
ドイツが誇る軍産複合体 テユッセン クルップ 社。
これまで危機に見舞われる度、
「不死鳥」
のごとく復活してきた。
が、21世紀にやってきた危機は、これまでとは種類が違う。
テユッセン クルップは今回も危機を生き延びて、22世紀に突入することができるだろうか?
この記事の目次
軍産複合体 テユッセン クルップ 倒産は回避できる?
まずは簡単なおさらいから。
第一次、第二次大戦の敗戦にもかからず、クルップ社は不死鳥のように復活した。
しかしアジアからの安い鉄鋼に対して競争力を失った。
そこで業界トップのテユッセン社と合併して、テユッセン クルップ社が誕生した。
そして合併後、
「鉄鋼業界の黄金時代」
がやってきた。
中国の経済成長率は10%を超え、いくら鉄鋼を生産してもたらないほど売れた。
売れたのは鉄鋼だけじゃない。
テユッセン クルップ社は、
「採算が取れない。」
と閉鎖していた工場を中国企業に丸売り。
中国企業は工場を解体して中国本土で組み立てるほど、好景気に沸いていた。
ここでマネージメントが大きなヘマをする。
好景気の北米と南米に工場を建て、
「鉄鋼を現地生産しよう!」
と決定したのだ。
これまでドイツ国内で工場を閉鎖することはあっても、新しく建設することはなかった。
なのに数十年ぶりの新工場を、それぞれ北米と南米で建設するというのだ。
鉄鋼業は景気の浮き沈みが激しい。
今から工場を建設して、採算が取れるのだろうか?
完成しない工場
今、ドイツの首都ベルリンでは、9年も空港を建設している。
設計ミスといい加減な工事が原因です。
ドイツ国内でこの様。
なのにテユッセン クルップは、
そして出来上がった工場は手抜き工事だらけで、操業できる状態ではなかった。
肝心要の溶接が不十分。
操業すると文字通りバラバラになるのだ。
結局、出来上がった工場を潰して、もう一度作り直すことになった。
そして不幸はダブルでやってきた。
北米工場も完成が遅れたが、操業を開始することはできた。
ところがその頃には好景気は終わり、
「鉄鋼が余って仕方がない。」
という状態。
結果、テユッセン クルップ社は大赤字を出した。
なのに上層部は、赤字からの出口戦略も見つからないていたらく。
最後には社長をクビにして、ジーメンスから新社長のヒージンガー氏を呼び寄せた。
タタ スチールへの売却
新社長ヒージンガー氏は、四面楚歌の中で健闘した。
まずは大赤字を出している南米工場を
「二束三文」
で売却。
時間はかかったが、北米工場の売却にも成功した。
こうして前任者の大冒険に終止符を打った。
そして大改革に乗り出した。
それはテユッセン クルップ社の基幹事業であった
「鉄鋼部門の売却」
である。
ヒージンガー氏は
- 欧州ではエネルギーと人件費が高過ぎる
- 鉄鋼業は景気の浮き沈みが激し過ぎる
の理由で、欧州での鉄鋼製造はもうペイしないと考えた。
そこで
- 同社の鉄鋼部門をインドの鉄鋼王、タタ スチールに売却
- 今後、テユッセン クルップ社は景気の浮き沈みが少ないエレベーター事業などに専念
- ジーメンスのようなテクノロジー企業に変身
という案を考えた。
流石はジーメンスのマネージャー、いい案を考えたものである。
ところがEUの寡占取り締まり委員会が、鉄鋼部門の売却を認めなかった。
経営陣の辞任
ここから自体は急展開する。
ヒージンガー社長は同社のヒレ肉である
- エレベータ部門を分離して上場
- 集めた金で会社の他の事業(自動車部門、建設部門、原材料販売)にテコ入れ
- 鉄鋼事業からの依存度を減らす
方針を発表した。
鉄鋼部門の売却ができない以上、これが最善の案だった。
ところがこれまで二人三脚でやってきたクルップ財団が、この方針に賛成しなかった。
というのもテユッセン クルップの黄金時代を作った、バイツ氏はすでに死去。
その後任には工科大学の学長が就任していた。
この(元)学長は教授のタイトルに加え、二つのドクターのタイトルを持つ才女だ。
その(元)学長、数学のドクターらしく数字しかみなかった。
クルップ財団の後ろ盾がないと、トイレットペーパーさえも買えない社長に、この状態で一体、何ができたろう。
ヒージンガー氏が辞任を表明すると、まるで数学教授に見せつけるように、会長も辞任を提出した。
軍産複合体 テユッセン クルップ 倒産は回避できるのか?
