日本で環境保護を謳うと、選挙で勝てない。
国民の関心が、お笑い番組と芸能人の私生活にしか向いていないという、世界に例を見ない
「国民の政治離れ」
が原因だ。
さらには政党が環境保護を謳うと、企業献金が減る。
政治と経済はもちつもたれつなので、経済界が嫌う政策を政策のトップにもってくるなど、もってのほか。
こうして日本では環境保護は100%
「政治任せ」
になっている。(*1)
が、欧州では若者が環境保護を政治に求めている。
結果、政治家は勿論だが、経済界まで消費者に
「ボイコット」
されないように、環境保護へ方向転換を迫られている。
ドイツも例外ではなく、原子力発電に続き、今度は石炭発電からの脱却を決めた。
この記事の目次
京都議定書
地球温暖化が叫ばれて、半世紀以上も経つ(*2)。
しかし各国の政府は、二酸化炭素による地球温暖化の危険性を指摘するだけ。
「これではいかん!」
と先進国の首脳が1997年に京都に集まって決めたのが、京都議定書。
という最低限の取り決めだったのに、誰一人守らなかった。
さらには2012年が過ぎても、次の環境会議を開く予定さえ決まらないというやる気のなさ。
パリ協定
ようやく2015年、パリで京都議定書に変わる環境目標を議論することになった。
「同意に達するなんて、無理な話。」
と思われていたが、欧州での環境意識の高まりが転換点となった。
なんと196ヶ国が、パリで画期的な環境保護目標で同意に達した。
しかし目標を定めはしたものの、これを達成する本当の努力をしている国は、人口の少ない北欧の国に限られている。
先進国のエゴ
中国やインドに、EU並みの環境保護を求めるのは過大要求だろう。
しかし中国に次ぐ環境破壊大国のアメリカは、国内の石炭産業を保護するために協定からの脱退を宣言した。
アジアの最先進国である日本は火力発電に頼っている結果、二酸化炭素の排出量はほとんど減っていない。
もっとも米国のように、パリ協定から正直に脱退する勇気もない。
そこで、
「頑張ったけど、目標に到達できませんでした。」
というアリバイを作る政策に専念している。
スウエーデンの環境保護運動家、トゥーンベルクが激怒するのも無理はない。
欧州各国の現状
欧州各国の現状は、そこまでひどくない。
しかしドイツでも、政府が定めた二酸化炭素の放出削減目標を達するには至っていない。
そのドイツが日本と違うのは、
車大好きのドイツ人が車を諦めて、自転車で通勤を始めるなど、国民の意識は着実に変わってきている。
ここまで来てようやくドイツ政府は重い腰を上げて、環境殺しNr.1である石炭発電からの脱却プランの作成を命じた。
石炭発電からの脱却 – 環境目標 2020
いみじくもドイツの国歌、
“Deutschland über Alles.”(世界に冠たるドイツ)
が示す通り、ドイツ人は優等生でなければ気がすまない。
典型的なドイツ人の誇りのひとつが、”Export-Weltmeister”(輸出高世界一)だ。
ドイツの人口は日本の2/3でありながら、あの巨大な中国と輸出高世界一を争っている。
そしてドイツ人はこれを大いに誇りに思っている。
そのドイツ人が、
と(勝手に)言い出して決めたのが、「環境目標 2020」だ。
ドイツ政府はこの計画書で二酸化炭素の放出量を1990年と比較して、2020年までに40%削減するとした。
しかし2018年の時点で、この目標には到達できそうにない(*3)。
政府はその責任を自身の努力不足に求めず、
「デイーゼル自動車乗り入れ禁止により、消費者がガソリン車に変更、ガソリンの消費量が上昇したため。」
と言い訳した。
EUの二酸化炭素の削減目標
自身で定めた目標に達しない場合、恥をかくだけで済む。
しかしドイツはEU加盟国が決めた二酸化炭素の削減目標までも、
「目標に達するかしらん?」
と心配になってきた。
EUの規定では、交通、建築、農業部門でドイツは2005年から2020年の15年で、14%の二酸化炭素削減を行なうとされている。
ところがドイツ政府は2017年の時点で達成した削減量は6%。
残り3年では逆立ちしても14%に達しない。
問題は、
「頑張ったけど、できませんでした。」
では済まないこと。
EUの規定に反すると、罰金を課されるのだ。お金持ちのドイツは罰金は払えるが、ドイツ人の誇りが許さない。
「ドイツは口先だけ。」
と言われ、ドイツ人の誇りが傷ついた。
そこでドイツ政府は重い腰を上げて、
「根本的な問題」
を向き合うことにした。
ドイツのエネルギー政策転換
今後もデイーゼル車の登録台数は、減る一方だ。
しかし日本と違ってドイツではハイブリット車、電気自動車の人気がなく、期待するほど登録台数が増えない(*4)。
結果、ガソリンの消費量が増えて、二酸化差炭素の放出量は削減どころか、増加する。
かと言って電気自動車やハイブリット車をさらに奨励すると、ドイツ車ではなく、日本車を助けることになる。
そこで槍玉にあがったのが、
“Klima-Killer”(環境殺し)
の第一人者の石炭発電だ。
中国では発電や暖房の主力は未だに石炭だが、これほど大量に二酸化炭素を放出するエネルギー源はない。
その中でもとりわけ始末が悪いのが、褐色石炭を使った発電だ。
褐色石炭は石炭と似たような化学構成だが、石炭のほど古くないので、水分を多く含んでいる。
さらに不純物も多い。
これを燃やすと燃焼効率が悪く、二酸化炭素を大量に放出する。
それなのにこの褐色石炭は、発電に大量に利用されている。
地表近くに大量に存在しているので掘削費用が安く上がり、石炭に比べて安価に発電できるからだ。
これまでは、
