シリア難民、それともイラクからの経済難民?
日本で道を尋ねる際、通常なら町を歩いている外国人に、「○○には何処にありますか。」とは聞きません。ところがドイツでは、外国人に道を聞いてきます。それほどまでにドイツでは外国人の姿が当たり前になっています。
そのドイツでさえ、「これは多過ぎる。」と反外国人ムードが高まったのが2015年の難民危機。これまでは難民問題には及び越しで、積極的な関与、言及を避けていたメルケル首相が突然、「人道的措置」として国境を開放、パスポートのチェックもなしで難民を受け入れた。
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経済難民大移動
一口に「難民」と言っても、バルカン諸国(アルバニア、コソボ、マケドニア)、それに北アフリカなどからやってくる経済難民と、シリアなのど紛争地域からやってくる紛争難民に分けられる。前者には厳しい条件が課されており、国境で入国を拒否されるケースもある。運良く入国できても施設に収容されて、大方は半年後には強制送還になる。
ところがここでパスポートのチェックなしで、「ドイツに入国できる。」という絶好のチャンスが訪れた。ドイツに行くことを考えていた世界中の経済難民は、一気にドイツに向けて民族大移動を始めた。
「ドイツに行くと一人頭3000ユーロが支給され、家賃、電気代、医療費など無償でアパートに住める。」という御伽噺を信じ、アフガニスタン、カザキスタン、タジキスタン、アゼルバイジャンなどの国から、若者が一斉にドイツにやってきた。
こうした経済難民はドイツの国境に来るとパスポートを捨てて、「シリアから来た。」と口を揃えて語った。「シリア」と言うだけで施設に収容されて、食事、衣服、宿、それに毎月お小遣いが支給された。
本当に難民?
これを象徴するのが、お財布を盗まれて警察に届け出を出しにいった中国人観光客。警察は言葉の出来ない中国人を(勝手に)シリア難民と判断、哀れな中国人は3週間も難民施設に閉じ込められた。外見からシリア人でないことがわかるだろうが、警察はそんな些細なことは関与しなかった。
ここアウグスブルクでも、この自称シリア人に出会う。「何処から来たの。」と聞くと、「シリア。」と言うが、「本当は何処から来たの。」と聞くと、アフガニスタン、カザキスタン、タジキスタン、アゼルバイジャンなど、滅多に聞いことがない国名のオンパレードだ。中には黒人まで。一体、どうすればアラビア語を一個も話さず、見るからにシリア人ではない人間が、シリア難民の認定を受けることができるのか。
口封じ
長く不思議に思っていたが、やっと謎が解明した。ブレーメン州の”Bamf”(Das Bundesamt für Migration und Flüchtlingeの略。以降、難民局と省略)で働く公務員が、「難民審査が正しく行なわれていない。」と、ニュルンベルクにある本部に内部告発をした。これが2016年の話。
しかしニュンベルクの本部では何も対策を採らなかった。そこでこの公務員は事情をブレーメンの難民局長に報告、局長が事実関係を調べると、理解できない難民認定が多く見つかった。そこで局長は内務大臣にSMSでこの事情を告発したが、返事は来なかった。それどころか内部後発をしたこの局長は、これ以上重箱の隅をつつけないように北バイエルン州の片田舎に左遷されてしまった。
参照元 : Süddeutch Zeitung
難民認定請負人 – 1000ユーロで難民認定請負います!
ここで官庁の内部隠しが、メデイアに漏れた。週刊誌は「ブレーメンで不当に難民認定が数千人に下された。」と報道、ようやく真実が流れ始めた。この難民認定請負人のネットワークは、難民専門の弁護士、通訳、そして難民局の役人がグルになっていた。
弁護士が難民の申請を難民局に上げると、「袖の下」をもらっている官僚がこれを審査した。面談ではこれまた袖の下をもらっている通訳が、アラビア語を話せない難民を通訳した。もっとも難民はその代償に弁護士料として1000ユーロを払い、弁護士はこの金で必要な人間に賄賂を渡していた。
あまりにもうまく機能するこの難民認定のネットワークは難民の間で大人気となり、バスに乗って難民が弁護士事務所を朝から夕方まで訪問、これまでに成功裏にもらった難民認定は1200を超え、弁護士事務所はボロ儲けした。
スキャンダルが公になるとニュンベルクにある難民局の長官は、「私が就任する前の事態なので、知らなかった。」と知らないフリで通そうとした。しかしまたしても週刊誌が、この長官が部下に書いたメールを公表した。2017年2月に書かれたこのメールには、「細部まで調べないように。」と指示を出していた。
参照元 : Spiegel Online
長官が記者会見で説明した、「知らなかった。」は、嘘であることが暴露されてしまった。難民局の局長が送ったSMSを無視して自ら非難された内務大臣にとって、これは逆に都合がよく、大臣は罪を押し付けるためにこの長官を解任した。
参照元 : Zeit Online
野党はこの「天からの恵み」に感謝、「国会調査委員会」を要求している。しかし野党は国家調査委員会の招集に必要な過半数を持っていないので、招集は難しいだろう。もっとも与党が同意すれば話は別。しかし自らの内務大臣を被告として調査委員会で非難にさらす事には興味がないので、同意する可能性は高くない。
スキャンダルが公になると、難民局の不祥事の調査権限はブレーメンの検察ではなく、重犯罪、全国版の犯罪で動き出す中央検察局に移された。政府に拠れば、「隠すことなく、細部まで解明するため。」という。その中央検察局の親分、内務大臣が槍玉にあがっているのだ。どこまで真面目な調査、告発が行なわれるか、大いに疑わしい。これでは真実の解明ではなく、真実の埋葬となるだろう。