今回のテーマはドイツで行なう確定申告です。実は10年ほど前、このテーマを取り上げました。しかし記事の掲載をこちらのページに移行したので、古いページをご存じない方も多いと思います。
さらには2019年から新しい法律が施行されたので、この機会にこの面倒なテーマ、ドイツの確定申告を取り上げてみます。まずはその名前から。
この記事の目次
ドイツで行なう確定申告
日本では確定申告と言うので、「ドイツで行う確定申告」という表題にしましたが、厳密に言えばドイツでは、”Steuererklärung”(税金申告)と言います。そう、申告です。
日本の確定申告では、自分で収める税金額まで計算します。ですから確定申告と言います。ドイツでは収入と出費を記入するだけ。払うべき税金、あるいは払い戻される税金を計算するのは、税務署の役人の仕事です。ですから確定申告ではなく、税金申告と言います。
さらに日本では会社勤務、公務員の方は、滅多に確定申告をすることがないと思います。被雇用者が確定申告をするのは、(ざっくり言えば)株で大儲け(あるいは大損)をするか、高額医療費が発生した場合に限られるようです。ドイツでは被雇用者でも、毎年、税金申告をすることができます。そう、「することができる。」です。
ドイツ伝説- 確定申告をしないと将来、年金がもらえない説
日本に住んでいる方にとって、ドイツは言葉もわからない遠い国。見たこともない国についてあれこれと想像した結果、「ドイツ伝説」と呼ばれるドイツに関する数多くの勘違いが生まれています。こうした誤謬は「一部の事実」を含んでいる為、広く信じられ、根強く社会に浸透しています。
「ハンバークはドイツのハンブルクが起源」から初まって、「ドイツでも大学は4年制度」、「高速道路はスピード制限無しで無料」、「ドイツ人と日本人は似ている。」等、日本で跋扈しているドイツ伝説を数え始めたらきりがありません。
ドイツに住み始めるとこうした勘違いの多くは修整されますが、ドイツに住んでいるのに一行に修整されないドイツ伝説のひとつが、「確定申告をしないと将来、年金がもらえない説」です。
この伝説の出所は不明ですが、間違いです。ドイツで確定申告をしないでも、年金はもらえます。そもそも税金申告と年金をどうして関係ずけるのか、そこが私には理解できません。税金は税務署、年金は年金事務所の管轄で、ふたつの異なる役所です。このドイツ伝説は、「免許証を持っていないと、パスポートが発行してもらない。」、みたいな根も葉もない伝説です。
「じゃ、税金申告しなくていいんですね?」
それには条件があります。まず独身であること。そして仕事はひとつだけで、時々臨時収入はあるが、これが410ユーロ/月を超えない場合は、税金申告をする義務はありません。
しか~し。ごく稀に税務署は、「税金申告を出してください。」と要請することがあります。前年に多額の税金還付を受けると税務署が、「払い戻した税金を取り戻せないか?」と、挑戦するのが原因です。
その場合は、税金申告を出す義務があります。これをしない場合、税務署にはあなたの収入を「見積る」権限があります。そうなると税金の追加払いが必要になるように、収入をかなり大目に見積もります。そして税金の追加支払い命令が届きます。そう、命令です。
命令が届くと、異議があってもまずは支払わないと、あなたの口座を凍結されてしまいます。日本ではあり得ない”Kontopfändung”というドイツの税務署の必殺技です。そうなると自分の口座なのに、お金を下ろすことができなくなります。
そのようなトラブルを避けるため、税務署から税金申告の要請が届いたら、これに従いましょう。
多めに払った税金を取り戻せ!
ドイツの税金申告は、多めに払った税金を取り戻す機会として位置づけられています。しかしドイツの税金申告も、ほぼ日本並みに複雑怪奇な代物。ドイツ人でも、「何を書けばいいのかわからん。」と苦労するのだから、日本人にはアルプス登頂みたいな難業。
そんな苦労をしてまで、申告する甲斐があるんでしょうか?
それがあるんです!例えば医療費。日本では10万円を超えないと医療費の還付(医療費の控除)がありませんが、ドイツではこの限度額が低いです。正確な控除対象の医療費は、お給料と生活環境(独身、結婚、子供がいるかどうかで変わってくるので、「〇〇ユーロから。」と具体的な数字を上げることはできません。間違いを承知でそれでも額面を挙げるなら、600~700ユーロくらいが税金控除の対象になる額面になります。
さらに!高額医療費の税金控除になるのは、医療費だけではありません。別件で処方された薬の代金、例えば花粉症の薬だったり、風邪薬、診療所に向かう電車、タクシーなどの移動費用、これらをすべて合算して600~700ユーロに達すると、医療費控除の対象になります!
