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エアバス A380 生産中止決定! – 大き過ぎ、高過ぎた飛行機

投稿日:2019年4月24日 更新日:

エアバス A380

最高で853席もの座席を搭載することができるエアバスの旅客機A380は、言わずもがな、世界最大の旅客機だ。この飛行機のウリは大きさだけではない。エコノミークラスでも座席が広く、至極快適。

胴体には炭素繊維を多用しているので、「薄いアルミ」のボデイに比べて、防音性が高く、機内はと~っても静か。皆まで言えば、A380のトイレは初めて肩が壁に当たらないだけの空間を提供しており、「落ち着く」ことができた唯一の飛行機だった。

ところがこの素晴らしい飛行機の生産中止が決定してしまった!

参照元 : Frankfurter Allgemeine

2021年に最後の飛行機を組み立てたあとは、生産ラインは解体されてしまう!これまでこの飛行機を組み立てていたハンブルク工場では、工場が閉鎖になるのでは?と早くも暗雲がたちこめている。

一体、この飛行機の何処が悪かったのだろう?

戦略の違い

世界最大の航空機を製造するコンセプトは、90年代に生まれた。当時、乗客数は毎年、飛躍的に上昇していた。このペースに空港の拡張工事が追いつかないのは、火を見るよりも明らかだ。

日本の成田空港でも、ヒースロー空港でも、騒音問題があり、滑走路を増やすことができない。既存のインフラを使って乗客数を増やすには、飛行機を大きくするしかないと判断した。

一方、すでに世界最大の旅客機ジャンボを有するボーイング社は、新しいジャンボを設計するか、それとも燃費のいい中型の飛行機を設計するか考えた挙句、後者に決定した。

ボーイング社のトップは今後、メイン空港が乗客処理能力の限界に達すると、需要は地方空港に移っていくと考えたからだ。

デユッセルドルフ空港は滑走路が短すぎる?

90年代から21世紀初頭まで、日本からドイツに直行便で飛ぶルートは、関西空港 – フランクフルト、あるいは成田 – フランクフルトに限られていた。全日空と日本航空は、デュッセルドルフに住んでいる日本人向けに、フランクフルトまでシャトルバスを運行していた。

皆まで言えば、日航ホテルを持つ日本航空は、ここを基点にバスを運航。日航ホテルを(当時は)使わせてもらえない全日空は、ちょっと離れた場所にあるSASホテルを基点にバスを運航していた。

言っちゃ悪いが、日本から10時間もかけて疲れ果てて到着後、今度はさらに狭いバスに3時間も乗せられるのには辟易。「週1本でいいから、デュッセルドルフ行きを飛ばしてくれ。」と何度もお願いした。

すると航空会社の返事は、「デユッセルドルフ空港の滑走路は短いので、日本からに飛行機は離着陸できない。」という下手ないい訳だった。その短い筈のデユッセルドルフ空港の滑走路から、米国やアジアまで直行便が飛んでいた。日本の会社は何故、真実を言わないで、下手な嘘で誤魔化すのだろう?

あれから20年経って、今たミュンヘンはおろか、デユッセルドルフまで、直行便が飛んでいる。滑走路が短いんじゃなかったの!?

ボーイング社の予想的中!

実はコレ、フランクフルト空港の乗客処理能力が限界に達したのが原因だ。日本の航空会社は需要を捌くため、フランクフルト以外の路線を開拓する必要に迫られた。

すると以前から乗客の多かったミュンヘン空港やデユッセルドルフ空港でスロット(離発着権利)を取得した。これには結構なお金がかかる。だから日本の航空会社はスロットを増やさないで、フランクフルト空港、一本で済ませたかったわけだ。

この発展は、まさにボーイング社の予想した通りだった。何故、全日空と日本航空は世界最大の旅客機、A380を導入しなかったのだろう。

タイ航空大赤字

日本の航空会社と違い、メイン空港へA380を飛ばして乗客の需要を捌く決定をしたのがタイ航空だ。大阪からバンコクまでの中距離、そしてバンコクからミュンヘンまで、A380を導入した。これが至極快適で、おまけにストップオーバーするのは無料!ドイツと日本の往復には好んで利用した。

ところがタイ航空、大赤字を出してしまった。そう、飛行機がでかすぎて、座席が埋まらないのだ。とりわけ関西空港 – バンコクは飛行時間が5時間と短いこともあって、(儲かる)ビジネスクラスが埋まらなかった。

