2007/8年、米国で起きたサプライム危機は金融危機を巻き起こし、世界中に広がっていった。
欧州ではユーロ導入の際、
「ユーロ導入条件」
を満たさない国まで、ユーロを導入していた。
金融危機は欧州のまさにこの弱点を露呈させ、ギリシャは事実上財政破綻した。
これが2010年に起きたユーロ危機で、銀行は疑心暗鬼になり融資をためらった。
そこで、
「銀行はお金を貯めこまないで、投資に回すべし!」
と、導入されたのがマイナス金利だった。
この記事の目次
懲罰金利 の一般化
ドイツではマイナス金利を、懲罰金利とも言います。
当初は銀行だけに採用された懲罰金利だが、次第に個人の口座にも適用され始めた。
それでもまだ数年前は、
「大金持ちだけの贅沢な悩み」
だった。
ところがマイナス金利の長期化により、懲罰金利が一般ピープルの残高にまで採用されるほど一般化してしまった。
これに並行して銀行は、新たな手数料を導入している。
ドイツのいい所は、
「そうは問屋が卸さない。」
と、消費者団体が訴えてくれること。
今回は銀行の手数料導入に関して最高裁の判決が出たので、この機会に紹介したいと思う。
銀行に課されるマイナス金利 0.5%
現在、欧州中央銀行(以降、EZBと略)が貸している懲罰金利は、マイナス0.5%。
銀行は、
「EZBに懲罰金利を払うので、、。」
と言い訳して、個人客にも懲罰金利を課している。
が、懲罰金利が採用されるのは、銀行が数百億ユーロ以上の金をEZBに保管するときだけ。
なので
「懲罰金利を払うので、、。」
という理由は必ずしも当たらない。
それどころか金融機関がEZBからお金を借りると、マイナス金利で借金が減るというオマケ付き。
2020年、フランクフルトのスパールカッセ(銀行)は、マイナス金利で75億ユーロも稼いだ。
ところがである。
我々が銀行に行き、
「事業を始めるので、10万ユーロほど借りたい。」
というと、ちゃっかりプラス金利を課される。
さらには、
「遺産が10万ユーロ入ったので、貯金したい。」
と言うと、懲罰金利が課される。
ど~みても不公平。
さらに!
ドイツの銀行が2018年払った懲罰金利は全部合わせても、24億ユーロ。
ピーナッツではないものの(*1)、ドイツ銀行が社員に給与に加えて払っボーナスは19億ユーロ。
EZBに払うマイナス金利は、銀行にとってそれほど大きな負担ではない。
懲罰金利 – どの残高からマイナス金利が適用?
以前は懲罰金利が適用されるのは、残高が100万ユーロを超えるお金持ちだけの
「贅沢な悩み」
だった。
それが50万ユーロに引き下げられ、去年からは多くの銀行で10万ユーロの残高から懲罰金利が適用されている。
この懲罰金利の
「境目」
は毎年、下方修正されている。
結果、PSD Bankのように、1ユーロの残高からマイナス1%の懲罰金利を納入しているケースもある。
EZBのマイナス金利政策は、まだしばらく続きそう。
マイナス金利を払いたくなければ、あなたの財産次第で50万ユーロ、あるいはせめて10万ユーロまで、懲罰金利が課せられない銀行を探すしかない。(*2)
普通口座比較 / Girokonten-Vergleich
という消費者の心理を利用して、
“Check24”
というグーグル系列の
「ドイツ版 価格com」
が、普通口座比較 /Girokonten-Vergleich をネットで公開した。
ところがである。
グーグルがだたで公開するわけもなく、裏の考えがあっての事。
実際、1700以上ある銀行の中から、600ほどの口座を抜粋して比較しただけ。
それも銀行に幾つもある口座の種類を無視して、比較の対象になったのは
“Check24”
がワケあって選んだ、ひとつの口座だけ。
消費者団体は、
「業界全体の比較ではなく、”Check24″が出したい結果を導くための誘導比較である。」
と非難した。
「これ以上、非難の対象になってはイメージ落下に繋がる。」
と判断した”Check24″は、普通口座比較をお蔵入りにした。
国営 普通口座比較サイト
政治家はこのチャンスを利用、
「国営の普通口座比較サイトが必要だ!」
と主張、選挙の前にテレビカメラに移ろうとした。
ところが国の仕事は遅い。
現時点では、
「2022年の半ばには、完成させたい。」
