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【最高裁判決】Cum-Ex 取引は違法なり 逃亡税理弁護士スイスで逮捕!

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【最高裁判決】Cum-Ex 取引は違法なり 逃亡税理弁護士スイスで逮捕!

しばらく前にここで取り上げたのが、合法な脱税と呼ばれきた Cum-Ex。

違法です。

しかしそこは理屈の好きなドイツ人。

「いや、違法じゃない。」

と、堂々とCum-Exを繰り返してきた懲りない面々がいる。

全国で最初に検察に検挙されたのはイギリス人ブローカーで、

「法律の抜け穴を利用しただけ、違法じゃない。」

と最後まで争った。

ちょうど最高裁の判決が出たので、その結果と判決の余波について解説してみたい。

Cum-Ex とは?

株主の楽しみが年に一回の配当金(*1)

歯がゆいのが高い税金。

日本よりも全然高いです。

ところがこの税金を取り戻す方法があるんです。

それは株主の住所が外国の場合です。

ドイツの税金は、ドイツに居住している人にしか課されません。

ドイツの株を外国に住む、外国人が保有しているとします。

その外国人株主に配当金が支払われる際、ドイツ国内居住者同様に、高い税金が差し引かれます(*2)。

質問
それでは法律違反じゃないですか?

 

なので、外国人投資家は銀行から

「税金支払い明細」

をもらい、これを該当する税務署に送り違法に税金の還付を申請します。

Cum-Ex のからくり

ここまではすべて合法です。

違法になるのはここから。

ドイツでは株主総会の日に株を保有している株主に、配当金が支払われます。

質問
株主総会の日に株を売却 & 購入すると?

 

その場合、配当日に同じ株を複数の株主が保有していることになります。

でも配当金は一回しか出ません。

このように複数の株の所有者が存在する場合、株主総会の前の日から株を保有している株主に配当金が支払われます。

ところが銀行が複数の株主に

「税金支払い明細」

を発行するんです。

これをもらった投資家は、実際には払ってもいない税金の返還請求を上げ、税金の還付を受けます。

これが”Cum-Ex”の仕組みです。

脱税に加担した銀行

脱税に加担した銀行

“Cum-Ex”は、銀行の積極的な加担なしには不可能だった税法上のトリックです。

中には投資家向けに、

「”Cum-Ex”は、元金保証の確実な商売です。」

と、セールスをしていた銀行までいた。

そもそも配当金は、銘柄により株価の2~5%程度。

「税金支払い明細」

で還付されるのは、その20%程度。

具体的な例を挙げてみよう。

かってはドイツ最大の建設会社だった

“Bilfinger”(*3)

という会社がある。

倒産寸前まで逝ったが、なんとか再生。

毎年、1ユーロの配当金を払ってくれる。

払う税金は1ユーロにつき、(大体)20セント。

税金の還付を申請するとこの20セントが戻ってくるので、株価28ユーロで換算するとマージン率は0.07%。

投資家のような金に飢えたサメが

「おいしい」

と感じるのは100万ユーロから。

それには1億5千万ユーロもの資金が必要になる。

「そんなお金がない。」

という投資家には、銀行は喜んで融資した。(*4)。

10年以上も続いたこの違法行為により、ドイツが被った被害額は300億ユーロとも、

500億ユーロとも言われている(*5)。

最終的には2010年、時の財務大臣ショイブレ氏が発令して通達で、全国的に禁止となった。

脱税者狩り始まる!

ドイツで一番脱税に厳しい州は、ノルトラインーヴェストファーレン州。

“Cum-Ex”でも例外ではなく、検察はハンブルクにある”Warburg Bank”のトレーダー2名を脱税ほう助の罪で逮捕した。

銀行には脱税で州に与えた損害、1億5500万ユーロの賠償を命じられた。

参照 : ndr.de

 

この事件はドイツで最初の”Cum-Ex”事件の逮捕劇とあって、大きく注目された。

逮捕されたイギリス人トレーダーは

「違法なことは何もしていない。」

と裁判所に訴えたが、検察に協力する事で罪を軽減してもらう正しい判断を下した(*6)。

検察側も

「そこそこの知識」

はあったが、”Cum-Ex”で脱税を繰り返してきたトレーダーの

「生の情報」

は、これから始まる何百という数の検挙には欠かせないものだった。

首相候補ショルツ氏の言い訳

読者の中には、

「ちょっと待って、おかしいよ!」

と思われた読者もいるかもしれない。

質問
何がおかしいの?

 

ハンブルクの銀行に対して、ノルトラインーヴェストファーレン州の検察が動くのがおかしいです。

東京で起きた犯罪に、長崎県警が東京まで乗り込んで被疑者を逮捕するようなもんです。

越境行為です。

もっとも被害にあった人物、この場合は税務署がノルトラインーヴェストファーレン州にあれば、操作は可能です。

すると、

質問
何でハンブルクの検察が動かなかったの?

