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コロナ集団感染 が食肉加工工場で発生するのは何故?

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コロナ集団感染 が食肉加工工場で発生するのは何故?

ノルトライン ヴェストファーレン州(以下、NRW 州と略)の食肉加工工場で、 コロナ集団感染 がまたしても発生した。

ドイツ全土で数えれば、食肉加工工場でのコロナ集団感染はもう数十回にも上る。ただ今回の集団感染は、これまでの感染と違っていた。

今回集団感染が起こったのは、ドイツで最大の食肉加工業者 Tönnis だった。ギュータースロー市にある加工工場で働く労働者の数は7000人を超え、感染者の数は最終的に2119名に昇った。

参照サイト : rp-online.de

このホストクラブ並みの集団感染はどうして発生したのだろう。

諸悪の根源 Werksverträge

諸悪の根源は Werksverträge にある。

かってはどの町にも屠殺場 / Schlafthof があり、ここで家畜を解体して肉屋に肉を届けていた。そして肉屋では職人が肉を切り分けて、消費者に販売していた。ところが今時、肉屋に行く人がどれだけいるだろう。

スーパーに行けば、すでに切り分けた肉がパックされて並んでいる。おまけに肉屋に行くよりも格段に安い。こうしてスーパーで肉を買うことが一般的になったが、これを可能にしていたのは、Tönnis を筆頭にした食肉加工業者の存在だった。

ドイツ語ではこうした食肉加工業者を Schlachthof、すなわち屠殺場と言うが、かっての屠殺場とはその規模も仕事も異なる。今の Schlachthof、すなわち食肉加工工場では家畜を殺して解体、スーパーの注文に応じてパックまでして届けてくれる。

これにより食肉加工工場は、かっての屠殺場ではできなかったサービス、肉を切り分けて個別に包装、を提供することで、新しい販路を開拓、ますます巨大化していった。ところが食肉加工工場が増えるにしたがって、値段競争が始まった。

大手のスーパーに納品するには1セントでも安く肉を売る必要があるが、ドイツ人の職人を雇うと、お給料が5000ユーロもかかる。しかし東ヨーロッパ、とくにルーマニアとブルガリアから家畜解体の職人を使えば、2000ユーロ(税込み)で済む!

こうしてドイツ人職人は次々にクビになり、東ヨーロッパの労働者がその仕事を継いだ。ところがドイツでは最低賃金が導入されてしまう!この最低賃金は、日本食レストランのアルバイトでも採用され、東ユーロッパの労働者でも例外ではない。

これでは2000ユーロではなく、2500ユーロかかる。コストが1/4も上昇する。そこで考え出されたのが Werkverträge だった。

Werksverträge とは?

Werksverträge とは、労働者の正当な賃金をピンハネするために考え出された制度です。

違います。冗談です。でも、現状はその通りです。

Werksverträge とはそもそも建築現場などで、大手の建築業者がタイル & 屋根の瓦張り & 電気工事のために、専門職人を雇って、仕事をしてもらうための契約です。

だって大手の建設業者とは言え、毎日、タイル張り、瓦張を毎日、するわけではありません。ですからそのような仕事の職人を社員として雇うのではなく、外部の職人に仕事を委託するんです。日本語に直すと仕事契約かな?

最低賃金の導入後、食肉加工業者は言う間でもなく、車業界、輸送業などは、この仕事契約を効果的に利用する方法を見出しました。

Werksverträge で賃金を合法的にピンハネする

というのも Werksverträge を利用すれば賃金を合法的にピンハネできるんです。

例えば運送業ではこうです。

「〇〇地区の宅配を1か月2000ユーロで。」

という契約をします。宅配には1日10時間必要で、1か月で240時間かかります。時給に直せば8.33ユーロ/時間ですから、明らかに最低賃金を割ります。

ところがこれはWerksverträge / 仕事契約なので違法ではなく、合法なピンハネです。

条件は仕事を受ける側が会社、あるいは個人事業主である事。こうして車メーカーも、

「まずは個人事業主の登録を済ませなさい。」

と労働者に要求。するとこの労働者と仕事契約を結びます。その数は数百にも上ります。これを芸術の域にまで高めたのが、食肉加工業界でした。ルーマニアとブルガリアの家畜解体職人を現地で、個人事業主として登録させて上でドイツの食肉加工工場でコキ使うんです。