と悠長な話。
そもそも今年の秋には総選挙もあり、国営の比較サイトが本当に作成されるか確実ではない。
それまでの間、ドイツで唯一信用できる消費者団体、
“Stiftung Wasrenest”
が、無償で普通口座比較を公開することになった。(*3)
口座維持手数料 / Kontoführungsgebühren
マイナス金利が登場する前、銀行は口座維持手数料 / Kontoführungsgebühren を導入していた。
すると消費者が、
「手数料が課せられない口座はないものか?」
と、手数料のない口座を探し始めた。
そこで、
「手数料無し!」
と宣伝、多くの客を獲得した銀行があった。
ところがである。
手数料のない筈の口座を取得しても毎月、
”Verwahrentgelte”
が引かれます。
と、度々、お問い合わせいただきました。
そのまま訳せば管理費。
平たく言えば、手数料です。
と、度々、お問い合わせいただきました。
「手数料なし!」
と書いたので、手数料と書いたら契約違反です。
でも管理費だったら、約束違反に当たりません。(*4)
口座利用規約 変更のお知らせ
もうひとつ、銀行が手数料を導入するためによく使う手段がある。
それが、
「口座利用規約 変更のお知らせ」
だ。
皆さんのお手元にもグーグルやらメルカリなどから、
「利用規約更新のお知らせ」
がよく届きますよね。
銀行は、
「手数料なし!」
で提供していた口座に手数料を課すために、この口座利用規約変更のお知らせを利用している。
そこにはいつも決まって(何処かに)、
「〇月〇日までに異論なき場合、規約の変更に同意したものとみなします。」
と書かれている。
真面目に利用規約なんぞ読む人がいないことは想定の上(*5)。
こうして銀行は、
「手数料無料」
「懲罰金利なし!」
で獲得した客から、手数料を取っている。
沈黙は了解にあらず
ある大手の銀行(*6)が、このせこいて手を使って、口座維持手数料を導入しようとした。
消費者団体は、
「この手段は不透明極まりなし。」
として、銀行のあくどい慣習を違法として訴えた。
最高裁判所は、
「沈黙は了解にあらず。」
と、この訴えを認め、銀行のこれまでの慣習を違法とした。
この判決は、銀行業界に大きな波紋を投げかけている。
5月から同じ方法で口座維持手数料4.90ユーロを導入する
「了解」
を客から得ていたコメルツ銀行などは、
「手数料の導入を見送る。」
と発表。
ドイツの銀行業界全体が、対応を迫られている。
これまでせこい方法で手数料を取っていた銀行にとって、災いはもっと大きい。
違法な口座維持手数料
最高裁の判決によると、銀行は違法な方法で手数料を取っていたことになる。
なれば消費者には、違法に徴収された手数料+利子の返還を要求する権利が生まれることになる。
過去に課された手数料は
「時効」
になってしまったが、2018年以降に課された手数料を要求できる。
ドイツ銀行やコメルツ銀行は顧客からの返却要求に備えて、
「賠償費用」
を設ける事を余儀なくされている。
とは言っても銀行がそう簡単に
「わかりました。」
という事はないだろうが、最高裁の判決を引用してあなたの銀行に手数料の返還を要求してみてはどうだろう。
運が良ければ、お金が戻ってくるかもしれない。
注釈 – 懲罰金利 どの残高からマイナス金利が適用?
*1 1994年、不動産会社が支払い不能になり、500千万マルクの負債を抱えて倒産した。
ドイツ銀行のスポークスマンはこの負債額を「ピーナッツ」と呼び、国民の怒りを一身に集めることに成功した。
*2 懲罰金利は銀行(支店)が独自に決めるので、銀行、あるいは同じ銀行でも支店によりマイナス金利はさまざま。
50万ユーロまで懲罰金利が課せられない銀行口座をふたつ開設すれば、99万9999ユーロまでマイナス金利がかかりません。
*3 通常は有償なので、今のうちにダウンロード!
*4 「これは契約違反だ!」と最高裁判所まで訴えれば、勝てると思いますが、そこまでやる人は稀。
裁判で勝っても、銀行が新しい名前を考えたら、最初からやり直しです。
*5 私の使用している銀行からも口座口座利用規約 変更のお知らせが届いたので、「同意しません。」と返事。お陰で未だに手数料はなし。
*6 Postbank です。