 

疑問に思ったあなたは、シャーロック ホームズ並みのするどい洞察力を持っている。

実はSPDの党首、兼、SPDの首相候補であるショルツ氏は、ハンブルクの(元)州知事であった。

SPD 人気投票で党首を選ぶ – 末期症状?

そのショルツ氏の州知事時代の

「刎頚の友」

が”Warburg Bank”の頭取。

まさかお友達に対して強制捜査はまずいでしょう。

だから

「お友達をかばったのではないか?」

と言われています。

実際、ショルツ氏は”Warburg Bank”のお友達を何度か訪問していました。

その後、開かれた国会調査委員会にてショルツ氏は、訪問の理由、会話の内容を聞かれ、

「記憶にございません。」

と回答。

そんな人物がドイツの首相になろうと言うのだから、情けない。

逃亡税理弁護士スイスで逮捕!

日本人は自分で考えるより、

「誰かが決めたルール」

に従うのが大好き(*7)。

一方、ドイツは理屈が大好き!

“Cum-Ex”でも、

「これは違法じゃない。法律の抜け穴を利用した合法な商売。」

と、言い張る税理弁護士がいた。

この自論で、

“Mister Cum-Ex ”

の異名をいただいたのが、ドイツの税理弁護士のハノ ベルガー氏だ。

全国を股に掛け

「”Cum-Ex”で儲ける方法」

を伝授して回った。

ドイツで最初の逮捕者が出ると、その資産を保管しているスイスに逃亡した。

質問
何故、スイスに?

 

それはドイツとスイスの間では、指名手配犯の身柄引き渡し条約がないから。

日本で犯罪を犯しした者が好んで、フィリピンに逃げるようなもの。

ドイツ政府はカンカンに怒ったが、後の祭り。

EU全域で指名手配を取るべく、国内で欠席裁判を開始した。

ところがである、2021年7月、スイスの司法当局は、

「悠々自適」

の生活を送っていたベルガー氏の身柄を拘束してしまった!

言う間でもなく、ドイツからの身柄引き渡し要求に応じるための措置である。

【最高裁判決】Cum-Ex 取引は違法なり

ちょうどここでイギリス人ブローカーが

「無罪」

を訴えていた案件で、最高裁判所の判決が出た。

最高裁は、

「法律の抜け穴はなかったし、”Cum-Ex”は違法な脱税行為である。」

と、明確な判決を下した。

この最高裁の判決に拠り、二人のイギリス人ブローカーへの罪状が確定した。

もっとも検察に

「大変協力的」

であったため、どちらも執行猶予で済んだ。

しかし違法取引で引き起こした損益に対して、1400万ユーロの支払いを命じた。

これにより刑務所に入らなくて済むが、一生、借金に追われる生活になる。

一方、ブローカーを雇い違法な”Cum-Ex”を行ってきた”Warburg Bank”には、1億7600万ユーロの支払いを命じた。

最高裁判決の余波

この記事を読んで、

「”Warburg Bank”はひどい銀行だ。」

と思うかもしれない。

確かに褒められたものではないが、銀行は何処も同じ穴の狢です。

州政府が運営している”Landesbank”(州銀行)さえもこの”Cum-Ex”事件に加担、州政府の財政に害を与える行為を平然と行っていた。

それほどまでに”Cum-Ex”は日常化していたんです。

最高裁で”Cum-Ex”違法判決が出た今、多くの銀行は罰金の支払い命令におびえている。

自業自得だろう。

ノルトラインーヴェストファーレン州の検察は最高裁の判決を受けて、人員を補充、ドイツ全土にその捜査網を広げている。

有名なドイツ銀行やコメルツ銀行が訴えられるのは、避けられない。

そうそう。

“Mister Cum-Ex”の身柄がドイツの司法に引き渡されるのは、時間の問題。

スイスで快適な生活をしていただけに、監獄で過ごす余生はかなり応えるだろう。

注釈

*1      ドイツでは2回や4回に分けず、3~5月に株主総会を開き、その後に一回で配当金を払う形が一般的です。

*2      日本のように株主が、「配当金〇〇もらいました。」とする自己申告制では、脱税する輩がいます。このため、税金は一律強制徴収されます。

*3

参照 : bilfinger

 

*4      銀行は通常の手数料の数倍の手数料を要求できたので、おいしい商売だった。

*5      歴代の税務大臣はこの違法行為を知りながら、何も対抗措置を取らなかった。

*6     最初の検挙であることが幸いした。今後の検挙では、そうは問屋が卸さない。

*7     ルールに意味があるかどうかは二の次で、「ルールに従う」ことに意味を見出すのが日本人。

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執筆者:

nishi

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