ドイツの達人になる 規則、法律

口約束の法的拘束力 – 契約形式の自由

投稿日:2014年1月11日 更新日:

口約束の法的拘束力 - 契約形式の自由 | Pfadfinder24

ドイツにワーキングホリデーで来た若き日本人から、相談をいただきました。「部屋が空いています。」との口約束を信じて渡独、大家に、「到着しました。」と連絡すると、「部屋はもう空いてない。」となしのつぶて。

「これってありなんでしょうか。」というのが相談内容です。

口約束の法的拘束力 – 空き部屋

果たして大家は、「部屋は空いていません。」で、まんまと責任逃れをすることができのだろうか。それとも、「約束は約束。」で別の部屋が見つかるまで、彼女の滞在費を負担する義務があるのだろうか。

それはどこまで話が具体的に進んでいたかによる。「部屋は空いていますから、どうぞ見に来てください。」という話だったら、大家には何の義務、責任はない。彼女が見に来るまで部屋を空けて待ってるとは、一言も言っていないからだ。

空き部屋は当然、賃貸人に貸し出すものであるから、「それまでに賃貸人が見つかったら、ごめんなさい。」となるのは自明の理。「いや、私にはわからない。」と主張をしても、有利になることはありません。

逆に、「3月1日から家賃は○○ユーロで入居できます。」と大家からオファーがあり、「是非、お願いします。」という話になっていた場合は、大家は言い逃れできない。

部屋が埋まってしまったらなら、大家は彼女が別の部屋を見つけるまでの滞在費を負担するか、あるいは仕方なく借りることになった高い物件との差額を負担しなければならない。

契約形式の自由 / Vertragsfreiheit

とアドバイスをすると、「それは違う。会社のドイツ人が言うには、書面にサインしていないので、ドイツではそのような口約束には拘束力がないそうです。」と、ご意見を賜ることがある。「ドイツ人のことなら、ドイツ人のほうがよく知っている。」と誤解しているいい例である。

ドイツでは “Vertragsfreiheit”(契約形式の自由)が認められている。すなわち「契約書は紙に書かれているべきで、双方のサインがないと無効である。」というのは、「ハンバーグはドイツのハンブルクで発明された。」というのと同じ類の想像の産物。

ドイツでは口約束でも、紙に書かれてサインした契約書と同じ拘束力を持つ。面白い判例があるので紹介してみよう。

口約束 裁判例

ある失業者が労働局の指示で就職の面接に行った。そこで聞いた条件はすこぶるよく、「残業もなし。」だった。そこで双方は、その条件で雇用契約をすることで同意した。後日、失業者は正式な契約のためこの会社を訪れた。

そこには労契契約書が用意されており、「残業手当はお給料に込み。」と書かれていた。「残業があるんですか。」と聞けば、「勿論ある。」と人事部長。この失業者はいかにもドイツ人らしく、「それは(口)約束と違う。」として、契約書へのサインを拒んだ。

すると労働局は、「労働を拒否したので、失業保険の支払いを3ヶ月止めます。」とこの失業者に制裁を加えることにした。「そんな理不尽な!」とこの失業者は(国費で)労働局を訴えた。

裁判所は、「口約束であっても、契約は契約である。雇用者が一方的に条件を変えた場合、被雇用者にはこれにサインをする義務はない。」と判決して、労働局に差し止めていた失業保険+利子を払うように命じた。

この例が示すように、雇用契約であっても双方が納得すれば、口約束でかまわない。勿論、賃貸契約でも双方がそれで了解していれば、口約束で拘束力が発生する。ただし賃貸契約の解約は書面で通知する必要がある。

口約束の法的拘束力 – 婚約解消?

ちなみに婚約も口約束で十分である。日本に留学にやってきたドイツ人に惚れ込んで、「親しい」仲に。「結婚しよう。」と言われて渡独する日本人女性は意外に多い。

とこがいざドイツに行くと、「もっといい人を見つけた。」と婚約を解消されるケースは多い。「口約束でも約束です。」と、気が変わった相手を結婚させることはできるのだろうか。

口約束で強制結婚?

ドイツの法律でも、「口約束でも約束です。」と、気が変わった相手を結婚させるような強制はできない。しかし結婚式用のドレス、家具などを買っていた場合、相手にその損害賠償を求めることができしてしまう。

相手がドイツ人であった場合、「そんな事を言った覚えはない。君の誤解だ。」と、言葉ができないことを利用してすっとぼける(ドイツ人の必殺技)。ここで問題になるのは本当に結婚の約束をしたのかどうか、その証拠が必要となる。

例えばファミリーレストランの伝表の裏に、「結婚して。」なんてドイツ人が書いていたら、この伝票には日付、場所がきっかり記入されているので立派な証拠となる。あるいは後日、無二の親友を二人で訪問、「私たち結婚するんです。」なんて言った場合は、この無二の親友が証人となる。

逆に電話で、「結婚しよう。」という話を真に受けて渡独、「そんなつもりじゃなかった。」と実物を見てから相手の気が変わった場合、残念ながら証拠がないので泣き寝入りするしかない。

