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プーチンの戦争 ウクライナには辛抱の5月 反攻の6月?

投稿日:2022年5月5日 更新日:

5月9日の

「対独戦勝記念日」

を目前に控えてもう失敗は許されないプーチンは、

「シリアでの残虐行為」

で有名な将軍を、新たな方面司令官に任命した。

そしてロシアの4月攻勢は、その司令官の指導の下、幸先よく始まった。

かのように見えたのだが、、

ロシア軍の伝統的な攻勢とは?

ロシア軍の攻勢は伝統的に、火砲による集中砲火で始まる。

ベルリン攻防戦では、ゼーロー高地を守る守備隊は鉄条網と地雷原で、

「突破不可能な防衛線」

を築いて、ソビエト軍の攻勢に備えていた。

その防衛線をソビエト軍は集中砲火で、文字通りすき返してしまった。

気持ちよく防衛線を超えてくるソビエト軍の大軍により、ドイツ軍の防衛線は穴あきズボンのようにボロボロ。

守備隊は包囲殲滅を避けるために、ゼーロー高地から撤退。

こうしてベルリンの運命は喫した。

長続きしない攻勢

ロシア軍の4月攻勢も、火砲による集中砲火で始まった。

ウクライナ軍は包囲を避けるため、月面のようにすき返された陣地から撤退。

ロシア軍は最初の

「攻撃の成功」

を誇らしげに報じた。

ところがである。

ベルリン攻防戦と違って、攻勢は長続きしなかった。

ロシア軍の進撃が止ると、

「待ってました!」

とウクライナ軍が間髪置かずに反攻に出ると、ロシア軍は後退を強いられた。

お陰で圧倒的な兵力と武器、局地的な制空権を掌握しているのに、

「進撃の速度」

は遅々たるもの。

一体、何がまずかったのだろう。

電撃戦とは?

アメリカ軍がドイツ軍の有名な、

“Blitzkrieg”(電撃戦)

を図解で説明しているので、これをご覧あれ。

ビデヲで解説されている通り、

  1. 敵の防衛線を空と陸からの共同作戦で突破する
  2. 側面を歩兵などで補強しつつ、
  3. 常に前進して攻撃の矢を止めない

事が電撃戦には欠かせない。

しかしロシア軍の4月攻勢では、ウクライナ軍の防衛線を突破した後、攻撃の矢が止ってしまうのだ。

あまりにも

「あっけない攻勢」

に軍事専門家は、

「攻撃の予行演習だった可能性がある。」

と憶測をするほど。

中には、

「プーチンが5月9日に勝利宣言をしたいばかりに、すべての準備が整う前に攻撃を命じた。」

と推測する者も。

それも一因かもしれないが、攻撃が長続きしない最大の原因は、

  • 補給が続かない
  • 兵士の士気の低さ
  • 兵力不足

にある。

そう、ロシア軍がキエフに向けた侵攻が失敗したのと同じ原因だ。

東部での攻勢に集中するかも思えば、港湾都市オデッサが欲しいばかりに、攻撃部隊をオデッサ方向にも分散した。

ロシア軍は最初の失敗から、何も学んでいないようだ。

プーチンの戦争 ウクライナには辛抱の5月

という戦略上の誤判断はあるものの、ロシア軍は数の上では2:1の優勢にある。

その優勢を利用して、今後も攻勢を続ける。

マリウポリが陥落すれば、ここで制約されている軍を

「東部戦線」

に派遣できる。

するとロシア軍は東部でふんばるウクライナ軍の主力を南、東、そして北方向から攻めることができる。

流石のウクライナ軍でも、これはしんどい。

ロシア軍の狙い

ロシア軍の狙いはドンバス地方で

「瘤」

のような形になっているウクライナの防衛線を北と南から挟み撃ちして包囲・殲滅することにある。

オーストリアの戦術アカデミーが見事な解説をしているので、詳細はこれを見て欲しい。

このビデヲでも指摘されているが、奇しくもこの

「ウクライナ軍の防衛線の瘤」

が、1943年に近郊のクルスクで戦われた

「クルスク世紀の大戦車戦」

に酷似している。

クルスク世紀の大戦車戦

1943年6月、ドイツ軍は瘤のように突き出ているソビエト軍の防衛線を北と南から挟み撃ち、200万人近いソビエト軍の包囲・殲滅を図った。

クルスク世紀の大戦車戦

 

ドイツ軍はこの戦いに、タイガー戦車を含む2500両近い戦車を導入。

ところがドイツ軍の猛攻を待ち受けているソビエト軍は、5000両近い戦車を有していた。

天候、そして補給上の理由から、ドイツ軍の攻勢は6月まで遅れた。

その時間を利用して、ソビエト軍は40Kmにも及ぶ防衛線を構築していた。

「明きからに攻撃計画がばれているから、ソビエト軍の攻勢を待った方がいい。」

というアドバイスを無視して、ヒトラーは攻撃命令を下した。

こうしてドイツ軍は、自ら罠にはまった。

待ち受けるソビエト軍の火砲の集中砲火に遭い、ドイツ軍は

「あっ!」

という間に戦車の半分を失った。

全滅する前に攻撃は中止されたが、ドイツ軍は20万人の死者を出して、攻撃は散々な失敗に終わった。

以来、ドイツ軍は東部戦線でもイニシャテイブを失い、敗戦まで防戦の戦になった。

歴史は繰り返す?

