欧州には社会弱者を助ける ターフェル / Tafel という民間公益組織 e.V. がある。
食料廃棄が問題になっているのに、賞味期限が迫ると日々、大量に廃てられる食料品。
まだ食べられるのに廃棄される食糧を社会弱者に配ることができれば、食料品のロスが減って、皆が得をする。
この案を実行に移しているのが、ターフェル / Tafel だ。大方の都市には (例えば)ターフェル デュッセルドルフといった風に、支部がある。
参照 : www.duesseldorfer-tafel.de
今回はこのドイツの民間組織について、紹介してみよう。
この記事の目次
ターフェル / Tafel の主要課題
ターフェルは1993年、ベルリンで貧困に苦しむ家族を助ける公益団体として誕生した。
これまでも貧困層を助ける公益団体は他にもあったが、ターフェルは食料品を配布する事をその主要課題としている点が、他の交易団体とは違う。(*1)
今では全国に947の支部があり、食料品の配布所の数は2000を超える。
日本のNGOが助成金、早い話、税金で運営されているのに対して、ターフェルは国(州)からの財政的な支援はない。
配布する食料品は。スーパーから無償で提供される。が、これを配布所まで運ぶ車(冷凍車)、車のガソリン・整備費用、配布所の家賃、オフィスのこまごまとした備品など、これはすべて寄付で賄われている。
とは言っても冷凍車は馬鹿高い。これが原因で冷凍車を持っていないターフェルも多く、冷蔵が必要な食料品の配布は
「今後の課題」
となっている。ターフェルは自治体に税制援助を要求しているが、援助が行われる事はかなり稀。
だから配布所は、街で一番家賃の安い地区の、くたびれた事務所を使っていることが多い。中には車に食料品を積むと、市内の中心部に移動して、食料品を配布しているケースもある。
数々の障害
話だけ聞くと、ターフェルの仕組みは合理的で、誰も損をする人がいない。
「成功間違いなし。」
と思いそうだが、実際には数々の障害がある。
食糧の提供先になるスーパーに、
「困っている人に食料品を配布したいので、賞味期限が来れる食料品を寄付してください。」
と話しかけると、
「それはいいアイデアだ。」
という賛同してくれると思ったら大間違い。ほとんどのケースでは、
「タダでもあげたくない。」
に始まって、
「廃棄するように決まってるので、協力できない。」
と話も聞いてもらえない。その理由として挙げられるのが、
「もし食中毒を起こしたら、責任問題になる。」
という店側の心配。そこで食料品の寄付は、各地の食品衛生局の許可を得て行われる。衛生局が、
「問題なし。」
と判断すれば、責任はスーパーではなく、衛生局に移るからだ。
という背景があり、生肉などはご法度。乳製品は高温殺菌をした(おいしくない)”H-milch”という長期保存用の牛乳か、ヨーグルトなどの発酵乳製品になる。
あとは(ドイツでは嘘!みたいに安い)野菜、缶詰、ピザ、スペゲッテイなどの保存食、パン、それに菓子類などが提供される。
フランスでの取り組み
いい意味でも、悪い意味でも、一気に極端な政策に走るのがフランス。
フランス政府はスーパーに対して食品を廃棄処分する事を法律で禁止して、これに違反した場合の罰金3750ユーロを導入した。
参照 : www.sueddeutsche.de
すぐには浸透しなかったが、最初のスーパーが食品の「違法投棄」で訴えられて大きな見出しになると、
「ウチもターフェルに食料品を提供したい。」
と申し出るスーパーが多くなった。すると問題点も見えてきた。
フランス式の問題点
食料品を廃棄すると罰金を課せられるので、スーパーは食料品を寄付したい。
が、ターフェルはボランテイアと寄付金で運営されているので、全部のスーパーを廻って食料品を集める人材と車がない。
結果として引き取り手がいないので、破棄される食料品がなくならない。こうした問題を解決するには、政府の助成金が必要だ。
フランスでもドイツでも、十分に働ける失業者がごまんといる。こうした人にターフェルで働いてもらい、政府がお給料を助成金として払えばよい。そうすれば失業者も、人生に意味を見出すことができる。
さらには助成金で働いている人は、失業者の統計には含まれず、政府は、
「失業率を減少させることに成功した。」
と、自画自賛までできる。
さらには食品ロスも少なくなり、社会的弱者に食料品はもっと多く行き渡り、いい事ずくめだ。
日本でも食料品の廃棄が問題視されてはいるが、
「掛け声」
だけで終わらせないため、ドイツやフランスのターフェルの活動を参考にしてもらいたい。
ターフェル / Tafel の利用資格
ただでもらえるシステムがあると、これを悪用する人が居るのは自然の理。
「それは便利だから、スーパーに買い物に行かないで、ただでもらったこよう!」
という人が現れると、本当に困っている人に支援物資が届かない。そこでターフェルで食料品の配給を受けるには、
「貧しい証拠」
が必要です。失業してハーツ4を受けているなら労働局から、
「あなたには失業保険Ⅱ / Arbeitslosengeld Ⅱ が支払われます。」
という手紙が届いている。これを持参すれば、パスを発行してもらえるので、次回の配給日に行けば、食料品の配給を受けることができる。
「外国人でも受けれるの?」
それが受けれるんです。最近は貧困者が増えたので、
「ドイツ国籍者を優先します。」
とやったターフェルもありました。配給できる食料品よりも、受給希望者が多いのだから仕方ないと思うのだが、
「人種差別だ!」
と、過度な正義感をもつ左翼の非難の的に。自分の時間を割いて、無償で困窮している人のために働いている人を非難するなんて、見当違いも甚だしい。
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ターフェルには助成金は下りていないが、その代わりにスポンサーがいる。
自働車クラブのADAC、それにデュッセルドルフの大企業ヘンケルなどが、スポンサーになって、ターフェルの活動を支援している。
これに加えて著名なサッカーチーム バイエルン ミュンヘンのかってのスター選手は、お金を寄付するだけでなく、ターフェルの一員となった自ら食料を配布している。
お金持ちになると、社会弱者を軽蔑する人が少なくないのに、お金持ちになっても汗を流して貧困者の為に働く人には、頭が下がります。
注釈
(*1)
一部の都市ではお薬ターフェル /”Medikamentfafel”があり、無償で提供された薬品、とりわけ痛み止めなどを、社会弱者に提供する取り組みもある。