デイーゼルエンジンの終焉近し?
この記事の目次
デイーゼル車市内乗り入れ禁止令
よりによってダイムラーベンツのお膝元のシュトゥトゥガルトで、市議会が全国の先陣を切って古いデイーゼル車の市内乗り入れ禁止令を決議した。
その後、日本でも人気なポルシェのデイーゼル車が、「違法な排ガス操作をしている。」として交通局が走行許可を取り消した。
ますます暗くなるデイーゼル車の将来に追い討ちをかけるようにダイムラー社は、
「排ガス洗浄を止める違法な措置を使っている。」
として、シュトゥトゥガルト検察の社宅捜索を受け、書類が押収された。 こうなってはまな板の上の鯛。
ダイムラー社は300万台のデイーゼル社をリコールして、ソフトをアップデートすると発表した。
このリコールは違法な排ガス操作が見つかっても、
「もう処置しました。」
と、無罪を主張するのが狙いだ。日本では当初、
「日本で販売されたメルセデスは対象外。」
と報道されたが、
「やっぱり対象内。」
と販売元もよくわかっていないくらい、急な措置だった。
ソフトのアップデートで市内乗り入れ禁止令回避?
その後、他の自動車メーカーも、
「尻に火がつくのも時間の問題」
と正しく判断、
「ソフトのアップデートを無償で行なう。」
と発表した。車メーカーのこの突然の改心にシュトゥトゥガルト市は大喜び、
「我々が市内乗り入れ禁止で脅したから、この排ガス改善につなっがった。」
と自画自賛に余念がなかった。
政治家は詐欺を働いていた車メーカーの主張、
「ソフトのアップデートだけで有害な窒素酸化物を10%下げることができる。」
を信じ、デイーゼル車の乗り入れ禁止は必要ないと喜んだ。
ドイツの運輸省は日本の運輸省と同じく、フォルクスワーゲン社(以下VWと略)の排ガス値を実際に計測しなかった。
メーカーの出した書類に盲目印を押してしまったことが諸悪の根源だったのに、全く何も学んでいないようだった。
デイーゼルエンジンの終焉近し?- 行政裁判所の判決
ところがドイツには”Deutsche Umwelthilfe”という環境保護団体がある。
この団体は市内の空気汚染が過去10年以上にもわたって、全く改善されない状況に憤慨しており、ドイツ全土で空気の改善を求めて行政裁判所に訴えている。
7月末に最初の判決がシュトゥトゥガルトであった。
同市の行政裁判所は「行政が自ら課している大気汚染基準を守るには、デイーゼル禁止しかない。」と判決した。
裁判所は自動車メーカーの主張、
「ソフトのアップデートで大気汚染は改善される。」
を、政治家と違って「ソフトのアップデートでは不十分」と判断した。
というのもデイーゼル社は基準値の6~8倍もの有害な排ガスを出しており、アップデートで排ガス洗浄機能を10%改善しても到底基準値を守れないという環境保護団体の出した論拠に軍配が上がった。
車業界の反発
車メーカーのロビイスト(利益代表)に成り下がった運輸大臣は、
とこの判決を非難した。
それだけではない。お膝元の車メーカーから圧力をかけられたのか、今度はVWの本社のあるニーダーザクセン州知事が、
「基金を設け、最新のデイーゼル車を買う人に補助金を出そう。」
とまで言い出した。 ところが肝心の環境省は、「先の短い技術に、税金を使うことに関心はない。」と、この提案を蹴った。
すなわち近い将来、デイーゼルエンジンは自動車の選択肢かえら消えることを、ドイツの官庁が認めたことになる。
ところが車メーカーは、
「デイーゼルエンジンには将来がある。」
と、現実を見ることを拒否した。
あるいはすでに悟っているのかもしれないが、今、デイーゼルエンジンを落とすと、ガソリンエンジンと電気自動車の選択肢しかなくなる。
すなわちドイツの車メーカーが日本車、韓国車、中国車などに対して保有してるデイーゼルエンジンの高い技術力が、
「宝の持ち腐れ。」
となり、日本車、韓国車、中国車との差が一気に短くなる。
時間稼ぎ戦略
ドイツ車が電気自動車で、日本企業や韓国企業と同じレベルに達するまで数年かかる。
それまで
「クリーン デイーゼル」
を唱えて、時間を稼ぎたい。
ところが10月には総選挙。自動車メーカーを罰して点数を稼ぎたい政治家は、デイーゼルにそっぽを向け始めた。
今、車メーカーの置かれている状況は、数年前の電力会社の状況に酷似している。
かって電力会社は安くて金の儲かる核エネルギーに最後までこだわり、再生エネルギーへの転換を怠った。
核エネルギーからの脱却が決まってから、やっと再生エネルギーに投資を始めたが、建設したばかりで発電することのない石炭発電所を抱えて、大赤字。
ドイツの自動車業界も、避けられない事実を拒否した挙句、デイーゼル禁止令と直面することになった。
次はミュンヘンの行政裁判所で、デイーゼルの運命を決める判決が出る。
BMWのお膝元でも、デイーゼルが禁止されれば、すでに今でも人気のないデイーゼル車の人気は地に落ちる。
ソフトのアップデートに固執する理由
もっともデイーゼルエンジンを救う方法がないわけではない。排ガスを”Harnstoff”というガスで洗浄すればいい。
この方法でトラックは排ガスを洗浄、排ガスは自動車よりもクリーンだ。もっともこの設備を車に設置すると、2000ユーロ近い費用がかかる。
その一方、ソフトのアップデートは60ユーロと、とっても安く上がる。自動車メーカーがソフトのアップデートに固執しているのも、無理はない。
自動車頂上会談
8月上旬、車メーカー、運輸大臣、環境大臣が会同する”Autogipfel”(自動車頂上会談)が開催される。
当初、自動車メーカーと運輸大臣はソフトのアップデートで一件落着を宣言、
「クリーン デイーゼル宣言」
で終わらせる筈だったが、シュトゥトゥガルトの行政裁判所の判決により、これでは一件落着しないことがわかってきた。
環境大臣は、
「自動車メーカーが自ら行なった不始末なんだから、自動車メーカーの責任で全デイーゼル車に排ガス洗浄装置を取り付けるのが筋。」
と、メーカーと脅している。そんなことになれば、自動車メーカーの決算にぽっかり大きな穴が空く。
自動車メーカーはこれを断固と拒否しているので、会談での大臣の健闘に期待したい。
編集後記
環境大臣の努力むなしく、運輸大臣と車産業が推すソフトのアップデートが自動車頂上会談で決議された。
この小手際の操作では空気汚染が改善できないことは、車業界、運輸大臣は承知している。
しかし行政がデーゼル市内乗り入れ禁止令を出す前に、再度、市内の空気汚染度を測定することになり、時間が稼げる。
そしていよいよ裁判所で禁止令が下されても、これを不服として上告する。そして最後に最高裁で判決が出るまで、数年はかかる。
この数年を車業界は利用、数年後には売れなくなるデイーゼル車をクリーンなエンジンとして販売する。
稼いだ金を電気自動車の開発に投入する。
最終的に最高裁でデイーゼル車市内乗り入れ禁止令が出る頃には、日本車、韓国車に対抗できる電気自動車ができあがっているという想定だ。
果たして日本の車メーカーは、今保持している技術のリードを防御できるだろうか。