2022年7月21日、欧州中央銀行が11年振りの利上げを決定した。
その目的は、8.6%ものインフレを抑え込むためだ。
しかし戦艦大和の特攻出撃のように、
「遅きに逸した」
感がぬぐえない。
何故、欧州中央銀行は今まで利上げを遅らせたのか?
そして
“Otto-Normal-Verbraucher”(一般消費者)
には利上げによって何が変わるのだろう。
この記事の目次
マイナス金利よさらば!
現在、欧州中央銀行(以下、EZBと略)は、利率を0%と定めている。
それよりも一般消費者にとって問題だったのは、銀行がEZBに支払いなどの為にお金をパーク(駐金)すると、マイナス0.5%もの金利がかかった事。
これが原因で各銀行は、
“Verwahrentgelt”(お預かり手数料)
を導入した。
すなわち!
消費者が銀行にお金を預けると、利子を払うという逆現象が発生した。
銀行が手数料を払うなら、
「いっそお金を貸して金利を取った方がいい。」
と投資が増えて、経済が好転する事を期待した結果だ。
なかったです。
その一方で不動産会社は金利が安いので、多額の金を借入。
マイナス金利が追い風となり、ドイツでは空前絶後の不動産ブームが発生した。
お陰で家賃は上昇する一方で、消費者にとってマイナス金利の恩恵は何も特がなかった。
急激なインフレーション
リーマンショックの際、各国の中央銀行は日銀の政策を真似て、国債や社債を購入する事を決定した。
俗に言う、大幅金融緩和だ。
「そんな事をしたら、ハイパーインフレーションが起きてしまう!」
という名高い経済学者の警告とは裏腹に、インフレところかデフレになった。
そこでさらに大幅な金融緩和を決定、これに金融緩和の延長が続いた。
この金融緩和は借金の多い国にとって、麻薬のようなもの。
いくら借金をしても、EZBが国債を買ってくれるので、金利が上がらない。
安い利子で借金ができる。
だったらどうして、人気のない緊縮財政などを行う必要がある?
こうして各国の中央銀行にとって大幅金融緩和は
「万能薬」
になった。
コロナ禍で景気が落ち込むと、各国の中央銀行はかってない規模の大幅金融緩和を導入。
オオカミ少年のように、
「インフレなんか、起こりっこない。」
と高をくくっていた。
ところが三度目の正直、インフレーションがやってきた。
コロナ禍 & 中国のゼロコロナ政策で流通が妨げられて、物不足。
同時に自宅待機を迫られて、消費が増えたからです。
1年以上前から銀行や投資家が、
「大きなインフレがやってくる兆候がある。」
と警告を鳴らしていた。
2021年10月、ドイツでインフレが4.1%まで上昇した。
ここでドイツ銀行のゼーヴィンク頭取が
「このインフレは一時的なものではない。もっと根が深い。」
と警告を発した。
これを
「EZBへの挑戦状」
と見たラガードEZB総裁は、
「インフレは一時的なものだ。」
と直ちにコメント、ゼーヴィンク頭取に
「余計なことは言うな!」
とサインを送った。
やってきた大インフレーション
これがきっかけでEZB総裁は
「マダム インフレーション」
というあだ名をいただいた。
そしてインフレは、あだ名だけでは終わらなかった。
米国では民主党政権が国民にお金をばらまいたのが原因で、インフレはもっと深刻だった。
FRB(連邦銀行)が最初の、すでに遅すぎた利上げを告知しても、マダム インフレーションは動かなかった。
マダム インフレーションはフランス人だから。
政治家はできるだけ長い期間、政権の中枢に座って、おいしい汁を吸い取ることしか考えていない。
なのに緊縮財政をなんぞ告知しようものなら、一気に政権から転落。
お給料はおろか、もっとおいしい賄賂が入ってこなくなる。
だからフランス、イタリア、スペイン、ポルトガルなど、ラテン国家は、できるだけ長く金融緩和を続けることを望んだ。
だから2022年7月の今の時点でも、EZBは未だに国債を買っている。
インフレが8.6%にも達しているのにだ。
欧州中央銀行 11年振りの利上げ
流石にインフレが8.6%になると、マダム インフレーションも言い訳も尽きた。
それにもまして、インフレを毛嫌いするドイツ人の
「いい加減にしろ!」
に他の国も賛成し始めた。
マダム インフレーションはEZB内での孤立を避けるため、
「次回のEZB定例会議で、025%の金利上昇の決定を行う。」
と告知した。
そして7月21日のEZBの定例会議の後、マダム インフレーションは
「7月30日をもって、金利を0.5%と定める。」
と発表した。
マダム インフレーションでもやっと、事の重大さがわかってきた。
金利が0.25%じゃ、インフレーションには屁の河童。
そこで金利の上げ幅を、倍増させた。
米国でFRBが0.75%の金利上昇という過激な手段を用いて、なんとかインフレを抑え込もうとしているのも、大いに参考になった。
もっと大事なことに銀行がEZBにお金をパークしても、7月30日より手数料はなくなる。
これにより多くの銀行が個人客に貸していた
“Verwahrentgelt”(お預かり手数料)
もなくなる(筈だ)。
効き目はあるの?
11年振りのEZBの金利の値上げ発表はドイツ国内で、
「それみたことか!」
という勝ち誇った声から、
「遅過ぎる!」
という批判の声で受け入れられた。
そもそもインフレ退治には、金利の値上げは直接の効果はない。
金利を上げる事により、消費が落ち込む。
いい例がアパートや新居などの建築。
「金利が高くてとても、、、。」
と諦める人が多くなる。
アパートを建てる人が少なくなれば、建築資材も必要ないので、価格が落ちてくる。
こうしてゆっくりと、物価少々率が下がり始める。
だから早め早めの対策が必要なのだ。
なのにマダム インフレーションは1年以上も現実逃避。
そう簡単にインフレは退治できるものではない。
“Faustregel”(指標)
として、
という過去のデータがある。
今の物価上昇率は8.6%で、金利は7月30日から0.5%。
天の神様が本当に居て、今後、物価上昇率が減少に転じるとしよう。
その場合でも、インフレ退治には2~3年間かかる。
もしマダム インフレーションではなく、ドイツ人がEZB総裁であれば、もう1年前に金利上昇の決定をしていただろうに、、。