KGB出身のプーチンには殺人の外交手段のひとつ
王家独裁国家では、王様を批判すると命を失う。
サウジアラビアの王政を非難したレポーターは、トルコにあるサウジアラビアの大使館で拷問された挙句に、殺害された。
その遺体は大使館内で解体され、バックに詰めて誰にもわからない場所に葬られた。
殺害を命じた皇太子はボデイガードを5名死刑にして、身の潔白を主張した。
参照 : Süddeutsche Zeitung
この方法、他人に罪を着せて処刑する、は、とりわけ世界中の王家で好まれる万策解決法だ。
タイの王様、ラーマ8世が自殺した際、タイ政府は近衛兵2名を国王の殺害で告訴、処刑した。
参照 : Adelswelt
仏教でも自殺はご法度。王様は神様の生まれ変わりなので、自殺などという間違った行動はとらないと、国民に説明する必要があった。そしてタイの国民はこれを信じた。
日本も例外ではなく、明治時代の大逆事件しかり。
ドイツでも第二帝国時代、リープクネヒトとルクセンブルクが濡れぎぬを着せられて、殺害された。
参照 : welt
ドイツが他の国と違うのは、ドイツ政府が誤りを認めて、処刑された共産主義者の身分潔白を宣言した点だ。
この記事の目次
ロシアでプーチン非難
王家批判と同様に危険なのが、ロシアでのプーチン非難。
これまでに処刑されたプーチン批判家だけで、サッカーチームが構成できる。その代表を挙げれば2006年に処刑された女性レポーター。
参照 : Deutsche Welle
2015年はプーチンの執務室が見える場所で、反対派の政治家が殺害された。
参照 : Handelsblatt
2019年にロシアから逃げてきたグルジア人が、ベルリンのテイアーガルテンでロシアから派遣された暗殺者に殺害された。
この件では、プーチン大統領は殺害を否定しようともしなかった。つまるところ、プーチンの敵になれば、ロンドンだろうが、ベルリンだろうが、安息の地はないということだ。
プーチン批判家 ナヴァルニイ氏 毒殺未遂事件
こうした数々の暗殺事件にも関わらず、それでも政府(プーチン)批判家が尽きることがないのが、ロシアの凄い所。
今回、プーチン大統領の暗殺リストに載ったのは弁護士で、民主派政党のアレクセイ ナヴァルニイ氏だ。
氏はブログやYoutube を使ってプーチン政権を痛烈に批判、瞬く間に反体制派のヒーローになった。プーチン皇帝に対して、歯に物着せぬ言い方が、余程、癪に障ったのだろう。
プーチン皇帝は強盗の仕業にみせかけてナヴァルニイ氏を処刑する方法ではなく、もっと苦しんで死ぬ方法を選んだ。
氏がシベリアの空港で立ち寄ったカフェで毒を盛られた。
毒物の存在を否定する医師
飛行機の中で吐き、痙攣をおこしたナヴァルニイ氏は病院に収容されたが、その病院はすでにプーチン皇帝の手下がすでに準備を整えていた。
ナヴァルニイ氏を診た医師は毒物の存在を否定、「ナヴァルニイ氏はアレルギーを起こしただけ。」と、主張した。
ドイツ政府はすぐに救助を申し出て、医師を乗せた飛行機をシベリアまで派遣した。が、プーチン皇帝の命を受けた病院は、ナヴァルニイ氏の移送を拒否した。
氏はすでに昏睡状態で、虫の息。このままシベリアの病院で死ぬと思われていたが、氏の奥さんが夫の暗殺を命じたプーチン大統領に、
「夫をドイツに行かせてくれ。」
と懇願した。これで鬱憤が少し晴れたのか、それとも移送を拒否すると疑われると思ったのか、プーチン大統領は移送を許可した。
ナヴァルニイ氏 ベルリンのシャリテー病院に収容される
ナヴァルニイ氏は、ドイツが誇る最大、かつ最高の医術を誇るベルリンのシャリテー病院に収容された。ちなみに氏のステータスは、「メルケル首相の客人」だ。
シャリテー病院に収容されると、内務省はナヴァルニイ氏に24時間の身辺警護を付けた。2019年にロシアの刺客が政敵の暗殺を実行しており、ドイツだからといって安心はできない。
ましてやナヴァルニイ氏がベルリンで死ねば、プーチン大統領はすべての責任をベルリンに負わせることができるというオマケ付き。これが故の身辺警護だった。
参照 : Deutsche Welle
暗殺に使用された化学兵器とは?