数年後、タイ航空は所有していたA380の大半を売却、バンコク – ミュンヘン線には、びっくりするほど古いボーイング機を投入。機内食もかなりグレードダウン、騒音は煩いし、トイレは狭い、しかしチケットは高いと散々だったが、タイ航空は黒字に転換することに成功した。

大き過ぎ、高過ぎた飛行機

A380は大き過ぎて、高すぎた。各航空会社にとって、高い金を払って世界最大の航空機を導入するのは、タイ航空の例が示すように、リスクが高すぎた。日本の航空会社に限らず、各社、他の路線を開拓すると、ボーイング社が開発した燃料を節約できるドリームライナーを注文した。

貴重な例外は、韓国航空、シンガポール航空、カター航空、エチアド航空、それにエミレーツ航空だった。小国であるカター、アラブ首長国連邦、それにシンガポールは、世界の主要空港に飛ぶ乗換え地点として特殊な需要がある。ここに乗客を集めれば、A380で黒字を出すこともできる。

これらの航空会社がこのデカイ航空機を注文しててくれれば、今後もA380の生産は続けられた。エミレーツだけでも、この飛行機を162機も注文している。ところがよりによってエミレーツが注文の一部をキャンセル、注文は123機に減らされた。

その他の航空会社からの注文は、わずか14機だった。お陰で年間30機の生産能力のある工場は、年間組み立て数が6機に減らされた。世界最大の航空機を生産する工場はデカイ、そして技術者の数も多い。その能力をフルに使用せず、火が消えないようなチョロチョロ運転では、会社には赤字である。

エアバス A380 生産中止決定! – メイジャートムの決断

エアバスはなんとかこの一大事業をそれでも救おうと、さまざまな改造案を各航空会社に提示した。航空会社の最大の不満だった燃料消費の面では、翼の先端を改造することで空気抵抗を減らすモデルも導入した。

参照元 : Flug Revue

しかし航空会社の反応はとても冷めたものだった。今年、エアバス社では社長の交代がある。ドイツ人のトム エンダース社長、フランス人に席を譲ることになる。ドイツ空軍で少佐のランクを有していたので、同氏のあだ名は「メイジャートム」。少佐は後継者のお荷物になりかねない事業を引き継ぎたくなかったようだ。

「こんなに美しい飛行機を廃盤にするのはもったいないが、どんなに改造案を提示しても売れないから仕方ない。」と決断の理由を明かした。

参照元 : Zeit Online

赤字事業 A380

そもそもA380は今後、40年に渡って製造、販売される予定だった。それが12年で終わりになると、開発費も回収できずに、大赤字になる。新型の飛行機の開発にはとてもお金がかかるので、欧州政府はエアバスにクレジットを与え、エアバスはこの金で新型機を設計、開発した。

ドイツ政府はエアバスに9億4千200万ユーロのクレジットを与えていた。借りた借金は、飛行機を販売するに比例して、返却される。ヒット商品なら返済も早いが、A380は販売台数が少ないので、まだその1/3しか返却されていない。

今後、飛行機の製造が終わってしまうと、借金の払い戻しも終わってしまう。結果、6千万ユーロものクレジットが、返却されないままないなる公算が高い。

参照元 : Zeit Online

願わくはエアバスが少しでも多くの飛行機を販売して、少しでも借金を返して欲しい。

全日空の冒険

全日空は日本航空のドル箱路線、成田-ホノルル線で乗客を奪取すべく、高価なA380を3機も購入した。普通の塗装であれば使用される塗装用の型は150程度だが、航空会社のたっての要望で特殊な塗装が施され、使用された型は930にも登った。言うまでまでもなく、過去最高だ。

参照元 : Zeit Online

エミレーツはこの飛行機に615座席も搭載しているが、ANAは520座席にしたので、機内はゆとりがありそうだ。果たして同社はこの航空機で、黒字を出すことができるのか?日々、500人近い乗客を確保できるのか?

私だったら価格が安くて、燃費効率が全然いいA350-1000型を導入していただろう。この機種なら440座席まで詰める。運営コストが安いので、平均して80%ほど席が埋まれば、チケットの販売価格次第だが、会社は十分に黒字なる。

もし3年後もホノルル線にA380が飛んでいれば、全日空の経営陣は大当たりを引き当てたと言っていいだろう。3年も経たないで飛行機を変える場合は、「なんで他社の失敗から学ばなかったの?」と言われても仕方ない。

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執筆者:

nishi

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