6月6日、東ドイツのザクセンーアンハルト州(*1)で州選挙があった。
今年の9月には総選挙があるが、その前に行われる最後の地方選挙。
総選挙の行方を占う
「前哨戦」
として、大いに注目された。
ここで勝った党は総選挙でも追い風を期待できる。
一方、敗北した党は敗因を分析して、総選挙に向けたスローガンを考え直す必要がある。
そこで今回はザクセンーアンハルト州の地方選挙の結果を要因を分析してみたい。
この記事の目次
CDU ハーゼルロォッフ ザクセンアンハルト州選挙を制す
選挙前の世論調査では、極右政党AfDが好調で、
「与党CDUを抜いて第一党になるか?」
と、心配された。
しかしいざ
「ふたを開けてみる」
と、ハーゼルロォッフ州知事の率いるCDUが、二位以下に大差をつけて圧勝した。
先回の得票率の29.1%と比べても、今回の37,1%の得票率は大きな躍進だった。
世論調査では
「CDUと拮抗している。」
と言われた極右政党Afdは先回の得票率、24.3%を更新することはできず、20.8%の得票率に留まった。
この原因は何処にあるのだろう?
日本のテレビ局は、
「政府のコロナ対策が認められた結果。」
と主張していた。(*2)
しかし統計によると、政府のコロナ対策に満足しているのは、わずか19%に過ぎない。
ハーゼルロォッフ州知事率いるCDUが圧勝した本当の理由は、他の所にある。
Afd 狙いを外す
ハーゼルロォッフ州知事が勝利した理由は三つある。
その要因はのひとつは、AfDが的外れな選挙戦を展開したことにある。
東ドイツには陰謀説を信じている人が多い。
「コロナは、国民に有害なワクチンを接種させるための政府の嘘。」
というものだ。
この説を信じている国民は西ドイツににもいるが、その
「頻度」
では、東ドイツの比ではない。
そこでAfDはこの陰謀説を信じる層に向けて、
「政府のコロナ政策はデマだ!」
と、選挙戦を展開した。
しかし幾ら東ドイツでも陰謀説を信じる国民の割合は、5%前後。
選挙運動のテーマを狭い支持層に絞り過ぎた。
CDU の巧みな選挙戦
一方、CDUは巧みな選挙戦を展開した。
CDUは州知事のハーゼルロォッフ氏が、国民に人気のある事を知って、選挙戦の重点を年金問題、家賃高騰、コロナでもなく、ハーゼルロォッフォ氏に集約した。
選挙の看板のメッセージも
「ハーゼルロォッフ」
に集約した。
これが成功した。
コロナ禍で不安を抱える国民は(*3)、これまで度々、スキャンダルでお茶の間を賑わしているAfDよりも、安定性=ハーゼルロォッフを優先した。
コロナ規制の緩和
陰謀説家の多い東ドイツでは、とりわけコロナの感染率が高かった。
しかしワクチン接種の進捗により、ザクセンーアンハルト州でも感染率が35を割り、次第にコロナ規制が緩和されてきた。
とりわけ6月の夏ような天気の中、7か月振りに営業を再開したカフェやビアガーデンに殺到した。
半年以上も辛抱して自由を取り戻した市民に、
「コロナは政府のデマ!」
と訴えるAfDのスローガンは届かなかった。
緑の党 敗北
9月の総選挙で、
「初の緑の党の首相誕生か?」
と盛んに語られている。
当然、各党も選挙運動を
「緑の党潰し」
に絞ってきた。
それほど波に乗る緑の党だが、ここザクセンーアンハルト州ではわずか5.9%の得票率に留まった。
「東ドイツでは、緑の党は人気がない。」
という根本的な問題に加えて、ザクセンーアンハルト州の緑の党支部長が、
「ぱっとしなかった。」
結果、最下位の6位に留まった。
SPD / 社会民主党 無意味な存在
かってはCDUと世代交代しながら首相を輩出してきたSPD / 社会民主党。
90年代のSPDシュレーダー政権による社会福祉の大改造以来、支持率の落下が止まらない。
先回はかろうじて二桁の得票率を確保したが、今回は8.4%。
歴史上最悪の得票率だ。
ザクセンーアンハルト州SPDの筆頭候補は、最悪の選挙結果を目にしてテレビカメラの前で泣き崩れた。
哀れ。
左翼政党 支持率をさらに落とす
かってはCDUと一騎打ちの戦をしていた東ドイツの左翼政党。
首脳部内での権力争いの結果、国民に支持のあった政治家が要職から辞任。
以来、左翼政党は古い旧ソビエトのドグマの博物館と化した。
党の方針に従わない党員を冷遇したために、党内の改革が行われないまま。
官僚政治家がトップに君臨して、過去の遺産の管理に終始している。
今後も得票率を落としていくだろう。
ザクセンーアンハルト州 連合政権の可能性
現在、ザクセンーアンハルト州ではCDU ハーゼルロォッフ氏が、SPD、それに緑の党を連合政権を組んでいる。
SPDが得票率を落としたが、それ以上の票をCDUが獲得したので、今後も同じ連合政権は可能だ。
とりわけSPDの選挙結果が悪いので、CDUはより多くの役職を占めることができて都合がいい。
しかし緑の党は得票率が低いのに、環境問題でうるさい。
そこで緑の党も代わりに、州議会に復帰するFDPをパートナーにすることもできる。
結局はCDUの支部長で選挙に勝利したハーゼルロォッフ氏が、
「どちらの候補とウマが合うか。」
で決定されることになるだろう。
注釈
*1
ザクセン州の「上」にある州。州都はマグデブルク。広大な州なのに、人口は210万人。
*2
日本のメデイアは、「○○が勝った。」で済ませておけばいいのに、分析・解析を必ずつける。しかしろくな知識もないのにこれをやるので、結論はいつも見当違いなものになる。
米国の経済ニュース ブルーバークも同じ報道をしていたが、分析・解説は、政治通のドイツ人に任せていた。これが日本のメデイアと外国の(一流)メデイアの報道の質の差だ。
*3
コロナ陰謀説を信じている人を除く