酒の席での約束

日本人は酒を飲むと気が大きくなり、「そんな事が可能なら、100万払うぞ。」と口をすべらす事が多い。ところが日本の慣習(法螺吹き)に馴染みがないドイツ人は、これを真面目に取ると、本当に実現、100万円を要求してくる。「酒の席での約束だから。」、なんて日本的な言い訳はドイツでは通じない。

酒を飲んで判断能力がなかった。」と主張するなら、血液中のアルコール度が証明されなければならない。運よく飲酒運転をして警察の検問で捕まり、血液のアルコール度を調査されていれば、これが裁判で証拠として使用できる。

これが不可能な場合、酒の席に座っていた同僚、友人が証人になるので言い訳できない。

「100万とは、100万(ベトナム)ドンだった(ちなみに邦貨で5000円程度)。」という小学生のような言い訳は、ドイツでは通じない。

ドイツ人は酒を飲んでも酔わないので、日本人は口をすべらした程度に思っていても、相手は大真面目に受け取ることがある。酒を飲んで気前がよくなる人は注意が必要だ。

店頭での購入

少し形は異なるが、店頭で品物を買うのも口約束、”muendlicher Vertrag”だ。店は値段を提示、客はこれを了承して品物を買うが、契約書類にサインするわけではない。だから民法では口約束の部類に入る。

もっとわかりやすいのが、家具などを中古で同僚などから買い受ける場合。家具の値段、状態を見てから「じゃ、買います。」と握手して口約束を結んだ場合、双方に拘束力が生じる。

数日後にトラックをレンタルして取りに行くと、「他の人に売っちゃいました。」なんて言われた場合(ドイツではちょくちょくある)、約束を破った人は車のレンタル代金、別の品物を買った場合は、その差額を支払う義務が生じる。

ドイツ人は、「売るなんて言っていない。」と逃げるから、証人としてドイツ語のできる友人を連れていっておこう。逆に、「よく考えたら、やっぱり要りません。」なんて言い逃れもできない。「口約束だから、守らなくても大丈夫。」という自分勝手な考えは、ドイツでは通じません。

中古品の購入

このような口約束での契約でよく問題になるのが、購入した品物に問題があった場合だ。店頭で新品を購入した場合、店舗はこれを修理する義務があるので、大丈夫(な筈)だ。詳細はこちらを参照されたし。問題は中古で購入した場合だ。

中古で購入した電子レンジが2週間で故障した場合、品物が壊れたことを理由に契約を解約できるのだろうか。残念ながらこれは不可能な場合がほとんどだ。契約の解約ができるのは、最初から譲り受けた品物が壊れていたり、契約時に言及されていなかった故障があったのに、品物を売る側が故意にこれを秘匿していた場合のみ。

これを証明するのはまず不可能なので、中古で品物を購入する場合、返却、あるいは契約の反故は事実上不可能であることを知っておこう。

電話口での契約

最後に電話での押し売りやネット上の購入も、口約束の分野に入る。ドイツでは電話セールスは禁止されているので、かかってくるセールス電話にはろくなものがない。用件などは聞かず、セールスだとわかったらすぐに電話を切ってしまうのが一番だ。

それでも話を聞いてしまい、電話口で契約してしまう被害が後を経たない。幸い、ドイツでは法が整備されており、このケースでは”Fernabsatzgesetz“にて、消費者に2週間の契約解約期間が認められている。

「必要もないものを買ってしまった!」と悟った場合は、書留で相手に契約の解約を告げることができる。その際相手は、「何で解約したいんですか。」と(丸こめるつもりで)聞いてくるだろうが、解約の理由は書く必要がない。消費者の権利を行使するのに、その理由を述べなければならない謂れはない。

2週間の解約期間

もっともそんな事は詐欺者、もとい先方は百も承知である。だから電話で契約を取ってから、2週間が過ぎてから契約書を郵送する。その後、解約の手紙が届いても、「2週間を過ぎていますので、認められません。」というわけだ。

しかし実際には、契約書が届いてから2週間の解約期間が認められているので、そのような脅しに騙されないようにしよう。中には、”Widerrufsbelehrung”(契約解約条件)を書いていない契約書を送ってくる「会社」もある。消費者が解約することを未然に防ぐのが目的だ。

そのような契約書が届いたら喜んでいい。電話口での契約で、契約書に契約解約条件が書かれていない契約は法律違反である。すなわちそのような契約は無効であるから、2週間どころが、2ヵ月後でも、いつでも解約できる。

インターネットでの購入

これはインターネットでの購入も同じ。商品を買う店のホームページのAGB(allgemeinegeschaeftsbedingung、すなわち契約規約。)に”Widerrufsbelehrung”を書くのが決まり(法令)である。これが書かれていない会社は、違法なAGBを掲げていることになる。

そんな店では、何も買わないほうが身の為だ。「あ、ここ安い!」と値段だけ見て短絡的に購入するのではなく、契約規約の中に”Widerrufsbelehrung”が記載されているか、それも正しく記載されているか、これを確認してから購入しよう。

勿論、これが書かれていない会社で品物を買った場合でも、売買契約は無効なので基本的に返品はいつでも可能である。が、そのような会社とは、「品物を送ってきても、返金なんかしないよ。」と大いにもめることになるので、そんな店では最初から何も買わないのが賢明だ。

 

 

-ドイツの達人になる, 規則、法律

執筆者:

nishi

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