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バイエルン州知事、政府を連合解消で恐喝す!

投稿日:2018年9月8日 更新日:


バイエルン州以外では最高に人気のないゼーホ-ファー氏。

ドイツの二大政党と言えば、100年以上も存在しているSPD(社会民主党)とCDU/CSU(キリスト教民主同盟)。ややこしいのは後者のCDU/CSU。ドイツに興味のない人にもわかるように説明すると、CDU/CSUは保守政党。その中でもCSUはさらに保守的だ。同じキリスト教でもカトリックを真のキリスト教と信じており、バイエルン州だけに存在している。これがバイエルン人には大いに好評で、戦後70年に渡ってほぼ単独で政権を握っている中国の共産党のような存在だ。中国なら他の政党が禁じられているので当たり前だが、民主主義のドイツでは特異な現象だ。

バイエルン州の発展

何故、バイエルン人はこの保守政党をこれほどまでに支援するのか。かってバイエルン州は、農耕中心の経済体系で貧しかった。政権を担当したCSUは、バイエルン州の将来は工業化にあると確信、工業化への移転をはかった。お陰で内陸部にあるという地理上のマイナスを克服して、バイエルン州はお金持ちの州に変身、バイエルン州には世界でも有名な会社が数多くある。

え、知らない?と言う方のために名前を挙げるとBMW、アウデイ、アデイダス、プーマ、MAN、ジーメンス、アリアンツ、シェフラー(車部品)、リンデ(工業ガス)、インフニオン(半導体)などなど、名だたる企業の快挙に暇がない。

コンテナ船に搭載される巨大なデイーゼルエンジンは、21世紀の今でもMAN社のあるアウグスブルクで鋳造されている。完成したエンジンは特別トラックに搭載されて、延々と時間をかけて港まで輸送されている。膨大な輸送費がかかるが、それでもドイツ製のデイーゼルエンジンに性能で対抗できるエンジンがない。新しい船の建造が計画されると、アウグスブルクには世界中からエンジンの注文が入ってくる。

CSU独裁

お陰でバイエルン人は「CSUに任せておけば、(少なくとも)経済は安泰。」とこの党に絶大の信頼を寄せている。さらには内陸部、早い話、田舎には保守的な人間が多いので、党の保守的なプログラム、女性は仕事をするのではなく、家庭に入って子供を育てる、などはバイエルン人に受ける。CSUがベルリンで活動しても、リベラルな風潮のベルリン市民には全く受けないだろう。これを知っているCDUは遇えてバイエルン州にて独自のCDU候補を立てることなく、バイエルン州の政治はCSUに一任している。

難民危機

これまではこの共存関係が、多少の摩擦はあっても、うまく機能してきた。この関係が決定的に悪化を始めたのは、2015年の難民危機が始まりだ。メルケル首相は国境でのチェックを放棄して、難民を無条件でドイツ国内に受け入れた。その重荷を背負わされたのが、難民の北上ルートにあったバイエルン州だ。

ただでも保守的、排他的なバイエルン人は首相の政策はバイエルン州の安全を犯すものと感じた。以来、何か機会がある事にメルケル首相を非難、難民の受け入れを制限するように要請した。しかしメルケル首相はこれを拒否、憲法で保障されている難民申請の権利を守る立場をとった。しかし2017年10月の下院選挙で大敗を喫してから、メルケル首相にもやっと難民問題のシビアさがわかってきた。

このままの難民歓迎政策では、右翼政党の台等を許すことになる。そこで大連合政府の協定書では、CSUが繰り返し要求してきた難民の受け入れ上限数20万人を、政府の目標値として盛り込んだ。

バイエルン州知事、政府を連合解消で恐喝す!

これで仲直りしたと思ったら、大間違い。CSU の党首のゼーホ-ファー氏は党内での権力争いに破れて、州知事の椅子をゼーダー氏に明け渡すことを余儀なくされた。バイエルンでは権力を失ったが、しかし未だに党首であるゼーホ-ファー氏、ベルリンに引っ越して、内務大臣に就任することになった。

氏の目的は難民申請者を国境で検査して、違法に国境を越える者には入国を拒否すること。しかしこれは法律上の問題がある。EU内での人の行き来は自由であるとEU議会で決議されており、加盟国はこれを遵守する義務がある。すなわち国境で検査をするのは、EUの法律に抵触する違法な行為となる。

例外は2015年のような場合で、その際は加盟国は国境の検査を時間的に限って行うことができる。ゼーホファー氏はバイエルン州の安全を確保するために、ドイツの国境でこの検査を常時、導入しようとした。そのような処置はEUの法律に抵触するので、メルケル首相はこれに反対。EU加盟国が集まって、共同の難民対策を協議、採択する方法を提唱した。

