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【最後のチャンス?】ドイツ銀行 大改造計画を発表!

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ドイツ銀行本社ビル
バベルの塔と同じ運命に?ドイツ銀行本社ビル

およそ15か月前、業績悪化が止まらないドイツ銀行は、銀行を立て直すために4年前に迎え入れた頭取をクビにした。

参照 : ドイツの最新事情

アカーマン頭取の残した負の遺産の処理で、クビになった(辞任)した頭取は、これで3人目だった。お陰で2007/8年の金融危機から10年経っても、ドイツ銀行の立て直しは一向に成果を上げることなく、業績は悪化する一方だ。新しく頭取に就任したゼービング氏は就任の挨拶で、”Ich werde liefern.”(ご期待の成果を出します。)と語った。

氏がその言葉をどれだけ実行に移すことができたか、検証してみたい。

止まらない業績悪化

ゼービング氏は就任早々、大幅な人員削減を発表。就任1年目にして(税金を払う前の)業績では5年ぶりの黒字を出した。しかしこれは収入が増えたわけではなく、歳出を減らしただけ。この計算上のトリックが長続きするには、マイナス金利がなくなり、銀行が採算性を回復させることが欠かせない。さもないといずれは経費がまた銀行の収益を上回り、赤字に逆戻りだ。

しかし欧州中央銀は現在のマイナス金利を2020年まで持続すると表明しただけでは満足せず、米中の関税戦争による景気悪化の対策として、さらに金利を下げることも辞さないと発表した。そしてドイツ銀行の最大の収入源だった投資部門は、大幅な赤字を計上するだけではなく、違法な取引により目のくらむような罰金を課され、銀行の存在を揺るがす危険な存在と化した。

砂地獄にはまってますます沈んでいくドイツ銀行を不安を持ってみていたのは、株主だけではない。政界もドイツ銀行の凋落を不安を持ってみていた。海外で活躍するドイツ企業を支えるグローバル銀行がなければ、ドイツの経済戦略に支障をきたす。そこで政界はドイツ銀行とコメルツ銀行との合併を提唱した。

コメルツ銀行の頭取は大いに乗り気だったが、ゼービング頭取はそのような「逃げ道」には反対だった。というのも、同氏はドイツ銀行は自力で厚生するだけの能力が(まだ)あると確信していた。ドイツ銀行の取締役員会長はそれほど自信がなく、コメルツ銀行との合併を勧めた。

政界からの後押しを無視するわけにもいかず、ゼービング氏は嫌々ながら合併の事前交渉を始めたが、余程の理由がない限り、氏は同意する気ははなはだなかった。案の定、最後は、「合併するに足る理由が見つからなかった。」と、お義理だけ尽くした形になった。

参照 : ドイツの最新事情

ドイツ銀行株、史上最安値更新!120ユーロから5.80ユーロに!

4月に開かれた株主総会の前、大口投資家は取締役員への信頼を拒むように呼び掛けた。ゼービング氏が頭取に就任してから(1年で)、ただでも安かった株価が50%以上も続落していたので、無理もない。株主総会の会場で株主に用意されていた食事も実に質素なもので、「ここでも節約しないといけないほど金に困っているのか。」と、株主には思われた。

株主はコメルツ銀行との合併を拒否したその理由、そしてこれを拒否したからにはドイツ銀行を厚生する新たなプランの内容を聞きたかった。が頭取は、「身を切るような改造をする用意がある。」との約束だけで終わった。結果、ゼービング氏は74%、取締役員会長は71%という低い信頼投票結果となった。通常は90%を超える信頼票が当たり前なので、これはかなり低い数字だ。

参照 : FR

この約束は、ドイツ銀行が過去10年、守られない約束ばかりしていなければ、多少は効果があったかもしれない。その後、ドイツ銀行の株はさらに急降下を始めた。米国でトランプ大統領に口座を提供、マネーロンダリングを手伝ったという疑惑、国内では投資部門が違法なトリックを用いて大口客の脱税を補佐したとの疑惑が固まり、検察が行員に対して捜査を始めたことが報道されたのが原因だ。

