これが典型的な公営住宅
この記事の目次
社会福祉住宅の歴史
ドイツにも日本で言うところの公営住宅、 “Sozialwohnung”(社会福祉住宅)がある。厳密に言えば “sozialer Wohnungbau” (社会福祉的な住宅建設)だが、名前が長いので”Sozialwohnung”と呼ばれることの方が多い。
まだ社会福祉などなかった19世紀、クルップなどの大企業はドイツ各地から労働者を呼び込む目的で、広大な敷地に労働者用の住居を設けた。しかし雇用先が労働者の生活面まで面倒をみるケースは例外で、空き地に違法に建てた小屋に数家族が共同生活するこも珍しくなかった。するといつかは強制退去になり、これが社会不満をまきこした。
第一次大戦後、国は労働者用のアパートの建築に取り組み、ナチスの時代になるとさらにこれに拍車がかけられた。第二次大戦後、「国は社会の広い層に住む場所を提供すべし。」と法律で定めたことがきっかけになり、国が公営住宅を建ててきた。これが低所得層の大きな支えになっていたのに、1988年、当時の政権が、「公営住宅を州の管轄に移行する。」と決めた。
公営住宅の激減
こうして国は社会福祉住宅を “Länder”、すなわち16の州に払い下げた。州政府はただでもらった公営住宅を管理するよりも、目先の利益に目が眩んで、低所得層の住居を投資家に売却してしまった。「民間企業のノウハウを利用した方が効率のいい運営ができる。」と州政府はこれを正当化したが、投資家が興味を示すのは利益のみ。買い取った社会福祉住宅は大規模に改築されて、上層中間層から裕福層へのアパートと変わってしまった。
結果、1987年には390万戸あった社会福祉住宅は、2001年には180万戸にまで現象した。それでもまだ現象は止まらず、毎年10万戸が消えている。勿論、住居が消えていくわけではなく、社会福祉住宅から一般の住宅にステータスが変わっていく。ステータスが変わると家賃が上昇するので、低所得層はここから追い出されることになる。
公営住宅の建設
毎年、公営住宅が減っていく原因は、ドイツの公営住宅の建設方法にある。かっては国が公営住宅を建設をしていたが、管轄を移された州は自らアパートを建てず、これを民間の企業に委ねている。もし投資家が公営住宅を建設するならば、州は補助金と安い金利でこれを支援する。
その代わりに投資家は(例えば)7年間はアパートを社会福祉住宅として、低所得層に解放するという “Give & Take”で成り立っている。しかし投資家が興味を見せなければ、公営住宅は誕生しない。投資家は好んで投資目的になる高級物件を建設するので、公営住宅は減る一方となった。
Wohngeld /家賃補助金
政治家は社会福祉住宅を建設しなくても、”Wohngeld”(家賃補助金)でカバーできると考えていた。これは子供がいる家族が収入不足のために適切な住居に住むことができない場合、州が補助金を出す制度として始まったものだ。現在では家族でなくても、個人にも需給資格がある。
例えば職業上の理由からある都市に住んでいるが、家賃が高くて家計は火の車。公営住宅はどこも一杯で入れないという場合には、個人、あるいは家族は家賃補助金をもらえる “Rechtsanspruch”(権利)がある。ドイツでは日本のように、「外国人は補助金を受ける資格がない。」ということがないので、日本人でも申請することができる。
家賃補助金 を申請できる人、できない人
「じゃ、来年ドイツに留学するので、アパートを借りて住宅補助金を申請すればいいですね。」と思われた方、全然、よくありません。短期間ドイツに住んで税金も払っていない外国人に補助金が出る国は、世界中探してもありませんです。ちゃんとドイツで就職して税金を納めていれば、需給資格が生まれます。
「その家賃補助金はどこで申請できるの?」
勿論、市役所です。住民登録をした役所に行って、どこで申請すればいいのか、その場所をお尋ねください。
「幾らもらえるの?」
入居しているアパートの家賃(雑費)とあなたの収入によります。ひとり住まいであれば312ユーロから、600ユーロまで。最低額が312ユーロという意味ではなく、住む地区が1(家賃が安い地域)の場合は、最高額で312ユーロまでしか払われません。逆にミュンヘンのような家賃の高い地域は地区6になり、最高600ユーロまで。
大きな誤算
ところがドイツ人の趣向、「緑の多い(不便な)郊外に住みたい。」から、「便利な市内に住みたい。」が変わった。郊外から都市部にドイツ人が流れ込みを始めると、住宅不足が生じた。住宅が不足すると家賃が上昇して、これまでは家賃補助金がなくても生活できた人が、補助金を申請するようになった。
それでも都市部への人口の流入は止まらず、都市部で払えるアパートを借りること自体が、困難になってきた。アパートが借りられないと、家賃補助金も何の役にも立たない。
住宅が足らないのはここ2~3年の状況ではなく、すでに10年近く悪化し続けている。何故、行政は公営受託を十分な数だけ建設しないのか。公営住宅があれば、部屋を探す人が減る。部屋を探す人が減れば、家賃は値上がりをやめて安定する。
市民の不満の高まり、正式には州選挙での敗北が原因となって、地方自治体は2016年頃からやっと公営住宅の建築に力を入れている。しかし新しく建設される公営住宅よりも、公営住宅のステータスを失う住宅の方が多い。この状況が好転するのは早くても2020年頃になる。
世界でもっとも生活し易い町
公営住宅政策のお手本がドイツの隣国、オーストリアだ。首都ヴィーンは大都市なのに、ドイツよりも格段に家賃が安い。これは政府が政府の管理地を民間企業に安価にレンタル、民間企業はここに住宅を建てるが家賃の上限が設定されている。
この公営住宅と民間住宅の間のようなアパートが、都市部ではなんと総アパート数の40%を占めており、家賃の上昇が抑えられている。
さらにオーストリア政府は、ウイーン市内の公共交通機関を1日1ユーロで使えることにした。そう、1日乗り放題でたったの130円だ。日本では初乗りでも200円する。当然、最初は赤字だったが、「これでは車で走るのが馬鹿らしい。」と次々と市民が公共交通機関に乗り換え始めて、数年後には1ユーロの安価な値段でも黒字になった。
お陰で市内の空気汚染は軽減され、慢性的な交通渋滞は改善され、市民は個人で車を所有する必要がなくなり生活費が安く上がる。こうした政府の努力の結果、ウイーンは世界でもっとも生活し易い町に9回も連続で選ばれている。
参照元 : Wien Info
ドイツの地方自治体は言うまでもなく、日本の地方自治体は是非ともウイーンを真似して欲しい。