そのクルスク世紀の大戦車戦で敗れたドイツ軍の

「役割」

を演じているのがロシア軍。

なんという皮肉だろう。

ドイツ軍の戦術をコピーしているように、北と南から攻勢を開始した。

一方、瘤を防衛するウクライナ軍は、

「ドンバスの戦」

に備えて、数年前からここに3重の防衛線を築いてきた。

まさに歴史は繰り返すようで、ウクライナ軍の執拗な抵抗で、ロシア軍の前身は微々たるものになっている。

反攻の6月?

反攻の6月?

ウクライナ軍がロシア軍による、

「ドンバスの包囲戦」

を成功裡に阻止したとしよう。

原則として、

攻勢をかける軍勢は、防御側よりも多くの死傷者を出す。

 

ウクライナ軍が押し寄せるロシア軍に対戦車ミサイルをお見舞いして敵軍にダメージを与えて退却する度に、ロシア軍の兵力は減少していく。

ましてや攻撃が頓挫すると、これまで攻撃していた部隊は塹壕を掘っていないので身を隠す場所がない。

ウクライナ軍の反撃の格好の的になる。

さらに!

ウクライナには、今後、西側から大量の重火器が入ってくる。

その重火器の扱い方を学ぶため、米軍の指導でウクライナ兵の教育がドイツ国内で行われている。

 

これに1ヶ月ほどかかる。

英軍も同様の軍事教育をウクライナ兵に施している。

英軍は対艦ミサイルも提供するから、今後の黒海でのウクライナ軍の反撃が期待される。

ドイツで訓練を終えた兵士がウクライナに帰り、西側から提供された重火器を戦場まで運んで使用可能になるまで、さらに1週間ほど。

全部合わせると、5~6週間の時間がかかる。

だからウクライナ軍は6月までの、

「時間稼ぎ」

が必要だ。

さらにウクライナ西部では、新兵に対して軍事訓練が施されている。

6月にはこれを終えて、前線に派遣される新兵も増えてくる。

その一方でロシア軍の兵力は、日々の戦闘で消耗する一方だ。

6月になれば、バランスが反転して戦況は一変するかもしれない。

これを予期してか、ゼレンスキー大統領は、

「もう停戦交渉はしない。我々が勝利した後の講和条約だけだ。」

と強みの発言をしている。

それには今のロシア軍の攻勢に、ウクライナ軍が絶えて包囲を防ぐ必要がある。

もし東ウクライナで戦っているウクライナ軍の主力がロシア軍に包囲されると、新しい武器も役に立たないからだ。

果たしてウクライナ軍は、援軍 & 援助が来るまでロシア軍の攻勢に絶えれるだろうか?

ドイツ ウクライナに重火器を提供

6月にウクライナ軍が攻勢に出る際に欠かせない西側の武器援助。

ドイツのショルツ首相は、

「ウクライナへの火器の提供の可否は首相官邸で決める。」

と宣言して他の官庁、例えば通産省がウクライナへの重火器の

「輸出許可」

を出す事を成功裡に阻止した。

同盟国から、

「ドイツの及び腰」

を非難されると、ショルツ首相は

「これはマズイ!」

とウクライナに10億ユーロの資金提供を決め、

「この金で好きな武器を買えばいい。」

とやった。

これに怒ったのが駐ドイツのウクライナ大使。

ドイツ政府がウクライナ兵府に渡した

「好きに買える武器のリスト」

からはすべの重火器が削除されていたからだ。

野党が、

「首相の及び腰は看視できない。」

と国会にウクライナへの重火器の提供を議決する提案を提出した。

というのも政権にある三党の内、

  • 緑の党
  • FDP

は重火器の提供に賛成しているからだ。

もし野党の議決案が賛成多数で議決されれば、ショルツ首相は孤立する。

ショルツ首相は

「これはマズイ!」

と、野党の議決案に対抗する政府のウクライナへの重火器の提供の議決案を提出した。

野党が政府の議決案に賛成したので、ウクライナへの重火器の提供が決まった。

対空火砲装甲車 Gepard

対空火砲装甲車 Gepald

そのドイツ政府がウクライナへ提供を決めたのは、ウクライナが望んでいた戦車でも走行車でもなく、対空火砲装甲車”Gepard”だった。

 

