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就業不能保険 – お金の無駄って本当?

投稿日:2020年7月17日 更新日:

就業不能保険 - お金の無駄って本当?

自営業を始めたら 就業不能保険 に加入しなくっちゃ!

と思ってました。稼いだお金を無駄にしないように、まるで(ドイツの)大学の期末レポートのごとく、就業不能保険についてしっかり調べました。

ドイツ語ができると、こういう時助かるわ~。

同じ自営業者の仲間に意見を聞き、保険会社にも幾つか見積もりを取った結果は、当初の期待していたものとは正反対でした。

就業不能保険とは?

まずはベーシックな基礎知識から。就業不能保険とは?

会社員と違って自営業者の場合、病気や事故で働けない場合は、その日から収入ゼロです。あっ!という間に人生のピンチに陥ります。

就業不能保険とはそんな事態に備えて加入する保険です。こちらの保険に加入していると、比較的軽度の事故、病気で数週間だけ働けない場合の保障から、大怪我、大病をして一生働けない場合の保障をしてくれます。

厳密に言うと、数週間程度の保障は、休業補償の分野になります。通常は健康保険が「追加保険」として、そのような保障を提供しています。今回取り上げるのは、大怪我、大病をして一生働けない場合の保障をしてくれる保険です。

日本では国民年金にこのような保険が含まれており、障害度により、障害年金が支払われます。が、これで生活できるような額を国が払うと思ったら、大間違い。

運が良ければ家賃はカバーできるかもしれませんが、かさむ医療費、それに生活費をカバーできるものではありません。

ドイツでもかっては国民年金に、日本のような障害年金が含まれていましたが、年金改革でなくなりました。すなわちドイツで障害で働けなくなった場合、悪名高い失業保険Ⅱ、ハーツ4 での生活を強いられます。

それはたまらんので、自営業を始めるにあたり就業不能保険に加入しようと思ったわけです。

ドイツの就業不能保険

ドイツ語で就業不能保険は、”Berufsunfähigkeitsversicherung”、略して BU-Versicherung と言います。

もっともこれは会社で働いている人も一緒にひっくるめた概念なので、自営業者の場合は、”selbständige Berufsunfähigkeitsversicherung”、略して SBU と言います。ここでは SBU を中心に話を勧めますが、基本、同じような内容です。

あちこちに見積もりを取って最初にわかったのは、ドイツの就業不能保険には二種類ある点です。

  • 掛金掛け捨て型 就業不能保険
  • 掛金積立型 就業不能保険

どっちがお得だと思いますか?

掛金積立型に決まってる!

と思われる方が、ほとんどではないでしょうか。

骨折した腕

掛金積立型 就業不能保険のトリック

「掛け金を捨てるだけよりも、それが積み立てできればお得!」

と消費者が考えるのは、保険会社はすっかりお見通しです。ニーズに合わせてどの保険会社も、掛金積み立て型の就業不能保険を提供しています。

いい事ずくめじゃん!

って思われた方、騙されやすいですよ~。

(ドイツの)保険会社のセールスマンは驚くほど正直で、

「掛金積み立て型は、掛け捨て型の保険に、積み立ての保険料を上乗せしただけ。」

との事。

意味がわからんす。

具体例を出しましょう。掛け捨て型の就業不能保険料が1万円/月だとしましょう。すると積み立て型の就業不能保険料は1万5千円/月。差額の5000円が積み立てに回るわけです。

同じ保険料で、同じ障害年金が保障されて、さらに積み立てされるならお得です。でもそんな保険を売った日には、保険会社は赤字です。保険会社も保険料でお金を儲けるのが仕事ですから、そんな赤字商売はしません。

実際には掛け捨ての保険に、積み立て分を余計に払うだけなんです。だから上述のセールスマンも、

「結局、積み立てる分を多く払うだけなので、これを節約して自分の口座に置いておけば、いつでも自由に使える。」

との事。納得~。

保険会社は掛金積み立て型を

「掛け捨てではありません!」

と、宣伝していますが、これは消費者の心理、

「積み立て型の方がお得!」

を見事に利用しただけ。お得なのは保険会社だけ~。

保障内容を各社で比較!

