ドイツでブレイクするのも時間の問題
この記事の目次
夢は泡
個人主義のドイツでは、「大企業に入りたい。」「有名企業で働きたい。」という体裁よりも、「好きな仕事がしたい。」という人の方が多い。その中でも独立、起業は多くのドイツ人が抱える夢だ。自分のアイデアで会社を興し、自分の得意な分野でお金が稼げるなんて、これ以上にステキなことはない。
ただし “Träume sind Schäume”.夢は泡(のようにあっけなくはじける。)と言う通り、新しく誕生した会社の20%は3年後には存在しておらず、5年後には50%は残っていない。これが独立起業は夢と言われる所以だ。
人生で初めての起業とあって経験から学ぶことができず、似通った原因で失敗する自営業者が多い。例えば飲食業。「店さえ開けば、客は勝手にやってくる。」と確信、郊外の住宅地に飲食店を開店してしまう。「自分の店」を持ちたいあまりに、駐車場もない郊外のレストランに出かけるよりも、客は近い場所で手軽に食事ができる店を優先するなんて考えない。
もっと頻繁な失敗例は、収益が上がっていないのに、最初のユーロが入ってくる前から店員を雇い、経費をふくらませて失敗するケース。そして自分の趣味をそのまま仕事にしてしまうケース。好きな分野は得意な分野なので、それ自体は悪くはないのだが、趣味に興じる余り、需要があるかどうか調査もしないで起業してしまう。
趣味で起業
「ドイツで中古のレコード屋をやりたい。」という方をいただいたことがある。理由は不明だが、ドイツには日本のレコードのファンが居て、「お前、日本人だろう。このレコードが手に入らないか。」と尋ねられることもある。しかし、レコードを1枚や2枚売ったくらいでは生活できない。
店舗の家賃、電気代、仕入れなどを考えると、従業員なし、一人で営業するとしても、毎月、最低5000ユーロの売り上げが必要だ。一枚10ユーロとしても、500枚/月、1日16~17枚売る必要がある、果たして中古レコードが、毎月、毎年、コンスタントに売れ続けるものだろうか。ましてやインターネットで販売してる店もある。他の店で買わないで、わざわざ自分の店で買ってもらうには、客を納得させる理由が必要だが、どんな理由があるだろうか。
これはイケル?
中には、「これはイケルかも?」という話を聞くこともある。そのひとつが、ドイツでコスプレショップをオープンするというもの。ドイツでも少女の間でコスプレが人気で、デユッセルドルフで開催される日本デーにはコスプレをしたドイツ人が大勢歩いている。当時は、「そんな需要があるのか?」と思っていたが、どうも需要があるようだ。話しを聞いたのは5年も前のことなので、もし本当に起業していたら、成功しているかもしれない。
またコスプレとカフェを会わせた飲食業も、営業許可が下りれば、客が集まるかもしれない。ドイツでエロチック商品の販売をしたいと相談をいただいたこともあった。なんでも日本ではおいしい商売で、収益率がいいそうだ。そこで、「欧州で一番人口が多いドイツでも。」という話になったわけだが、ドイツを代表するこの分野の大手企業、Beate Uhseは数年来、赤字続き(2017年倒産)。”Sex sells.”という格言にも関わらず、新規参入しても黒字になる確率は低い。
Beate Uhse 参照 : Beate Uhse
ドイツで売る
ご相談をいただく内容の一番人気は、「ドイツで○○を売りたい。」というもの。「日本でよく売れているので、ドイツでも売れる筈だ。」というのだが、そう簡単には行かない。ドイツ国内に店舗を構えて商品を売る場合は、その小売業界の基準を満たす必要がある。例えば電気製品なら、欧州の加盟国の言語で書かれた使用説明書を同封する必要がある。電気製品が保障期間中に故障したら、どこで修理するのか。
ドイツではインターネットで購入した品物は2週間、返品が可能だ。「クリーンオフは受け入れ居ません。」なんて勝手なことはできない。そんな勝手な理由で返品を拒否すると、返品できないことに怒った客が店を裁判所に訴える。法律で返品が認められているのだから裁判では100%負ける。すると返金だけでは済まず、相手の弁護士費用、裁判費用を負担する事になるので、そんな商法は長続きしない。
ドイツで理髪店経営?
