ドイツの達人になる 賃貸

検証!リノベーションは必要なくなった説

投稿日:2018年10月17日 更新日:


リノベーションは必要?

ドイツでは日常生活の細かい点まで法律(民法)でびっしり規定されています。例。「インターネットで買った商品は、2週間以内なら返品可能。」と定められているので、どこの店もこれを守ります。さもないと訴えられて裁判で負け、相手の弁護士費用から裁判費用まで払わなければなりません。ですから日本のように、「返品はお受けしておりません。」という商売は存在していません。

賃貸関連

アパート等の賃貸でも、どこまでが合法なのか、びっしり民法で定められています。日本のように「敷引き」、すなわち保証金から勝手にアパートの補修費を差し引きくのは違法です。アパートの賃貸で、大家が礼金を取るのも違法。びっしり細かい点まで決まってはいるものの、ドイツで一番多い民事訴訟は、賃貸に関するもの。

ここではドイツに留学された皆さんが、「どうせ日本人は何も知らない。」と足元をみられて法外な請求をされないように、随時、最新の法律、最高裁判所の判決を紹介しています。

検証!リノベーションは必要なくなった説

日本人社会で生活していると、事実とはかけ離れた話を、「ドイツでは○○は必要なくなったそうですよ。」と、根拠も示さずに平気で語る方が居ます。そういう話のほとんどはデマです。具体例を挙げてみます。

最近お問い合わせをいただいたのは、「ドイツで2年間働けば、何処でも働ける労働許可証がもらえると聞きました。」というもの。勿論、デマです。こういう類のデマの共通点は、話を信じる(信じたい)人に都合のいいように、(勝手に)法律が変えられている点。

話が事実なら都合がいいので、デマを信じてしまうのですが、現実はそんなに甘くはありません。今でも日本人社会には、「アパートを出るときのリノベーションは必要なくなった。」と信じ、これをことあるごとに翠帳している方が居ます。

誤解の元

仮にあなたが大家であるとしましょう。アパートはリノベーションをしてほぼ新品同様。このアパートを3年間貸し、賃貸人が出て行く際、「リノベーションは私がやりますので、あたなは何もしなくてもいいですよ。」と言いますか。

ちなみにリノベーション費用の目安は、アパートの損傷次第ですが、目安として家賃の3か月分。日本では上述のように敷金からリノベーション費用として半額とるケースも少なくありません。

聞かれる間でもなく、誰だって賃貸人にリノベーションを要求します。しかるに「リノベーションが要らなくなった。」という日本人社会の神話は、ある裁判所の判決(の間違った解釈に)拠ります。

リノベーションは必要なし

かってドイツで賃貸契約書を結ぶと、「キッチン、浴室は3年おき、その他の部屋は5年おきにリノベーションすること。」という条項が賃貸契約書に書かれていました。ある賃貸人は、「滅多に料理なんかしない。キッチンは入居したときと同じ状態。」とリノベーションを拒否。

すると大家は、「契約書にリノベーション時期が明記されており、これにサインしたんだからリノベーションをすべし。」と要求。どちらも頑として譲らず、争いは最高裁判所までいきました。

最高裁は、「アパート、部屋、キッチンの状況に関係なく、リノベーションの時期を事前に決定、賃貸人にリノベーションを強いるのは、賃貸人に不当な財政的な負担を強いる。」と判決。お陰でこの条項は契約書に書かれていて、サインされていても無効となりました。 BGB §§ 307, 535;AGBG § 9

これが、「リノベーションは必要ない。」説の(間違った)根拠となりました。判決を最後まで読まずに、「リノベーションは必要ない!」と短絡的に判断してしまったのが原因です。この話を聞いた人も、根拠(判決例)を読まずに鵜呑みにして、「聞いた話では。」と別の人に語り、ドイツ伝説が誕生することになりました。

リノベーションは必要なし その二

基本的にアパートのリノベーションは大家の仕事です。少なくともドイツの民法ではそのように明記されています。しかし大家はこれを賃貸人に「責任転嫁」することも合法で可能です。すなわち大家自身がアパートをリノベーションして、リノベーション済みの状態で、賃貸人にアパートを賃貸する場合。この場合はリノベーションは賃貸人の責任になります。

ところが大家はケチ。とりわけ今のドイツ(の大都市)では、空きアパートは稀で大人気。この人気を利用してリノベーションしてないアパートを賃貸する際に、「賃貸人はアパートをリノベーションして返還するべし。」と契約書に書いた大家が居ました。

賃貸人もアパートが欲しいので、文句を言わないで契約書にサイン。数年後にアパートを出る際になって、「アパートはリノベーションれてない状態で引き継いだから、リノベーションはしない。」と主張。

すると大家は、「契約書にリノベーションが明記されており、これにサインしたんだからリノベーションをすべし。」と要求。どちらも頑として譲らず、争いは最高裁判所までいきました。

最高裁は、「リノベーションされていないアパートをリノベーションして返却するとなると、賃貸した時点よりもいい状態でアパートを返すことになる。これは賃貸人に不当な負担を強いるものである。」と判決。お陰でこの条項は契約書に書かれていて、サインされていても無効となりました。 Aktenzeichen VIII ZR 185/14

リノベーションは必要なし その三

時々大家が賃貸人を探さないで、賃貸人が次の賃貸人を探すケースもあります。例えば、アパートに備え付けたキッチンや家具を次の賃貸人に売りたいケース。あるいは契約の解約期間の前にアパートを出るので、自分で賃貸人を探す必要があるケース。

どんな事情であったかそれは不明ですが、賃貸人が次の賃貸人を見つけてきて、大家もこれに了解。めでたく賃貸契約の運びとなりました。肝心のアパートは前の賃貸人がリノベーション済みで借りたため、リノベーションを済ませて返すべきですが、そこは倹約家のドイツ人。「家具を無償で譲るから、その代わりに出る際にはリノベーションをやってくれ。」と責任を押し付けて逃げていきました。

賃貸人もアパートが欲しいので、文句を言わないで契約書にサイン。数年後にアパートを出る際になって、「アパートはリノベーションれてない状態で引き継いだから、リノベーションはしない。」と主張。

すると大家は、「契約書にリノベーションが明記されており、これにサインしたんだからリノベーションをすべし。」と要求。どちらも頑として譲らず、争いは最高裁判所までいきました。

最高裁は、「リノベーションされていないアパートをリノベーションして返却するとなると、賃貸した時点よりもいい状態でアパートを返すことになる。これは賃貸人に不当な負担を強いるものである。」と判決。

参照元 : Umwelt Bundesamt

さらには、「賃貸人が前の賃貸人と交わした取り決めは、二者の間で有効なもので、大家はこの取り決めの遵守を要求する権利はない。」と判決理由を説明。もし大家さんもこの契約書にサインをしていれば、話は別だったかもしれませんが、二者間の取り決めであったため、大家さんの負け。 Az.: VIII ZR 277/16

結論

すなわち「リノベーションされていないアパートを賃貸した場合は、リノベーションする必要がない。」という大原則があります。逆に言えば、リノベーションされているアパートを賃貸した場合は、リノベーションする必要があります。これを逃れる手段はただひとつ。

それは上述の判例のように次の賃貸人にリノベーションの責任を押し付けること。アパートを借りる際に、この手を使ってリノベーションを押し付けてくる輩が居たら要注意。大家さんもこの取り決めにサインをすると、逃げ場なし。そのような申し出に騙されませんように。

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執筆者:

nishi

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