リーマンショックから建ち直った株式市場。ドイツでも株価は過去最高値を更新。
この高値に釣られて、「私も!」と投資デビューを考える個人投資家がいれば、その個人投資家を狙う詐欺集団が登場しています。
今回は数多い詐欺集団の中から、ドイツの経済犯罪史に残った投資会社 S&K の例を紹介します。
でもその前に、、。
この記事の目次
銀行からのセールス電話
ある日、自宅にかかってきた電話に出ると、
「低金利なので、口座にお金を置いておいても損をするだけですよ。」
と、名乗りもしないでいきなりセールスが始まった。電話セールス(詐欺)の基本は第一声。
「話を聞かないと、損しますよ。」
という気持ちにさせるのが常套手段です。そのような手段を用いるのは、セールスの訓練を受けた証拠で、ほぼすべて詐欺です。
腹を立てて、
「あなたは誰ですか。」
と聞けば、口座を置いているTargobankの銀行員だった。銀行は顧客の口座を毎月チェック、現金が残っていると、「これはいい鴨。」と、セールス電話がかかってくる。
ドイツの銀行員は詐欺師と同じ穴の狢
ドイツではセールス電話は禁止されている。
詐欺が多くて毎年、数多くの被害者が出ているからだ。
口座を置いている銀行、契約を結んでいる保険会社でもこれは例外ではない。例外はひとつだけ。
「投資をしたいから、電話をしてください。」
と、客の方から電話を要請した場合だ。それ以外は禁止されている。
にもかかわず、このようなセールス電話がかかってきたら、用件を聞かないで電話を切ってしまおう。違法の手段でセールスをかけてくる相手に耳を傾けて、得をする事はない。
Citi Bank 改め Targobank
話を元に戻そう。Targobank、数年前までは Citibankという看板で営業しており、とりわけリーマン証券の販売に熱心だった銀行である。
そう、あとで紙屑に化けたリーマンの証券だ。Citibankは米国の親銀行が投資で大火傷、国からの救済金で人工呼吸、瀕死の状態だった。
親銀行の負担を軽減する為に、「金のなる木」だったドイツの支店網は売りに出された。こうして銀行の看板は変わったが、中身(従業員)は同じ。そんな銀行(員)を信用するわけがない。
「じゃ、どうして銀行を変えないんですか。」
と不思議に思われるかもしれないが、じゃ、どこの銀行にすればいいのだろう。地方自治体が経営に関与しているSparkasseだろうか。しかしこの銀行はTargobank同様に、リーマンの紙屑証券の販売に熱心だった。
じゃ、ドイツ銀行だろうか。しかしこの銀行のスキャンダルは快挙に暇がない。では、郵便局だろうか。しかしドイツの郵便局だって、「ドイツ最大の詐欺団」を顧客に差し向けていたではないか。
ドイツでは何処の銀行に口座を置いても同じです。貯蓄を守るには、こちらが賢くならなくてはならない。
低金利で株式市場に追い風!
