幸い、原油の価格は少し落ち着いてきた。
が、ガス価格は未だに天井価格。
ドイツ国内ではエネルギー比率の高い企業が、倒産に追い込まれている。
このままでは、
「プーチンが失脚する前に、ドイツの経済が破綻してしまう!」
との危機感をやっと抱いた政府はようやく
“Gaspreisdeckel”(ガス価格上限)
を導入すると発表した。
この記事の目次
創立以来のエネルギー危機
日本に居ると伝わって来ないが、ドイツ(連邦共和国)は
「創立以来のエネルギー危機」
に陥っている。
どのくらい困っているか、それは首相や経済大臣の
「ガス行脚」
を見れば一目瞭然。
これまでは、
「人権無視は許されない!」
と名前を挙げて非難していた中東に、
「ガスを売ってください。」
と、首相と経済大臣が頭を下げてガス行脚。
まさに
「背に腹は代えられぬ。」
という言葉がぴったりだ。
ドイツ政府は、
「11月までにガス貯蔵庫を90%満たす。」
との目標を掲げて、市場からガスを買い捲った。
お陰で9月中旬に、この目標に達した。
が、猛烈な勢いでガスを買い占めたので、ガス価格はかってない価格に上昇した。
プーチンの戦争前、12セント/KWhだったガス価格は、9月に過去最高の40セントまで上昇した。
来るか倒産の大波?
このガス価格の高騰に悩んでいるのは、消費者だけでない。
エネルギー比率の高い企業は倒産に追い込まれている。
顕著な例が、トイレットペーパー製造の大手”Hakle”。
2020年は、
「トイレットペーパーが不足する!」
とのフェイクニュースがドイツでも大流行。
“Hakle”を含む
「トイレットペーパー業界」
はかってない盛況に沸いた。
なのに2年後にはもう倒産。
ガス価格の高騰を、販売価格に完全に乗せることができず採算が悪化した。
皆までいえば、ドイツ中で二酸化炭素が不足している。
これまではアンモニア肥料の生成段階で発生する副産物として、産業用の二酸化炭素は安く購入できた。
しかしガス価格の上昇は、アンモニア価格の上昇を招いた。
アンモニアは、天然ガスから得ているからです。
多くの企業が
「こんな価格では採算が取れない。」
とアンモニア肥料の精製を辞めたので、二酸化炭素が不足することになった。
二酸化炭素がないと、炭酸飲料から始まって、ビールの瓶詰、食品のパックもできない。
お肉が劣化しないよう、酸素を抜いて、二酸化炭素パックするからです。
直接、天然ガスを大量に使用するケミカル分野を始めに、ガラス器、陶器の製造業などは、倒産は時間の問題だ。
政府が何もしなければ。
ガス価格上限 / Gaspreisdeckel 導入決定!
ドイツ政府は
「こままではヤバイ!」
とやっと悟り、ガス価格上限 / Gaspreisdeckel を導入する事を決めた。
ガス価格の上限を決め、コレと実際のガス価格の差額は、政府が負担するというもの。
このガス価格の上限は、消費者は勿論、ガスを生産に使用する企業にも採用される。
その予算は2000億ユーロ。
邦貨で29兆円。
ドイツの国家予算の43%に相当する額です。
この額を見れば、ドイツがどれほど深刻なエネルギー危機に陥っているか、よっくわかる筈だ。
“Lieber spät als nie”
個人的には、
「なんでここまで悪化するまで、手をこまねいて待った?」
と言わざるを得ない。
プーチンの戦争が始まった時点で、ドイツは深刻なエネルギー危機に陥ることがわかった筈。
多少とも先見の明があるなら、
「ガス価格が高騰した際の、緊急プラン」
を、すでに用意しているべきだった。
なのに企業が次々に倒産してから、この政策決定。
1ヶ月前に決めていれば、数千の職場が救われた。
もっとも日本の岸田政権も似たり寄ったりで、
「国民の生活を守る!」
と言うものの、これまでに導入されたのはガソリン価格の補助くらい。
日本でもドイツでも、
「ボヤ」
では動かず、家屋が煌々と燃え始めて始めて消火活動に出る。
ドイツの政策は、
“Lieber spät als nie”(遅れてきたが、来ないよりはマシ)
の部類だ。
近隣諸国からの非難の声
ドイツ政府がガス価格の上限導入を決定してから、近隣諸国からの非難の声が次々に上がっている。
最初は
「なんで?」
と理解できなかったが、こういう理屈だ。
ガス価格の高騰に見舞われているのは、ドイツだけじゃない!
しかし隣国、例えばポーランドやチェコでは、ドイツのような大きな財源を用意できない。
結果としてドイツ企業は
「安いガス」
を使い、製品を安く製造できる。
「これは隠れた補助金だ!」
という非難。
言われてみればその通り。
そこで今、
「EU全域に共通するガス価格の上限を導入しよう。」
という議論に移っている。
もっとも、あまり期待しないほうがいい。
ドイツのガス価格上限でも、導入は11月になる。
これがEU全域になると早くても12月、下手をすれば1月。
これではすでに時遅し。
その財源は?
ガス価格上限導入にあたって、大きな問題がひとつある。
その財源だ。
政府は
“Sonderausgaben”(特別歳出)
と呼んでいるが、何処からその特別支出が出るのか、言葉を濁している。
日本のように、
「国家財政の1/3が借金」
のような国なら問題ない。
国債を発行して、新たに借金をするのが日本流。
が、ドイツは来年から
「借金ゼロ」
に戻ると財務大臣が宣言したばかり。
そこで週末に財源に関して、中央政府と州政府の会合があった。
日本と違ってドイツは連邦制。
すなわち!
地元の企業が納める法人税、あなたが納める所得税は中央政府と州政府が、
「フィフテイーフィフテイー」
で山分けします。
大雑把に言っての話ですよ。
そこで、
「ガス価格上限導入の財源の半分は、州政府が出せ!」
と攻めよったわけです。
が、州政府が
“ohne uns!”(やなこったい!)
と要求を突っぱねたんです。
すなわち!
11月からガス価格の上限が導入されるというのに、財源がはっきりしていない!
散々揉めた挙句に最後は、
「来年からは借金ゼロ!」
と宣言したばかりのリントナー財務大臣が、
「予期できなかった事態に拠り、、。」
と来年も
「借金ブレーキ法」
の適用を見送ることになるだろう。
国が借金をすることで、州政府も財源を
「一部負担」
することで同意に達する。