ヒージンガー社長の後釜は、テユッセン クルップ社の財務担当役員だったケルクホフ氏。
でも15ヶ月しかもたなかった。
投資家と労働組合の板挟みになり、匙を投げた。
その惨状に社外の社長候補は皆、社長の座を辞退。
社長になりたい人が見つからないので、辞任した会長の後釜だったメルツ女史氏が社長の座に下り咲き。
2019年11月、新社長のメルツ社長は同年度の業績を発表した。
が、またしても10億ユーロ(邦貨で1兆3000億円)の赤字だった。
危機的な状況
業績発表にてメルツ社長が、
「危機的な状態がまだ2~3年続く。」
と、事実を隠さずに赤裸々に事実を述べたことは歓迎された。
しかし新社長から会社を立て直すプランの発表はなく、株価はまたがっくり逝った。
今のテユッセン クルップ社の状況はお先真っ暗だ。
お株だった鉄鋼は、設備投資が遅れて品質の面で他社に先を越されてしまった。
建設部門は大きな決め手に欠けつ。
原材料販売部門は不況で需要が減り、原材料の価格も下がる一方。
軍需部門もオーストラリアへの潜水艦納入競争で、フランスに負けた。
残るはドイツ海軍からの駆逐艦の注文だが、出来上がった船は、まるでブラジルの製鉄工場のように欠陥だらけ。
海軍から受領を拒まれて、この4年間その欠陥の手直しに終始。
どこをみても赤字ばかり。
ところが問題は赤字事業だけでは終わらない。
企業年金問題
クルップは労働者のためにアパートを建てるなど、福利厚生の厚い(珍しい)会社だった。
当然、企業年金制度も充実しており、退職した労働者へ手厚い年金を払っている。
その額はかっての国営航空会社のルフトハンザを上回る。
ところが毎年の大赤字で、これまで積み立てた企業年金の底が見えてきた。
同社がかっての労働者に約束している企業年金は、ここ数年で空になるという危機的な状態だ。
エレベーター事業売却?
テユッセン クルップ社は緊急に、
- 企業年金の穴を(一部)埋め
- 採算の取れない部署は切り離し
- 会社に設備投資して製品の競争力を取り戻す
事が必要だ。
しかし大赤字を出している
「テユッセン クルップ社に投資しましょう!」
なんて銀行はない。
同社はすでに邦貨にして20兆円もの負債を抱えている。
支払い不能になった場合に備えて、社宅から工場まで
「抵当入り済み」
だからだ。
ところがテユッセン クルップ社の中で、順調に黒字を出している部門がある。
それがエレベーター部門で、同社のヒレ肉の部分だ。
同社はこの事業を上場するか、売却することで必要な資金を捻出しようとしている。
日立のチャンス!
