3月になるとドイツで、”Impfdesaster” / コロナワクチン接種計画の破綻 という言葉が頻繁に聞かれるようになった。
ドイツでは米英に4週間遅れてワクチン接種が始まった。
4週間の差はあるものの、イギリスでは3月中旬までに2500万人が一回目の接種を済ませた。
同時期、ドイツで一回目の接種を済ませた人は、1000万人にも届いてない。
コロナ対策で失敗に次ぐ失敗を重ねてきたあのジョンソン首相に出来たのに、何故、ドイツはコロナワクチン接種計画が破綻 したのだろう。
この記事の目次
コロナワクチン接種計画の破綻 最大の要因
ドイツのコロナワクチン接種計画が破綻した最大の要因は、ワクチン確保をEUに一任したことにある。
そのEUは早期のワクチン確保には消極的で、
「ワクチン購入の基本合意」
で満足していた。(*1)
「長く待てば、どのワクチンが使い物になるか、はっきりするだろう。」
との憶測から、早期のワクチン確保には消極的だった。
対照的なのが米国&英国だ。
すでに2020年の夏、コロナワクチンの開発をしている企業と、購入契約を結んだ。
「どこの会社がコロナワクチン開発で成功するかわからない。」
という問題は、複数の会社と契約する事で解決した。
結果、米英は国民の数の倍以上のワクチン数を確保したが、これが決定的な差を生んだ。
EUはようやく12月になってワクチンの購入契約を結んだが、たったの2000万本。
呑気にこの時点でも、
「もっと待てば、もっといいワクチンが手に入る。」
と考えていた。(*2)
ところが2020年にコロナワクチンの開発に成功したのは、【独】ビオンテック & 【米】ファイザー社だけ。
モデルナ社のワクチンも2021年1月に認可されたが、
- 小さな会社なので生産能力が低すぎる
- 米国のワクチン輸出禁止令
で、2021年にヨーロッパに届くワクチンはたったの1500万本。
ドイツ向けはたったの30万本で、アウグスブルクの人口分でしかない。
コロナワクチン EU一括調達を選択した理由
EUでコロナワクチンを一括調達すると、ワクチンを安く買えると言う利点がある。
実際、EUは米国よりも安く【独】ビオンテック & 【米】ファイザー社のワクチン購入契約を結んだ。
せめて12月の時点で2000万本ではなく6000万本購入しておけば、今のようなワクチン不足には陥らなかっただろう。
しかしドイツは経済的にも余裕があり、コロナワクチンを単独で確保できた。少々高くても、半年もロックダウンを続けることを考えれば、
「安いお買い物」
だった。
なのに何故、EUでの一括調達にしたのか?
それはまさにEUのリーダーとして、他の加盟国も模範になろうとした
「建前。」
が理由だった。
ところがである。他の加盟国はドイツの態度に感謝することはなかった。
ハンガリーなどは、
「そんな高いコロナワクチンは要らない。」
とEUが調達した【独】ビオンテック & 【米】ファイザー社のワクチンの購入を固辞、ロシアと中国から安価なワクチンを入手する方法を選んだ。
しかしハンガリーを非難する国はなかった。日々、コロナにより数百の死者が出ているのに、
「自国民の命よりも、EUの結束の方が大事だ。」
など、言う者はいなかった。
結果としてドイツの
「建前主義。」
は、ロックダウンを半年も(そしてそれ以上)長引かせる原因となった。
状況判断の甘さ
EUのワクチン接種が遅々として進まない最大理由は、ワクチンの数が足らないから。
これに拍車をかけたのが、ワクチンの原材料不足。
ビンテック、モデルナ、アストラゼネカ、そして最後にはジョンソン&ジョンソンまで、
「約束した量のワクチンが届けられない。」
と言い出した。
その一方で米国では、
「5月までに米国民全員に、ワクチン接種をオファーする。」
と、ワクチン接種のスピードをさらに加速させている。
何故、米国ではワクチンの供給量が減らなかったのだろう。
勿論、輸出禁止令も理由のひとつだが、最大の理由は別のところにある。
それは戦時体制を引いて、原材料からワクチンを詰める瓶の生産工場まで、最優先でワクチン生産に国を挙げて努力してきたからだ。
一方、EU内では、
