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フルクスワーゲン vs.プリヴェント 下請け会社の謀反

投稿日:2016年9月8日 更新日:

フルクスワーゲン vs.プリヴェント 下請け会社の謀反
フルクスワーゲン vs.プリヴェント 下請け会社の謀反

メーカーの恐喝

自動車部品メーカーにとって、メーカー様はお殿様のような存在。

陳情を上げるだけで、契約を切られる可能性があり、まさに主従関係という言葉がぴったりだ。

新しい部品が必要となると、メーカーは部品を製造しているサプライヤーをホテルに呼び寄せる。各社はホテルの別々の部屋に「軟禁」されて、勝手に部屋から出ることは許されない。

ここでメーカー側が各部屋を回って、見積もりを取る。見積もりを見たメーカー側は、「お隣さんは、○○ユーロで作れると言っている。」と供給先を徹底的に締め上げて、1セントでも安い値段を恐喝する。

最近はこのようなグループ恐喝は少なくなり、会社に部品のサプライヤーを呼びつける。時間通りに来ても、メーカー側の担当者が出てくるまで数時間も待たされる。

夏だと部屋の冷房を切って、面会を待っている下請け会社に死ぬほど汗をかかせる。勿論、水もコーヒーも何もださない。

相手が精神的に参っていると会議室に担当者がやってきて、やっと交渉が始まるが、

「その値段じゃ、お話にならない。」

と部品メーカーをぎゅうぎゅうと締め上げる。この交渉が10時間以上かかることも珍しくなく、部品メーカーはその地獄のような交渉の結果、受注できても利潤はわずか3~5%程度しかない。

メーカー側は、

「販売台数は今年だけで5万台を見込んでいる。」

というので、5万個+αで価格を計算して、受注する。しかし実際には景気の動向、車が消費者に受け入れられず、せいぜい2万台しか売れないこともある。

部品メーカーは、5万個の納入で値段を計算しているので、2万個では大赤字になる。ところがメーカー側はこうしたリスクを部品メーカーに押し付ける。

「車がもっと売れても、同じ値段で買うのだから、おあいこだ。」

という理屈だ。

こうしてドイツの部品メーカーは、

“Zu viel zum Sterben, zu wenig zum Leben.”(死ぬには多すぎて、まとな生活をするには少なすぎる。)

という厳しい環境にさらされている。例外はボッシュなどの、他社では提供できない技術を提供している企業だ。

勿論、デンソウから同じ部品を納入できるが、VW がトヨタの系列会社に部品を注文することはない。

フルクスワーゲン 下請け会社の謀反

このように下請け会社はメーカーの奴隷のような存在を強いられているが、あまりにひどい扱いをすると下請け業者といえど、反抗することがある。少なくともドイツでは。

VW に車のシートカバーを納入している “Car Trim”という会社。それにVWにギヤ部品を納入している”ES Automobilguss”とう会社は金曜日に、

「VW への部品の納入をストップした。」

と宣言、トヨタを追い越す勢いのVWを震撼させた。

参照 : japan.diplo.de

部品が納入されなければ、倉庫にある部品は1~2日で使い尽くされて、生産ラインが止まってしまう。

VW は値段を叩くため、この会社にVWの”Butter und Brot”(バターとパン)であるゴルフとパサートの部品をこの部品会社に一括発注していた。

この為、急遽、他の会社から部品を調達するわけにもいかない。日本人なら、

「部品が届かないと困るんですよ!」

と怒鳴り合いになるだろう。ドイツでも同じ局面が展開されたが、部品会社は恐喝に負けなかった。

そこでVWのマネージメントは、VW の全ドイツ工場での生産ラインのストップが避けれられないと判断、従業員を強制休暇に送り出すべく直ちに労働局と”Kurzarbeit”(短縮時間労働)の調整に入った。

労働局がこれを認可すると、仕事が再開するまで失業保険が支払われる。その一方でVWは裁判所に、自動車部品の強制差し押さえを申請、裁判所はこれを認可した。

もっともドイツの法律では相手側にこの決定に不服を申し立てる権利が認められている。この期限が10日も先の8月31日なので、VW の生産ラインのストップは避けられない。

1日で数千台のゴルフを製造している全生産ラインがストップすると、これによる会社の損益は1億ユーロ/日と言われている。

10日も生産ラインが止まったら、巨額の損益になる。一体何が原因で部品メーカーはVWへの部品提供を拒否したのだろう。

フルクスワーゲン vs プリヴェント 過去からの確執

この部品メーカーは両者、”Prevent”という親会社の子会社だ。

この会社はかってのユーゴスラビア、今日のボスニアに本社を置く会社だ。ボスニアでは生産工場をVWと共同で運営するなど、関係は深い。

プリヴェント社の声明では、VW は過去に同社と新車(の部品)を共同開発して、同社に部品を発注した。しかしその後、この共同事業は実現することなく破棄されてしまった。

