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軍産複合体 テユッセン クルップ 倒産は回避できる?

投稿日:2019年12月27日 更新日:

軍産複合体 テユッセン クルップ 倒産は回避できる?

ドイツが誇る軍産複合体 テユッセン クルップ 社。

これまで危機に見舞われる度、

「不死鳥」

のごとく復活してきた。

が、21世紀にやってきた危機は、会社の存続を脅かしている。

生き延びて、22世紀に突入することができるだろうか?

軍産複合体 テユッセン クルップ 倒産は回避できる?

まずは簡単なおさらいから。

第一次、第二次大戦の敗戦にもかからず、クルップ社は不死鳥のように復活した。

しかしアジアからの安い鉄鋼に対して競争力を失い、経営危機に陥った。

そこで業界トップのテユッセン社と合併して、テユッセン クルップ社が誕生した。

軍産複合体 テユッセン クルップ 誕生史

そして合併後、

「鉄鋼業界の黄金時代」

がやってきた。

中国の経済成長率は10%を超え、いくら鉄鋼を生産してもたらないほど売れた。

売れたのは鉄鋼だけじゃない。

テユッセン クルップ社は、

「採算が取れない。」

と閉鎖していた工場を中国企業に丸売り。

中国企業は工場を解体して中国本土で組み立てるほど、好景気に沸いていた。

ここでマネージメントが大きなヘマをする。

好景気の北米と南米に工場を建て、

「鉄鋼を現地生産しよう!」

と決定したのだ。

これまでドイツ国内で工場を閉鎖することはあっても、新しく建設することはなかった。

なのに数十年ぶりの新工場を、それぞれ北米と南米で建設するというのだ。

成功すれば官軍だが、負けると、、、

完成しない工場

テユッセン クルップ社は工場の建設費を安く上げるために、南米工場の建設を中国企業に委託した。

 

これがテユッセン クルップ社の

「終わりの始まり」

となった。

今、ドイツの首都ベルリンでは、9年も空港を建設している

ベルリン新空港 BER 計画より9年遅れで完成!!

これと全く同じことが、テユッセン クルップ社のブラジル工場で起きた。

工場は完成したが中国企業の手抜き工事で、操業できる状態ではなかった。

質問
何がまずかったの?

 

肝心要の溶接が不十分。

操業すると文字通りバラバラになるのだ。

結局、出来上がった工場を潰して、もう一度作り直すことになった。

そして不幸はダブルでやってきた。

北米工場も完成が遅れたが、操業を開始することはできた。

ところがその頃には好景気は終わり、

「鉄鋼が余って仕方がない。」

という状態。

テユッセン クルップ社は大赤字を出した。

なのに上層部は、赤字からの出口戦略も見つからないていたらく。

最後には社長をクビにして、ジーメンスから新社長のヒージンガー氏を呼び寄せた。

タタ スチールへの売却

新社長ヒージンガー氏は、四面楚歌の中で健闘した。

まずは大赤字を出している北南米工場を

「二束三文」

で売却。

時間はかかったが、北米工場の売却にも成功した。

 

こうして前任者の大冒険に終止符を打った。

そして大改革に乗り出した。

それはテユッセン クルップ社の基幹事業であった

「鉄鋼部門の売却」

である。

ヒージンガー氏は

  1. 欧州ではエネルギーと人件費が高過ぎ
  2. 鉄鋼業は景気の浮き沈みが激し過ぎ

の理由で、欧州での鉄鋼製造はもうペイしないと考えた。

そこで

  1. 同社の鉄鋼部門をインドの鉄鋼王、タタ スチールに売却
  2. 今後、テユッセン クルップ社は景気の浮き沈みが少ないエレベーター事業などに専念
  3. ジーメンスのようなテクノロジー企業に変身

という案を考えた。

流石はジーメンスのマネージャー、いい案を考えたものである。

ところがEUの寡占取り締まり委員会が、鉄鋼部門の売却を認めなかった。

経営陣の辞任

ここから自体は急展開する。ヒージンガー社長は同社のヒレ肉であるエレベータ部門を分離して上場、集めた金で会社の他の事業、自動車部門、建設部門、原材料販売にテコ入れ、鉄鋼事業からの依存度を減らす方針を発表した。

