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感染防止法 改正 – 危機に弱い連邦制度の弱点露出

投稿日:2021年4月19日 更新日:

感染防止法 改正 - 危機に弱い連邦制度の弱点露出

ドイツではコロナが蔓延する前の2000年、国会にて、

「疫病が蔓延した場合の国の権限と休業等の保障」

を議論、感染防止法 /”Infektionsschutzgesetz”が成立しました。

日本の

「感染症法」

とは名前が酷似しているが、その内容は似ても似つかない物。(*1)

ドイツの感染防止法では、

「感染防止法により休業を強いられる者には、手取りのお給料の67%を保障する。」

と、ちゃんと休業補償額が決まっている。

もっともそのドイツでもコロナ第三波の真っただ中、政府は急遽、感染防止法の改革案をまとめた。

まるで日本政府のような慌てた法改正。

一体、何があったのだろう。

コロナ第三波(イギリス型変異体)の襲来

ドイツは2020年11月から、コロナ第二波の為、連続シャットダウン中だ。

当初は、

「ロックダウン ライト」

で店舗の営業も条件付きで可能だった。

このロックダウンでは効果が上がらないので、2021年1月に、

「ロックダウン ハード」

になった。店舗は食料品店などを除き、原則営業禁止。学校の対面授業も禁止、オンライン授業のみ可。

これが効いて、2月には感染者数がやっと7000人台/日まで落ちてきた。

「店舗での営業再開も近い。」

と期待に満ち溢れていたが、2月中旬以降、

「ロックダウン ハード」

にもかかわらず、感染者数は増加に転じた。

コロナ第三派(イギリス型変異体)の襲来だ。

50⇒35⇒100に

当初、メルケル首相は、

「人口10万人当たりの感染者数が50未満になったら、小売業の営業再開も可能。」

と言っていた。すると感染者数が60まで落ちてきた。

「これはマズイ!」

とメルケル首相は、

「人口10万人当たりの感染者数が35未満になったら、小売業の営業再開も可能。」

と意見をコロリと変えた。

首相は50まで

「簡単に届いてしまう。」

と思ったのだろうが、杞憂だった。

そこから感染者数は上昇に転じた。(*2)

ところがである。州は次々にロックダウンの解除を始めてしまった。

最初は学校で対面授業が開始され、子供の感染者数が急増した。(*3)

店舗での営業も再開されると、感染者数はうなぎのぼり。4月半ばには、2万9000人の新規感染者数を記録した。

メルケル首相は、

「感染率が100を超えたら、同意していた通りシャットダウンを実行して!」

と州知事に訴えたが、無視された。(*4)

結果、感染者数が増える一方なのに、政治は手をこまねいて様子を見ているという状況が発生した。

危機に弱い連邦制度の弱点露出

コロナ禍は、危機に弱い連邦制度の弱点を露出させた。

州知事の権力が強く、首相にはシャットダウンを命じる権限がないのだ。

しかし中央政府には残された1枚のカードあった。

それが感染防止法だった。

感染防止法 改正

現行の感染防止法では、感染病の蔓延時の政策決定の権限は、州知事にある。

だから感染者が増えているのに、州知事の意向で、小売店の営業再開も可能になる。

メルケル首相はこの感染防止法の欠点を改正して、

「感染率が100を超えたら、シャットダウンを実行する。」

と、感染防止法に書き込み、いう事を効かない州知事に対抗しようというわけだ。

法律で決めてしまえば、強大な権力を持つ州知事も逆らえない。

メルケル首相は内閣内で感染防止法の改正法案をまとめると、国会に提出した。

感染防止法の改正法案は、権力を奪われる州知事、そして野党からボロクソに非難された。

感染防止法 改正案 骨子

その感染防止法の改正法案の骨子は以下の通り。

コンタクト制限

一緒に逢ってもいいのは、他の家族の1名のみ

外出禁止令

21時から5時まで外出禁止

余暇施設等営業中止

クラブ、プール、ジム、サウナ、ソープランド、キャバクラなど、営業禁止

飲食店接客営業中止

飲食店は持ち帰りを除き、営業禁止

学校等

対面授業禁止

小売店

感染率が100を超えたら、ネットで購入した品のピックアップのみ可能。

などなど、実に小さなことまで規定されている。

この感染防止法案の最大の懸案が何処にあるか、おわかりだろうか。

基本権利 / Grundrechte

ドイツの憲法では、個人に基本権利 / Grundrechteが認められている。

これはドイツ人だろうが、テロリストだろうが同じで、ドイツ国内に滞在する人間には、例外なく基本権利が認められている。

言い換えれば、

「こいつはテロリスト。」

とわかっていても、逮捕状を請求して刑事告発しない限り、48時間しか拘束できない。(*5)