しかしゼーホ-ファー氏には、そんな悠長なことは言っておられない。今年の秋にはバイエルン州で選挙があるのだ。直ちに効果のあがる政策を取らないと、選挙民は右翼政党に流れてしまう。氏はメルケル首相を「月曜日までに国境での難民検査を受け入れるべし。さもなくばCDUとの連立政権から離脱する。」と連合解消で恐喝してきた。

元々、馬の合わないメルケル首相とゼーホ-ファー氏だったが、CSUがこれまでほぼ70年も続けてきた連合を離れる可能性が出てきた。その後、首相と内務大臣は会合して、ゼーホ-ファー氏は最後通牒を一時撤回、翌週に行なわれるEU加盟国の首脳会談の結果を待つことで同意に達した。

EU難民頂上会談

ゼーホ-ファー氏は、「これまで合意に達しなかったEUが、難民問題で合意に達するわけがない。」とたかをくくっていた。ところがドイツで連合政権が崩壊しかねない状況を心配した加盟国は、(イタリア)を除いて、新しい難民政策で同意に達してしまった。合意書によると、EU外、おそらくは北アフリカに違法難民の収容キャンプが建設される。

参照元 : Frankfurter Allgemeine

 

地中海をボートで渡ろうとした難民は、ここに収容されて、難民申請をすることになる(大方は拒否される)。すでにEU内に違法に入国した難民には、EU加盟国が設けた収容キャンプに収容されてここで難民申請をすることになる(大方は拒否される)。メルケル首相はこの同意を、「(ゼーホ-ファー氏が要求した国境での検査と)同じ効果がある。」と主張、これで連合政権の危機が回復されたかに思われた。

ゼーホ-ファー氏辞任?

しかしCSUは、「合意書の内容が曖昧で、現実的な効果が疑われる。」とこの合意書に不満を表明した。確かに、何処に、いつまでに、収容キャンプが建設されるのか、全く記述されていなかった。これでは秋の選挙までに何も起こらないのは日を見るよりも明らかだ。今度、争いに油を注ぎ込んだのはCDUで、「ゼーホ-ファー氏を更迭して、バイエルンに送り返せばいい。」と言い出した。

するとCSUは、「内務大臣を更迭するなら、連立政権解消を覚悟せよ。」と脅しをかけた。こうしてEUの首脳会談は危機を克服するどころか、危機をさらに悪化させた。ドイツでは簡素に”Union”と呼ばれるCSUは今後の対策の協議に入ったが、会合はいつまで経っても終わらなかった。ワールドカップの生放送中に、「ゼーホ-ファー氏は辞任を申し出た。」というニュースも流れるほど、ドイツ中が注目していた。

毒舌

深夜になってから、ゼーホ-ファー氏は待ち構えている記者団に首相に辞任を申し出たことを表明。ただし翌日、17時から首相と最後の会合を行ない、ここで最後の調整を図るという。同時に氏は、「俺のお陰で首相の座に収まっている首相に、更迭なんぞさせない。」と毒舌を吐いた。

参照元 : Süddeutsche Zeitung

この最後の会合の結果がいろいろ憶測されたが、蓋を開けてみれば、メルケル首相の勝利だった。

メルケル首相の勝利

首相が唯一、譲歩したのは国境に空港のようなトランジット空間を設置、ここに難民収容施設を設けるというもの。ドイツに入国しようとする難民はこの施設に収容されて、難民申請を行なう(大方は拒否される)。すでにオーストリア、イタリアで難民として登録されている難民は、送り返されることになる。

これはゼーホ-ファー氏が要求していた国境での検査、違法な難民は受け入れないに近いので、同氏もこれに満足した。そして内務大臣からの辞職を撤回、「合意に達したので内務大臣に留まる。」と表明した。

この妥協案が何故、メルケル首相の勝利なのか。ドイツとイタリア、オーストリアの間で難民の送還協定がない。協定がないので、違法な難民とわかっていても、オーストリアとイタリアは難民を引き取る義務がない。今後、ドイツ政府がそのような協定を結ぶべく協議に入っても、両国で政権についている右翼政権はこれを拒否する。

早い話、メルケル首相はどうせ成立もしない難民の送還と、トランジット収容施設の創設に妥協しただけ。だったら政府の連立危機を巻き起こさずに、最初からゼーホ-ファー氏と話し合って妥協点を見つけることができた筈だ。ゼーホ-ファー氏は頭から辞任する気などなく、来るバイエルン州の選挙のパフォーマンスを展開しただけ。国民は同氏の脅しに嫌気が指しており、10月の選挙ではゼーホ-ファー氏の望んだ結果がでるか、大いに疑問だ。

 

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執筆者:

nishi

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