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ドイツ 三党連合新政権成立 ピエロは誰だ!?

投稿日:2021年12月12日 更新日:

ドイツ 三党連合新政権成立 ピエロは誰だ!?

画像提供 : Von Sandro Halank, Wikimedia Commons, CC BY-SA 4.0, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=113139335

12月8日、ドイツで三党連合新政権成立が誕生した。

これまでは二党で過半数を獲得できたが、大衆政党が求心力を失い過半数を制するには

「ドイツ史上初」

の三党連合が必要になった。

政策方針が全く異なる3つの政党だったので、交渉決裂も懸念された。

しかし蓋を開けてみると、9月末の総選挙から10週間+で三党連合新政権が誕生した。

各政党が、かなりのスピード感を持って話し合いを進めてきたことがわかる。

今回はその新政権で主要な役職についた面々を紹介してみたい。

でもその前に、、。

お見合い相手選び

三党連合政権誕生までの経緯を手短に解説しておこう。

総選挙後、確実なことがひとつだけあった。

それは第二党に躍進した緑の党とFDP(*1)なしでは、新政権は誕生できない事。

そこでまずは緑の党とFDPが連立協議を始め、SPDとCDU、どちらをお見合い相手にするべきか話し合った。

総選挙で敗退を喫したCDUの首相候補 ラシェット氏は、

「CDUと連合政権を組むなら、官庁の振り当てで大きな譲歩をする用意がある。」

と横やりを入れた。

まるで

「こっちの水は甘いぞ!」

と蛍を呼び寄せるような

「媚びた姿勢」

は、党内で大批判を浴びた(*2)。

FDPはCDUと連立政権を組みたがっていたので、

「ラシェット首相誕生か?」

と思われたが、第二党の緑の党がコレを許さなかった。

こうしてまずは、SPDと連立政権の話し合いが行われることになった。

増税なし & 最低賃金12ユーロ & 脱石炭発電前倒し

SPDの最大の関心事は、最低賃金を12ユーロに引き上げる事。

緑の党の最大の関心事は、脱石炭発電の前倒し。

FDPの最大の関心事は、増税なし。

勿論、その他にも

「山のような公約」

があったが、三つの政党で合意に達するには、

「一番大事な関心事」

に限る必要があった。

FDPはSPDの最低賃金12ユーロを、

「増税しないなら、受け入れる。」

と譲歩。

さらにFDPは脱石炭発電も、

「企業の競争力を奪わないという条件で。」

前倒しにも反対しないと妥協。

SPDは裕福層を対象にした

「金持ち税導入」

を公約に挙げていたが、ここではFDPに譲歩して導入を諦めた。

緑の党は環境保護のため、

「交通省」

を獲得、速度制限を導入したかった。

しかし石炭発電早期脱却に譲歩したFDPに譲歩、交通省をFDPに任せる譲歩をした。

連合政権合意書

こうして三党が大筋で合意に達したので、今度は細部を決める

「連合政権合意書」

の策定にかかった。

これでどの省庁を、どの党が獲得するかが決まる。

当然、

「のるかそるか」

の喧嘩にも等しい容赦ない交渉が続いた。

FDPと緑の党の双方が財務省を欲しており、交渉が難航した。

一方、厚生省は誰も欲しくないので、

「押し付け合い」

になった。

普通であれば交渉の成り行きに不満な政治家が、こっそりメデイアに情報を流して挽回を図る。

不思議なことに、今回はそのような

「情報漏れ」

が一切なかった。

こうして12月7日、連合政権合意書にサインが行われ、あとは国会で選出されるだけとなった。

ドイツ 三党連合新政権成立

12月8日、国会で首相選出の投票が行われた。

首相就任に必要なのは、出席している議員の過半数ではなく、総議席数の過半数の賛成票が必要だ(*3)。

簡単に言えば365の賛成票が必要だ。

三党連合は416議席を確保しているので、17名の離脱者が出たが、395票の賛成票でショルツ氏が首相に選出された。

 

