ドイツでは先々国防大臣の頃から、次期戦闘爆撃機の導入が議論されてきた。
ところが、
「そんなに急ぐ必要もなかろう。」
「予算もないし~。」
と毎年、決定を先送り。
そんな優柔不断なドイツをあざ笑うかのように、プーチンがウクライナ侵攻。
その数日後、ドイツ国防省は
「次期戦闘爆撃機としてF-35を購入する。」
と発表した。
よりによってあのプーチンに
「背中を押された」
形だ。
何故、国防省が大事な決定に長く優柔不断だったのか、その理由を紹介してみたい。
この記事の目次
Tornado 戦闘機 導入から40年
東西冷戦の真っ最中の1974年、ドイツ空軍に新しい戦闘爆撃機(*1)、
”Panavia Tornado”
が導入された。
ドイツでは簡単に
“Tornado”(竜巻)
と呼ばれています。
この戦闘爆撃機はドイツ、イギリス、それにイタリアの
「三国合作」
なのに、開発・製造に成功した稀な例。
戦闘機として、時には爆撃機として、あるいは偵察機として、最近では
「空の電子戦闘」
の任務にまで、それこそ何でも使える万能戦闘機だった。
ところが導入から40年が経ち、
「今飛べるのは数機だけ。」
という状況に。
「すぐ明日にも!」
後続機が必要なのだが、その選抜で揉めに揉めた。
後続機導入が遅れた理由
“Tornado”後続機導入が遅れた最大の理由は、ドイツの伝統である政治家への賄賂(*2)が原因だ。
軍需産業には高価な戦闘爆撃機の注文は、と~ってもおいしい。
軍需産業のエアバスが日頃賄賂を払っている政治家を使い、オイロファイターの受注を働きかけた。
が、オイロファイターには大きな欠点がふたつあった。
- 電子戦闘能力の欠如
- 核ミサイル搭載不可能
今日、敵のレーダーを攪乱する機能は、戦闘機にも爆撃機にも欠かせない。
が、オイロファイターは冷戦時代のコンセプトなので、この機能がない。
エアバスは
「改造すればいい。」
と言うが、何年かかるかわかったものではない。
又、ドイツの戦闘爆撃機は有事に、米国の核ミサイルを搭載できる能力が必要だ。
オイロファイターは、これができない。
という決定的な欠点があるのに、エアバスがごねて”Tornado”後続機導入が遅れた。
核ミサイル搭載機能
平和ボケしている日本と異なり(*3)、
すなわち!
ドイツ空軍の戦闘爆撃機には、米軍の核ミサイルの搭載能力を持つことが条件だ。
“Tornado”は40年前の製造なのに、この機能を有する。
なのになんで、オイロファイターがこの機能を有していないのか?
戦闘機の調達にあたり、
「絶対に欠かせない機能」
を上げるものだが、これが欠けていたという実にマヌケな話。
こうした経緯があって、”Tornado”は40年もお勤めしているのに、なかなか退役させてもらえなかった。
Toronado の継続機はF-18?
先代の国防大臣が、
「Toronadoの後続機はボーイング社のF-18にする。」
と発表したことがあった。
ボーイング社からの
「積極的な売り込み」
が原因だ。
ところがである。
米国製なのに、F-18は米軍の核ミサイルの搭載能力を持っていない。
厳密に言えば、搭載できるかもしれないが、米軍によって認証されていない。
そこで21年前に導入された
「最新ではない戦闘機を買って、米軍によって認証される事を期待する。」
という超~間抜けな決定。
よほどおいしい賄賂がもらえない限り、そんな戦闘機を擁護する国防大臣は居ない。
エアバス社からの横やり
又、エアバス社からの横やりもあった。
最新鋭のF-35を後続機として導入されると、最新なので今後最低でも20年、あるいは30年も配備される。
これで貧乏くじを引くのは、エアバスだ。
エアバスは今、次期主力戦闘機の”FCAS”の研究開発中。
F-35が導入されれば、それだけFCASの未来が暗くなる。
しかし!
F-18なら最悪でも20年後には退役を期待できる。
だからエアバスは、
「オイロファイターを。駄目ならF-18を。」
という戦略を取ってこれが功を奏した。
ドイツ国防省 次期戦闘爆撃機にF-35の購入を決定!
ところがである。
ドイツ国防省が購入系契約書にサインする前に、プーチン戦争が勃発した。
すなわち!
プーチン戦争は、核抑止力の必要性をあからさまに証明した。
これは平和ボケしていた社会民主党や緑の党にも、理解できた(*5)。
こうした背景があり、F-18導入案は即ボツ。
いきなりF-35が最有力候補に挙がった。
F-35は最新の戦闘機なので、核ミサイルの搭載能力を持っている。
電子戦闘能力も有して、おまけにレーダーで発見されにくい!
ただし!
滅茶苦茶高い!
(前)トランプ大統領が、
「安くしろ!」
と恐喝したので価格は下がったが、今でも8000万~8500万ドルもする。
これがF-18なら5000万ドル(*6)。
しかし!
ドイツ政府が(また予算審議中の)特別国防予算の100億ユーロがある!
導入しようと思えば、F-35を100機以上買える予算だ。
こうしてドイツ国防軍は(最大で)35機までのF-35を導入することにした。
F-35導入の利点
F-35の利点は
- 最新型
- 核ミサイルの搭載能力
- レーダーに探知されにくい
だけではない。
英国空軍、イタリア空軍もすでにF-35を導入してる。
敵味方の識別信号から、共同作戦、補給まで、共同の航空機を持つと、有事のオペレーションが容易になる。
これが戦時には意外と大きな役割を果たす。
だったらなんで今まで、F-18やオイロファイターの導入を議論していたの?
それはドイツでは装備の調達では、賄賂なしでは話が進まないからです。
注釈
*1 戦闘爆撃機とはドイツ語で”Jagtbomber”。以前は戦闘機として性能の落ちる機種を戦闘爆撃機として使用してたが、最近は戦闘機だけは稀で、大方戦闘爆撃機です。
*2 ロビー活動とも言います。
*3 日本の国土のミサイル防衛で、「敵の基地への攻撃能力をもたせるべきか、否。」などと平和ボケな議論ができるのは、日本国民しかない。
*4 “Die nukleare Teilhabe”と言います。
*5 日本では絶対に無理な話。
*6 もっとも一番高いのはオイロファイターで、1億1000万ユーロ以上もする。