そのドイツでは、

「外出禁止令」

は、基本権利の侵害になる。

どの時間に何処に行こうが、個人の自由だからである。

その基本権利を制限するには、相応の理由が必要になる。

例えばそのような行動が、大勢の生命・健康を損なう恐れがある場合だ。

「まさにコロナがそれだ!」

というのは日本の論理です。

ドイツではこれを証明しなくてはならない。

コロナ禍の中、21時に出かけてコンビニにおにぎり行くことが、大勢の生命・健康を損なう危険がある事を証明するのは難しい。(*6)

今、感染防止法の改正法案が国会で論議されているが、まさにこの点で意見が大きく割れている。

Bundesnotbremse 国会で可決される!

感染防止法の改正案、ドイツでは揶揄して、

“Bundesnotbremse”

と呼ばれている。日本語に直すと、

「全国共通 急ブレーキ(法)」

その急ブレーキ法案は4月21日、国会(下院)にて政府与党の

「賛成多数」

で可決された。

しかし野党は言うまでもなく政府内からの懸念も多く、改正案はかなり水で薄めたものになってしまった。

感染防止法 改正内容

変わっていないのは、全国共通急ブレーキ法は感染率が100を超えた時点で、(自動的に)発動される点。

急ブレーキが発令されると、

コンタクト制限

一緒に逢ってもいいのは、他の家族の1名のみ

外出禁止令

22時から5時まで外出禁止

余暇施設等営業中止

クラブ、プール、ジム、サウナ、ソープランド、キャバクラなど、営業禁止

飲食店接客営業中止

飲食店は持ち帰りを除き、営業禁止

学校等

感染者数が165を超えたら、対面授業禁止

小売店

コロナ陰性テストがあれば、小売店での買い物可能。

感染率が150を超えると、ネットで買い物した品のピックアップのみ可能

詳細はドイツ政府がウエブ上で公開しているので、そちらを参照してください。

法律施行はいつ?

全国共通 急ブレーキ法案は下院を通過したので、上院に送られた。

仮に上院がこれを拒否しても、改正案は下院だけの可決で法律になることができるが。

「上院での審査に、さらに1週間はかかるんじゃ?」

と心配していたら、木曜日に即日可決された。

参照 : www.zdf.de

各州で危機的な状況にあるのが、州知事にもやっとわかってきたようだ、

あとは法案に大統領が署名をして法律となるが、

「施行されるまで、さらに無駄な時間がかかるんじゃ?」

という心配はよそに、4月24日から発効する。

すでに今、北のシュレスビヒーホルシュタイン州以外では、感染率はすでに100を超え、東では200超え。

感染防止法の改正が施行されると、即刻、全国で一斉に急ブレーキが発動することになる。

東ドイツでは即、

「学校閉鎖」

になるので、大急ぎでその準備に入っている。

注釈

*1

日本政府は2020年、

「感染が収まったら、法整備を考えてもいい。」

と、感染症法の導入を長く拒否。ところが2021年に第三派がやってくると、これまでの態度をコトリと替え、大急ぎで法整備をした。

その施策の重点は、「自粛」と「要請」に置かれている。これが命令になっても、十分な休業補償は保障されていない。

*2

4月17日の時点では160を超えた。今月中に200を超えることは間違いない。

*3

学校は校内での感染を防ぐため、複数の「校門」を設けて、「密」を避けようとした。しかし複数の校門を使って通学した生徒が、結局はひとつのクラスに座って「密」が形成される事までは考えていなかった。

*4

メルケル首相の任期はあと5か月。党首の地位を譲ってしまった今、かっての権威は完全に失われていた。

*5

日本では入国管理事務所が、難民申請をした外国人を数年に渡って監禁、北朝鮮か中国のウイグル人懲罰施設並みの非人道行為を行っている。

2021年、名古屋の入国管理監獄で、半年以上も監禁されていた31歳のスリランカ女性が死亡した。

ドイツではテロリストにも認められている弁護士との面会の権利もなく、挙句の果てには死ぬまで病院にも入院させてもらえなかった。北朝鮮並みのひどい扱いだ。

参照 : NHK

中には絶望感から自殺する難民申請者も要る。戦地から命からがら逃げてきて、日本の入国管理監獄で自殺するのだ。国連から名指して非難された日本政府は難民法を改悪、さらに難民申請者の権利を奪おうとしている。

*6

日本の裁判所なら、「それは危険行為」と判断するだろうが、ドイツの裁判所は忖度しない。

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執筆者:

nishi

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