ナヴァルニイ氏の検査をした医師は、体内から “Cholinesterase-Hemmer”を発見したが、どういう毒物なのか確定できなかった。
そこでドイツ軍の化学兵器部隊から専門家が派遣された。ドイツ軍の専門家は毒物が70年代にソビエトで開発された化学兵器で、一種の神経ガスである事を突き止めた。
参照 : Deutsche Welle
これは由々しき問題で、化学兵器の使用はジュネーブ条約で禁止されている。ロシアもこの条約を批准している。
ロンドンでプーチン大統領の命で実行された化学兵器による暗殺未遂事件に続く、化学兵器の使用だ。
メルケル首相は記者会見を開き、
「化学兵器による攻撃は許されない。」
と、プーチン大統領の名前を出すことなく、暗殺計画を非難した。もっとも他の政治家はそれほど自制する必要を感じておらず、
「またしてもプーチン大統領の命令による暗殺(未遂)だ。」
と、直接、下手人の名前を挙げた。
ロシアの反応
ロシア政府はドイツのこのような公式発表が出る事を予期しており、
「ロシアでは毒物は確認できなかったので、毒物が検出されたらな、ベルリンの病院で毒を盛られたのだ。」
と、顔を赤らめることなく、コメントを出して、ドイツ政府のせいにしている。
参照 : Bild
日本政府にもこのくらいのしたたかさがあれば、北朝鮮との交渉も安心して任せておけるのだが、毎回、騙され放し、、。
日本人はすぐムキになって反応する。先の外務大臣も、韓国との対話ですぐに堪忍袋のヲを切らしていた。
ロシア政府のように、暗殺を命じても、その手口が暴露されも、涼しい顔で居られる余裕が欲しい、、。
ナヴァルニイ氏 毒殺未遂事件 – ドイツの対応
ドイツはこの一件をNato と EU に報告、EUで共通した対応を取ると声明を出している。
が、EUは全会一致式を取っているので、対ロシア制裁が採決されるか、微妙だ。とりわけオーストリア政府は「ロシア理解派」で知られている。
今、課されている制裁さえも、
「必要ない。撤廃するべきだ。」
と主張している。化学兵器の使用でオーストリア政府の態度が変わることはあるだろうか?
Nord Stream 2 廃棄?
こころがドイツには、とっておきの切り札が残ってる。
それはNord Strem 2と呼ばれるガスのパイプラインだ。これまでロシアのガスは、ウクライナやポーランドを経由して、パイプラインでドイツに輸送されていた。
この地上式のパイプラインでは、ウクライナとポーランドに「トランジット料」を払う必要がある。これを払いたくないロシア政府が計画、敷設を始めたのが北海を通って直接ドイツまで届くパイプラインで、Nord Stream 2 と呼ばれる。
ウクライナやポーランドは、
「収入がなくなる。」
とNord Stream 2 に大反対。一方、高い液化LPG ガスをドイツに売りたい米国も大反対。しかしドイツ政府は、
「内政干渉だ。」
という立場を取ってきた。しかし、今回の化学兵器による暗殺未遂を見せつけられて、
「商売は商売。」
と知らん顔をはできない。今、この完成間近に迫ったNord Stream 2を破棄すれば、ロシアには滅茶苦茶痛い。
果たしてドイツ政府は、そのような思い切った対抗措置ができるだろうか。個人的には、無理だと思う。
野党や次期首相候補からは、
「ここで一発、ガツーンと見舞わせることが必要だ。」
という声が上がっている。
参照 : zeit