古タイヤ はお金の山?
毎年、日本だけでも9400万本も出る古タイヤ。
この古タイヤのリサイクル、どうやっているかご存知ですか。
「21世紀の今日、さぞかし素晴らしい技術でリサイクルされているに違いない。」
と思います。が、実際にはタイヤが発明された19世紀から変わらず、古タイヤの大部分は
「リサイクル」
の名の下に燃やされています。
勿論、そのまま燃やすわけでなく細かく裁断して、ボイラーで熱源として燃やされている。
参照 : 住友ゴム
これは厳密に言えばリサイクルではなく、単なる廃物処理。ところがドイツのある会社が、古タイヤを本当にリサイクルする技術を開発した。
この記事の目次
【世界初!】熱分解で 古タイヤ をリサイクル!
古タイヤをリサイクルする技術の名前は、熱分解技術 / Thermolyse-Technik。
この技術を用いると、古タイヤを構成している元の物質に還元できる。ケーキを使ってわかりやすく説明すると、熱分解技術を用いれば、ケーキを料理する前の小麦粉、卵、砂糖に分解するという仕組みだ。
古タイヤを元の構成物質に戻すには、まずは古タイヤをシュレッダーにかけて、裁断する。
この過程でタイヤに含まれているワイヤーが取り出されて、屑鉄として製鉄業者に売却される。残った古タイヤの「ぶつ切り」は、コーヒー豆のグラインダーのような機械で、粉にされる。
古タイヤの粉は特許を取っている熱分解炉に加えられる。熱分解炉はおよそ700℃の温度で、二酸化炭素を出さないように古タイヤの粉を「調理」する。
この過程で古タイヤの粉は蒸発して、元の構成物質であるガス、オイル、それにコークスに分解される。ガスは施設内の発電所にパイプラインで送られる。
熱分解施設はここで得られた電気で100%運営できるので、外部のエネルギー源を必要としない。
コークスはタイヤメーカーに売却されて、またタイヤになる。オイルは(現在は)世界最大のケミカル企業 BASFがすべて買い取り、樹皮、薬、化粧品に加工される。
ピュールム イノベーション株式会社
この熱分解技術は、古タイヤを100%リサイクルできる、世界初の技術だ。
この技術を開発したのはドイツの西の果て、サールランド州にあるピュールム イノベーション株式会社 /”Pyrum Innovations AG”。
古タイヤのリサイクルを思いついたパスカス氏は、12年間、この熱分解路の開発に取り組んできた。しかし誰も物になるとは思ってもおらず、資金不足に苦しんだ。
転機が訪れたのはコロナ禍の2020年夏、世界最大のケミカル企業 BASFが、1600万ユーロをピュールム イノベーション株式会社に投資した。
資金面でも大きな転機であったが、それ以上に
「あのBASFが投資した。」
という事実が、一気に会社の信用度を増した。
「古タイヤのリサイクル?」
と斜めに見ていた銀行が、
「金を貸したい。」
と、列を作るようになった。
古タイヤ リサイクル拡張計画
ピュールム イノベーション株式会社(名前が長いので、以降、ピュールムと呼びます)は、今、本社のあるディリンゲンで3000本の古タイヤをリサイクルしている。
年間で7万本ほどの古タイヤの処理能力になるが、ドイツ中に古タイヤが大量に蓄積されており、ドイツに眠る資源をリサイクルするだけで数十年かかってしまう。
欧州全域に視野を広げてみれば、無尽蔵の資源が眠っており、そのポテンシャルは高い。
こうした背景もあり、ピュールムに投資しているケミカル企業 BASFは、欧州全土に50の古タイヤ分解炉の建設を計画している。
まずはその第一歩として、ディリンゲンにさらに二つの熱分解路を設置する。ここで得たノウハウを、欧州全土への拡張に利用したいと考えている。