一旦、下がり始めると止まらないのがドイツ銀行株。投資家が株価の続落に賭けており、空売りなども加わり、落下は加速化する。今度も株価は今年2回目の史上最安値更新に成功、5.80ユーロまで落下した。かって120ユーロの株価を誇っていた銀行の面影もない。

ここでまるで神風が吹いたように、株価の落下が止まった。というのも株主総会でゼービング氏が約束した、「身を切るような改造」の中身がマスコミに漏れ始めたからだ。そして7月9日、ドイツ銀行は取り締まり役員会議で承認されたドイツ銀行の改革案を発表した。

【最後のチャンス?】ドイツ銀行 大改造計画を発表!

ゼービング氏は株主総会で「銀行の業務を収益率のいい分野に集中させ、赤字部門は売却するか縮小化する。」と語った。そして氏はその言葉を守り、赤字部門、黒字でも収益率が低い部門を思い切って縮小する、かってない規模の大改造計画を発表した。同氏はメデイアの前でこの改造計画を、「本当の新しいスタート。」と語った。

この改造計画は今後3年の年月と70億ユーロの経費をかけて行われる。計画が完遂された2022年以降、ドイツ銀行全体で毎年、50億ユーロの経費を節約できるという。というのもドイツ銀行は決算総額で言えば、未だに世界の銀行と比較して、第5の地位にある。ただ経費が高くて利益が出ていないのだ。だから経費を削れば、ドイツ銀行の採算性が上げる筈。これを達成するために考え出された大改造案の骨子は、以下の通り。

18000人の従業員を解雇!

ドイツ銀行はすでに去年、1万人の人員削減をした。

参照 : Zeit Online

さらに18000人の従業員を解雇して、3年後には従業員総数を74000人まで削減する。その大部分はニューヨークとロンドンの投資部門で削られる。そもそもドイツ銀行が海外進出をするきっかけになったのは、1989年に英国の投資銀行”Morgan Grenfell” を買収したのがきっかけだ。

この買収を元にロンドン、ニューヨークに進出して、国際的な取引を始めた。投資部門の一行員が銀行の頭取よりも高い給料をもらい、投資部門はドイツ銀行の6割りの利益を稼ぎ出すほど、ドイツ銀行の稼ぎ主となった。しかし欲を出しすぎだ。その象徴は映画にもなった行員 Christian Bittar 氏で、2008年の金融危機で荒稼ぎ、8000万ユーロのボーナスを受け取った。

参照 : Handelsblatt

実は同氏、法律を破る違法な取引を行っていた。これがバレてドイツ銀行は高額な罰金を課せられたが、その頃には8000万ユーロのボーナスをもらった行員は仕事を辞めており、銀行は罰金を払って大損をしただけ。投資部門の行員による法律違反はこれだけではなく、数え切れない法律違反でドイツ銀行は稼ぐ金よりも高額の罰金を払い続けた。

これがドイツ銀行の凋落につながった。最近ではかっての稼ぎ頭の投資部門が出すのは、赤字ばかり。挙句の果てには上述の通り、また脱税補佐容疑で検察の社宅強制捜査を受ける始末。しかし銀行の頭取はこれまで投資部門の削減を拒否してきた。頭取自身が投資部門の出身で、「投資部門こそ銀行の稼ぎ頭。」と、信じていたからだ。

ゼービング頭取は個人客部門の責任者だったが、それでも頭取の最初の仕事として銀行の投資部門に手を付けるのはためらった。それほどまでに投資部門はドイツ銀行内で、花形的な存在だった。しかしここにきてゼービング頭取はこの投資部門を縮小しないと、銀行の厚生はないと判断して、投資部門の去勢にも等しい大幅な規模縮小を計画に盛り込んだ。