プリヴェント社は開発に費やした費用、8000万ユーロの損害賠償をVWに求めたが、VW はこれを拒否。どんなにお願いしてもVW が一向に支払う気がないので、今回の部品の納入ストップに踏み切った。

この決断により将来、VW からの部品の受注が減る、あるいはなくなる可能性を承知の上での決定だ。同社には、絶対に負けないカードがあったに違いない。

VW は部品の購入価格を下げるため、同社に部品をまとめて受注した。これが皮肉にも、同社に「切り札」を与えることになった。

この部品メーカーからの部品がなければ、わずか数日で生産ラインが止まってしまう。専門家の言う通り生産ラインのストップによるVWの損益が1日1億ユーロもかかるなら、8000万ユーロの損害賠償を払ったほうが格段に安い

こうして同社は部品の供給ストップに踏み切った。

これに対してVWは、

「プリヴェント社の部品に欠陥があったのが原因で、VW にはなんら責任はない。」

と同社の立場を主張した。ドイツではメーカーが部品サプライヤーへの支払いを渋ることことも珍しくなく、その理由として頻繁に使われるのが部品の欠陥だ。

プリヴェント社は、

「VW は正当な支払いを逃れるために、ありもしない理由を挙げているにすぎない。」

と反論、比較にならないほど小さな部品メーカーが、VW に真っ向から戦いを挑んだ。

フルクスワーゲン 下請け会社 確執の裏には

自動車業界に詳しいアナリストは、よりによって今になって問題が表面化した面も指摘した。

排ガス操作スキャンダルにより、VW のイメージは大きく傷ついた。落ち込んだ販売台数を回復するため、同社は世界中で大幅な割引を提供、安い値段で販売台数を維持している。

しかしVWはアウデイに比べて利益率が低いので、この値引きにより同社の利益率はさらに悪化した。

それでも会社に利益が出るように、同社は部品メーカーにさらなる値引きを要求した。部品供給メーカーは、

「排ガス操作スキャンダルはVWの責任なのに、何故、関係のない部品メーカーがその代償を払うのか?」

と機嫌を著しく損ねている。そして以前から賠償金支払いの懸案を抱えていた部品メーカーが、VW の圧制についに我慢できなくなり謀反を起こしたわけだ。

相互理解

VW は月曜日から部品サプライヤーのヒーローとなったこの会社と、部品納入再開について協議を始めた。

話し合いは20時間も中断なしで続けられた事実が、その厳しい交渉現場を想像させる。VW は火曜日になって、

「部品供給再開について、部品メーカーと相互理解に達した。」

と発表した。VW の言う「相互理解」がどんな理解なのか、鈴木自動車はよくその経験から語ることができるに違いない。

この相互理解にもかかわらず、部品がVWの組立工場に届いて生産ラインが再び稼動を始めるまで、丸1週間かかった。

お陰で2万8千人もの労働者が自宅待機を余儀なくされた。VW は労働局に短縮労働時間を申請したが、

「会社と部品メーカーの争いのツケを納税者が払うのはおかしい。」

とこれを拒否したので、VW は自腹でお給料を払わなければならず、VW の損害は数百万ユーロになると見られている。

今日、車メーカーは自社で部品を製造しないで、部品メーカーが開発、生産した部品を組み立てるだけ。部品メーカーあってのメーカーだ。お互いに共存できるように関係を築く必要がある。

これを認識していないと、メーカーが脅し文句で使う、

「生産ラインを止めるつもりか!」

と逆手にとって、部品サプライヤーは生産ラインを本当にストップさせることができる。少なくともドイツでは。

もっともVWは今後、何らかの処置で逆襲に出る可能性もある。この戦いはまだまだ長く続きそうだ。

編集後記 – フルクスワーゲン vs.プリヴェント 下請け会社の謀反

自動車部品メーカーにとって、メーカー様はお殿様のような存在。

陳情を上げるだけで、契約を切られる可能性があり、まさに主従関係という言葉がぴったりだ。

新しい部品が必要となると、メーカーは部品を製造しているサプライヤーをホテルに呼び寄せる。各社はホテルの別々の部屋に「軟禁」されて、勝手に部屋から出ることは許されない。

2018年4月になってVWは部品メーカー、プリヴェント社との契約をすべて解約した。

これが2年前の報復措置であったことは容易に想像できる。2週間後、プリヴェント社はVWに対して20億ユーロの損害賠償請求訴訟を起こした。

こうしてメーカーと部品メーカーの戦いは、裁判所で抗争されることになった。この部品メーカーの

「メーカーの好き勝手にされてまるものか。」

根性には感心するばかり。損害賠償請求の示談条件として、再び部品供給のオーダーが入ってくることを祈ってます。

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執筆者:

nishi

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