ドイツの達人になる 規則、法律

女性は家庭に入るべし!- キッチン奨励金

投稿日:2015年5月17日 更新日:

選挙になると政治家が守れない約束をするのは、日本もドイツも同じ。2013年の選挙の際、バイエルン州で北朝鮮並みの長期独裁政権を保持するCSUは、選挙民に新しいプレゼントを考案した。それが、”Betreuungsgeld”という代物で、この案が公表されるやいなや、バイエルン州以外の州からは、「またバイエルンの愚にも付かない法案だ!」と非難の声があがった。

バイエルン州と言えば、日本人に人気のミュンヘンが州都になっている南ドイツにある州だ。「田舎」という言葉がぴったり合う州で、かっては農業中心の経済構造で、貧しく、お金持ちの州からお金をわけてもらって州の予算を立てていた。政権にあったCSUは、「地方の活性化を目指す!」というスローガンの下、ふるさと納税制度を導入、これまで通りの農業製品で州の活性化を目指すことをしなかった。CSUは農村経済からの脱却を目指して技術革新と工業化を推進した。

その結果、60年代には他の州がうらやむお金持ちの州に変身、他の貧しい州に援助/税金を与える立場になった。するとかっては他の州から援助を受けていたことを忘れて、「自ら努力もしないで、バイエルンからの財政援助に頼っている。」と他の州を公然と非難するので、他の州からはとても嫌われている。お金持ちにはなったが、考え方は農耕社会のままなので、バイエルン人はとっても保守的。日本と共通するところも多い。

バイエルン人による、バイエルン人のための政策

そのバイエルン人が、バイエルン人の利益になる仕組みを作ろうと考えた出したのが”Betreuungsgeld”だ。これは生後15ヶ月~36ヶ月の子供を保育園に預けないで、自宅で面倒を見る/育児をするなら、補助金を支給しようというもの。補助金の額は2014年8月から一人当たり月額150ユーロ。保守的なバイエルン州では、子供の面倒を家庭で見るケースが多かったので、CSUの政治家がこのような選挙民へのキックバックを考え出した。バイエルン州と似た背景を持つ日本なら、「なんて素晴らしい。」という賛同の声が聞かれるに違いない。ところがドイツでは非難轟々だった。

誤った移民政策

日本と違いドイツは移民の国。そこでいつも問題になるのが、ドイツ語能力。ドイツで生まれ、ドイツで育っているのに、トルコ人、ギリシャ人社会という隔離された社会で生活しているので、ドイツ語がまともに喋れない。ドイツ語が喋れないので、学校の授業についていけない。学校の授業についていけないから、落第する。すると同じような負の財産をかかえている生徒と一緒になり、自身を受け入れてくれない社会に反抗をいだく。

外国人だというだけで不当な扱いを受けることが多い社会では、何かのきっかけで法を破って警察に捕まるのは時間の問題。ドイツの警察は犯罪を犯す外国人に容赦がなく、警察から暴力を受けることも少ない。監獄に送られると、そこにはムラー(イスラム教の牧師)がてぐすねを引いて待っている。犯罪を起した外国人、とりわけイスラム教徒は、原理主義者のいい鴨で、刑務所から出る頃には、生粋の原理主義者になっている。こうした出世街道を突っ走った数百人もの移民の子供が、イスラム国に参加している。

正しい移民政策

移民(の子)が社会に適応するには、幼い頃からドイツ社会に親しんでいる必要がある。それには3歳になる前に保育園に入って、日々ドイツ語を聞いていれば、学校に入るころにはドイツ語が母国語になっている。さらに3歳になる前に教育を受け始めた子供は、知能の発達が早く、大学をいい成績で卒業するというデータまで出ている。

外国人をドイツ社会に受け入れるには、この保育園ほどいいチャンスはないのだ。しかるに自宅で育児をする家庭に補助金を出そうものなら、「保育園はお金がかかるから。」とトルコ人の家族が子供を自宅で育てて、毎月、150ユーロの補助金をもらうことをそそのかす。伝統的なイスラム教徒の家庭では、女性が仕事に就いていないケースが多い。どうせ家に居るなら子供を保育園から引き取れば、保育園の費用が節約できる上、濡れ手に粟の臨時収入が手に入る。こうして移民の家庭は、今後、ますます子供を保育園に送ることがなくなる。これでは外国人の同化が全く先に進まない。

