先週、アメリカで地方銀行が相次いで倒産した。
すると
「今がお金を稼ぐチャンス!」
とユーチューバー(本人はクリエイターと自称)が
「金融危機の再来だ!」
と叫び、火に油を注ぎこんでいる。
そこで今回は急遽、米国で発生した金融危機について取り上げます。
この記事の目次
事の始まり
今回の
「金融危機」
の
「引き金」
になったのは、2022年に始まった急激な利上げだ。
銀行は国が発行する国債を買い取ってる。
が、急激な利上げにより
「国債の市場価格」
が大幅に下落してしまった。
言うなれば
「塩漬けの株」
のようなもの。
勿論、国債を満期まで保有していれば、何も問題がない。
が、10年物国債購入に支払った大金を満期まで運用できないと、銀行が運営できる資金は大きく目減りする。
そんな状況で銀行の客が一気にお金を引き出すと、
「払う金がない。」
という事になりかねない。
通常では滅多にないケースが、その
「稀なケース」
が起きたのが、アメリカのシリコンバレー銀行だった。
シリコンバレー銀行倒産
シリコンバレー銀行は米国を代表する
「初期のスタートアップ企業」
を資金面で援助している銀行だ。
しかし初期のスタートアップ企業と言えば、赤字の自転車操業。
常に投資家からの支援がないと、倒産してしまう。
ところが金利の上昇で資金繰りが困難に。
そこでシリコンバレー銀行に預けている
「預金」
を一気に引き下ろしたのが、金融騒動の引き金になった。
「ヤバイ!」
と思ったシリコンバレー銀行は増資をして、急場をしのごうとした。
が、これを許してしまうと2008年のリーマンと同じ。
当時、リーマンブラザースは紙屑の債権を投資家に売り、これが
「金融危機を世界中に広げるナパーム弾」
となり、世界の金融システムが崩壊の崖っぷちまで追い込まれた。
幸い、今回は当局が未然に介入して増資を禁止。
シリコンバレー銀行は倒産する事になった。
ドミノ効果
このようにシリコンバレー銀行は
「稀なケース」
だった。
が、銀行は互いにお金を貸し合っている。
そのひとつが倒産すると、他の銀行も負債を背負い込み経営が傾きかねない。
俗に言うドミノ効果だ。
案の定、今度はニューヨークの地方銀行
“Signature Bank”
が倒産した。
「シリコンバレー銀行の惨状」
を見た市民が一気に預金を引き出そうと、銀行に殺到したのが原因だ。
窮状に陥っているのは、”Signature Bank”だけではない。
地方銀行は多かれ少なけれ、資金繰りが厳しい。
このままいけば、週明けには金融危機2.0になる可能性があった。
FRBの介入
2008年、リーマンブラザースの倒産が世界の金融システムを
「崩壊の崖っぷち」
まで追い込んだもうひとつの理由は、当局が事情を正しく認識していなかった事。
銀行倒産のドミノ効果を止めるには、
「無条件の預金額の保障」
という
「伝家の宝刀」
を持ち出すしかない。
が、共和党政権はこれを躊躇、
「注視していれば、落ち着く。」
と誤解、貴重な時間を無駄に費やした。
今回は違った。
連邦銀行は、
「月曜日までに救済プランが整っていないと、えらい事になる。」
事を認知しており、週末に緊急対策会議を開いた。
その会議でFRBは
- 預金者のお金は上限なく全額保証
- 月曜日から自由に引き出しができる
- 銀行は国債等を担保にして発行額で融資を受けれる
という救済案を決議した。
この救済案により、まずは預金者の地方銀行への取次騒ぎを鎮める。
次いで赤字国債を抱えている銀行は、国債の時価ではなく発行額で融資を受けれる。
これにより取次騒ぎが再燃しても、銀行は十分なキャッシュを確保できる。
救済プランの効果は?
緊張をもって始まった月曜日の株式取引。
ドイツの株式市場の指標”Dax”は、3%も下落。
今年一番の下げ幅だ。
その中でも銀行株は10%以上も下落した。
まさにリーマンショックの再来だ。
震源となった米国の株式市場では月曜日、地方銀行の株は再び大幅下落。
が、全体としては下落が止まり、ほぼ金曜日の水準で取引を終えた。
火曜日には地方銀行株は大幅上昇に転じた。
明きからにFRBの救済プランが効いている。
が、安心するのはまだ早い。
一度金融不安が発生すると、そう簡単に不安を払しょくできるものではない。
少なくてもここ1~2週間は様子を見る必要がある。
3月末になっても暴落が起きていなければ、最悪の事態は避けられたかもしれない。
ドイツの預金は大丈夫?
今回の取次騒ぎを引き起こしたシリコンバレー銀行、欧州に支店を持っている。
イギリス支店は
「粗相」
を起こさないように、閉鎖された。
すると、
「今がお買い時!」
とHSBC銀行が1ポンドで買収した。
フランクフルトにあるシリコンバレー銀行支店は、銀行監査局が即刻営業停止処分を下した。
と聞けば、シリコンバレー銀行にお金を預けていないのに、
「私の預金は大丈夫?」
と心配を始めるのが大衆心理。
安心あれ!
欧州には
“Einlagensicherung”(預金確保)
というシステムがあるので、銀行が倒産しても預金は10万ユーロまでは保証されています。
ユーチューバーに騙されないで!
今回の
「ミニ金融危機」
は、2008年のリーマンショックとはその質も規模も大きく異なる。
当時は世界中の大銀行がリーマンの紙屑債権を購入しており、倒産寸前に追い込まれた。
今回は基本、地方銀行だけの問題。
それもほぼ米国だけに限られている。
それでも今回のような神経質な時期には、
「推測で物を言う。」
のは辞め、事実だけの報道にとどめるべき。
しかし!
世の中には回転すしチェーンで
「間抜けな行動」
を撮影して注目を浴びたくして仕方がない輩がいる。
今回も多くのユーチューバーが
「金融危機2.0到来だ!。」
などと唱えている。
お金(宣伝収入)目的で恐怖心を煽るその姿勢は、迷惑動画を投稿する若者と何一つ変わらない。
どうかそんな連中を信用しないで、自分でちゃんと調べてください。
その際に役に立つのが外国語。
「日本語だけ」
だと情報はかなり限られたもの。
ドイツ語と英語で調べることができれば、あなたの情報の信頼性は増します。
ただドイツのユーチューバーもかなりひどく、日本のユーチューバーと大差ありません。
信用しては駄目。