コロナ禍で政府が課したロックダウン。
飲食店はもとより、フィットネススタジヲも閉鎖を迫られた。
フィットネススタジヲのメンバーは、
「利用できないなら、会員費を返して!」
と要求するも、一度払ったお金をドイツ人が返すことは稀。
だからといって、
「仕方がないなあ。」
とドイツ人が諦めることは、もっと稀。
大方、裁判闘争になる。
その裁判沙汰のひとつが最高裁まで行った。
今回その判決が出たので、皆さんにも紹介しておこう。
この記事の目次
事の始まり
事の始まりは2019年12月。
そう、ちょうど中国でコロナが流行り始めた頃。
この時期にニーダーザクセン州である客が、フィットネススタジヲと2年契約。
会員費は29.90ユーロ。
安いでしょ?
これがドイツの平均価格(*1)。
ところがドイツでコロナが猛威を振るうと、2020年3月半ばから6月初旬まで、フィットネススタジヲは閉鎖。
その後、この客は、
「2021年12月で解約します。」
と書面で通知(*2)。
ただし!
「コロナ ロックダウンによる閉鎖で、フィットネススタジヲを利用できなかったほぼ3か月分、解約後も無償でジムを使わせて!」
と要求した。
普通のドイツ人なら、
「金を返せ!」
とやるもの。
なのにこの客は、フィットネススタジヲの苦労もわかっているようで、
「閉鎖期間分だけ、ジムを使えるようにしてくれたら、それでいい。」
と話のわかる提案。
しかしフィットネススタジヲの経営者はこの客の
「好意」
を理解せず、
「契約を延長してくれれば、閉鎖期間に応じて会員費を減額してあげる。」
とやった。
それは裁判になるでしょう。
ちなみに争いの額は87ユーロ。
それだけ金の為に、2年もかけて最高裁判所まで裁判闘争するのだから、ドイツ人をみくびってはならない!
フィットネススタジヲの論理
日本人なら例外なく、
「フィットネススタジヲが悪い!」
というだろう。
しかし!
フィットネススタジヲは閉鎖で経営ができないのに、家賃を払わなければならない。
お陰で多くのフィットネススタジヲは、倒産に追い込まれた。
幸い、このケースでは(まだ)倒産していないが、どこも大赤字。
ケチで有名なドイツ人が
「お金を返すなんて、とんでもない!」
と考えるのは、自然の理(*3)。
このフィットネススタジヲの経営者は、弁護士の知恵を借りて、
“Störung der Geschäftsgrundlage”
をその根拠に持ち出した。
“Störung der Geschäftsgrundlage”とは?
“Störung der Geschäftsgrundlage”
を日本語に直すと、
「商売の基本条件の阻害」
となる。
わかりやすい例を挙げてみよう。
中国から自転車のフレームを安く仕入れて、日本で
「〇〇ジストン」
の名前で販売。
ところが中国製の自転車、及び、自転車部品に100%の懲罰関税が課せられた。
輸入業者から、
「1万円では赤字。2万円にして!」
と連絡が来る。
「契約は契約だ。遵守して!」
という場面。
このような場面が、
「商売の基本条件の阻害」
にあたり、
「契約を新しい条件に適合させることができる。」
と民法の§ 313に書かれている。
果たしてコロナ禍は商売の基本条件の阻害に相当するのだろうか?
最高裁の判決
最高裁は、
との判決を下した。
判決理由
最高裁はその判決理由で、
と述べた。
被告が主張していた、
「商売の基本条件の阻害」
を理由に、契約の延長を求めることはできないと述べた。
すなわち!
フィットネススタジヲは原告が要求していた、
「閉鎖期間の分だけ、フィットネススタジヲを解約後も使えるようにしてくればいい。」
という解決方法も違憲と判断したことになる。
勿論、違憲でも客がそれで満足すればいいが。
この最高裁の判決により、全国のフィットネススタジヲは会員費の返却を迫られることになる。
これをしないと、3年で請求権は時効になります。
注釈
*1 日本の価格は異常。
*2 そう、2年契約でも書面でちゃんと解約しないと自動延長されますよ~。
*3 ドイツではコロナ禍でキャンセルになった航空機のチケット代金を、客に返そうとしない航空会社が多かった。