ところが、これまで二人三脚でやってきたクルップ残団がこの方針に賛成しなかった。皆まで言えば、クルップとテユッセン クルップ社の黄金時代を作ったバイツ氏は死去、財団長には工科大学の学長が就任していた。

この学長、教授のタイトルに加え、二つのドクターのタイトルを持つ才女だが、これまでの「難しいときには、クルップ人は団結する。」のクルップの長年の方針を放棄、数学のドクターらしく、数字しかみなかった。

クルップ財団の後ろ盾がないと、トイレットペーパーさえも買えない社長に、この状態で一体、何ができたろう。ヒージンガー氏が辞任を表明すると、まるで数学教授に見せつけるように取り締まり役員会長も辞任を提出した。

軍産複合体 テユッセン クルップ 倒産は回避できるのか?

クルップ財団はこの危機に、毎年、新しい社長を任命することで対応した。本当はもっと長く在任して欲しのかもしれないが、数学教授は社長を次々にクビにした。

お陰でヒージンガー社長の退任から2年が経とうとしているのに、戦艦 テユッセン クルップ は船長がいない状態で荒海にもまれている。

2019年11月、新社長のメルツ社長は同年度の業績を発表したが、またしても10億ユーロ(邦貨で1兆3000億円)の赤字だった。

参照 : faz.net

危機的な状況

業績発表にてメルツ社長が、「危機的な状態がまだ2~3年続く。」と、日本企業にように事実を隠さずに赤裸々に事実を述べたことは、歓迎された。しかし新社長から会社を立て直すプランの発表はなく、株価はまたがっくり逝った。

同社の状況はドイツ銀行のように、お先真っ暗だ。テユッセン クルップ社のお株だった鉄鋼は、設備投資が遅れて品質の面で他社に先を越されてしまった。建設業は大きな決め手に欠け、原材料販売は不況で需要が減り、原材料の価格も下がる一方。

軍需部門もオーストラリアへの潜水艦納入競争で、フランスに負け、注文が入ってくるのを待っている。ドイツ海軍が注文してくれた駆逐艦4隻だが、まるでブラジルの製鉄工場のように欠陥だらけ。海軍から受領を拒まれて、この4年間その欠陥の手直しに終始。

参照 : zeit.de

どこをみても目も当てられない大赤字だ。ところが問題は赤字事業だけでは終わらない。

企業年金問題

クルップは労働者のためにアパートを建てて、ここに労働者を住ませるなど、福利厚生の厚い(珍しい)会社だった。当然、企業年金制度も充実しており、退職した労働者へ手厚い年金を払っている。その額はかっての国営航空会社のルフトハンザを上回る。

ところが毎年の大赤字で、これまで積み立てた企業年金の底が見えてきた。同社がかっての労働者に約束している企業年金は、ここ数年で空になるという危機的な状態だ。

エレベーター事業売却?

テユッセン クルップ社を救うには、

  1. 企業年金の穴を(一部)埋める。
  2. 会社に設備投資して製品の競争力を取り戻す。
  3. 必要な投資で工業 & 建築部門を更生させる。

しかない。しかし大赤字を出したソフトバンクのように、「テユッセン クルップ社に投資しましょう!」なんて銀行はない。同社は邦貨にして20兆円もの負債を抱えており、支払い不能になった場合は社宅から工場まで銀行が差し押さえることになっているからだ。

ところがテユッセン クルップ社の中で、順調に黒字を出している部門がある。それがエレベーター部門で、同社のヒレ肉の部分だ。同社はこの事業を上場するか、売却することで必要な資金を捻出しようとしている。

日立のチャンス!

クルップ財団は当初、唯一の黒字部門の売却には反対だった。しかしここに至っては、「背に腹は代えられぬ。」となってきた。もっとも完全な売却ではなく、一部売却にしたいらしいが。

そこで新社長はエレベーター事業の買い手を募集している。そしてこのテユッセン クルップ社のエレベーター事業の買い取りに、オファーを出している企業のひとつが日立だ。

言っちゃ悪いが、日本人は営業が下手。日本政府は日本製の武器を輸出すべく努力しているが、この4年間の売り上げはゼロ。これほど成果の出ない事業は世界中でも珍しい。この哀しい事実を支えているのが、日本人セールスマンの営業力のなさ。

