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排ガス スキャンダルの始まり – 欧州議会、排ガス規制へ例外条項を設置

投稿日:2016年12月17日 更新日:

ドイツでは一連の排ガス スキャンダルで、デイーゼル車の人気はがた落ちした。車を買い替える再、デイーゼルの中古車は下取りにとってもらえないまでに、人気がなくなった。

ところが日本ではデイーゼル車はまだ人気が落ちてない。一連のスキャンダルを巻きこした会社は、未だに「クリーン デイーゼル」というキャッチフレーズで堂々でテレビ宣伝を堂々と流している。ドイツだったら、非難轟轟の宣伝だが、観光保護にうるさくない日本なら、問題ないようだ。

しかしそもそも車メーカーによる組織的な排ガス洗浄機能の操作は、何をきっかけに、どのように始まったのだろう?

排ガス スキャンダルの始まり

フォルクスヴァーゲン社(以下、VWと略)による排ガス洗浄機能の操作の起源は、欧州議会での決議にある。かなり前の話だが、デイーゼルエンジンが健康を害する悪玉として議題にあがった。燃焼の際に出す煤(炭素の微粒子、日本で話題のPM2,8。)と二酸化窒素による空気汚染で年間、8万4千人も死んでいるという研究結果が上がってきたからだ。

ちなみにこの数字はイタリアだけの数で、ドイツでは7万2千人という数字が出ていた。そこでEU委員会は空気汚染を改善するために排ガス規制を導入することにした。

Euro 5 & Euro 6 導入

新しい排ガス基準が導入され、2009年からは”Euro 5″という排ガス基準を満たしていないと、高額な罰金を自動車税として払うことになった。2015年からはさらに厳しい”Euro 6″が導入された。

当時、メデイアは「空気が綺麗になる綺麗な規制。」とこの規制を賞賛した。不思議だったのは、厳しい筈の規定に2リットルは言うに及ばず、3リットルもの巨大なデイーゼルエンジンが易々と合格して、緑のステッカーをもらえたこと。

この緑のステッカーを貼っている車は、市内中心部へ罰金を払わずに入る事ができる。当時は素人ながら、「ガソリン車ならまだわかるが、デイーゼル社が同じように厳しい”EURO 6″に合格できるなんて何処かおかしい。」と思わずには居られなかった。そして実際にその通りだった。

欧州議会、排ガス規制へ例外条項を設置

新しい排ガス規制は、自動車業界にとって利益を奪う悪玉でしかない。そこで車業界から多額の献金をもらっているドイツの政治家がEUに働きかけて、規制の末尾に、「エンジンに損害が生じる恐れがある場合、排ガス規制機能は止めてもかまわない。」と付け加えることに成功した。

これが原因で、ドイツ、フランスに限らず日本、そして韓国の自動車メーカーまで、排ガス規制装置は車の登録試験の際にだけ機能して、日常、とりわけ気温が12度を割る日には、全く機能しないようにした。

VW 社はさらにその上を行き、車が試験されているかどうかを判断するソフトをボッシュから買い、これを装着したために世界中で槍玉にあがった。しかし排気ガスを走行中に計測すると、日本車、フランス車、米車、ドイツ車も大きく基準値からかけ離れており、やっていることに大きな違いはない。

しゃれの通じない米国の排ガス規制法

問題は米国のカリフォルニア州の排ガス規制法には、「エンジンに損害が生じる恐れがある場合、排ガス規制装置は止めてもかまわない。」と書かれていなかったこと。これが原因でVW社は訴えられて、147億ドルというべらぼうな和解金を払うことになった。

作動に問題があると知っていながら、イグニッションのリコールをせずに数名の死亡事故を起こしたGMが払った罰金はたったの9億ドルであった。米国で外国企業が同じような悪さをすると、外国企業はその10倍以上の罰金を課される。

日本の対応

不可解なのは、日本でVW社が訴られなかったこと。同社は日本でも同じように排ガス規制を操作した車を販売、日本の排ガス規制法に抵触している筈だ。お隣の韓国ではVW社は訴えられて、同社のマネージャーは検察に逮捕されてしまった。

その後、韓国の通産省は当初の千4百万ユーロの罰金に続き、「宣伝を嘘をついた。」として3百万ユーロもの高額な罰金刑を課した。しかるに日本の通産省、あるいは環境省は何故、VW を訴えないのだろう。日本の排ガス規制法にも欧州と同じような抜け穴規制があり、これが世間に知られることを恐れているのだろうか。

米国ではVWを買った消費者はこれを新品価格で返却できる上、5100~1万ドルもの賠償金を手にすることができる。なのに欧州の消費者は1セントももらえないし、車を返却することもできない。排ガス操作している同社のデーゼル車の中古車価格は下がる一方で、売却しようにも大きな損をすることになる。

欧州委員会はこの消費者の待遇の違いを問題視して、VW 社から何かしら賠償をえられないか協議中だ。間抜けなことに、そのような操作を許可する法律を同じEU委員会が考案、EU議会で議決されてしまっているので、欧州の消費者に何かしらの賠償金が支払われる可能性は低い。

未だに潔白を主張するVW

VW 社の社長は、「ちゃんと車が機能するのに、賠償金を求めるなんててどうかしている。」と客を攻撃さえしているので、VW 社が自主的に何かをしているという望みは抱かないほうがいい。