ドイツでは手術費も無料なので、600ユーロもの高額医療費が出るをことはないです。
それは何よりです。確かに手術費は保険が負担してくれ、入院費用は1日10ユーロで三食込みと安いですが、保険が効かない分野があります。それが歯科治療です。
クローネ(王冠)を入れると、一本、700ユーロでは済みません。これにその他の薬代を含めれば、800ユーロ以上の出費になる筈です。あなたが独身の駐在員でなければ、この額は十分に医療費の税金控除になる額です。
「税金申告したら追徴金のお知らせが来ました。これっってアリですか。」
税務署の仕事は税金を還付することはなく、税金の取り立てです。還付金の申請が届くと、これを厳密(意地悪な目線で)審査して、却下することも少なくありません。税務署が判断を間違っていることも多いですが、自分で申告をしている場合は法的な知識がないので、どこまで自分に権利があるのかわかりません。そんな場合には必殺技があります!
それは税金申告の取り下げです。書面で「〇〇年度の税金申告を取り下げます。」と通達すれば、あなたが提出した税金申告は、「しなかった事」になるんです。
私が税金申告をすると、「40ペニッヒ」の追徴金が課されたことがありました。今の通貨で言えば、20セント。冗談かと思って無視していたら、翌月には1マルクもの大金を使って(切手代金)、支払いの催促状が届きました。
40ペニッヒの税金を取るのに、その2.5倍の税金を使って税金を回収しようとするんです。ドイツの税務署は人間ではなく、ロボットです。例え20セントの未払金でも、納入されるまで諦めません。
知らないと大損!初年度は税金還付の年!
ご存じない方も多いですが、ドイツで仕事を始めた方には、初年度、税金還付を受ける可能性が非常に高いです。ドイツで仕事を始める方で、1月1日から始める方は稀。なのに税務署は12か月分の給料をもらったことを前提に、税率を設定しています。
ドイツでは9168ユーロ未満の収入では、所得税を支払う必要がありません(2019年から)。9月から仕事を始めた場合、この額面に達しないことが多いと思います。するとお給料から差し引かれた所得税を、そっくりそのまま取り戻すことができます。
「私は春先から仕事を始めたので、還付金はありませんか。」
まったくないというケースは稀です。収入が9168ユーロを超えた場合、超えた分の所得税率は14%かかりますが、これはこの最低収入額を超えた額に対してです。税率はここでも1年就労しているとの想定で設定されているので、税金を払いすぎているケースが多いです。
さらには年収が55000ユーロを超えると、税率は42%になります。ここでも税率は1年間働いたことを前提にしているので、還付金を受け取れる可能性が高いです。
この多めに払った税金は、税金申告をすることで取り戻せます。その他に税金還付を受けるような出費がない場合は、税金申告書に名前、住所、口座番号、マイナンバーを明記、それに “Lohnsteuerbescheinigung”(税金明細書)を雇用者からもらって印刷して一緒に送るだけ。
参照元 : Wikipedia
「3年前に仕事を始めたのですが、知りませんでした。もう駄目ですよね。」
ところがそうでもないんです。ドイツでは過去4年まで遡って税金申告を行えます。4年前に仕事を始めた方は、今年が税金還付を受ける最後のチャンスです。
税金控除の対象 – 業務上の出費 ”Werbungskosten”
税金申告で還付金の運命の分け目になるのが、業務上の出費”Werbungskosten”です。こちらの出費は、自動的に1000ユーロまでの出費があったとの前提で計算されます。
すなわち1000ユーロ未満の出費であれば、この項目には記入する必要はありません。しかし税金控除の対象になる項目が多いので、全部合わせれば1000ユーロを超えるケースもあります。
その代表的なものが、仕事に関する出費、職業訓練費用です。日々の出勤費用や職業訓練をうけるための教材費や訓練自体の費用まで、”Arbeitsmittel”(仕事道具)として記載することができます。職人の場合は、仕事を遂行するのに必要な服装から、商売道具まで。
私は一度、背広の費用を仕事道具で上げて税金の還付を試みましたが、「仕事以外でも使えるからダメ。」と言われました。「仕事に行かないのに、背広なんか着ない。純粋に仕事着。」と反論しなかったことが、今でも悔やまれます。誰か一度、挑戦してみてください。
自営業の方は言う間でもなく、事務用品は経費として落とせます。以前は、「410ユーロを超えるものは3年間で償却していく。」という規則でしたが、改正後は952ユーロ(消費税込み)まで一発で落とせます。単価がこの額を超えるものは、毎月、3年間かけておとしていく形になります。
よく問題になるのが、会社勤務だが自分のパソコンも仕事道具で「落としたい。」というケース。日系企業で勤務していると、パソコンは会社から支給されますよね。多くの日本人はこれを自宅に持ち帰って、仕事をしています。しかるに自分のパソコンも仕事道具で落とせるのか?