「アメリカを見ろ、中国を見ろ、二酸化炭素を出し放題。俺たちだけこれを変えても意味がない。」
という理屈が通っていた。
ところが市民でも地球の温暖化が如実にわかるほど、世界の気候のバランスが崩れてきた。
これが市民の環境保護への感心を増す事になり、石炭発電からの脱却が叫ばれるようになってきた。
脱核エネルギー
とは言っても、そう簡単には行かない。
ドイツは核エネルギーから脱却する事を宣言している。
最後の原子力発電所が、2022年末に操業を止める。
これまで原子力発電所が担っていた発電量は、再生エネルギーと火力発電でが担う必要がある。
が、再生エネルギーは発電量が安定していないので、
「2023年以降、発電量不足でブラックアウトの危険がある。」
と言われている。
だからすぐには石炭発電から脱却できない台所事情がある。
その一方で石炭発電業界は、数万人の雇用を作り出している。
仕入れなどの関連企業などを合わせれば、数十万人が石炭発電でお金を稼いで生活している。
しかるに
「5年後には石炭発電を辞めます。」
では、企業の投資、事業計画は水の泡。
さらにはこの事業で働いている労働者の将来も暗雲に覆われてしまう。
「じゃ、30年後には石炭発電から脱却します。」
とすれば、企業には経営を他の分野に移すに十分な時間があり、労働者はほぼ定年を迎えることができる。
が、環境を救うことはできない。
産業と環境の妥協点を見出すことが欠かせない。
“Kohlekomission”(石炭委員会)
ここで政府が発起人となって作った委員会が、”Kohlekomission”(石炭委員会)だ。
この委員会には石炭発電をしている産業、環境団体、それに客観的なデータを提供する学者、名前を売りたい政治家が参加している。
政府はこの委員会に、環境団体と産業が満足できる妥協案を出すように命じた。
産業は30年後の石炭発電からの脱却を主張。
環境団体は、
「100歩譲っても10年。」
と、大きな開きがあった。
そこに学者がデータを提供して、どうして30年後では遅すぎるのか、10年後では早すぎるのか、説明した。
しかし元来、産業と環境保護団体は水と油みたいなもの、一向に妥協点が見出せなかった。
気の遠くなるような議論(最後の会議はなんと21時間ぶっ続き)の末、委員会は石炭発電からの脱却を2038年とする委員会の議定書で同意に達した。
なんとまだ19年も先の話だ。
環境保護団体には受け入れられない内容だったが、最後の原子力発電所が2022年に稼働を停止する。
これに間に合わて再生可能エネルギーの構築計画を立てている以上、これ以上前倒しにすることはできなかった。
産業構造補助金
ドイツでは石炭の採掘は10年以上も前に終わっている。
まだドイツで採掘されているのは、褐色石炭だけ。
採掘された褐色石炭 & 輸入された石炭での発電が盛んな州は、
- ノルトラインーヴェストファーレン州
- ブランデンブルク州
- ザクセン州
- ザクセンーアンハルト州
となっている。
元から産業基盤の弱い東ドイツの3州に、鉄鋼業の衰退に今でも苦しんでいるノルトラインーヴェストファーレン州。
「泣きっ面に蜂」
とはこの事だ。
日本政府の十八番である通達で、
「2038年までに石炭発電は終えるように。」
との通達だけで済ませば、これらの4州は大不況に見舞われる。
該当地域のゲットー化を避けるには、政府が相応の経済再生プログラムを用意する必要がある。
そこで政府は褐色石炭産業の4州に対して、産業転換補助金として400億ユーロを用意した。
この巨額の補助金を与えられる州は、将来に備えて新しい産業を今後20年で産み出すことになる。
経営とは縁のない官僚や政治家が、これに成功するか、大いに疑問だ(*5)。
電力会社への違約金
石炭発電からの脱却に伴い、電力会社が持っている発電所も
「廃炉」
となる。
政府は石炭発電を行っている電力会社に対して、合計3億1700億ユーロの違約金を払う事を決めた。
電力会社は政府に発電の運営の許可を取得して、操業しています。
なのに政府が一方的に契約を反故にするのだから、契約違反です。
そこで違約金の支払いが必要になります。
もっともすでに建設から20年経って、
「どのみち数年後には廃炉」
になる予定の発電所まで、新品の発電所同様に違約金が支払われます(*6)。
顔には出していませんが、電力会社はほくほく顔。
まとめ
ドイツでは環境意識の高まりによって、20年前には想像させできなかった石炭発電からの脱却を柱とする、エネルギー政策の転換が決まった。
一方、日本では未だに火力発電が国の経済政策の柱。
どこからこの大きな違いが出たのか?
それは冒頭で述べた国民の意識の違いです。
コロナ禍が収まってドイツに旅行に行く機会があったら、是非、ドイツのテレビ番組を見て欲しい。
日本でお笑い番組が集中する20時に、お笑いを放映している局はひとつもない。
日本のお笑いの
「変わり」
が、政治のパロデイー番組。
普段は政治に関心のない国民にもわかるように、実に若やすく説明している。
注釈 – 石炭発電からの脱却
*1 梶山専業大臣は2020年、石炭発電を日本の成長戦略と発言して環境団体から恐竜に例えられた。
*2 私が小学生の頃、すでに教科書に載ってました。
*3 ところがどっこい、コロナ禍で環境目標 2020を楽々と達成してしまった!
*4 2020年、政府が電気自動車購入補助金を出すまでは、電気自動車は全く売れていませんでした。
*5 40億ユーロもの金を実効性の怪しげな計画に費やすよりも、「労働者に100万ユーロ(1億3000万)づつ与えてた方が効果的。」とも揶揄されている
*6 これは税金を使った政府の選挙運動とみられています。