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オーストリア クルツ首相 汚職疑惑で辞任す!

投稿日:2021年11月16日 更新日:

オーストリア クルツ首相 汚職疑惑で辞任す!

画像提供 : Von Bundesministerium für europäische und internationale Angelegenheiten – BK Kurz in New York, CC BY 2.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=110511767

 

2021年10月、オーストリアのクルツ首相が辞任した。

自ら好んで首相の座から辞任する政治家はいないので、

「辞任に追い込まれた。」

といったほうが正解だろう。

日本では芸能人の私生活まで報道するが、外国の政治はほぼ無視。

日本人には、

「あれ、首相の名前が変わってない?」

くらいしかわからないだろう。

そこで今回は首相クルツ首相が辞任に追い込まれた

「汚職スキャンダル」

について紹介したい。

難民危機の波に乗る!

事の発端は2016年 & 2017年まで遡る。

2015年、大量の難民が欧州にやってくると難民危機が発生した。

しかし政治危機は下剋上に最適の機会を与えてくれる。

機を見るに敏なÖVP(オーストリア国民党)のクルツ氏は、この難民危機に首相への道を見た。

外務大臣に就任した氏は

「難民受け入れに反対したほうが人気が出る。」

と賢く判断、当初から一貫して難民の受け入れに反対した。

当時、オーストリアの首相の座についていたのはケルン氏だ。

氏は当初、メルケル路線を継承して、難民を受け入れた。

すなわち首相は難民を受け入れて、その外務大臣はこれに反対するという事態が生じていた。

世論は当初、難民に同情的だったが、数が多過ぎた。

2017年になると国民の大半は難民の受け入れに反対しており、

「あのクルツとかいう若造の言い分が正しかった。」

と見方を変えた。

これぞまさしくクルツ氏の望んでいた瞬間だった。

ÖVP 党首選

クルツ氏はÖVPの党首選に立候補すると、天国と地獄を動員した(*1)。

党首選に勝利すると、首相の椅子まであと一歩。

クルツ氏は連立政権のパートナーであるケルン首相が、こけるのを待っていた。

その機会は意外と早くやってきた。

支持率が低迷している首相は、

「これでは選挙に勝てない。」

と難民受け入れ派から、難民受け入れ反対派に鞍替え、保守派の国民の指示を取り戻そうとした。

しかし保守派(と右翼)は、コピー(ケルン首相)ではなく、オリジナル(クルツ外相)を支持した。

ケルン首相の変わり身は、保守派の支持を取り戻さないばかりか、(まだ支持していた)左派の支持まで失った。

この

「千載一遇のチャンス」

をクルツ氏が見逃すわけもなく、連立政権を解消して総選挙に打って出た。

僅差ではあったがクリツ氏が率いるオーストリア国民党が第一党になり、遂に首相の座を手中にした。

策士 策に溺れる

ところがまさにの策士のクルツ首相、自らの策にはまる結果となった。

2021年10月6日、ウイーンの検察当局は首相官邸、財務省、ÖVP党員会館などを強制調査、証拠品を押収した。

検察による首相の近辺の強制調査の原因になったのは(主に)、2017年のÖVPの党首選。

クルツ氏の指示を受けた財務相は国内のメデイア(*2)に対して、

「記事を買えないか。」

と持ち掛けた。

こうして作成されたのが、クルツ氏に有利な世論調査だった。

その費用の3万ユーロは財務省が、早い話、税金で支払われた。

言ってみれば規模が小さな森友学園問題のオーストリア版。

日本の財務省の役人は無駄な抵抗を試みて、自殺に追い込まれたが、オーストリア人は賢かった。

話のネタを証拠と一緒に匿名で新聞社に持ち込んだ。

これでクルツ首相の森友問題が明るみに出て、検察の強制調査となった(*3)。

オーストリア クルツ首相 汚職疑惑で辞任す!

クルツ首相は

「根拠のない言いがかり」

と非難を一蹴した。

しかしメデイアで暴露された財務省の、

「記事を買えないか。」

というSNSのメッセージは疑いようがなかった。

クルツ首相は辞任する気は毛頭なかったが、連立与党の緑の党が、

「このまま何もなかったように”business as usual”は無理な話。」

と最後通牒を突き付けた。

もし連立解消になり総選挙になれば、ÖVPはかっての収賄スキャンダルでボロ負けした極右政党のように、散々な敗北を喫するだろう。

強制捜査から3日後、クルツ首相は辞任を表明して政権の崩壊を避けた。

シャレンベルク氏 新首相に就任

もっとも策士のクルツ首相、そのまま退任すると思ったら、大間違い。

クルツ首相の後釜には、外務大臣のシャレンベルク氏が就任した。

シャレンベルク氏は、そういう言い方が正しければだが、

「外交家一家に生まれた外交官」

で、外務省で仕事をしていた官僚だった。

クルツ氏が外務大臣に就任していた際、シャレンベルク氏をÖVPに引き抜いた。

どうも二人は馬が合ったらしい。

そして第二クルツ政権では、シャレンベルク氏は外務大臣に就いていた。

分かりやすく言えば、安倍政権を継いだ菅政権のようなもの。

シャレンベルク氏はクルツ前首相に

「恩」

があるので森友問題 & 財務省の文書改善問題などに、再調査を行わない。

シャレンベルク首相である限り、クルツ氏は安泰だ(*4)。

クルツ氏は

「波風が収まる」

のを待ってカムバックを狙っている。

果たして策士のカムバックなるか、高みの見物をする理由がまたひとつ増えた。

編集後記 シャレンベルク首相辞任 & クルツ引退

12月2日、クルツ氏は政界からの引退を発表した。

理由は、

「子供の成長を見届けたいから。」

だそうだ。

同時にシャレンベルク首相も辞任して、党首の座も明け渡した。

それだけではない。

財務大臣まで辞任した。

新しい首相には内務大臣のネーハマー氏が就任する。

引退劇の裏には?

突然の引退劇の裏には、幾つもの要素が潜んでいる。

唯一関係ないのは、クルツ氏の言う、

「子供の成長を見届けたいから。」

という子供騙しの理由。

最大の理由はシャレンベルク首相が、

「クルツの操り人形」

と揶揄されて国民に人気がなかった事。

これに加えて

「国民党汚職調査員会」

が国会に設置されることになった事も、理由に挙げられる。

あまりにも汚職の証拠が揃っているので、

「記憶にございません。」

では、逃げられそうにない。

皆まで言えば、クルツ(前)首相は夏に、

「コロナ勝利宣言」

を行ったが、

「過去最悪のコロナ禍」

に見舞われて、オーストリアは真っ先にロックダウンに突入。

コロナ対策の手腕を疑われ、名声は地に落ちていた。

このままでは次回の選挙でボロ負けする。

こうした状況を考慮して、首脳部の一斉辞任に繋がった。

注釈

*1       ドイツ語の表現”Himmel und Hölle in Bewegug setzten”で、あらゆる手段を講じるという意味。

*2      オーストリア大手の Die Mediengruppe “Österreich”というメデイアです。

 

*3      日本の検察は政治家の犬になりきっており、強制捜査さえも行っていない。

*4      問題は賄賂が効かないオーストリアの検察。

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執筆者:

nishi

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