ドイツ社会の女性の地位

さらにドイツでは、女性がキッチンに立って料理をしている姿を宣伝などで流すと、苦情が殺到。製品の売り上げはおろか、メーカーの不買運動までおきかねない。ドイツでは戦前、戦後にかけて、「女性は家庭に入るもの。」と国民を洗脳してきた。女性が家庭に入れば、自身の収入がないので、男性のいいなりになる。言い分はあっても、男性の許可がなければ、何もできない。こうした考え方は68年世代が、「女性を奴隷化するのに使用された。」として攻撃の対象になった。

だから女性がキッチンに立つという光景は、ドイツ社会では全く受けない。さらにドイツらしいことに、”freien Rollenverteilung zwischen Männern und Frauen”(男女の公平な役割分担)はドイツの憲法にもしっかりと明記されている。「女性は家庭に。」などと主張すると、法律違反になるという徹底振りだ。しかるに、「子供の世話を家庭で見るなら補助金が出ます。」という制度は、かっての女性を家庭に縛り付けていたシステムのリバイバルのように見える。だから女性はこの補助金を”Herdprämie”(キッチン報奨金)と呼び、反対した。

女性は家庭に入るべし!- キッチン奨励金

バイエルン人は、この制度が女性に古い役割を押し付けるものではなく、家庭の大切さ、価値、すなわち彼らの価値観を尊重するものだと考えた。そして間の悪いことに、CDU/CSUが選挙で勝利してしまった。連立政権を組むことになったSPDは女性議員も多く、また保守思想とは縁がないので、キッチン報奨金の導入に反対した。その代わりにSPDが主張したのが63歳からの年金満額支給と最低賃金の導入だ。

工業化されたバイエルン州にとって最低賃金などいう考えは、社会主義の悪しき代物で、その導入に猛反対した。双方が、「その主張を維持するなら、連立政権はありえない。」と脅し合った挙句に、双方が妥協、キッチン報奨金と最低賃金、それに63歳からの満額年金支給(条件付)まで導入されることになった。そして皮肉なことに、これまでキッチン報奨金の導入に反対してきたSPDが家庭省の大臣ポストを獲得、キッチン報奨金を導入する責任者になった。

ハンブルク vs. バイエルン

現在40万人の家族がこのキッチン報奨金を受給しており、CSUは「家族構成にもっと可能性を与える政策で、国民から大いに賛同を受けた。」と自画自賛したが、満足な微笑みは長くは続かなかった。バイエルン人の家族政策に対してハンブルク(州)がカールスルーエの憲法裁判所に、「この補助金は法律で認められている男女の公平な役割分担を妨げるものである。」として違憲の訴えを届け出た。さらには個々の家族に関する政策は、”Land(州)が担当するべき課題で、”Bund”(国)が州を無視して一方的に決める権限はないと異議申し立ての根拠を説明した。

この訴えを受理した裁判官は審議に入る前にコメントを出し、「シングルマザーには、子供を保育園に預けるか、自分で育児をするか、その選択肢が与えられていない。」と、この法律の欠点を指摘した。これに対して国の論理を展開するのが、キッチン報奨金の導入に反対してきたSPDの大臣であったから、これ以上の皮肉はない。

憲法裁判所の判断は、夏前に下される見込みだ。違法判断になる可能性もあるので、その際のバイエルン人の反応が楽しみだ。

編集後記

期待通り、このキッチン奨励金は最高裁で違法という判決がでた最高裁は判決理由で、国民が困窮しているような事態では、国がこれを解決すべく全法律を施行する権利があるが、キッチン奨励金はそのような事態を解決するものではないので、国にはキッチン奨励金という法律を導入する権限がないと述べ、ハンブルク州の訴えを認めた形だ。この判決で面子を潰されたバイエルン州は、「それではバイエルン州だけで有効な法律を施行する。」と言い出し、本当にどのような条例を施行してしまった。バイエルン州に住んでいて、子供を保育園に預けない場合は州から、キッチン奨励金を申請することができます。

-ドイツの達人になる, 規則、法律

執筆者:

nishi

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