日本でもドイツでも、かっては郵便事業と通信事業は
「電電公社」
という国営企業の独占市場でした。
日本に続き、ドイツでもこの国営企業の民営化が決まりました。
株式が上場されると、株価が急騰!
その後、大暴落したもの日本と同じ。
このテレコム株上場で大損をした株主が、
「金を返せ!」
と訴えていたのがドイツテレコム株上場裁判で、ドイツで最も有名な長期裁判となった。
この記事の目次
ドイツテレコムとは?
ドイツテレコム株上場裁判と言われても、
「まだ生まれていないよ!」
という方もおられるので、最初から説明します。
1995年、国営企業
“Deutsche Bundespost”(ドイツ電電公社)
が民営化されることが決まった。
民営化に伴いその事業を郵便事業と通信部門とに分け、それぞれの業務は
- “Deutsche Post”(郵便部門)
- ”Deutsche Telekom”(通信部門)
が負う事になった。
1996年11月18日、まずは”Deutsche Telekom”(以下テレコムと略)が初めて上場された。
初値は28.50DM。
このドイツテレコムの上場を監督・遂行した社長は、ロン ゾマー氏。
ソニーの社長をしていたが、
「ドイツテレコムの社長にならないか。」
と誘われると、ソニーを辞職してかっての国営企業の社長に収まった。
Volksaktien
日本人は米国と比べただけで、
「世界中で、、、」
とやる悪いクセがある。
株でも
「世界中で、日本人ほど株式投資に消極的な国民は居ない。」
と断言する。
実はドイツ人のほうが、株式投資には消極的だ。
その
「株嫌い」
のドイツ人をおびき寄せるため、ゾマー氏はソニーの新製品販売開始のような大々的なキャンペーンを行った。
氏も
「ドイツテレコム株は、年金のように確実なもの。」
と語り、国民の購買力を煽った。
「流石はソニーの社長!」
と思わせる見事な上場キャンペーンで、上場は大成功。
上場される株に対して5倍強のオーダーが舞い込んだ。
なんと株主の68%が、
「これまで株式投資に手を出したことがない。」
という個人投資家だった。
結果、ドイツテレコム株は
“Volksaktien”(国民株)
の異名を頂戴した。
100ユーロの壁を突破!
この人気ぶりを見てドイツテレコムは、第二回目、第三回目の上場を行った。
通常、どこかの会社が
「増資」
すなわち新たな株式を発行すると、株価は暴落する。
が、
「この前は買えなかった!」
あるいは
「乗り遅れた!」
という個人投資家が殺到して、株価が下がる傾向を一向に見せなかった。
それどころか上場から4年後の2020年3月16日、株価は103.50ユーロの最高値を記録した。
初値から見ると4年間で株価は、7,2倍になった。
政府は
「今がチャンス!」
と持ち株をすべて手放して、大儲けした。
不動産価値 粉飾評価疑惑
ニュートンならずとも、高くあがった物はいずれは深く落ちる運命にある。
だから株価が高騰したら、売却して利益確保することが欠かせない。
が、素人投資家にそんなことがわかろうはずもない。
2001年になって、
「ドイツテレコムは会社の不動産を粉飾評価している。」
という不動産粉飾評価疑惑が浮上した。
その後、ドイツテレコムは
「会社の資産価値評価は正しくなかった。」
と誤りを認めることになるが、それは数年後の事。
マズイのは疑惑。
元、国営企業が会社の資産価値を粉飾評価している(かもしれない)という疑惑が、テレコム株に対する信頼を台無しにした。
2001年9月11日、株価は10ユーロを割り込んでやっと暴落が少し止まった。
最終的には7.71ユーロが最安値となった。
ドイツテレコム株上場訴訟
最高値でドイツテレコム株を購入した素人投資家は、投資額の90%を失った。
ここに大儲けする機会を見出した弁護士が、ドイツテレコムに対して
「不動産価値を故意に粉飾した。」
として損益を株主に返す事を要求するドイツテレコム株上場訴訟を起こした。
訴訟にてドイツテレコム側は、誤りをすべて否定した。
が、数字は嘘をつかなかった。
ドイツテレコムは会社の不動産価値の評価に
「間違い」
があった事を認める事を余儀なくされ、裁判所の勧めで株主に賠償をオファーした。
その賠償内容でもめにもめた。
13年後に解決!
2022年11月、ドイツテレコムを訴えた個人投資家の多くは、ドイツテレコムの賠償オファーに承諾。
テレコム株上場から22年、裁判闘争開始から13年後に
「ドイツで最も有名な長期裁判」
は終焉した。
肝心のドイツテレコムの賠償オファー内容だが、
- ドイツテレコムは個人投資家が買った株を買い値で買い戻す
- 買い戻し額から配当金を差し引く
- 株をすでに売却している場合は、売却益を買い戻し額から差し引く
という公平なもの。
ただし!
このドイツテレコムの賠償オファーは、ドイツテレコムの3回目の株式上場で株式を購入した人だけが対象である。
上述の
「不動産価値の評価間違い」
は、ドイツテレコムの3回目の株式上場の際に投資家に配布されたパンフレットに載っていたから。
それ以前の上場では、間違いが確認されなかったので賠償の対象とはならない。
ドイツ人が株式投資を嫌うわけ
コレ、すなわち
“Volksaktien”(国民株)
の大暴落により個人投資家の多くが大やけどした。
これが原因で、ドイツ人は株式投資がさらに大嫌いになった。
もっともコロナ禍で投資人口は若い世代を中心に増えてはいるが、
「世界で最も投資を厭う日本人」
よりも投資人口は、はるかに低い。