ドイツの達人になる 交通

ドイツではドライブレコーダーは違法なの?なんで?

投稿日:2019年5月17日 更新日:


走行中の車から動画撮影するのは違法です!!でも、なんで?

ドイツではドライブレコーダーは違法なの?なんで?

日本ではすっかり当たり前になっていドライブレコーダー、それに店舗や自宅の監視カメラ。お陰で設置に際して何とも思わない人がほとんど。でも、何も犯罪を犯していないのに、車を運転するだけ、カメラを備えた家の前を通るだけで、承諾なく撮影されてしまう。

これが極端に進化しているのが中国。監視カメラが駅から道路まで、そこら中に設置されており、これを使って個人をずっと追尾することができてしまう。これは個人のプライバシーの侵害になる。共産国家ならアリだが、民主主義を謳っている国なら、国家には理由なく個人を監視する権利はない。

すべての車がドライブレコーダーを取り付けて自由に撮影を始めたら、中国と同じで個人のプライバシーの侵害になる。だから人権が守られている欧州では、そのような動画の撮影は違法となっている。日本のつもりで平気で撮影するとどんな目に遭うか、実例、裁判例を出して紹介いたします。

個人情報保護法 – Bundesdatenschutzgesetz

前の記事でドイツの憲法、「基本法」について述べたが、憲法では個人には侵されてはならない基本権が認められている。投票の権利、自由に意見を言う権利、平等の権利などに加えて、個人情報を保護されるべき権利が認められている。

だからドイツで防犯目的で家の前に監視カメラを設置、これが家の前の道路を撮影していたら、数日から数週間で隣人から苦情が来る。「勝手に俺を撮るんじゃない!」というわけだ。隣人には彼の個人情報を守る権利(基本権)があるので、これを遵守せず、通行人が写るようにカメラを設置していると、違法行為を犯していることになる。

そのようにカメラを設置していると、慰謝料を請求されかねないので、早く撤去するか、カモフラージュして誰にもわからないようにしよう。後者の場合は相変わらず違法だが、少なくとも隣人から訴えられることはない。

これは道路の上でも同じ。誰がどんな車、あるいは自転車で何処に向かっているか、これは保護されるべき個人情報に相当する。あなただって、誰かがあなたは24時間監視して撮影していたら、いい気持ちがしないだろう。

だからドラブレコーダーで走行車両を無差別に撮影するのは、基本権の侵害に相当するので禁止されている。しかるに日本では堂々と基本権を無視する撮影が行なわれている。個人の権利が侵害されているのに、これに文句を言う人がいない。

おかしい?と思う人はいないのだろうか。この風潮だと国家が国民の監視を始めても、誰も文句を言いそうにない。本来、国家の違法行為を監視すべきメデイアだが、芸能人の私生活か、お笑い番組で視聴率を稼ぐことを使命にしており、こちらも国家の暴走を止めることには役に立ちそうにない。

ナンバープレート自動認識カメラ

個人の権利を重視する欧米人と、これを軽視するアジア人。この違いを象徴する例が幾つかある。欧州では国境がないので、犯罪者がドイツまで出張に来る。移動に使われるのは高速道路だ。警察はなんとか犯罪者を高速道路で発見、捕獲できないか考えた挙句に、スピード違反カメラを利用する案を考案した。

高速を走る車のナンバープレートを無差別に撮影して、警察本部に自動送信する。本部ではコンピューターがナンバープレートを自動で認識して、ドイツはおろか、欧州全域で指名手配されている車のナンバープレートと瞬時に比較、指名手配されているナンバーが見つかると、警告とそのナンバープレート、指名手配の中身が表示される。

あとは”Martinshorn”(サイレン)を鳴らして、車を追跡する。一般道と違い、高速では逃げ道(わき道)が少なく、実に捕まえやすい。警察はこの方法で犯罪者を捕獲、大きな成果を上げていた。しかしそれもある一般市民のドイツ人が、警察の行動に不審を抱くまで。

何も悪いことをしていないのに、警察が自分の車を撮影するのは、個人の権利の侵害だと感じた市民が、警察の操作方法は基本法で認めらている個人の情報保護に抵触すると訴えた。

警察は市民の生活を守るためにやっていることで、撮影したデータは検査後消去されるので、何も隠すことがない市民に弊害はなく合法であると、まるで日本の警察のように論拠した。

