ドイツのバイオケミカル会社のビンテック社、米のファイザー社と一緒にで世界で最初にコロナワクチンを開発した。
2020年12月27日、このワクチンの接種がドイツで始まった。(*1)。
一方日本では、製薬会社が第一段階の治験を開始したばかり。
参照 : 日経ビジネス
2021年末までに国産ワクチン完成を目指すというから、
「周回遅れ」
と言われても仕方がない。なんでこんなにコロナワクチン開発のスピードが違うのだろう。
この記事の目次
コロナワクチン 開発助成金制度
コロナウイルスが欧州で蔓延した2020年春先、ドイツ政府はコロナワクチンの研究を行う企業に助成金を出すと告示した。
この告示に応募して、コロナワクチン開発助成金を獲得したのは、
- BionTech
- Curevac
- IDT Biologika
の3社だった。開発助成金の額は一社当たり2.5億~3億ユーロ。日本円で言えば、300億円~375億円だ。
参照 : ドイツ政府
ワクチンの開発に失敗しても返す必要がないこの助成金は、(比較的)小さな会社がワクチン開発失敗による業績の悪化の心配をせず、コロナワクチンの開発に専念する事を可能にした。
一方日本政府は、国民にマスクを配布する事を閣議決定した。
国民からの嘲笑にも関わらず政府は、アベノマスク第二弾調達を実施、合計で493億円に登る巨額の税金を溝に捨てた。
参照 : 東京新聞
マスクを調達する商社を助けるために使われた死に金だった。その金を日本の製薬会社にワクチン開発に使っていれば、
「ワクチン開発の周回遅れ」
になる事はなかったろう。
世界を舞台にしてコロナワクチンの開発競争でドイツの会社が勝利できた裏には、技術力に加えて政府の賢い政策があった。
ドイツ政府痛恨のエラー
とは言っても、褒めることができるのはここまで。
税金を払ってコロナワクチン開発を援助したのはいいが、その先がお粗末だった。
ドイツ政府はその財力を生かしてコロンワクチンを真っ先に調達&接種を始めて
「またドイツが一人勝ち」
して、EU内の結束を弱める事を懸念した。
ドイツ政府はEUの結束を尊重するあまり、EUでワクチンを承認、EUが加盟国の分のワクチンを調達するという、官僚的な方法を採択した。
エラーはそれだけではない。ワクチンの認可申請はEMA(欧州薬品局)が英米ような緊急の認可申請ではなく、通常の認可手続きを行うとした。
ドイツだけでも(最高で)1000人の死者が出ている緊急時にだ。
通常の認可手続きで認可が下りても、それで終わりではない。
その後、ドイツ国内で担当機関がワクチンの認可審査を行い、それからEU全土で一斉にコロナワクチン接種という、実に回りくどい政策を取った。
この回りくどいワクチン認可手続きのお陰で、ドイツ政府が税金をつぎ込んで開発に成功したワクチンが、英国、米国、カナダ、さらにはUAEで先に接種が始まるという事態になった。
お陰で米国はすでに7月、ビオンテックが開発したワクチンをオーダーしているのに、EUは11月になっても
「注文するかもしれません。」
という基本合意だけ。(*2)
「ドイツで(税金を使って)開発されたワクチンの接種が、他の国で真っ先に接種されることになる。この状態を国民にどう説明する。」
と、厚生大臣を始めとするドイツの政治家がEUの官僚に怒りをぶちまけた。この声明を聞いて、
「これはマズイ!」
とやっと動き出したEU官僚、11月11日になってまずは2億万本のワクチンをオーダー、
「追加でさらに1億万本注文するかも。」
とやった。
ドイツで税金を使って開発されたワクチンが、最初にイギリスで、次いで米国で使用できるのだったら、
「コロナワクチン開発助成金」
など設けて税金を無駄にせず、何処かの企業が開発したワクチンを買った方が、安くて早かった。
足らないコロナワクチン
問題はそれでは終わらなかった。
12月28日から公式に始まったコロンワクチン接種、1月2日の時点で18万8553名が接種した。
ドイツ政府はこの数字を誇っているのかもしれないが、現時点ではワクチンの接種は小休止状態にある。
肝心要のコロナワクチンが足らないのだ。(*4)折角、10月から準備していたコロナワクチン接種センターは、医師もスタッフも待機しているのに開店休業状態だ。
ここで政府が、
「1月初旬に予定されていたワクチンの配送は中止する。」
とやったらから、州知事が怒った。(*5)

ワクチン接種の順番を決めて、