「原材料不足?いや、そんなことは聞いていない。」
とEUの官僚は、問題を否定し続けた。
結果、ワクチンの原材料が足らず、ワクチンの製造メーカは約束した供給量を届けることができなくなった。
ワクチン特使の任命
第二次大戦中、ドイツは米国とソビエトの大国を相手に互角に戦った。
優れた戦術もあったのが、これを可能にしたのは、米国をも凌駕する兵器生産能力の高さだった。
ヒトラーは超大国と戦う為、兵器の飛躍的な量産を目的として軍需省 / Rüstungsministerium を創設、シュペーアを軍需相に任命した。
ヒトラーの勅命を受けたシュペーアはこれまでの調達手順を破壊、
総統命令 / “Führerbefehl”を連発すると必要な原材料を接収、
「生産した兵器はすべて買い取る。」
と、軍需産業に白紙手形を与えた。
結果、ドイツの工業生産能力は飛躍的に増加、米国とソビエトを相手にしても戦えるだけの兵器の量産が可能になった。
今のドイツに欠けているのは、当時の軍需相とヒトラーの勅命を受けた軍需相だ。(*3)
3月末になってドイツ政府は、
「コロナワクチン特使を任命する。」
と発表した。
半年遅かった。
官僚制度
ドイツでコロナワクチン接種計画が破綻した3つ目の理由は、ドイツ特有の官僚制度にある。
ドイツ政府は医療従事者と80歳以上の国民が、最優先でワクチンを接種できるとした。
そしてワクチンの接種場所は、自治体が用意したワクチン接種センター。
これがマズかった。
学校で授業を再開するには、教師がコロナに対して免疫を持つことが欠かせない。しかし、
「教師を優先することはしない。」
と厚生大臣は、優先順位の例外を拒否した。(*4)
官僚にとって
「決まり事」
は何よりも大切なもの。
ワクチンが余ったら他のグループを接種するよりも、貴重なワクチンを捨てる方を優先した。
ワクチン接種センター
アウグスブルクにはワクチン接種センターがひとつだけ。
近郊の住民と会わせて32万人が、このワクチン接種センターでワクチンを接種する。
そこまではいい。
問題はワクチン接種センターの能力が、1000人/日しかない。
これでは32万人がワクチンを接種するまで、320日かかる。
あまつさえ、ワクチン接種は平日は8時~20時まで。
土曜日は10時~17時、日曜日は10時~15時まで。
これでは丸1年かかってしまう。
米国では複数のワクチン接種センターを設置、24時間営業中だ。
戦時なのに、まるでお祭りの露店の営業時間。これでワクチン接種率が上がるわけがない。
診療所での接種
ドイツでは4月に、1月~3月の3か月分を超えるワクチンの供給が計画されている。
ワクチン接種センターだけでは、さばけない。
そこで町の診療所でコロナワクチンの接種ができるように、ワクチン接種計画を変更した。
問題は診療所に届くワクチンの数。
診療所あたりわずか20本/週。
ドイツでは診療所は数百人の患者を抱えている。300人程度の小さな診療所でも15週、ほぼ4ヶ月もかかる!
診療所の医師は、
「ワクチンさえあれば、もっと接種できるのに。」
と、政府ののんびりムードにあきれ返っている。
厚生大臣は接種センターでの接種に固執、
「診療所での接種を優先すると、ワクチンの接種優先順位が守られない可能性がある。」
と、未だに戯言を言っている。
コロナ禍という国家の危機に、情けない厚生大臣を任命していたのが、ドイツにとって致命的だった。
シュペーア軍需相なら、米国のような戦時体制で問題と取り組んでいただろうに。
注釈 – コロナワクチン接種計画の破綻
*1
奇遇なことに日本政府も全く同じ政策を取り、基本合意しかしていないのに、
「国民にすべていきわたるワクチンを確保している。」
と空約束を連発していた。
*2
EUはその後も追加注文を繰り返し、2021年3月末の時点でビオンテック&ファイザー社に注文したワクチンは、1億本に上る。
*3
皮肉なことに、よりによって日本で菅政権はコロナワクチン確保のめに、河野大臣をワクチン大臣に命じた。これがドイツには欠けていた。
*4
最後には厚生大臣も、余っているアストラゼネカのワクチンを教師が接種することに同意した。