日本ではその後、国会の議長が

「〇〇君が首相に選出されました。」

で完了。

ドイツではそうはいかない。

国会議長が首相候補に、選出結果を受け入れるか聞く。

これを肯定すると、

「国に災害・損害が及ばぬように、精一杯努力します。神のご加護を!」

と宣誓して、初めて首相となる。

その後の最初の祝辞は、前首相が新首相に行う物と決まってる(*4)。

今回はメルケル(前)首相は、引退するために国会には出席しておらず、同僚が新首相に最初に祝辞を述べた。

16名の閣僚指名

その後、16名の閣僚が同様に宣誓を行い、国会は閉会。

新首相と閣僚は大統領官邸に向かい、

「就任証書」

をいただいて、セレモニーは終わりとなる。

今回は8名の女性閣僚が誕生して、ドイツ史上、もっとも女性閣僚の多い政権となった。

ピエロは誰だ!?

16名も閣僚が居れば、毎回、最低でも一人、多い場合は二人のピエロがいる。

ピエロとは、誤判断や失言で茶の間に話題を提供してくれる閣僚の事(*4)。

ドイツでは伝統的に交通大臣か開発担当大臣が、ピエロの大役を買って出る。

実際、前のメルケル4時政権でも交通大臣は、その大役を見事に演じた(*5)。

今回、ピエロの役を買って出るのはどの大臣だろう?