これが意外や意外。ちゃんとした理由があるなら、50%まで仕事道具で落とせます。何がちゃんとした理由なのか、これは経費で落とすことに成功した先輩方にお尋ねください。
税金控除の対象 – その他
ドイツ語レッスン
外国人の場合に限りますが、ドイツ語のレッスン費用も落とせます。家族だったら奥さんのドイツ語教室のレッスン費用も必要経費に。
職人の請求書
ドイツで職人に頼んで照明をつけてもらったり、あるいは車庫への道をコンクリで舗装してもらったり、ガラスが割れて入れかえてもらったり、なにかと職人に頼むことが多いと思います。
ドイツではこれまで、「週末に俺がやってやるよ。」と知り合いの職人にたのむ、闇仕事が一般的でした。これでは税金が入ってこないので、「職人に家庭で必要になる仕事を頼むと、20%まで経費として落とせる。」という法律ができました。ただし最高額は4000ユーロまで。職人に何か仕事を頼んだ場合は、ちゃんと請求書をもらっておきましょう。
引っ越し
「ミュンヘンで仕事が見つかった!」という場合は、引っ越し代金も必要経費として申告できます。ただし控除が可能な額面は、787ユーロ(お一人様)まで。
保険料
自営業者の方は、毎月払ってる高価な健康保険料を全額、必要経費として挙げることができます。被雇用者の方でもドイツの常識、個人賠償責任保険の保険料は必要経費としてあげることができます。車を所有している方は、強制保険費用を経費として挙げることができます。盗難保険などが含まれる”Teilkasko”、それに車両保険の “Vollkasko”は経費としてあげることはできません。
年金
日本とドイツの間には年金協定があり、どちらかの国で年金を払っていれば、もうひとつの国では年金を払う義務から解放されます。とは言っても、ドイツで就職された「現地採用」では、日本では年金を払っていない筈。ですからドイツで年金を納める義務があります。
事情が異なるのは自営業者の場合。ドイツの現行の法律では、自営業者は(稀な例外を除き)ドイツの国民年金へ加入する権利がありません。そこで老後に備えて日本で任意で年金を払っている場合は、これを経費としてあげることができます。
所得税補助組合 – Lohnsteuerhilfeverein
それでも、「自分のドイツ語能力じゃ歯が立たない!」というケースもあると思います。そんな際は私にではなく、町にある所得税補助組合 – Lohnsteuerhilfeverein までご相談ください。どんな町にも必ずあるので、「知らない、見たことない、聞いたことない。」と言わないで、ぐぐってください。
家族でお住まいで子供のために、あるいはご自身のために、大きな買物をされた場合は、この組合にお願いすると、これが経費と認められて税金が還付されてくる可能性が高いです。
勿論、無償で仕事をしているわけではなく、対価をいただいて仕事をしている方々です。その費用は簡単な申告であれば50ユーロから。複雑な手続きが必要な場合でも、上限は390ユーロまでとお値打ちな値段設定です。
試しに事務所まで書類を持ち込んで、「頼む価値があるかどうか知りたい。」と(礼儀正しく)聞いてみることもできます。愛想がいい人に当たると、その場で書類をめくってアドバイスしてくれます。
税理士 – Steuerberater
日本ではとっても高価な税理士さん。なんであんなに(馬鹿)高いの?ドイツでは税理士さんは格安です。日本と比べると。個人事業主の場合、売り上げと業種によりますが、300ユーロから600ユーロで税金申告をお願いできます。
ドイツの税法はとても複雑で罰金が高いので、個人事業主の場合は、税理士さんに会社の経理をお願いすることを強くお勧めします。私の場合は自分で出費と収入を記録して、年一回だけ税理士さんに会って書類と記録のチェック。あとは税理士さんが税務署に申告してくれ、およそ半年後に税金確定書、”Steuerbescheid”が届きます。税理士さんがこれに間違いがないかチェック、それから報告してくれます。
300ユーロ少々で毎年、税金申告をしてくれる上、「これはこう書いたほういい。」など、さまざまな合法のアドバイスをいただけます。私が頼んだアウグスブルクの税理士さんは、日本に帰国する際は税務署に特別申請を挙げてくれました。お陰で帰国する年の税金の前払いから解放されました。さらにその謝礼は、「日本に帰ってから払ってくれればいいよ。」と信用払い。ネットで検索して見つけた税理士さんですが、とってもいい方でした。
税金申告はいつまでに出せばいい?
日本と異なり、ドイツの税金申告にはたっぷり時間があります。これまでは5月31日でしたが、法律の改正後、7月末日までになりました。
参照元 : NTV
「出すのは義務じゃないと思ったんですが?」
上述の条件を満たす被雇用者の場合は、その通りです。でも個人事業主は毎年、税金申告を出す義務があります。その提出期限が、2か月も伸びて、7月末までになりました。日本と比較して、倍以上の時間があります。
さらには税金申告を税理士に頼む場合、なんと1年以上も提出期限があります。2018年度の税金申告の提出期限は、2020年の3月2日まで!
さらには!「書類が足らないから、もうちょっと待ってくれ。」が、あのガチガチのドイツの官庁で可能です!4週間程度の猶予だったら、ほぼ間違いなく許可されます。何故だかわかりますか。それは提出期限後は申告書が山のように積もっているので、どうせすぐには処理できないから。「机の上に重ねて置いておくだけなら、4週間後でも構わない。」という理屈です。
お断り
「何度読んでもわかりません!」という箇所も出てくるとは思いますが、不明な点は当社にではなく、これを仕事にしている所得税補助組合か税理士さんまでお尋ねください。何卒、お願いいたします。