ある時は英国で理髪店を経営される方から、「ドイツにも支店を開きたい。」と相談をいただいた。こうしたサービス業も簡単にはいかない。手工業部門には有名なマイスター制度がある。すなわち手工業者がドイツで起業するなら、マイスターであることが条件となっている。例外もある
。その分野での「長期に渡る職業経験」が実証できるなら、許可が下りる場合もある。そこで出店されたい町の”Handwerkskammer”(手工業組合)にて、”Ausübungsberechtigung”(職業実務免許)を申請して、これが許可されれば出店は可能になる。
ドイツ人と外国人は別の規則
「ドイツで店を開きたいので、営業許可取って欲しい。」と依頼をいただくこともある。「そう簡単に行かないんです。」と言う前に、「ドイツに詳しい人から、2万5千ユーロあれば会社を設立できると聞いた。」と頭ごなしの命令口調。ドイツに詳しい人には申し訳ないが、2万5千ユーロで会社を設立できるのは、ドイツ人の場合だ。
外国人でも、ドイツ人と結婚して、”Niederlassungserlaubis”を保有していればこは可能だが、この方は生粋の日本人。しかるにドイツに詳しい人の怪しげな話を信用して、日本の会社を辞めてドイツに移住するという。「その話は謝っているから、辞めたほうがいい。」と親身になってのアドバイスも、全く聞いていただけなかった。
ドイツで起業独立!成功するビジネスモデルとは?
「じゃ、あなたはどうやって会社を作ったの?」と言う話になるわけだが、日本とドイツの間には協定が結ばれており、ドイツの外人局で自営業ビザ発行の申請をすることができる。もっとも外人局の役人には商売のことはわらないので、商工会議所で自分の起業のアイデア、立案を説明する機会を与えられる。その説明が理に適っており、「これはうまく行く。」とお墨付きが出た場合は、外人局から許可が出る。
日本に住んでいる日本人に、この許可が下りることはない。ドイツに住んで、ちゃんと住居が確保されている事(その他、多数)が条件だ。ドイツ語ができないと、問題はさらに難しくなる。外人局のドイツ人は、ドイツ語しか話せないので、英語で起業案を説明しても理解できない。
永住許可
すでにドイツで働いており、「将来は起業したい。」と考えている」人は、まず5年間辛抱しよう。5年間ちゃんと勤務すると、”Niederlassungserlaubnis”、すなわち永住許可が申請できる権利が生まれる。これを取っておけば、万が一仕事を首になっても、「滞在許可が切れる前に次の仕事を探さなくっちゃ。」とあせる必要がなくなる万能薬。必要、不必要に関係なく、申請する権利がある人は、申請しておこう。
これを取ってしまえば、もう「こちらのもの」。いつか起業したくなったら”Gewerbeamt”で20ユーロ払うだけで、”Unternehmer”(企業家)になれる。そして起業がいまくいかなくて断念する場合でも、生活保護を受けれるので路頭に迷う心配はない。これは「5年経ったので進呈いたします。」と黙っていてももらえるものではない。申請しないともらえないので、自分から行動を起す必要がある。
フランチャイズ
「起業したいけど、肝心のアイデアがない。」という人は、フランチャイズで起業する人が多い。例えばパン屋。ドイツのパン屋と聞けば、職人が小麦粉を練って製パンしている光景を思う浮かべるかもしれないが、ドイツのパン屋の過半数はパン屋のチェーン店。大きな工場で製パンして、半焼き状態、あるいは生地を成形したものを冷凍してトラックで配送する。店ではオーブンで焼くだけだ。
最近はポーランドなどの東欧、さらに安い店でははるか中国から安い冷凍物のパンを仕入れ、店のオーブンで焼いて提供するデイスカアントパン屋が次々に出現している。この方法なら、マイスターである必要はない(袋から出してオーブンで焼くのに修行は要らない)ので、誰でも手軽にパン屋を開けるためだ。お陰で職人が作るパンは高級品となり、次々と倒産している。
フランチャイズ料
この起業のリスクは、まず名前を利用させてもらうのに1万~1万5千ユーロ支払い、その後は売れ行きの5~7%のフランチャイズ料を納めるシステムになっている点だ。収入の5%ではなく、売り上げの5%だ。こうして元締めは、店が繁盛しようが、しまいが、常に収入が確保できる。そこで盛んに、「あなたも起業しませんか。」と甘い言葉で誘っている。
しかしパン屋などの競争が激しい商売では、利益率はせいぜい12~15%程度。仮にフランチャイズ料が5%で、利益率の高い製品ばかりが売れたと過程して、100万円売っても、利益は10万円。ここから健康保険や税金を払って、どれだけ手元に残るだろうか。そんなに必死に働くなら、別の仕事の方が楽してお金を稼げた筈だ。