1日10時間近く働かされて、手取りは1600ユーロほど(税込み2000ユーロ)。労働時間でも、最低賃金でも完全な違法な労働環境です。しかし政治はこれを見て、見ぬふり。左翼政党、緑の党、SPD は労働環境の改善を提唱しますが、CDU / CSU が反対して、法案は葬られてしまいました。

CDU / CSU に言わせれば、

「Werksverträge はドイツ経済の基本」

だそうです。

参照サイト : cducsu.de

言い換えれば、

「搾取がドイツ経済の基本」

と言ってるわけです。正直ですね~。

コロナ集団感染 が食肉加工工場で発生するのは何故?

では、何故、コロナ集団感染が食肉加工工場でちょくちょく発生するのだろう?

それは労働者の劣悪な居住環境にある。米国でも居住環境の悪い黒人層での死亡率が高かったように、ルーマニアとブルガリアの家畜解体職人はひとつの部屋に4~5人が押し込まれて生活する。

誰かが感染すれば、部屋の同居人に移すのは時間の問題。一緒に昼食を取るので、別の部屋に住んでいる同僚に感染していった。このためドイツ全土では食肉加工工場でのコロナ集団感染が止まらない。

そしてドイツ最大の食肉加工業者のテニス / Tönnis でドイツ最大のコロナ集団感染が起きたのも、必然の論理だった。

カットされた豚

コロナ集団感染 ドイツ一の悪者の称号を獲得!

日本と異なり、ドイツでは20~30人ほどのコロナ集団感染が起きても、報道されることは少ない。

コロナと共存する時代に、集団感染が起きることは避けられないというコンセンサス(一致した社会の理解)があるからだ。一方、日本ではすでに30人ほどの(ただの)感染で大騒ぎ、東京都知事は東京アラートを出した。

しかしテニス / Tönnis でドイツ最大の集団感染が起きると、事情が違った。工場のあるギュータスロー市はもとより、労働者の宿舎があるヴァーレンドルフ市まで、シャットダウンされた。そして両市ではPCRテストのローラー作戦が実施された。

ちょうど夏休みの直前であったため、このロックダウンの余波は大きかった。まずオーストリア政府が、NRW州からの観光客の入国を禁止した。そしてドイツ国内の地方自治体も、ギュータスロー市、ヴァーレンドルフ市からの観光客を拒否した。

そして二週間の外出禁止を言い渡された住民は怒った。怒りの矛先はテニス / Tönnis に向けられた。ロックダウン、数十万のPCR テストの費用を、自治体ではなくテニスが払うべきだと主張した。しかしテニスの経営陣は住民の感情を無視、ギュータスロー市に対して、営業停止による損害賠償請求を要求した。

これにより社長のテニス氏は、ドイツ一の悪者 “Buhman der Nation”の称号を獲得した。

食肉加工業界の Werksverträge 禁止法案

これだけ大きな集団感染が起きると、ドイツ国内はおろか、日本でも報道されるほど有名になった。

するとルーマニア政府が、

「ドイツ政府はルーマニアの労働者の健康を守るべきだ。」

と会見で発言、国際問題に。さらにはEUがドイツの違法は労働環境の調査を始めた。

ここにいたり CDU /CSU もやっと

「Werksverträge はドイツ経済の基本」

という姿勢を修正する事を迫られた。今、政府は食肉加工業界の Werksverträge  禁止法案を(夏休みが終われば)国会に提出する予定だ。

参照サイト : tagesschau.de

違法な状態を長らく放置していた政府の当然の報いだろう。

しかしドイツではこうした違法な状態がメデイアで報道され、国民の意識に昇る。これが原動力となり、政治には法を変える圧力が高まる。これは素晴らしい社会のシステムだ。

日本ではお笑い番組しか放映されないので、国民は日本の恥部に気が付かない。国民は社会の不公平の是正よりも、どんな笑いを提供してくれるかにしか感心がない。これでは社会の恥部が一向に改善しないのも無理はない。

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執筆者:

nishi

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