「それじゃ、今回の排ガス操作スキャンダルで何も変わらなかったのか。」と言えば、そういうわけでもない。このスキャンダルはデイーゼルエンジンの限界を示した。今後、欧州、米国は言うに及ばず、中国でも排ガス規制が厳しくなる。正確に言えば、今後はメーカーが提出した数字を信用しないで、ちゃんと計測するようになる。

するといくら「ドイツの技術力」を用いても、3リットルものデイーゼルエンジンでは、排ガス規制をクリアできなくなる。すでに1.6リットルのデイーゼルエンジンで規制値に抑えるのができず、排ガス値を操作したのだから、デイーゼルエンジンの将来は暗い。

Luftreinhaltung / 大気汚染防止法

ドイツにはビールだけではなく、空気の値にも、”Luftreinhaltung”という規則がある。市は空気汚染が基準値を超えた場合、空気の質を改善する義務があるという法律だ。ところが各都市は何もしないか、あるいはここでも紹介した環境ステッカーを導入して、市内中心部への排ガスを撒き散らす車の進入を制限しようとした。

ところがステッカーの販売で金を稼いだのはいいのだが、空気は一向に改善しなかった。(ステッカーを貼るだけで空気の質が改善するわけがない。)我慢の緒を切らせた環境団体はデユッセルドルフ市を法律違反で訴えて、勝訴してしまった。

裁判所はデユッセルドルフ市に市内の空気を改善するための具体的な措置をとるように命じた。デユッセルドルフ市はこの決定を不服として、行政最高裁判所に控訴した。

低迷するデイーゼル車需要

仮に最高裁で同様の決定が下ると、デユッセルドルフ市は空気汚染の主犯であるデイーゼル車の乗り入れ禁止を導入せざるを得ない事態に追い込まれている。ケルン、ボン、その他の都市でも同様の訴えが裁判所に出されており、デイーゼル禁止令は、ドイツ全土に広がるかもしれない。

今後、ドイツに引っ越して車を購入される場合、デイーゼル車は避けたほうが賢明だ。市内乗り入れが禁止される恐れがある上、電気自動車普及のため環境汚染の元凶であるデイーゼル車の自動車税、そしてデーゼル税を挙げて助成金を確保しようとする動きがある。そうなれば車の維持費が上昇する。

さらには中古で売ろうにも、市内乗り入れができない車を誰が買うだろう。排ガススキャンダル後、ドイツ国内ではガソリン車の登録台数が10%上昇したが、デイーゼル車も大型車でなければ、まだまだ売れている。しかし最初の都市がデイーゼル禁止令を出すや否や、デイーゼル車の需要は一気に減少する。デイーゼル車をすでに所有している方は、まだいい値がつくうちに買い換えた方がいいかもしれない。

不便な電気自動車

「じゃ、電気自動車にすればいいの?」といえば、そういうわけでもない。2016年末の時点では、電気自動車が電気をスピードチャージする場所が決定的に少ない。高い電気自動車を買っても、遠出には使えない。

VW 車制天然ガス車 ガス爆発

市内通勤とお買い物にしか車を利用せず、自宅の駐車場にコンセントがあり、環境意識が高く、いいお給料をもらっている人なら電気自動車を購入を考えるが、普通の消費者にはまだ高い高嶺の花だ。高い電気自動車の選択肢として、天然ガスを燃料とする車がある。ところがまたしてもVW社の天然ガス自動車が次々に爆発している。

コストカットに躍起になった同は安い素材を使ったガスタンクを使用したため、数年でボロボロに錆びてガスが漏れ始める。そしてエンジンのスイッチを入れると爆発するというわけだ。VW 社の反応はいかにもドイツ人らしく、爆発した車種の燃料タンクだけリコールするというものだ。

自動車雑誌が同社のガス自動車を調査してみると、リコールに指定されてないタンクもボロボロに錆びていた。GMが示した通り、死亡事故が起こってもメデイアで叩かれて販売台数が落ちるまでリコールをしないのが自動車メーカーだ。同社のガス自動車を所有している方は至急、ガスタンクを調査させよう。

内燃エンジン禁止令

面白いエピソードがあるので、ここで紹介しておこう。強大な自動車ロービーの間隙を縫って、ドイツの上院で「2030年からは内燃機関エンジンの搭載されて車の新規登録を禁止する。」という議題を賛成過半数で可決してしまった。この議題を見逃した自動車団体は、議題の決議後、一致団結してこの議題に反抗している。

上院の議決がそのまま法律になることはなく、法律になるには下院でも議決される必要があるが、下院ではそのような議題は最初から見込みがないので、議題が提出されるかどうかも疑わしい。それもこれも、すべての発端はVW社の排ガス規制操作にある。

このスキャンダルがなければ、ここまで話題が社会で議論される事はなかったろう。遅かれ早かれ電気自動車への移行は避けられず、電気自動車に欠かせないバッテリー製造では日本、韓国、そして中国企業の三つ巴の戦いになっている。消費者家電機器で苦戦を強いられて撤退を余儀なくされている日本企業、この競争に勝ち残れるだろうか。

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執筆者:

nishi

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