不況を脱出した米国、脱出しつつある日本と違い、欧州は不況の真っ只中。かってない長期のマイナス経済成長が続く中、欧州中央銀行は利率をユーロ導入後の最低水準である0.5%に設定した。
欧州銀行総裁は、「必要ならばさらなる処置も厭わない。」と発言、定期預金者にため息をもたらしたが、株式市場に強烈な追い風を送り込んだ。
金利が下がり、さらにここ数年これが上昇する見込みがないと、保険会社などは顧客に約束した年金の利回りを確保する為に、株式市場に投資する。こうして金が株式市場に大規模に流れ込み、次々に歴史的な最高値を更新した。
肝心の経済はまだ回復していないのに、株式市場はまるでバブル経済時のような盛況振り。毎日のように「過去最高」を更新すると、「私だけ儲け損をしている。」と思い込み、「私も株に投資してみたいです。」という人が多くなる。
素人向きの投資
素人が投資をするなら、DAX、あるいはMDAXあたりが比較的、危険が低くて適当だ。とは言っても、DAXとMDAXだけで80社もある。一体、どの銘柄に投資すればいいのだろう。
そういう人の為に、ドイツ(日本でも同じだ)には投資専用のテレビ番組、各種の雑誌が存在して、購読者を競っている。ここで情報を仕入れることができる。
大事なのは、見た聞いた読んだ情報を鵜呑みにしないこと。ネットなどに載っている「情報」は、往々にして根拠もなく主張している意見です。自分が買った銘柄の株価を押し上げる為に、テレビ番組や雑誌を利用して「絶対にお勧め!」と推薦を書く人もいる。
読者がこれを信用して株を購入すると株が急上昇する。これを狙ってこっそり株を売って、大儲け。理由もなく上昇した株価は、1~2週間すると下落して投資家は大火傷を負うことになる。
勿論、これは株価操作なので違法である。しかしその立場を利用して一儲けをたくらむ妨げにはならないようだ。毎年、株価操作で有罪判決を受ける記者、テレビの解説者は後を絶たない。
投資会社 S&K – 12%の配当金を支払います
もっとひどいのはフランクフルトの投資会社 S&K。「12%の配当金を支払います。」という殺し文句で投資家を釣った。低金利のこの時期、5%を超える配当金を約束する宣伝には要注意。
5%を超える利率を約束するファンドは、危険な投資に手を出すか、あるいは詐欺のどちらかだ。前者の場合はしばらくはうまく行くが、その後、大きな落とし穴が待っている。後者の場合は、もっと早く夢から覚めることができる。
S&Kはその宣伝文句に信憑性を与えるため、「この不動産に投資して、これだけの利回りを確保しました。」という夢のようなパンフレットを作り上げた。不動産を買い上げ、これを転売するだけで、夢のような利回りが継続して出ているというのだ。
専門家も騙される!
これが本当かどうか確かめるには、そのパンフレットに書かれている「販売価格」を、実際の市場価格と比較するだけでよかったのに、誰もこれをしなかった。通常は商品の安全性をテストしているTÜVもこれに騙されて、「合格証」を出してしまった。
さらには株式雑誌も騙されて、「この投資は確実。」とやってしまった。こうしてプロの不動産ファンドも自分で不動産に投資しないで、このS&Kに投資をする始末だった。
こうして名前が売れると、さらに投資家の数が増えた。こうして集めた金で投資家への配当金を支払い、信用を獲得した。「12%も利回りが出るわけがない。いつかは破綻する。」と警告しても、「ちゃんと配当金が出ている。」と、相手にしてもらえなかった。
検察の強制捜査
「投資します。」という約束で集めた金の大半は、古い客への配当金を支払う為か、経営者の豪華絢爛な生活を可能にするのに使われた。典型的なねずみ講で、集めた金が投資される事はなかった。
2月になってようやく検察が動いて、S&Kの事務所を家宅捜査、現金、車、オートバイなどに動産を押収した。こうして同社はあっけなく倒産して、1億ユーロを超える金と数多い個人投資家の夢が消えた。しかし被害はそれだけでは収まらなかった。
倒産が倒産を呼ぶ
同社の倒産は、この会社に投資していた投資ファンドの運営資金に、ぽっかりと大きな穴が空けてしまった。投資家に金を返そうにも、ふれる袖がない。こうして真面目な投資ファンドも、相次いで心中倒産する憂き目にあった。
巡り巡ってS&Kに投資をしていない投資家までも、被害に遭う結果となった。ドイツにはねずみ講詐欺を防ぐ国の機関”Bafin”も存在しているのだが、硬直しきった官僚組織でその機能は大いに疑われる。2008年、Bafinはすでに倒産していたリーマンに3億ユーロ送金してしまい、お金はすべて失われた。
上述のTÜVは、詐欺に合格証を出してしまったため、お金をすってしまった投資からの損害賠償請求が舞い込んだが、「投資の内部までチェックしてわけじゃありません。」と言い訳をしている。それでよく合格証なんぞ出せるものだ。
冒頭で述べたように、ドイツの銀行員は詐欺師と同じ穴の狢。国の機関は役立たず、民間の機関も役立たず。自身の財産を守るには、自分で賢くなるしかありません。