かっては金のなる木、今ややっかい物の原子力発電所
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核燃料税 / Brennelementsteuer
ほぼ8年も過去に遡ります。
当時、総選挙で勝利したメルケル首相は、
「2020年までに原発をすべて廃止する。」
という前政権の原発脱却を反故にした。電力会社の選挙募金は無駄ではなかった。
もっとも政府は、原発稼働期間延長の見返りとして”Brennelementsteuer”(核燃料税)を導入した。
電力会社にしてみれば、新たに払い核燃料税は電気代に上乗せすればいいので、これを二つ返事で了解した。
それから3ヵ月後、福島原発で原子炉が溶解、今日まで手に負えない原発事故が発生した。
するとメルケル首相は態度を180度転換、原子力発電所の稼働期間延期を反故にした。
ところが政府が導入した核燃料税はそのまま存続するとしたので、「約束が違う。」と電力会社は揃って裁判所に訴えた。
核廃棄物貯蔵
これとは別に、電力会社は今後必要になる原発の解体、放射能汚染物質の管理を自社で行なうとして、毎年、儲けの中から一部を将来の出費のために貯蓄していた。
ところが汚染物質の永久貯蔵所の場所さえもも決まっておらず、高い金を払って何処かに貯蔵施設を建設するなら、
「これまで貯めた金では足らないかもしれない。」
という不安が高まった。
ここで政府が、
「汚染物資貯蔵の為に貯めた金を政府に送金すれば、汚染物資の貯蔵、管理は政府が行なう。」
と助け舟を出した。
各電力会社は喜んでこの申し出を受け入れ、合計240億ユーロを政府に送金した。もっともその他にも表に出ない取引があったようだ。
というのも電力会社はこの取引後、多数の訴え、例えば福島原発事故直後の原発稼働中止令による損害賠償請求、を取り下げたからだ。
核燃料税は違憲なり!【ドイツ最高裁判決】
ところがこの核燃料税に対する訴えだけは、取り下げなかった。
そして電力会社の訴えから6年経って、最高裁で判決が出た。
最高裁は核燃料税を違法と判断、政府にこれまで違法に徴収した63億ユーロにも上る税金を電力会社に利子をつけて返却するように命じた。
電力会社のボスは、
「利子だけでもおいしい金額になる。」
と相好を崩したが、無理もない。
まずこの判決により、電力会社の株価が急上昇した。
忘れてはならないのは、電力会社各社は、核燃料税を電気代に上乗せしていていたこと。
すなわち核燃料税を払ったのは消費者なので、払い戻される核燃料税は、消費者に返却されるべきではないのか。
返却される核燃料税の使い道について聞かれると電力会社は、
「会社の借金を返済するのに使う。」
と回答、株価はさらに上昇した。
馬鹿を見たのは消費者で、核燃料税を高い電気代で払わされ、払った金は丸々電力会社へのお布施となってしまった。
新しい税金を創設する権利
消費者にとっては腹立たしいながら、面白い一面もあった。
それは最高裁判所の判決理由だ。最高裁は、
「政府には勝手に新しい税金を創設する権利がない。」
と判決理由を述べた。ドイツに住んでおらず、ドイツの法律に縁のない方には理解し難いだろうが、こういうことだ。
政府が課してもいい税金は憲法で決まってる。
かっての大地主のように、
「明日からかまど税を導入する。」
と勝手な税金を導入することは、法治国家では許されていない。
そこでドイツ政府はこの核燃料税を合法化するために、法律で認められている”Verbrauchersteuer”(消費税)の項目の下で核燃料税を導入した。
最高裁はこの点に注目して、核燃料税は消費税ではないと判断、
「政府には新しい税金を発明する権限はない。」
と厳しく指摘した。
政府の手落ち
言われてみればその通りなのだが、何故、政府にこれがわからなかったのか。
最高裁はさらに、
「下院だけではなく、上院でも可決されていれば、それでも合法となった可能性はある。」
とヒントまで与えてくれた。そう、政府は怪しげな税金を導入するにあたり、上院での可決さえも省いていたのだ。
原発からの脱却を反故にした際、この核燃料税も反故にしていれば、こんな大恥をかかなくても済んだ。
しかし政府は欲に目がくらんだ。
「取れる税金をみすみす逃す理由はない。」
と盲目創業。この判決により過去6年に渡って徴収、すでに使ってしまった税金+利子の払い戻しで、2017年度の予算にぽかり大きな穴が開くことになった。