クルップ財団は当初、
「唯一の黒字部門」
であるエレベーター事業の売却には反対だった。
しかしここに至っては、
「背に腹は代えられぬ。」
となってきた。
そこで新社長はエレベーター事業の買い手を募集している。そ
してこのテユッセン クルップ社のエレベーター事業の買い取りに、オファーを出している企業のひとつが日立だ。
言っちゃ悪いが、
日本政府は日本製の装備品(武器)を輸出すべく努力しているが、この4年間の売り上げはゼロ。
これほど成果の出ない事業は世界中でも珍しい。
この哀しい事実を支えているのが、日本人セールスマンの営業力のなさ。
頭を下げて、
「お願いします。」
だけで、日本製の武器を買う奇特な人物(国)はいない。
それが日本人にはわかってない。
日本人セールスマンは、
「値段が高くて売れない。」
というが、それは言い訳。
ドイツ人の有名な武器商人、ドイツ軍払い下げの中古の装甲車を新品価格で百台サウジに売った。
これがドイツ人と日本人セールスマンの腕の差だ。
公平を期すために付け加えておくと、その凄腕武器商人は今、アウグスブルクの監獄に入っている。
日立のエレベーターはアジア以外では全く売れてない。
しかし日立がテユッセン クルップ社のエレベーター事業を手にいれば、セールスのノウハウはおろか、販売網まで手に入れるころができる。
これ以上のチャンスはない。
エレベーター事業 希望売却額は?
テユッセン クルップ社は、エレベーター事業の売却額として150億ユーロを希望している。
しかし肝心のオファーは100~120億ユーロと、まだ大きな開きがある。
金が喉から手が出るほど欲しいテユッセン クルップ社だが、唯一の黒字事業を手放すには
「相当の期間を生き延びれるだけの額」
が得られない限り、売却はしないだろう。
落としどころは130億ユーロとみられているが、日立はそこまでオファーを改善する用意があるだろうか?
それともフィンランドの競争相手、”Kone”社が勝つだろうか。
複数の投資家も買い取りのオファーを出しており、一番高額なオファーは、投資グループから来ている。
現時点では売却交渉の行方は未定。
個人的には是非、日立に頑張ってもらいたい。
軍産複合体 テユッセン クルップ エレベーター事業を売却す
テユッセン クルップ社は、エレベーター事業を投資家グループに売却したと発表した。売却額は175億ユーロ。
参照 : zeit.de
そう、投資家がテユッセン クルップ社が希望していた売却額を大きく上回る額を提示したので、「一部売却」ではなく、完全売却になった。取引が終了するにはまだ寡占局の許可が必要だが、大きな問題はないだろうというのが、大方の見方だ。
日本の日立はかなり前にオファーをひっこめていたので、最後は投資家の間でのオファー合戦になり、値が上がった。
テユッセン クルップ社はこの金で枯渇しかけていた企業年金の資金を補充、他社に追い越されて採算が取れなくなっていた部署の近代化を図る。これがうまくいくかどうか、未知数の部分が多く、同社の株価は売却が決まった後も下落が止まらない。
テユッセン クルップ 海軍事業も売却?
2020年1月になって「テユッセン クルップ社は海軍事業の売却を考えている。」という報道があった。
参照 : esut.de
その理由はドイツ海軍の次世代の多目的駆逐艦 MKS 180 の受注競争だ。
参照 : bundeswehr.de
テユッセン クルップ社はオランダのライバルに、このおいしい仕事を取られてしまった。これにより従業員を今後も確保していくのがしんどくなる。これをチャンスとみたのか、フランスの同業者は「テユッセン クルップ社の海軍事業を買い。」と買収を持ち出した。
すると捨てる神あれば、拾う神ありで、3月になってテユッセン クルップ社は、ブラジル海軍へ4隻の護衛艦を納入する大きな仕事を受注した。
参照 : faz.net
これにより同社の造船部門はしばらくは仕事に困らない。しかし造船部門を売却するなら、受注を抱えている今だろう。1月の時点に比べて、ずっと高い値段で売れる。問題はテユッセン クルップ社の上層部。未だに誰が次期社長になるか決まってない。
社長が決まらない限り、同社の将来を左右する大きな決定は、なかなか決まらない。もし今回の売却のチャンスを逃せば、海軍事業の売却のチャンスはしばらくやってこないだろう。

