた。
チャンスがやってきたのは2024年夏。
「コメルツ銀行株を売却する。」
と言い出した。
政府はまだ12%の株式を所有していたが、第一回目売却分は4.5%。
売却方法はオークション。
ドイツ政府は
「少しでも高く買ってもらいたい!」
と、銀行筋にオファーを打診した。
その銀行筋にはUni Creditも含まれていた。
もっとも
誰にも理解できないが。
Uni Credit 筆頭株主に!
オセル頭取にしてみれば、
「千載一遇のチャンス!」
がやってきた!
手始めにこっそり市場で4.5%のコメルツ銀行の株式を取得すると、これを他言せず、オークションの開始を待った。
このオークション、米国の投資家の為にドイツ時間の夜に行われた。
オークションが始まる1時間前になって、オセル頭取は
「実はすでに4.5%の株式を取得しています。」
とドイツ政府に通達。
これを聞かされた政務次官は大慌て!
「大目玉を食らう!」
と大急ぎで大臣に通報。
大臣は、
「オークションを止められないか?」
と打診したが、時遅し。
大臣の耳に最新情報が届くころには、オークションはすでに始まっていた。
そしてUni Creditは他社より10%も高いオファーを出し、オークションに出ていた4,5%の株を全部取得した。
これで所有する株式は一気に9%になった。
まるでポルシェのVW敵対買収失敗から
「教訓を得ていた」
ような見事な手腕だった。
Uni Credit 筆頭株主に!
ドイツ政府を見事に出し抜いたオセル頭取は
「時の人」
となった。
あちこちからインタビュー以来が殺到した。
そのインタビューで頭取は、
「政府とコメルツ銀行が賛成する場合に限り、買収もひとつの可能性。」
「賛同が得られない場合、株を売却すれば一儲けできる。」
とまるで、買収はそれほど重要ではないような言い方をした。
ところがである。
数週間後、Uni Creditは
「コメルツ銀行の株式をさらに11.5%購入するオプションを確保した。」
と発表。
こうしてUni Creditはドイツ政府を抜いて筆頭株主になった。
さらなる買収オファー
ところがである。
ドイツで信号政権が崩壊すると、
「新政権が誕生するまで、コメルツ銀行買収は一端凍結する。」
とオセル頭取。
その後、Uni Creditはイタリア国内のライバル銀行に買収オファーを正式に出した。
「一体、どういう事?」
と皆が思った。
イタリア政府も、
「Uni Creditはドイツで拡張すると言っていた。」
と内輪の話を思わずリークしたほど、誰にもこの一歩は理解できなかった。
またしても注目の的になったオセル頭取は、
「まずはBPMを買収して、2027年にはコメルツ銀行」
と声明。
この声明で
「買収のご祝儀」
で高騰していたコメルツ銀行株は暴落。
サンタのプレゼント
「まとまった収入を期待して、タイで大金を使った後!」
の私は、
この知らせに大きく落胆。
ところが2024年はサンタが早めにやって来た。
12月中旬Uni Creditは
「コメルツ銀行株の保有率を28%まで拡大した。」
と発表した。
「新政権が誕生するまで敵対買収は、凍結する。」
と言っていた本人が
「しゃあしゃあ」
と言うのだから大したもの。
この発表でコメルツ銀行株価はまた、上昇に転じた。
そう、オセル頭取は
- 買収する気のない銀行に買収オファーを出し
- コメルツ銀行株価を下げると
- 安くなった株価でさらなる株価の購入オプションを獲得!
していたのだ。
なんという狡猾なイタリア人!
マキャベリも感心したに違いない。
オセル頭取を知る人は、
「ブルドック(一度くらいついたら放さない。)のよう。」
と頭取の性格を描写したが、まさにその通り!
来るか敵対買収オファー?
Uni Creditは今、ECB(欧州中央銀行)に、コメルツ銀行株を
「29.9%」
まで取得する申請を提出済。
その回答は、ドイツの総選挙の2月23日前後になると見込まれている。
もっともECBが申請を拒否する理由もなく、認可は時間の問題。
そうなるとコメルツ銀行は
「俎板の鯉」
で、もう防衛手段がない。
その後、オセル氏がコメルツ銀行に圧力をかけるのは必至。
それともマネスマン買収時のように、金で頭取を味方につける?
というのも頭取は敵対買収を最後まで拒否してもいいが、その場合は
「ご祝儀付きの退職金」
なくしてクビ。
あなたならどっちを取ります?
仏様でも売る!
もし買収オファーが来るなら、
「20ユーロ前後」
が妥当な額と言われている。
買収オファーが来れば、その金でまた休暇旅行に行ける。
見てください、このコメルツ銀行株の推移を!
リーマンショック以来、株主がどれほど苦しんだか一目瞭然。
おまけにその後、10年間配当金なし。
仏様でも売るよ!
明日はどっちだ!?