ではドイツの就業不能保険を見ていきましょう。勿論、掛け金掛け捨て型です。

今回参考にしたサイトは、オンライン保険代理店の最大手、Check24 です。

参照 : check24.de

こちらのサイトで就業不能保険料を打ち出すために入力したデータは、

  • 会社員あるいは自営業
  • 30歳
  • 旅行代理店勤務
  • 大卒
  • 保証額 1500ユーロ/月(*1)
  • 保証期間 67歳まで(*2)

*1
なんとか1500ユーロ/月もらえれば、なんとか生活できると思います。多いにこしたことはないですが、保証金額を上げれば掛け捨ての保険料も増えるので、この金額に。

*2
日本と違いドイツでは67歳から年金を貰えます。ですから就業不能保険の保証期間も、67歳までとしました。90歳までにしてもいいですが、保険料が高くなるのでこの辺でいいかと思います。

 Signal Iduna

上述のデータを打ち込むと、以下のよう結果が表示されます。

就業不能保険 各社比較

一番上に出るのは、広告主です。

広告主様が一番上に出ているのは当然ですが、さらに比較結果でもトップが Signal Idona という保険会社。

毎月、55.88ユーロ払えれば、就労不能になった際、1500ユーロの保険金を払ってくれるというわけです。1年で払う掛け金はざっと670ユーロ。ほぼ9万円。

日本なら一番上に表示されている会社を選んでも大丈夫かもしれません。ドイツでは基本、広告主や一番上に出ている会社は避けるべきです。

この Signal Iduna 被保険者が怪我をして保険を請求すると、その要求を蹴る事で有名なひどい会社です。

車の保険比較、電気代比較でもそうですが、一番安い会社、広告主は避けてください。これがドイツでトラブルに遭わないコツ。

働けない場合の保障

次席は保険業界の大御所 ゴーター / Gothar、それに新顔のカナダ ライフ canada life、それからまたsignal Iduna になっていますね。die Bayerische は、弁護士保険などでもお馴染みの保険会社です。

ここで、”Leistung bei Arbeitsunfähigkeit”(働けない場合の保障)という追加保障が出てきています。

冒頭で説明した通り、通常は病気や事故で数週間働けない場合の保障は、健康保険に追加保険を追加する形で行います(*3)。

でも、

「公的保険だけに、おいしい商売を任せてはおかない!」

と、民間の保険会社もこの市場に参加しています。

ただし、こちらで加入できるのは半年(6か月)以上、働けない場合に保障されるタイプの保障です。6ヶ月以上働たらけない場合は、毎月1500ユーロ支払われます。

えっ、一か月目から?

いえ、違います。5か月目からです。カナダ ライフではその後、最長24ヶ月、保険金が出るそうです。

テストでトップになっている Signal Iduna では、6ヶ月目から、保険金が最長24ヶ月出ます。

ゴーターでは6ヶ月目から、保険金が最長18ヶ月出ます。

こういう細かな点が微妙に違います。

ちなみに他の保険会社でもこの6ヶ月目からの就労不能保険は追加で加入できますが、追加の保険料が必要です。あらかじめ保証が入っているほうが、お得?

でも6ヶ月も働けないなんて、かなりの重症ですよ。滅多に起きない筈。この保障を何処まで重視すべきか、個々の判断に拠ります。

何処がお勧め?

日本人は、

「お勧め」

という言葉に弱いです。

「〇〇 お勧め」

と検索している方が、と~っても多い。個人的には、

「お勧め」

という言葉、かなりうんくさいと感じます。

何故ですか?

保険勧誘員、それに銀行員が勧めてくる

「お勧め」

とは、勧誘員、銀行員へのコミッションが一番多い商品です。内容がいいからではなく、自分が一番儲かるからです。

すなわちお勧め商品とは、売る側に一番都合がいい商品という事です。そもそもお勧めという言葉自体、主観的なもの。誰も客に一番いいのがお勧めなんて、一言も言っていません。

こんな言葉に価値を置かない方がいいです。

客観的にみて、

  • カナダライフ BU-Schutz NR / 保険料 62,06ユーロ
  • Signal Iduna WorkLife EXKLUSIV-PLUS DU AU / 保険料 62,02ユーロ
  • Gother BU17 Premium / 保険料 62,10ユーロ

で選ぶのが妥当かと思われます。

就業不能保険 – コアな話

ここまでは表向きの話です。これからがコアな話。

この就業不能保険、ドイツではあまり評判がよろしくありません。例えばですよ。事故で大怪我、後遺症が残って利き腕が使えず、旅行代理店ではもう働けないとしましょう。

「保険に入ってて、良かった~。」

と保険会社に就業不能保険金の支払いを請求します。すると、

「この書類を出せ。あの書類も要る。」

と後から、半年も待たされます。挙句に、

「保険は支払われません。」

なって通知が届くんです。

何故ですか?