閣僚メンバー紹介

ドイツ三党連合新政権成立のニュースを日本で見ていると、ニュースキャスターは首相の名前さえ満足に読めていない。

名前でさえ読めないのだから、政策などは推して知るべしだ。

そこで今回は主要な閣僚に絞って、正しい名前とそのキャリアを紹介してみたい。

首相 Olaf Scholz – SPD

16年振りに首相の椅子を取り戻したSPD。

名前は日本人でも発音しやすい

「オーラフ ショルツ」

です。

1958年、オスナブリュック生まれ。

労働者階級に生まれた3人兄弟の長男。

兄弟は皆、出世しているので才能に恵まれているようだ。

育ったのはハンブルクで、ハンブルク大学で法律を学び弁護士になった。

その後、SPDに入党して、ハンブルクで政治のキャリアを登った。

「これぞ、生粋のハンブルク人!」

と思うほどの仏頂面で、感情を表さない。

2021年の選挙戦の緒戦では

「最下位」

にあったのに、

「トレードマークの仏頂面」

で信頼を獲得、選挙に勝利して首相に就任した。

参照 : Olaf Scholz

国防大臣 Christine Lambrecht – SPD

これまでスキャンダルが絶えた事ない国防省。

数々の大臣が失脚して、政治生命を断たれた。

その「熱い椅子」(*7)に任命されたのは、クリスチーネ ランブレヒト。

1965年、マンハイム生まれの弁護士。

メルケル政権下で法務大臣の

「不幸な発言」

が問題になり、辞任。

急な出来事だったので、

「誰か代わりが居てへんか?」

と探して、ピンチヒッターで法務大臣に就任。

意外や意外、ピンチヒッターが立派な大臣になり、同僚からも一目置かれる存在に。

その能力を買われ、国防大臣の

「熱い椅子」

に座ることになった。

内務大臣 Nancy Faeser – SPD

内務大臣に就任したのが、英語の名前をもつナンシーフレイザー女史だ。

1970年、フランクフルト近郊のバットゾーデン生まれ。

職業は弁護士。

ヘッセン州で内務大臣を務め、右翼による凶悪犯罪を取り締まり、一躍名を上げた。

ドイツ国内でも右翼によるテロが増えている中、

「適材適所」

だという意見もあるが、州と国での政治はこれまた別(*8)。

参照 : Nancy Faeser

厚生大臣 Prof. Dr. Karl Lauterbach – SPD

国防大臣よりも

「熱い椅子」

がコロナ禍の厚生大臣の椅子。

前厚生大臣は

「時期首相候補」

とささやかれたが、コロナ禍で誤判断を何度も繰り返し、首相への道は閉ざされた。

緑の党も、FDPも欲しくないので、SPDが厚生省を引き受けた。

その厚生大臣の熱い椅子に座ったのが、ドイツで一番有名な医学博士のカール ラオターバッハ氏。

1963年、デューレン生まれ。

抜群に頭がいい。

いや、良すぎるというべきか。

医学博士の他にも、幾つものドクタータイトルを持つ。

コロナ禍の発生以来、ほぼ毎日テレビに出演して警鐘を鳴らしてきた。

SPDが厚生省を引き受けたと知れ渡るや、市民の間で、

「ラオターバッハを厚生大臣に!」

と運動が起きたほど、お茶の間の人気者。

ただ政治家の特徴である、

「赤面するもなく、堂々と嘘を語る。」

ことができない。

党内での派閥争ににも、知らん顔。

強烈な寝ぐせがついたままの格好でテレビに出演して、気にもしない。

まるでアインシュタイン並み。

ショルツ首相はラオターバッハ氏を大臣に指名すべきか、長く悩んだ。

市民の圧力に負けて、氏を厚生大臣に指名した。

外務大臣 Annalena Baerbock – 緑の党

緑の党の党首が、アナレーナ ベアボック女史(*9)。

1980年、ハノーファー生まれ。

ハノーファー大学で政治学を学び、ロンドンに留学、修士号を取得。

首相候補として立候補、抜群の人気で次期首相と思われた。

選挙期間中に初歩的なエラーを繰り返し、夢破れた。

本人の希望で外務省をゲットして、外務大臣に就任した。

外務大臣はカメラの前で笑って握手するだけなく、裏部隊で喧嘩(交渉)する能力(度胸)が必要。

ベアボック女史がどれだけ才能を開花されるか、そこは未知数。

中国とロシアには厳しい態度を取っているので、中国外遊は見物。

経済産業大臣 Ph.D. Robert Habeck – 緑の党

緑の党のもうひとりの党首が、ロベルト ハーベック氏だ。

1969年、リューベック生まれ。

文学でドクターのタイトルを持ち、過去に本を出版したこともある変わり者(*10)。

経済産業省と言えば環境保護とは正反対で、ドイツ企業を外国の企業との競争で補助するのが、最重要な役割。

環境保護を謳う党が経済産業省を担当するのが、どうも場違いに思えて仕方がない。

ハーベック氏の才能が産業省で生かされるのか、そこが疑問。

参照 : Robert Habeck

農産大臣 Cem Özdemir – 緑の党

緑の党では

「経済穏健派」

に属する ツェム エツデミール氏。

両親はトルコからやってきた労働者。

皆まで言えば、そのトルコでも差別される少数民族の出身。

実科学校に通ったため、大学には入れなかった。

その後、教師として働きながら大学入学資格を取り、大学で教育心理学を学んだ努力家。

先回の三党連合政権では外務大臣に就任する筈だったが、リントナー氏が交渉を一方的に決裂させて、夢破れる。

今回は党内で大臣の椅子を巡り

「環境保護急進派」

との奪い合いになったが、経済穏健派のエツデミール氏が勝利した。

とりわけトルコのエルドガン大統領への批判には

「歯に物着せぬ」

言い方で、エルドガン大統領の目の敵。

財務大臣 Christian Lindner – FDP

FDP党首、クリスチャン リントナー。

1979年、ヴッパタール生まれ。

16歳ですでにお金持ち優遇政策を進めるFDPに入党したので、何か共感するところがあったのだろう。

ボン大学で政治学と哲学を学び、修士課程を修了。

FDPはホテル業界(*11)から寄付金をもらったお礼に、ホテルの付加価値税を減額するなど、

“Klientelpolitik”(お客様優遇政治)

を行う事で有名。

結果、大衆に嫌われて得票率が5%を割り、国会から消えた。

そのFDPを国会に復活させたのが、リントナー氏。

しかしエゴの塊で、

「ワンマンショー」

しか頭にない。

写りがいい写真がでるように、ポーズばかりする。

女性票を狙い、禿た頭に髪を植え込むなどその点は徹底。

その努力は無駄ではなく、外見を見て投票する若者から多くの支持を得ている。

本人のたっての希望で、財務大臣に就任。

お客様優遇政治から脱却して、国民のためになる政治ができるだろうか?