「あなたは1月〇日に接種センターに来てください。」
とやっていたのに、これではすべて水の泡だ。
さらにはドイツで過去最高を記録したコロナによる死者数。11月からロックダウンをしているのに、
「気持ち」
しか減らない感染者数。
このままでは春先までロックダウンが必要になる。そんな事をやった日には、ドイツ経済はボロボロになってしまう。
感染による死者を減らし、1日でも早くロックダウンを解除するには、コロナワクチンが必要だ。しかしドイツ政府が、
「EUに任せて一括調達」
と決めてしまったため、コロナワクチンが全然足らない。
野党の非難
2021年にはドイツで総選挙がある。
政府を非難するネタを探していた野党にとって、これほど絶好の機会を提供してくれるテーマはない。
経済最優先の FDP 党首リントナー氏は、
「国内の製薬メーカーにワクチンのパテント生産を命じるべきだ!」
と国営放送で発言、支持者から喝さいを受けた。中には、
「2回接種が必要なワクチンを1回で済ませば、倍の人が接種できる。」
と主張する政治家まで。それほどまでにコロナワクチンの不足は社会で大きなテーマになっている。旗色が悪くなった厚生大臣は、
「ワクチンは最新の技術と経験が必要で、他社で真似できるもではない。」
と、これを一蹴。実際、コロナワクチンを開発しているビオンテックの社長も、
「ワクチンはうがい薬じゃない。そんな簡単に生産できるものではない。」
「ワクチンの生産設備は、何処かに生産を開始できる状態で空いているものではない。」
と厚生大臣を擁護した。が、別の雑誌でのインタビューでは、
「EUのワクチン確保政策は、理解し難い所もある。」
とも語っている。氏が言うには、
「EUは年末になれば複数のコロナワクチンが認可されているだろうから、その時点で一番いいワクチンを注文すればいい。」
との想定からワクチンの注文を行ってきたという。
ところが2021年1月初旬の時点で、EUで認可されたワクチンはビオンテックのワクチンだけ。あまつさえEU各国は第二、第三のロックダウンの真っただ中。
これ以上死者を増やさず、経済へのダメージをこれ以上広げないため、一刻も早くワクチンが欲しい。ところが他国が先に注文しているので、今、追加の注文しても配送の順番が来るのは夏以降になる。(*6)
ドイツ政府 EU抜きで 足らないコロナワクチン を注文!
「このままではマズイ。」
と悟った厚生大臣、ビオンテック社とごり押しの交渉を開始すると、1億本のコロナワクチンをEU抜きで注文した。
参照 : www.waz.de
米国のモデルナ社に注文済みのワクチンを合わせると、ドイツ政府は6800万人分のワクチンを確保したことになる。厚生大臣は、
「2021年内にすべて届く契約だ。」
と言っているが、一番ワクチンが欲しい今の時期、少ないワクチンで我慢しなくてはならない。(*5)
それもこれも、「ドイツが独り勝ち」して隣国から非難を避ける事を懸念したばかりに。倫理上は正しい決定かもしれないが、経済的には痛恨のエラーだった。
注釈 – 足らないコロナワクチン
*1
本当は12月28日から開始する予定だったが、ザクセンーアンハルト州のある市長が、「1日でも早い方がいい。」とフライングした。
この市長、自身の宣伝の為にメデイアにフライングをちゃっかり通報しており、
「ドイツで最初のコロナワクチン接種」
が全国はおろか、日本でもテレビで報道されることになった。
*2
日本政府もファイザー社とコロナワクチンの基本合意を交わしているが、購入契約ではない。日本でワクチンの使用認可が下りて、2月にどれだけ届けられるか、大きな疑問が残る。
米国が12月に1億本のワクチンを追加注文したが、
「夏までには届ける。」
という内容だ。
参照 : www.spiegel.de
*3
ビオンテック社は夏までに、ー75℃で貯蔵する必要のない新型ワクチンを出荷する予定だ。
*4
ドイツ全土で年内に届いたワクチンは130万本。これはミュンヘンの人口よりも少ない。
*5
州知事の逆鱗に触れた中央政府 / Bund 、1月8日に第二回目のワクチン配布(268万本)を行うと、前言を翻した。
*6
2020年夏、ビオンテック社はスイスの製薬会社、ノバルテイスからマールブルクにある薬の製造施設を買収した。
3月(早ければ2月中)にはこの製造ラインが必要な改修を終えて稼働を開始、大量の供給が可能になるかもしれない。