すでに米国では最初の行員がクビになっている。まだクビになってない行員は、首になる前に他の銀行に就職しようと職場を離れて面接に、そんなチャンスがない行員は近くの酒場に入り浸り。まるでリーマンブラザース倒産のような光景が展開されている。

ドイツ銀行内部にBad Bankを創設

投資部門の稼ぎの筆頭は証券。株や利率、通貨があがる、さがるを金を賭ける証券を、ドイツ銀行は実に多く販売している。その総額は4000億ユーロという巨額な数字で、ドイツの総国民生産の1/9に相当する。これが破綻したら目も当てられないので、特に「やばい」証券、750億ユーロ分を銀行内に設ける”Bad Bank”に移して、売れる部分は投資家に販売する予定だ。

という話を聞くと、「ドイツ銀行自体が”Bad Bank”じゃない!」というギャグは、きっと皆さんの頭に浮かんだと思います。

取り締まり役員3人クビ

去年12月の検察の強制社宅調査の原因となった、投資部門の責任者は辞任に追い込まれたが、その外にも2名の取締役員が辞表を出した。縮小された投資部門には、もう取締役員を任命しないで、頭取の管轄下におかれる。空席になる二部署のうち、個人客部門には新しい役員が任命されるが、もうひとつの席、社内のコンプライアンスは経済犯罪監督の役員が、この部署も兼ねてみることになる。

こうして2つの役員席が空席になるが、辞任を出した役員は2600万ユーロもの退職金が支払われる。「仕事をちゃんとしないで辞任すると、こんな褒美が出るのはおかしい。」と早速、非難が向けられているが、現状ではこのような契約が一般的なので、致し方ない。

参照 : T-Online

資本率低下 & 配当金なし!

銀行の改造に70億ユーロもの大金(かってドイツ銀行が米国で払った最大の罰金が140億ドル!!)がかかるので、2019年、2020年、ドイツ銀行は配当金を出さないと発表した。業績が改善すれば2021年にはでるかもしれない?

しかし配当金を削った程度では、70億ユーロもの大金は今のドイツ銀行にはないっ!必要な金を捻出する方法はふたつ。ひとつは増資。しかし株価5.80で増資すると、ろくな額が集まらない上、大量の株を発行して銀行の信用危機が加速する。

そこで銀行はもうひとつの方法、銀行の資本金に手を出すことにした。14%を超えていた核資本率 / “Kernkapitalquote”は、13.5%まで落ちるが、増資をせずに済む。ドイツ銀行は事前に銀行の監督庁”Bafin”から了解を取り付けており、この案が採用された。

市場の反応

会社の買収、あるいは今回のように会社の大幅な改革が成功するかどうか、「株価が示してくれる。」と言われている。成功の見込みのある買収では、株価は買収オファー額まで一気に上昇する。見込み薄の買収では、株価は上昇するが、オファー額の下に留まる。買収が成功するかどうか、株の動きでわかると言うのだ。

ではドイツ銀行の場合は、どうだろう?株主にとって業績下方修正や増資の次に聞きたくない言葉は、配当金カット!このため、株価は月曜日に(また)大暴落するかと思われたが、4%も上昇した。ところが午後になると売りが先行して、3%のマイナスで終わり、翌日も続落している。

この株価の動きは投資家の、「本当に計画通りに改造ができるのか?」という不信の現れだった。過半数の投資家は、ドイツ銀行の大改造計画を信用してない。しかしドイツ銀行には他の選択肢はない。果たしてこの大改造がうまくいったか、3年後にはわかるだろう。

失敗したら?ドイツでは銀行の倒産はないので、それは心配しなくていい。改造に失敗するとさらに規模を縮小して、ほそぼそと経営を続けるか、何処かに買収されて解体されることになるだろう。哀れ、ドイツ銀行。

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執筆者:

nishi

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