しかしフランチャイズの危険は、「これから」だ。フランチャイズの契約を取ると、契約金だけではなく、店が潰れるまでフランチャイズ料を取れるので、パンなんぞ売っているよりもはるかに効率がいい。だからいかがわしい方法も平気で使用している。話を聞きに来た候補者が、「うまくいくだろうか。」と心配を口にすると、「ここのお店の売り上げ予想額は毎週2万ユーロです。」などと夢のような数字を挙げ、「フランチャイズ料を差し引いても、毎週2000ユーロの儲けです!」とたたみかけてくる。
そして期待に胸を膨らませて実際に店を開くと、売り上げ額は予想よりも0がひとつ少ないことに気づく。これでは1ヶ月朝から晩まで働いて、収入は3桁にしかならない。健康保険料だけで340ユーロもかかるのに、これでどうやって生活できるだろうか。さらにフランチャイズ料で儲けたい元締めは、わずか200m先に同じ店をオープンさせる。少ない収入がますます減り、最後は仕入れの支払いができなくなって倒産する。
比較的被害が低いのはパン屋のフランチャイズで、倒産した店の平均負債額が2万~2万5千ユーロくらいで済む。被害が大きいのはハンバーガーのチェーン店だ。倒産した店の平均負債額は100万ユーロを超える。初期の設備投資額が大きいのが理由だが、フランチャイズ元の誘惑も問題視されている。
店が赤字を出すと、「ここに黒字を出す店があるから、ここにも出店してみないか。」と元締めに誘われて、「黒字になる店があると助かる。」ともう一軒のフランチャイズ権を買わされるからだ。パン屋よりも凝った店の作りや高価な店の地代により、とんでもない負債を抱えて倒産する事になる。
特にドイツではBurger Kingがフランチャイズのトラブルで有名になった。賞味期限が切れた商品のエチケットを張り替えて、客に出していたのだ。おまけにトイレの配水管が壊れ、キッチンで水漏れしていたのに、修理されずそのまま営業した。この一部始終を店員に化けたレポーターが隠しカメラで撮影、テレビで放映されると客は食欲を失った。元締めはフランチャイズ契約を破棄したため、ドイツ全土でBurger Kingは閉店に追い込まれた。
外国で起業の基本
ドイツに限らず、外国で起業する際の第一歩は、その国の言葉と風俗、習慣を理解する事。「蕎麦ほど奥の深いものはない。」とドイツに蕎麦屋を開いても、やってくるのは閑古鳥(実例)。ドイツ人は白米にしょうゆをかけて真っ黒にして食べる国民だ。「なんでしょうゆをかけるの?」と聞けば、「全く味がしないからだ、」って言う。蕎麦なんて奥の深い味は、ドイツ人にはわからない。
又、言葉もできないのに、「うまくいく。」なんて考えないほうがいい。欧州にはとても厳しい食料品の規制があり、日本で認可されているものでも、ドイツでは認可されていない。店舗だって衛生上の観点から、日本では存在していないとても多くの制限がある。
さらには税理士は欠かせない。例えば日々の請求書。ドイツでは請求書番号を請求書に明記、それも順番に書かれていることが条件。間違いがあると、5000ユーロまでの罰金だ。請求書1枚につき。言葉ができないで、どうやってこれを全部理解できるだろう。
「急げば回れ。」と言う通り、「起業すればうまくいく。」と過信していきなり起業するのではなく、まずは小さい会社、あるいは同業者の店舗で働いて経験を積もう。時間はかかるが、これで得られる知識は起業した際の宝物になります。
ドイツ人に絶対受ける味はとんこつラーメン!
最後に個人的な件。日本はラーメンの激戦地。おいしいラーメンを作っても、競争が厳しく、経営を続けていくとが難しい。ところがドイツではラーメン屋の存在自体がかなり稀。400万近い人口を抱えるベルリンで、ラーメン屋はたったの2軒。味はボチボチ。なのに大盛況。競争がないので、日本では到底生き残れないレベルのラーメンでも、成功してしまう。
これに目を付けた人物がミュンヘンでラーメンのチェーン店を展開中。日本でラーメン屋を営業している方、ドイツで店を共同で出しませんか。出店地、店舗探し、営業許可、税関連は私がやるので、ドイツ人にうけるこってりとんこつラーメンを作ってください。
何故、とんこつラーメン?
ドイツ人は、「味なんてどうでもいい。大事なのは腹が膨れる事。」という民族です。日本人のようにたかが飯を食べるために、列に並んで食べるなんて有り得ません。そのドイツ人が、こってり味のラーメン屋の前に長蛇の列を作って順番待ち。その20m先のラーメン屋には空席があるのに!
ドイツ人に受けるのはしつこいまでのこってり味。薄目の鶏がらスープなんて、絶対ダメ!まだ本当にとんこつラーメンを食べたことがないドイツ人が一度、これを食べたらはまること間違いなし!
今でこそ寿司は、ベトナム料理屋から中華でも寿司がメニューに載っているほどの人気商品。10年前は、「日本人は魚を生で食べるって聞いたけど、本当なの?」とまるでシーラカンス。10年後にはとんこつラーメンも同じように大ブレイクする可能性有り。