今回のテーマは Commerzbank 。
ドイツで第二の顧客数を誇る私銀行だ。
別名、永遠の買収候補。
もう10年以上も買収がささやかれてきた。
「いや、30年だ!」
と言う人もいる。
今回、遂にお相手が現れたので詳しく紹介したい。
この記事の目次
Commerzbank 永遠の買収候補
話は2008年まで遡ります。
当時の買収候補はドイツで第三の
“Dresner Bank”(ドレスナー銀行)
だった。
かつてドレスナー銀行に見習いとして入社、その後、Commerzbankの頭取になったブレッシング氏は、
「今、買収するのはやめるべき。」
という反対には耳を傾けず、買収を押し切った。
これが
「世紀の誤り」
だった。
実はドレスナー銀行はリーマンブラザース発行の紙屑債権(別名 猛毒債権)を
「山」
のように保有していのた。
その債権の発行元リーマンブラザースが倒産すると、Commerzbankの株式は、20ユーロから80セントに落下した。
このままでは倒産は必至。
当時、
「メルケル政権は税金で銀行を救うぞ!」
と予測、紙屑寸前のCommerzbankの株式を購入した。
これが大きな間違いだった。
(一部)国有化
案の定、メルケル政権は銀行取次騒ぎに発展する事を懸念。
ドイツ政府は182億ユーロ(ほぼ3兆円)でCommerzbankの株式の25.1%を取得した。
加えて経営に必要なクレジットも与えた。
政府は
「サプライム危機が一段落したら、株価は上昇する。」
と思っていたのかもしれない。
しかしCommerzbankの株価は一向に回復しなった。
というのも銀行は
「運営資金が足らない!」
と増資に次ぐ増資。
もっとも株価が80セントだと増資できないので、
「20株で一株にする。」
とやって人為的に株価を上げて増資した。
それも一度や二度ではない。
この為、2008年まで遡る株価チャートを見ると、
「おぞましい株価チャート」
を見ることができる。
ちなみにCommerzbankの過去最安値は、コロナ禍の3ユーロだ。
新頭取の就任
ブレッシング頭取の跡を継いだチールケ頭取も、銀行の収益を改善する策を見いだせなかった。
結局、チールケ頭取は2020年に退いた。
もう後がないCommerzbankは
「社外頭取」
を招いて容赦ない粛清、もとい経営の立て直しを託すことにした。
白羽の矢が立てられたのは、Dr.Manfred Knof氏。
氏はドイツ、フランス、アメリカの大学で法律を学んだ学者で、保険会社のアリアンツで取締役員になっていた。
その後、ドイツ銀行に鞍替え。
個人客部門の責任者になった。
そのクノフ氏を後任に選んだのは、チールケ頭取の意向だったという。
もっともCommerzbank内の雰囲気は最低で、
「保険屋に何ができる。」
という冷ややかなものだった。
2021年にクノフ氏が頭取に就任すると、新社長の常套手段、大幅な人員削減を実行。
経費を下げてある程度、収益を改善させた。
Commerzbank 復活の兆し
しかし銀行の収益を根本的に改善させたのは、2022年から始まった金利の上昇だった。
マイナス金利ではお金を貸すリスクが、お金を貸した金利を上回り業績が改善しなかった。
が、金利の上昇で風向きが一気に変わった。
Commerzbankは金利の上昇により業績が大幅に改善した。
これに人員削減によるコスト管理が効いて、黒字は飛躍的に上昇した。
こうしてCommerzbankは、誰も期待していなかった
“Tourn around”
を達成した。
次期頭取を巡る内輪揉め
2024年になると、Commerzbank内では次期頭取を巡る
「椅子取り合戦」
が本格化した。
現頭取であるクノフ氏は
”Sanierer”(立て直した功労者)
として名前を成したが、任期を延長して
「利上げで得をしただけでない。」
事を証明したい。
副頭取の野望
しかし!
Commerzbank内には虎視眈々と頭取の席を狙っている副頭取で Chief Financial OfficerのBettina Orlopp女史がいる。
そのOrlopp女史はそもそもチールケ頭取の
「後釜」
を狙っていた。
しかし部外者のクノフ氏にその野望を妨げられた。
「もし今回、頭取になれないなら会社を辞める。」
というのが大筋の味方。
しかしクノフ頭取はCommerzbankを立て直した功労者。
氏が
「任期を延長したい。」
と言ってるのに、Orlopp女史を頭取に据えるもの仁義がない。
しかし有能なOrlopp女史を失うのも悩ましい。
正確な理由は不明だが、あれほど
「任期を継続したい。」
と言っていたクノフ頭取が9月頭に
「現在の任期をまっとうする。」
すなわち、
「契約延長は望まない。」
と言い出した。
一体、何があったのだろう。
その後、Commerzbankが、
「クノフ頭取の決定は誠に残念だが、本人の意思を尊重して、次期頭取探しに入ります。」
と声明を出した。
実に白々しい。
次期頭取はOrlopp女史に決まっている。
それとも?