交通大臣 Dr.Volker Wissing – FDP

高速道路の速度制限導入を選挙公約に謳う緑の党が、どうしても欲しかった交通省。

これを手に入れたのは、FDPだった。

FDPは

  • 高速道路の制限速度
  • 社用車の補助金カット

をどうしても阻止したかった。

その交通大臣と言えば、過去の政権でいつもピエロを輩出してきた経緯がある。

今回交通大臣に就任したのは、フォルカー ヴィッシング氏。

1970年、ランダウ生まれ。

法律を学び、弁護士の資格は勿論、ドクターのタイトルまで持っている秀才。

裁判官としても働いてた経歴を持つ法律の専門家。

出身地のファルツ州で交通大臣に就任しており、十分な経験を持つ。

大臣に就任早々、

「デイーゼル車へのこれ以上の負担はない。」

と声明を出して緑の党の怒りを買うなど、ピエロの片りんを覗かせている。

法務大臣 Dr. Marco Buschmann – FDP

法務大臣に就任したのがリントナー氏の

「刎頚の友」

であるマルコ ブッシュマン氏。

1977年、ゲルゼンキルヘン生まれ。

ボン大学 & ケルン大学で法律を学んだ弁護士で、Dr.のタイトルももつ法律の専門家。

FDPが国会から消えた後、リントナーと一緒になってカムバックを目指して選挙戦を戦った。

外見とは裏腹に(?)、周囲も感心する秀でた頭脳の持ち主。

政治家というよりは大学教教授タイプ。

ピエロの大役はあまり期待できそうにない。

 

補足

紹介できていない閣僚も多いが、また暇をみて追加します(多分)。

国会の組閣の特徴は

  • 女性が半数
  • バイエルン人が一人もいない
  • 東ドイツ出身者が1名だけ

という点だ。

とりわけバイエルン人が居ない政権は、戦後ドイツ史上初(かも)。

問題は東ドイツ出身者の少なさ。

東ドイツではネオナチ支持者が多く、コロナ禍でも陰謀説を信じてワクチン接種を拒否する層が厚い。

裏返してみれば、政治が東ドイツ国民の事を

「かまってない。」

ように見え、さらに不信感を買っている。

注釈 – ドイツ 三党連合新政権成立

*1      日本では自由民主党と紹介されるので誤解を招きやすい。実際にはリベラル派で、お金持ち & 企業を優先する。

*2      これが原因で数週間後、党首の座から転がり落ちた。

*3      この特殊な過半数を”Kanzlermehrheit”(首相過半数)という。

*4      故シュミット首相が、(故)コール首相を祝福したのが始まり。

*5     日本の岸政権では、コロナ助成金を受け取り8日で辞任となった石原伸晃氏がピエロ第一号。

 

*6     にも拘わらずCSU党首のゼーダー氏は、大臣をクビにしなかった。これが原因で9月の総選挙ではCSUは大敗を喫した。

*7    “heisser Stuhl” 熱くて長くは座れないという意味

*8    いい例が米国のハリス副大統領。州政治では検事として活躍したが、副大統領としては非難轟轟。

*9    ど~でもいいんですが、選挙運動中に別人のように痩せた。20Kgくらい落としたかも?

*10    かってドイツで文学のドクタータイトルを持って、閣僚に就任した人物と言えば、宣伝大臣のドクターゲッペルスしか思い浮かばない。

*11    具体的な名前を上げると、Mövenpick Hotel です。

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執筆者:

nishi

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