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何故、何処でも同じ値段なの?- ドイツ薬剤価格固定制度

投稿日:2016年11月17日 更新日:


半年分まとめて注文

薬局は儲かります

インターネットショップが広まり続ける中、店舗型の商売は苦戦を強いられている。ここアウグスブルクでも、市役所からわずか300m離れた場所にあるビルはがらんどう。市内は駐車場の問題も加わって、客足が離れる一方だ。

そんな市内の一等地の店舗で頑張っているのは、レストラン、スーパー、そして薬局だ。薬局も一軒だけのケースは珍しく、その斜め向かいも薬局で、同じ通りに4~5軒も軒を連ねている。スターバックスやマクドナルドを上回る店舗数の理由は、コーヒー並みのそのマージン(利益率)の高さにある。

お医者さんから処方箋をもらって薬局で薬を買うと、9ユーロが薬局の収入になる。市内の一等地、隣が医者の診療所だったりすると、薬を求める客が列をなしている。薬局の組合が出している統計では、薬局の売り上げの平均は200万ユーロ!!なんというおいしい商売だろう。道理で薬局が多い筈だ。社会の高齢化、ドイツ人の慢性的な肥満化に伴い、病気になる人はうなぎ登り。まさに客が尽きる事のない商売だ。

ドイツは薬が安いっ!

医師の処方箋なしで買える薬、頭痛薬、抗アレルギー薬、下痢止めなどは、ドイツでは日本の半額程度の値段で買える。「もっと安い値段はないものか?」と隣の薬局に行っても値段は変わらない。ほとんどの薬局が、定価販売をしているからだ。それでも当初は、「日本より全然安い。」と感激する。

ところがインターネットで検索すると、同じ薬がさらに半額で買えるのにビックリ。ネットでは高い店舗が必要ないので、安価で提供することが可能になる。頭痛薬、抗アレルギー薬、下痢止めなどは、すでにパテント(特許)が切れているので、製薬会社はただのパテントを用いて、大量に薬を生産する。

日本の製薬会社と違って欧州全域、そしてロシアや中近東、さらにはアフリカ、アジアでも販売するので、その生産量が桁違い。結果、日本では3000円もする下痢止めが、ドイツでは200円程度で買える。この値段でインターネット薬局、さらには製薬会社も儲かるのだから、生産コストは推して知るべきだ。インターネットで買うと郵送料がかかるが、通常、20ユーロ以上買うと送料は無料。薬の使用期限は2年ほどあるので、いつも買う薬があれば、半年、あるいは1年分買い置きしておけばよい。

インターネット薬局の登場

薬がこんなに安く買えるまでは、長い道のりだった。以前は薬をインターネットで販売することは法律で禁止されていた。薬局組合が政治家に陳情して、薬局を通販(当時はまだインターネットが発達していなかった。)することを禁止していたからだ。ところがインターネットが普及を始めると、オランダのインターネット薬局がドイツ語のホームページを作って、安い値段で薬の販売を始めた。

ドイツの法律に縛られない、オランダの薬局ならではの商法だ。ドイツの薬局は、「これではボロい儲けがなくなる。」と心配、一致団結して抵抗したが、欧州裁判所で負けた。以降、処方箋が必要ない薬の販売がインターネット上で可能になった。以降、ドイツ国内でもインターネット薬局はが数多く出現、目を疑うような安い値段でしのぎを削っている。

何故、何処でも同じ値段なの?- ドイツ薬剤価格固定制度

「ネットで買うとこんなに安いなら、処方箋の薬もネットで買えば安い?」と思ってしまう。しかし処方箋が必要な薬は、薬局で買うのと同じ値段になっている。これはドイツの薬局の最後の砦、”die Arzneimittelpreisbindung”(薬剤価格固定制度)のためだ。

元来この制度は、薬を必要とする患者が、どの町のどの薬局でも同じ値段で薬が買えることを可能にする目的で導入された。当初は薬の値段の高騰を避ける目的だったが、インターネット薬局の出現で必要ない法律になっている。それどころか、今日では薬局の高収入を保障する最後の武器となっている。

固定価格制度は違法

ところがここでもオランダのインターネット薬局が攻勢に出た。慢性的な病気を抱えて同じ薬を常用しなければならない場合、患者の月々の出費は馬鹿にならない。パーキンソン病の患者団体はドイツの薬局組合に割引を打診したが、薬局団体は割引を拒否した。そこでオランダのインターネット薬局に相談すると、こちらは大幅割引を提供。

結果、パーキンソン病を患う患者は、インターネットで薬を注文、毎月数百ユーロの節約になっていた。ところがドイツの薬局団体は、「これはドイツの法律、”Arzneimittelpreisbindung”に抵触するものだ。」と訴えた。ところが欧州裁判所はドイツの法律、”Arzneimittelpreisbindung”は外国企業のドイツ市場参入を妨げるのであると判決、ドイツの現行の法律を無効と宣言した。

この判決を受けてドイツの薬局団体は、「ドイツ国内における薬の提供を脅かすものである。」と抵抗した。インターネットで薬を注文すると、処方箋が必要、必要ないにかかわらず、配達まで4~5日かかる。しかし薬局では即日で買える。このインフラを維持するのは金がかかる。インターネットで安価に処方箋が必要な薬が手に入るようになると、金のかかるインフラを抱えている薬局は不利で、やっていけないという苦情だ。

ドイツ薬局団体の反抗

消費者は、「今後は処方箋の必要な薬も安く買えるようになるの?」と喜んでしまうが、そうは甘くない。ドイツの薬局団体は、儲かるチャンスが失われていくのを指を加えて眺めているようなことはしない。薬局団体は政治家(厚生省)への太いパイプを利用、処方箋を必要とする薬の通販を禁止するように陳情した。厚生大臣はこの陳情を受けて、インターネット上で処方箋が必要な薬の販売を禁止する法律を準備中だ。残念。

参考

処方箋の要らない薬は、”Rezeptfreie Medikamente”(複数形)という。日本と違ってドイツでは睡眠薬も処方箋が要らなく、薬局で買える。この処方箋が要らない薬のほとんどは、”Generika”と呼ばれるパテント期限の終了した薬を指す。わかりやすいように頭痛薬で言えば、オリジナルはバイヤー社のアスピリンだ。パテントが切れたので、全く同じ成分”Acetylsalicylsäurel”の頭痛薬をゲネリカ専門の製薬会社が製造、販売している。

オリジナルを薬局で買うと20錠入りで10ユーロもするが、ゲネリカをインターネットで買うと2.50ユーロ。それも100条入り!!雲泥の差だ。日本では、「やっぱりオリジナルじゃないと。」という方が少なくないが、それは偏見です。成分が同じなので、効き目に違いはありません。単に名前が違うだけ。ドイツの健康保険は医療費を節約するため、「ゲネリカを処方するように。」とお達しを出しており、ドイツの医書はこれを大方守っている。

編集後記

厚生大臣は処方箋が必要な薬のインターネット販売を禁止したかったが、連合政権を組んでいるSPDが大臣の案に難色を示した。これにより、厚生大臣はこの法案を国会に出すのを見送ることを余儀なくされた。お陰で処方箋が必要な薬も、ネットで注文できる状況に変わりはない。

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執筆者:

nishi

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