ドイツ政府 持ち株の売却を発表
ここから目まぐるしい展開になる。
まず金欠のドイツ政府が、
「保有しているCommerzbank株を売却する。」
と言い出した。
何度もの増資で政府の持ち株比率は16.5%。
これを一気に放出すると、株価は大暴落する。
そこで最初は4.5%のみ。
ここで未だに
「ドイツ銀行とコメルツ銀行合併」
を夢見る親御さん(ドイツ政府)は、ドイツ銀行に
「買わないか?」
と相談した。
しかしドイツ銀行頭取のゼービング氏の回答は
“Nein, danke”
だった。
そこでドイツ政府は4.5%の株をオークションで売却することにした。
Commerzbank 永遠の買収候補 遂にお相手が現れる!
ドイツ政府が出した最低価格は12.4ユーロ。
高いオファーを出し順に買い手が決まる。
結果、4.5%のCommerzbank株をすべて手中にした。
同時に、
「いざ、鎌倉!」
と市場でCommerzbank株を買い漁り、合計9%の株式を取得。
まだ12%を保有しているドイツ政府に続く、第二の株主となった。
このニュースに株式市場は熱狂、
「永遠の買収候補に遂にお相手が見つかった!」
と、Commerzbank株は一時、20%も上昇した。
しかし引けの時点はすでに
「利益確定の売り」
が入り上昇幅は16.5%にとどまった。
もっとも翌日以降もCommerzbank株は、ラリーを続けている。
どこまで上昇するか、
「神のみぞ知る。」
だ。
何故、今?
UniCreditによるCommerzbank株式取得で一躍、
「時の人」
となったUniCreditの頭取。
氏の元には記者会見の問い合わせが殺到した。
その会見の一つで、Orcel頭取は誰もが知りたい事
「Commerzbankを買収するおつもりですか?」
との質問に、
「そのつもりだ。」
とはっきと肯定した。
これで買収の企図ははっきりした。
わからないのは、何故、今?
まだ2年前ならほぼ半額で買えた。
何故、よりによって今、買収を始めたのか?
これに頭取のOrcel氏は、
「Commerzbankの収益改善能力を確認できたから。」
と説明。
私のように、
「安いから!」
と買うのとは大違い!
加えて頭取は
「今日までなかなか買収の火ぶたを切る機会がなかった。」
と告白。
その待ちに待った機会が、ドイツ政府の持ち株売却発表で巡ってきたわけだ。
Commerzbank 買収は成功するか?
ここで私を含めた株主が一番知りたいのが、
「Commerzbank買収は成功するのか?」
だ。
かって私が保有していたドイツ一の建設会社 Hochtief が、スペインの同業者に買収されたことがある。
Hochtiefは抵抗したが、金の力には勝てなかった。
もし買収する側が
「買収プレミア」
を加算した買収価格をオファーすると、これに抵抗できる株主は居ない。
ただし!
Commerzbankはドイツ政府がまだ株式の12%を保有しているので、少し事情が異なる。
法律上の取り決めにより、ドイツ政府が次の株式売却をスタートできるのは、12月初旬になる。
もしドイツ政府が1月、2月になっても株式売却をしなければ、政府はCommerzbankの買収を止める気でいると理解できる。
逆に次回の株式売却オークションで
「第二の買い手」
が現れると、
“Bieterschlacht!”(買い取り競争!)
になり株価は高騰する。
ここしばらく(半年~1年)は毎日、目が離せない!
来るか買収オファー?
私がリーマンショックで
「安い!」
と購入したCommerzbank株、一時は
「損益95%」
まで行きました。
国の支援を必要とする会社の株は信じられないくらい、下落します。
しかし!
「倒産しない会社は、いつかは再生する。」
と増資や株価低迷の度に買い足し。
今の買値は5.85ユーロ。
今回の買収期待で含み益が大幅増。
株価が17.55ユーロを突破したら、購入額300%プラスです。
もしUniCreditの買収オファーが来れば、18~19ユーロが妥当。
来るか買収オファー?
アップデート
日々、Commerzbank買収に関して新しい報道があります。
そこでここでは
「コースを左右するニュース」
を報道された順番に紹介していきます。
UniCredit Commerzbank株 買取申請を準備!
ドイツでは9.9%以上の株式を取得する前に金融監督庁に
「株式買収の許可申請」
を上げる義務があります。
この規制により(例えば)中国企業などが、ドイツの基幹産業を知らない間に買収するのを防げます。
すでにUniCreditは
「株式の買収申請を上げた。」
と声明。
さらに!
企業の買収を念頭にした30%を超える株式の買い取りには、ECB(欧州中央銀行)の審査が必要になります。
UniCreditによると、
「この申請は準備中」
だそうです。
申請書類が届くと、
「60日以内に回答する。」
というのが決まり。
すなわち!
11月末までには、ECBがCommerzbank株式の買い取りを許可したかどうか、わかります。
ただし!
EU内の企業が、EUの企業を買収するのをECBが反対する理由が見つからない。
単なる手続き上の問題かと思われます。
さらに!