これが実に奇妙な話。

ドイツ政府、正確には社会民主党の国防相は、

「ウクライナに提供できる武器は、もうドイツ軍には残ってない。」

と主張してきた。

政府は、

「振る袖がない。」

とこれ以上の援助を断った後で、軍需産業のラインメタル社は、

「レオパルド1型戦車88両、マーダ装甲車100台ならいつでも提供できる。」

と発表した。

おかしなことにラインメタル社は、

「政府からも同じ問い合わせがあり、同じ回答を送っていた。」

という。

嘘がバレたドイツ政府は、

「戦車を送っても、ウクライナ兵には扱えない。」

 

と、重火器提供を拒否する理由を変えた。

ところがである。

戦車や装甲車よりも使うこなすのがはるかに難しいレーダー誘導式の対空火砲を、ウクライナに提供するという。

 

この論理が理解できるだろうか?

尻に火がついたショルツ首相の、その場しのぎの言い訳に見えても仕方ない。

弾薬のない装甲車

ドイツ政府の

「対空火砲装甲車”Gepard”50両をウクライナに提供します。」

という知らせにウクライナの大使がどんな反応をしたか、想像できるだろうか。

そう、癇癪玉を爆発させた。

ドイツ国防相は、

対空火砲は提供するが、弾薬は切らしているので自分で調達してね。

 

とやった。

 

ショルツ首相はロシアとの関係を断ち切るのを拒むが故、弾薬がない対空火砲をウクライナに提供するという破廉恥な決定をした。

皆まで言えば、35mm対空火砲はスイス製だ。

弾薬がなければ、

「製造元」

に注文する必要があるが、スイスは弾薬の提供を頭から拒否している。

ウクライナ大使が怒るものわかるだろう。

そのウクライナ大使、ショルツ首相の煮え切らない態度を、

“beleidigte Leberwurst”(侮辱されたレバーソーセージ)

と比喩。

これはドイツの有名な言い回しで、恥をかいてすねている人物を指す言葉。

まさにぴったりの風刺だ。

ウクライナはドイツの援助なしで、6月までふんばる必要がある。

6月になれば、きっと転換点が訪れる筈だ!

自走榴弾砲 2000

ドイツ政府、正確にはショルツ首相はウクライナへの武器の提供で、

「お手本」

にしている国がある。

何処の国かわかるだろうか?

そう、オランダだ。

オランダはドイツよりもリベラルで、

「戦争係争国に加担するなんてもってのほか!」

という政策をとってきた。

そのオランダが2月、ドイツ製の対戦車弾

“Panzerfaust3”

をウクライナに提供する事を決めた。

その後、ドイツ政府も

「戦争係争国には武器は輸出しない。」

という政策から一転、武器の提供を決めた。

その後、ショルツ首相は一貫して、

「誰も重火器をウクライナに提供していないじゃないか!」

を理由に重火器の提供を拒否。

ところがである。

よりによってオランダがドイツ製の自走りゅう弾砲

“Panzerhauwite 2000”

をウクライナに提供する事を決めた。

 

結果、ショルツ首相は

「誰も重火器をウクライナに提供していないじゃないか!」

とは言えなくなった。

首相は歯ぎしりしながら、

「ドイツも自走りゅう弾砲をウクライナに提供する。」

と発表した。

小国のオランダが12両提供するのに、ドイツはたったの7両だけ。

政府は、

「ドイツの防衛能力を減少させないため。」

と少ない提供量を正当化した。

ウクライナ兵の訓練始まる

ドイツは

「その代わり」

ウクライナ兵の教育を担当する。

数にして60名足らずの前線で戦っていたウクライナ兵が、ドイツに到着。

5月11日より

「火砲学校」

で訓練が始まった。

 

本来であれば3か月以上かかる教育は、40日間に短縮される。

ドイツが十分な数の弾薬と修理に必要な工具を一緒に提供する事を望むばかりだ。

100両のマーダー装甲車準備良し!

そうこうするうちに、しびれを切らしたドイツ一の軍需産業ラインメタル社は、

「装甲車マーダー100両は、3週間で輸出できる。」

と発表した。

そう、

「特需」

に備え、払下げされた装甲車をここ2か月間で整備していたのだ。

ところがドイツ政府から一向に

「お声」

がかからない。

そこで今回の

「ステートメント」

の発表となった。

同社曰く、

「プーチンの戦争以来、マーダーへの問い合わせが増えており、ドイツ政府以外にも引き取り手は十分にある。」

と、コメント。

ここでもショルツ首相はオランダ政府が装甲車のウクライナ提供を決めるまで、躊躇するのだろうか?

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執筆者:

nishi

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