考えてください。1500ユーロの保障を払うと、1年で1万8000ユーロ。大体、200万円。被保険者が40代なら、20年払うので4000万円。保険会社はそんな大金は払いたくないです。

保険組合によると、年間、1万2000件の就労不能保険の請求が、拒否されています。

参照 : welt.de

でもそれが契約では?

表向きはそうです。でも話が4000万円になると、保険会社は本当の顔を出してきます。

就労不能保険 弁護士事務所の金のなる木

一度、

「就業不能保険、保険会社が保険を払わない」

“Berufsunfähigkeitsversicherung Versicherung zahlt nicht”

でぐぐってください。気が遠くなると、ヒットします。多くは弁護士事務所のサイトです。

就業不能保険の争いは、日本で言えば、過払い金の払い戻し請求書ようなもの。保険金を払ってもらえない人が毎年1万2000人、しかも争う額が4000万円となれば、弁護士事務所には金のなる木です。

ですからどこの弁護士事務所も、就業不能保険の弁護を提供しています。逆に言えば、それほどまでに払ってもらえないのが、この就業不能保険なんです。

保険料の支払いを拒否する理由 ①

保険会社が就業不能保険金の支払いを拒否する理由で、最も多いのは、

「被保険者は加入時に真実を言わなかった。」

というものです。例えば子供の頃の怪我で、左肩に障害が残っていたとしましょう。でもスポーツ選手になるわけじゃない上、利き腕ではないので

「関係なかろう。」

と申請を忘れます。すると事故が起きた際、

「申告しなかった左肩の不具合のせいで、事故が起きた。保険の加入時に真実を述べなかったので、就業不能保険は無効である。」

という案配です。ですから過去に骨折したことがあったり、極度の近眼だったりすると、過去の病気や事故をちゃんと申告、これを書面で残しておくべきです。書面がなければ、

「言った。」

「言わない。」

の争いなるのは、火を見るよりも明きからです。

保険料の支払いを拒否する理由 ②

保険会社が就業不能保険金の支払いを拒否する理由で、次に多いのは、

「他の職場でまだ働ける。」

というものです。例えば職人で屋根に瓦をひく仕事をしていたとしましょう。腰痛で前かがみの仕事ができなくなります。そこで保険金を請求すると、

「まだ椅子に座って仕事ができるじゃないか!」

というんです。

そこで就業不能保険に(どうしても加入するなら)加入する時点で自分の職業を書き込み、

「この職業を遂行できない場合は、保険金がおりる。」

あるいは、

「他の職業を勧めない。」

と保険条項にしっかり書かれている就業不能保険を選びましょう。

就業不能保険 – お金の無駄って本当?

このようにドイツの就業不能保険、いざ!という時にトラブルになる可能性が高いです。

そんなトラブルに備えて弁護士保険が必要です。でも弁護士保険は、安い物でも毎年200ユーロ+。

これを考えると就業不能保険の保険料は、2割増し。結局、就業不能保険はお金の無駄という判断をしました。とりわけ自営業になったばかりで、収入がほとんどないときは。

収入が増えれば、就業不能保険の保険料は必要な出費として税金控除の対象になりますので、意味があると思います。

注釈 *3

ドイツで会社員をして公的保険に加入されている方は、43日以上病気で仕事ができない場合、 / Krankengeld が支給されます。

なんで43日目から?

それは会社が社員の病気の際は6週間(42日間)、お給料を払い続ける義務があるからです。

さらにほけんかいしゃが払う病気御見舞金は、税込みのお給料の70%ですが、タックスフリー。 😀

ドイツで自営業者ながら(私のように)公的保険に加入している人には、選択肢があります。

  • 収入の14%を保険料として払う(病気御見舞金なし)
  • 収入の14.6%を保険料として払う(病気御見舞金付き)

個人保険の就業不能保険よりも、こちらのほうがよろしいです。

-ドイツの達人になる, 就職雇用

執筆者:

nishi

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