UniCreditがCommerzbankの株式の30%以上を取得した場合、
「買収オファーを出す義務」
があります。
ドイツ政府 株式の売却ストップを拒否!
UniCreditによる買収攻勢は、Commerzbankの取り締まり役員には歓迎されていません。
表面上は。
すでにCommerzbankは、敵対買収を防ぐ専門家の派遣をゴールドマンサックスに依頼。
加えて次期頭取のOrlopp女史が、
「これ以上の株式の売却はやめて!」
とドイツ政府に懇願。
ドイツ政府(正確には財務省)の回答は、
「Commerzbank株の売却は、予定通り進める。」
「一番高額なオファーを出した者に売る。」
というもので冷酷無比。
これでまた一段と面白くなってきた。
ドイツ政府にはCommerzbank買収を防ぐ気は毛頭ない。
投資家も同じように見たのだろう。
Commerzbank株はさらに3%上昇して、チャート上重要な
「トリプルトップ」
となっていた抵抗線を突破。
株価は2012年以来の最高値を付けた。
買収オファー提示を拒否!
渦中の人、UniCreditのOrcel頭取はCommerzbank買収オファー提示を拒否。
氏は、
「そんなアグレッシブな戦略は取らない。」
と説明。
さらに!
「両銀行の合併に了解が得られなければ、株を売る。」
とも声明。
お陰でドイツ株式インデックスが過去最高値を記録した
「買い市場」
でCommerzbank株は下落。
現状ではこれ以上の上昇は無理。
もう売却して利益確保?
それとも
「第二の買い手」
の出現に期待して次回のオークションまで待つ?
ドイツ政府 持ち株の売却を中止!
9月20日夜、ドイツ政府は予定していたCommerzbank株の売却を中止すると発表した。
いわずもがな、UniCreditによる買収を防ぐためだ。
しかし今回の決定は、これまでの政府の声明とは180度正反対。
さらに!
今になってCommerzbank株の売却を中止するということは、
「買収を予期していなかった。」
という政府のナイーブさを証明する。
そもそもUniCreditはこれまで度々、ドイツ政府に持ち株の売却を打診してきた。
なのに、
「株をオークションにかけたら、UniCreditが買うかも?」
とさえ思っていなかったウブさ。
しかし!
これでは月曜日、Commerzbank株は暴落するぞ!
昨日、株を売っておくべきだった?
UniCredit Commerzbank株大幅買い増し!
ドイツ政府の
「持ち株はこれ以上、売却しない!」
を受けてCommerzbank株は当初、下落。
「超~ブル~。」
と思っていると、3時間後、
「Commerzbank株をさらに11.5%購入するオプションを確保した。」
とUniCreditが本社のミラノで発表。
オプションが実行されれば、ドイツ政府の12%を抜いて筆頭株主になる。
さらに!
ECB(欧州中央銀行)に
「29.9%まで持ち株を増やしたい。」
と申請。
上でも触れましたが、取得株率が30%を超えると、
「買収オファー提示義務」
があります。
やはり
「ブルドック」
という異名のあるOrcel頭取、噛みついたらそう簡単には放さない!
もっともアナリスト曰く
「ECBがUniCreditによる株式の買い増しを許可する可能性は低い。」
との事。
なんで?
私には反対理由が見当たらない。
加えてショルツ首相が
「UniCreditによる汚い奇襲攻撃は許されない!」
と声明。
株価は金曜日から6%もマイナス。
(´;ω;`)
Commerzbank 新頭取任命
9月25日、Commerzbankは
「Orlopp女史を新頭取に任命する。」
と発表した。
ここまでは予想通り。
予想外だったのは、
「10月1日より新頭取に就任する。」
と発表した事。
クノフ頭取は来年末までの任期があるのに、9月末で退職に追い込まれる。
もっとも頭取のお給料は契約通り、2025年12月まで払われるが。
この扱いを見る限り、クノフ頭取は取締役会の信任を失っていたかのように見える。
業績目標 & 配当金を上方修正
Commerzbankの舵を取ったOrlopp女史、間髪入れず翌日、業績目標 & 配当金を上方修正した。
なんと2027年以降、
「少なくとも利益の90%を配当金として株主に換金する。」
と言う。
加えて
「自己資産マージン率目標」
を12%に上方修正。
(これまでは11.5%)
あきからに銀行の魅力を数え上げ、株主に株の売却を考え直してもらう魂胆だ。
ちなみにこの数値はあくまでも
「目標」
ですので、当てにされませんように。
ドイツ政府 Commerzbank買収に反対せず
しかし一番のニュースは、9月26日に出たドイツ政府からの
「UniCreditによるCommerzbank買収に反対しない。」
という声明だった。
上で紹介したショルツ首相の声明とは(また)180度異なる。
裏にはイタリアのメローニ首相の
「ドイツ政府は銀行業界の統合を推奨していたのに、ドイツの銀行が該当すると反対する!」
という正当な非難が功を奏したのかもしれない。
これに市場は熱狂、
「UniCreditによる買収額は20ユーロ近辺になる。」
と推測。
株価上昇にまた火が付いた。