この一件は最高裁判所で争われることになり、2019年の2月に判決が出た。最高裁の判事は、「ナンバープレートの自動認識が犯罪者の捕獲に繋がる、繋がらないに関係なく、無差別にナンバープレートを撮影するのは、基本権の侵害にあたる。」と判決を下した。

参照元 : heisse online

しかしすべての捜査が違法というものではなく、例えばテロリストが車で逃走中である場合など、具体的な事例がある場合は、ナンバープレートの自動認識を合法とした。

ドライブレコーダー撮影に課せられる罰金刑

警察が車を理由なく撮影しても違法なのだから、民間人が撮影しても違法なのは、説明するまでもなし。「そんな馬鹿な!」と信じれない方、高速道路を走行中、ドライブレコーダーで撮影をしていたドイツ人、警察に見つかり200ユーロの罰金を言い渡されました。

参照元 : bild

それだけではありません。ミュンヘン市内に車を停めたドイツ人女性、車が当てられることを心配して、駐車中も3時間以上に渡ってドライブレコーダーで撮影。そして実際に当て逃げに遭遇!

警察に「犯人を捜して!」と動画を届けでると、「個人情報の侵害」で書類送検されてしまった。裁判所の判決は150ユーロの罰金刑。

参照元 : heisse online

ドライブレコーダーで撮影された事故動画に、当て逃げ犯の他にも、無関係な多数の車両が写っているのが、不味かった。

合法なドライブレコーダーの撮影

ところが今年、これまでの常識を覆す判決が下された。ことの起こりは、東ドイツのマグデブルク市内の道路。ここでドイツ全土で日々数百と起こる接触事故が起きた。横に車がいるかどうか確認もしないで車が車線を変更、「ドカン!」と横から追突した。事故を起こした張本人は、「相手がぶつかってきた。」と主張した(ドイツではこれが当たり前)。

当然、裁判所で争われることになったが、警察も事故の専門家も、誰が車線を変更したのか判定をすることができず、お互いに修理費を払う痛み分けの判決が出た。追突された被害者は、「撮影したドライブレコーダーの動画を見れば、誰が事故を起こしたのか一目瞭然だ。」と主張した。しかし裁判所は、「違法な撮影は証拠として使えない。」と判断、これを見ることさえも拒否した。

「俺は悪くない。」と確信してた被害者は、地裁で負けても挫けずに控訴した。そして最高裁判所この一件を判断することになった。果たして事故の状況を撮影した動画は証拠として有効なのだろうか?

2018年5月、最高裁はドライブレコーダーの動画は裁判で証拠として有効であるとの判決を下した。

参照元 : Tagesschau

肝心の判決理由は、

1.他に事故の原因を突き止める証拠、手段がない

2.事故の当事者同士、個人情報を交換するのだから、個人情報はどのみち知れ渡る

3. ドライブレコーダーの撮影は公の道路だけであった。公の道路を使用するからには、他の人に見られのは避けられぬ。

という内容だった。

最高裁はこの一件を地方裁判所に戻し、そこの裁判官がドライブレコーダーの動画を見て判決を下すように命じた。

じゃ、撮影してもいいの?事故の時は証拠として使えるの?

となると、「じゃ今後は堂々と撮影してもいいの?」と問いたくなるが、判事は無差別に交通を撮影をするのは今後も違法とした。

「じゃ、事故の時は証拠として使えるの?」と聞きたくなるが、判事は、「事故により状況が異なるので、個々に判断する必要がある。」と付け加えた。

これは将来、「何か特別な状況下で個人の権利が侵害される恐れがある場合は、証拠として使えない場合もあるよ。」という最高裁判事の賢い通達である。言い換えれば、一般には今後は動画が裁判所に証拠として提出できることになる。

しかし警察に見つかれば罰金刑になる危険もある。このようなドイツの特殊な法律に合わせて、事故がなければ撮影した動画を消して、新しく撮影を開始するドライブレコーダー、唐突なブレーキや衝撃を感知すると撮影を開始するドライブレコーダーも販売されている。

ドイツにお住まいの方は、”Dashcam”でぐぐってください。た~くさん、カメラが出てきます。

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執筆者:

nishi

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