頭を下げて、「お願いします。」だけで、日本製の武器を買う奇特な人物(国)はいない。それが日本人にはわかってない。日本人セールスマンは、「値段が高くて売れない。」というが、それは言い訳。

ドイツ人の有名な武器商人はドイツ軍払い下げの中古の装甲車を、新品価格で百台サウジに売った。これがドイツ人と日本人セールスマンの腕の差だ。公平を期すために付け加えておくと、その凄腕武器商人は今、アウグスブルクの監獄に入っている。

日立のエレベーターはアジア以外では全く売れてない。しかし日立がテユッセン クルップ社のエレベーター事業を手にいれば、セールスのノウハウはおろか、販売網まで手に入れるころができる。これ以上のチャンスはない。

エレベーター事業 希望売却額は?

テユッセン クルップ社は、エレベーター事業の売却額として150億ユーロを希望している。しかし肝心のオファーは100~120億ユーロと、まだ大きな開きがある。金が喉から手が出るほど欲しいテユッセン クルップ社だが、唯一の黒字事業を手放すと、ここ数年は赤字は必至。

その期間を生き延びれるだけの額が得られない限り、売却はしないだろう。落としどころは130億ユーロとみられているが、日立はそこまでオファーを改善する用意があるだろうか?

それともフィンランドの競争相手、”Kone”社が勝つだろうか。複数の投資家も買い取りのオファーを出しており、一番高額なオファーは、投資グループから来ている。現時点では売却交渉の行方は未定。個人的には是非、日立に頑張ってもらいたい。

もし日立の社員がこの記事を読んでいたなら、オファーに「2022年までの雇用保障」を付けるようにアドバイスしたい。雇用保障で労働組合を味方につけるのだ。テユッセン クルップ社は労働者の影響力が大きいので、労働者を味方にできれば、もう半分勝ったようなもの。

これは俗に言う、「紳士協定」で、中国記企がドイツ企業を買収する際に使用する常套手段。改めて言う間でもなく、この協定が守られることは滅多にない。買った者、勝ちなのである。

軍産複合体 テユッセン クルップ エレベーター事業を売却す

テユッセン クルップ社は、エレベーター事業を投資家グループに売却したと発表した。売却額は175億ユーロ。

参照 : zeit.de

そう、投資家がテユッセン クルップ社が希望していた売却額を大きく上回る額を提示したので、「一部売却」ではなく、完全売却になった。取引が終了するにはまだ寡占局の許可が必要だが、大きな問題はないだろうというのが、大方の見方だ。

日本の日立はかなり前にオファーをひっこめていたので、最後は投資家の間でのオファー合戦になり、値が上がった。

テユッセン クルップ社はこの金で枯渇しかけていた企業年金の資金を補充、他社に追い越されて採算が取れなくなっていた部署の近代化を図る。これがうまくいくかどうか、未知数の部分が多く、同社の株価は売却が決まった後も下落が止まらない。

テユッセン クルップ 海軍事業も売却?

2020年1月になって「テユッセン クルップ社は海軍事業の売却を考えている。」という報道があった。

参照 : esut.de

その理由はドイツ海軍の次世代の多目的駆逐艦 MKS 180 の受注競争だ。

参照 : bundeswehr.de

テユッセン クルップ社はオランダのライバルに、このおいしい仕事を取られてしまった。これにより従業員を今後も確保していくのがしんどくなる。これをチャンスとみたのか、フランスの同業者は「テユッセン クルップ社の海軍事業を買い。」と買収を持ち出した。

すると捨てる神あれば、拾う神ありで、3月になってテユッセン クルップ社は、ブラジル海軍へ4隻の護衛艦を納入する大きな仕事を受注した。

参照 : faz.net

これにより同社の造船部門はしばらくは仕事に困らない。しかし造船部門を売却するなら、受注を抱えている今だろう。1月の時点に比べて、ずっと高い値段で売れる。問題はテユッセン クルップ社の上層部。未だに誰が次期社長になるか決まってない。

社長が決まらない限り、同社の将来を左右する大きな決定は、なかなか決まらない。もし今回の売却のチャンスを逃せば、海軍事業の売却のチャンスはしばらくやってこないだろう。

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執筆者:

nishi

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